最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

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第68話

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《連合国へ続く道が解放されました》

「あれ、モンスターにほとんど襲われなかったし、ボスも居なかったな」
「この街までは強いモンスターが複数体現れるだけで、ボスクラスのモンスターは居ませんよ。モンスターに出逢うことが全くなかったのは不思議でしたけど」

 2時間ぶりくらいにハティの声を聞いた。ずっとここまでハティは無言で歩いてたし、何回かハティの様子を見て休憩を挟んではいたけど、久しぶりに声が聞けて安心する。

「じゃあここまでで大丈夫か?」
「はい、ありがとうございました。自分のわがままに付き合わせてしまったこともすみませんでした」
「いや、俺が勝手に付き合っただけだから。それに色々嫌なこと言ったけど、俺はハティにやりたいことを全力で取り組んでほしいってことが言いたかったんだ。どうでもいいって思ってることに無理に力を入れる必要はないと思うよ。何がやりたいのかもう1回考えてみて。サポーターはハティだけじゃなくて冒険者の命も関わるからあんなに厳しく言ったけど、そうじゃなかったらハティの好きなように好きなことを楽しんで」
「あ、ありがと、う、ございまじ、だ」
「え、あ、ハティ?」

 何がそうさせたのかは分からないが、俺はどうやらハティを泣かせてしまったらしい。

「ご、ごめんな。俺もちょっと言い過ぎた」
「いえ゙、自分が甘がったでず」

 こんなに泣いてるハティを1人にして、流石に帰ることは出来ない。

「えっと、どうしようか。この時間から宿は取れるのか? いや、もういっそのことハティの住んでる街まで送るか」

 どうせこのまま置いていけないし、ハティが歩いて西の街まで来たなら、そう距離も遠くないだろう。

「あの、頼むから泣き止んでくれ。ハティの家がある街まで連れてくから。な?」
「ずみ゙まぜん」

 ハティが少し落ち着くまで、皆で川の近くで横並びになって座る。

「ウル達もゆっくりしてていいぞ」
「クゥ」「アウ」「(コクコク)」

 探索するつもりが連合国領まで一直線で来たし、道中無言でモンスターとは戦えなかったし、ウル達の表情を見ると不満はなさそうだが退屈ではあっただろう。

「皆でこれ食べよっか、ハティも食べてくれ」

 そう言ってアイスを出す。

「グスッ、あ、お、美味じいです。これはどこで買えるんでずが?」
「俺が作ったやつだな。北の街の商人ギルドで売ってもらってるから、北の街かその近くの街なら買えると思うぞ」
「ユーマざんは冒険者だけでなく、アイス作りもじてるんでずか」
「家で農業をな。マウンテンモウから絞ったミルクでアイスも作るし、畑でイチゴとトマトとじゃがいもも最近収穫した。そろそろ植えた苗が育ちきる頃だから、グラープとピルチなんかも食べれるんじゃないかな」

 そんな話をしてアイスを食べていると、ハティもようやく落ち着いたのか家がある街まで案内してくれることになった。

「ここらへんはさっきの道よりもモンスターが少し強いですけど、大丈夫ですか?」
「知っての通りほぼモンスターを倒してないからな。まぁたぶん大丈夫だと思うが、念の為ハティは俺達の間にいてくれよ」

 周りを警戒しながらハティと歩くが、結局ハティの住む街までモンスターに襲われることはなかった。



「あれがハティの家?」
「そ、そうです。あの、怒ってますか?」
「いや? ちょっと大きくて驚いてはいるけど、なんで?」
「あの、ユーマさんに嘘をついてたからです。大きくはないですけど、これでも貴族の端くれではあるので」

 序盤の方からハティの違和感は凄かったしな。ただ者ではないのだろうとは思っていた。

「俺にも貴族の友達が居てな。訳あって今は一緒に住んでるんだが、その人と比べてもハティは結構危機感がなかったし常識にも疎かったから、まぁこんなことだろうとは予想してたよ」
「そうですか。何から何までご迷惑をおかけしました。また日を改めて謝罪に伺いたいと思います。本当にすみませんでした! そしてありがとうございました!」

 家の前だと俺がハティを連れ回したと誤解される可能性もあるということで、少し離れたところで話していた。
 そしてそこからハティが家に入ったのを確認して、俺も動き出す。

「あの、もういいですよね。俺のレベルが追いついていないのか、隠蔽系のスキルは専用のスキルがないと見破ることが出来ないのか知らないですけど、居るのは気付いていたので」
「ユーマ様ですね。私達はタルブ家の者でございます。ハティ様を送り届けてくださりありがとうございました」
「いえ、途中で監視くらいは居るだろうなと思っていたので心配はしてなかったんですけど、全くどこに居るのか分からなかったので少し不安ではありました」

 あんなに戦闘能力がない子を1人にさせることはしないだろうと思っていたが、案の定ハティの監視役が居た。
 そして今ので分かったが、ハティはタルブという名前の貴族の娘なのか。

「モンスターが襲ってこなかったのもあなた方が?」
「はい、詳しくは言えませんがそうでございます」
「結構長いこと護衛してくれてましたよね。ありがとうございました」
「感謝させていただきたいのはこちらです。ハティお嬢様を守ってもらい、私達では聞くことが出来なかったお嬢様の気持ちまで知ることができました。本当にありがとうございました!」

 やばい、ハティと話してた内容が聞こえてたってことは、泣かせたこともバレてるはず。その事を言われる前に逃げよう。

「じゃあ俺はもう行くんで、もしかしたらまたハティに会いに来る可能性も0じゃないですけど、たぶん俺があの家に行っても入れてはくれないですよね」
「そうですね。私が気づけば大丈夫ですが、そうでない時はなんとも」
「まぁしゃーないか。俺はこれで帰らせてもらいますね。あとはハティのこと任せました」

 そう言ってこの街のクリスタルを触り、家に帰る。



「なんか凄い体験だったな」
「クゥ」「アウ」「……!」

 今回の出来事としては、サポーターを雇ったらサポーターの基本すら出来てなくて、話を聞いてみたら冒険譚で見たことを自分の目で見たいだけで、そのサポーターには護衛がついていて、しまいにはサポーターに俺が説教して泣かせたし、そのサポーターが実は貴族というオチだった。

 探索という意味ではあんまりモンスターを倒せなかったけど、ハティのおかげで西の街の先にある連合国へ行けるようにはなったからいいか。

「西の街はボスが居なかったけど、代わりに道中のモンスターが強かったんだな」

 これまでは新しい街に入るにはボスが居るのが当たり前だったが、今回でその常識は崩された。

「まぁボスを倒さないと次の街に行けない方がおかしいか。ゲームっぽいのも薄れてきて、もういよいよ本当にこの世界に溶け込んできた感じがする」

 そして時間を見ると今は朝4時半、あと数時間は自由な時間だ。

「この時間だとモンスターを倒しに行くのは微妙だな」

 全然戦うことが出来なかったのでモンスターを狩りに行こうかとも思ったが、その前に少し考えたいことがあった。

「ゴーレムって今の俺でも作れるのかな?」

 まだ何の素材で作ろうかすら決めていないが、とりあえず無難そうなゴーレムの身体の素材をこの後見つけに行くことにする。

「そもそもゴーレムってパーティーメンバーになるのか? それともサポーターみたいにパーティーメンバーには含まれない? なんなら家で動くだけで外につれていけない可能性もあるか?」

 ゴーレムに詳しくないので全く分からないが、とりあえずのイメージだけは持っておきたい。

「石は普通だし、無難に金属にしとくか? ウル達は何の素材のゴーレムがいいと思う?」
「クゥ」「アウ」「……」

 答えられても言葉がわからないので困るが、全員思いつく素材は無いっぽいので、とりあえず金属のインゴットは用意しておくことにする。

「じゃあまたゴーレムの詳しい話は誰かに聞くとして、作りたい時に作れるように素材だけは掘っておくか」

 ということで採掘ポイントもある南の街の外で鉱石を掘ることにした。



「もうこの辺のモンスターはすぐ倒せるようになったな」

 鉱石を掘るついでにスケルトンアニマルを骨粉目当てで倒しているのだが、もうほとんど相手にならない。

「周りは暗いけど、知ってる道だと俺の照明だけでも意外とどうにかなるな。相手とレベル差があるから経験値は期待できないけど、夜暇な時は採掘と骨粉のために来るのもいいかも」
「クゥ」「アウ」「……!」

 採掘と骨粉集めだけだと少し時間が余るので、俺は魔法の手袋も使って薬草などを集めていく。

「意外とこの時間にサポーターを連れて外に出てる人って多いんだな」

 少し高い場所から周りを見てみるとポツポツと明かりが見えるので、おそらくそこにはプレイヤーが居るのだろう。

「あれ、そう言えば冒険者って夜は滅多に探索に出ないから、夜サポーターをするのはほぼプレイヤーのためって聞いてたけど、ハティは最初プレイヤーじゃなくて冒険者を待ってたって言ってたし、それすらも知らずに街の外で冒険者を待ってたのか?」

 今思い出してもハティの計画性のない楽観的な行動に頭が痛くなるが、今回の件で少しは自分の行動を見直してくれることを願った。


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