最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

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第53話

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「もうそろそろだな」

 今の時刻は12時前、時間通りに来るかはわからないが、フカさんの言っていた時間まではもうあと数分だ。

「ハァハァハァ、間に合った」
「モニカさん、ギリギリすぎません?」
「いや、その、カジノで勝ってしまって、な。でも時間は守ったぞ!」
「まぁそうですね。勝てて良かったですし、間に合って良かったです」

 息が切れているモニカさんを休ませ、俺はミルク保存缶に入ったアイスのもとを先ほど買った箱に入れていく。

「ウル、凍らしてくれる? 凍らした箱は冷凍室までルリとエメラで持っていってほしい」
「クゥ!」「アウアウ!」「……!(コクコク)」

 俺に頼ってもらえると嬉しいのか、3人とも張り切っている。ルリとエメラは特にそうだ。

「ほう、それに保存しておくのか」
「ミルク保存缶がないと、マウンテンモウからミルクを絞れなくなりますから」

 時間はもう12時を過ぎているが、フカさんがここを訪ねてくるまでは中でゆっくりしておこう。

「ウルは魔法のカーペットがお気に入りか」
「クゥ!」

 リビングに敷いてある魔法のカーペットがある場所にウルが寝転ぶ。

「こうして見てみると、ユーマの家は凄いもので溢れているな」
「でもフカさんが家具を置いてくれてなかったら、多分最初から家としては使えなかったと思います。せいぜい寝泊まりできる場所くらいですかね」
「そのフカさんという呼び方を私もした方がいいだろうか」

 そう言えばモニカさんはフカさんのことをレイって呼んでたっけ。

「あれ? 俺ってフカさんをフカさんって呼んでること話しましたっけ? 今思うと最初からモニカさんは俺の呼び方に何の疑問も持ってなかったような」
「レイと話した時にユーマのことも教えてもらってな。その時に聞いたよ。そういえばこの家も数日で買ってしまったんだってな?」
「まぁ運が良かったですから」

 ここでカジノで稼ぎましたなんて言ったら、モニカさんのギャンブル魂に火をつけてしまう気がしたため、何も言わなかった。

「そうだ、1回も使ってなかったカジノトランプがあるので、フカさん達が来るまで遊びましょうか」
「確かに、ではまず今日のカジノでもなかなか良か……」

 別にトランプの遊び方は色々あると思うけど、カジノでの遊び方が一番最初に思いつくあたり、モニカさんだなぁと思った。



「ユーマくん、いるかい?」
「はい、今行きますね」

 玄関からフカさんが呼んでいるので、皆で家の外に出る。

「どうも、こんにちは。フ、……レイさんにいつもお世話になっています、ユーマです。こっちが魔獣のウル、ルリ、エメラです」
「私はモニカ、今は訳あってユーマの家で一緒に暮らしている。よろしく頼む」
「こ、こんにちは。えと、エマです。よろしくお願いします」
「妻のターニャです。これからよろしくお願いします」

「ユーマくん、早速なんだけど家に入らせてもらってもいいかい?」
「どうぞどうぞ、フ、レイさん達が来るのを待ってましたから」
「ユーマくん、家族にはあだ名で呼ばれていると話したから、いつも通りフカさんと呼んでくれていいよ?」

 フカさん、それは最初に言ってください。

「では改めましてどうぞ、って言っても元々はフカさん達の持ってた家ですもんね。俺より詳しいかもしれませんが、好きに寛いでください。あ、立ち入り許可は2人にも渡しておきますね」
「ユーマくんありがとう! エマ、身体はどうだい? 苦しくないかい?」

 そう言って娘のエマさんを見つめるフカさんの目は、とても真剣でとても不安そうだった。

「え、えと、ちょっと身体が軽いかも?」
「そ、そうか。良かった。これから毎日ユーマくん家の敷地内には必ず1度は入るようにね。エマの身体のためだから」
「エ、エマ、本当に苦しくないの?」
「うん。このお家に入ってから、楽になった気がする」
「良かったわ。これで家族みんなで、過ごせるのね。ほんとうに、よかっだ」
「おがあざん、うゔぅぅ」
「グスッ……ゔぅぅ」

 ターニャさんが泣き出してしまい、それにつられてエマちゃんもフカさんも泣いてしまう。

 その場で抱き合って涙を流す3人は、とても嬉しそうで、そして家族の存在を確かめるように、何度も何度も抱きしめる手に力を込めるのだった。

「お見苦しいところをお見せしました」
「いえ、本当に良かったです。フカさんにはあの置物を持ってっていいって言ったんですけど、断られてしまいました」
「ユーマさんはあまり気づいていないかもしれませんが、あれはとても高価なものですし、手に入れたいと思って手に入るものでもないのです」
「あの、本当に一言かけてくれたら一時的にでも持っていってもらっていいですし、なんなら事後報告でもいいですから。気軽に持っていってくださいね」
「ありがとうございます。その時が来たら、そうさせていただきます」

 ターニャさんと俺が話をしている横では、モニカさんとエマちゃんが楽しそうに話している。

「モニカさんは騎士だったんですか?」
「元な。エマも身体が良くなったら、病気に負けないように私が鍛えてやろうか?」
「えっと、厳しくないですか?」
「まぁ厳しいだろうな。だが、その厳しさが強くするんだ。エマも身体が良くなったらこれまで出来なかったことをたくさんしたいだろう?」
「はい! もし良くなったら、モニカさんに色々教えてもらいたいです!」
「ではまずはしっかりと身体を休ませないとな。朝は毎日水やりがあるから、その時に来れば会えるだろう」
「じゃあその時間に来ます!」

「随分モニカさんに懐いてますけど、いいんですか?」
「あぁ、強い女性にエマは憧れがあるのだろう。本人が楽しそうなら私はそれだけで、うぅぅ」
「フカさん、また泣いちゃった」
「レイ様どうぞ、ハンカチです」

 いつの間にか現れたセバスさんにハンカチをもらって涙を拭いている。

「じゃあせっかくなんでアイスを用意しますね」

 フカさん家族とセバスさん、モニカさんにアイスを渡し、お皿が足りないので俺と魔獣は1つのお皿でアイスを食べる。ほぼルリが食べているが。

「もし良かったら冷凍室のアイス箱を持っていってください。うちでは1人を除いて食べる量は普通なので、どんどん溜まっていってしまうんですよ。使用人の方たちの分も良ければどうぞ」
「これはみんな喜ぶよ。ありがとう」
「美味しい」
「美味しいわね」

 早速セバスさんが冷凍室の方に行ったので、必要分持って行ってくれてるのだろう。

「じゃあモニカさんと話してたように、エマちゃんは朝来ることが多いですかね? まぁ朝じゃなくてもいつでも勝手に入っていいですから」
「ありがとう」
「ありがとうございます」

「あ、あと、ライドホース達にも今度乗るんでしたよね。また乗る時は教えてください。もちろん子どもには乗ろうとしないでくださいね?」
「ライドホースの子ども!?」
「後で様子を見に行かせてもらうよ」
「どうぞどうぞ」

 フカさん達とも交流を深めることができたので、そろそろ解散の流れになる。

「では失礼するよ」
「いつでも自分の家だと思って来てください。おもてなしはあんまりできないですけど」
「ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました!」

 最後にセバスさんがこちらに一礼して、フカさん達は家に帰っていった。

「これでまた隣人が増えたな」
「モニカさんに懐いてましたね」
「エマはなかなか鍛えがいがありそうだ」
「無理させて怒られないように、程々にお願いします」

 モニカさんはこのあとはゆっくりするということで、先程の洗い物なんかもやってくれるそうだ。

 モニカさんに礼を言い、一度俺はログアウトしてトイレを済ませたあと、またログインしてすぐに街へ向かう。

「やっぱり依頼はできる時にやっておこうかな」

 今回は久しぶりに北の街の依頼を受けることにする。

「もうレベルが上がって奥の方まで行かないと経験値にならなさそうなんだよな」

 はじめの街から北の街や南の街などに行く、所謂第2の街に行くのは結構すぐだったが、北の街から次の街、第2の街から第3の街に行くにはなかなか時間がかかりそうだ。
 というか実際に最前線攻略組がまだ行けていない。

 ダンジョン攻略で忙しかったというのもあるだろうが、それだけ次の街までが遠いのか、強い敵がいるのか、はたまたボスが強いのか、時間がかかっているのは何らかの理由があるのだろう。

「次の街に行くなら大体30レベルくらい必要か? 俺等なら27レベルあったら行けるだろう。25レベルは厳しそうかな。いや……」

 俺はそんな事を考えながら冒険者ギルドに入るのだった。


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