最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

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第51話

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「あ、ユーマくん」
「フカさん、こんにちは。フカさんの娘さんと奥さんが来るのって今日でしたよね」

 今はゲーム内で9日目の6時、この前のフカさんの話の通りなら、今日フカさんの家族がここに来るはず。

「あぁ、覚えててくれたんだね。おそらく12時には着くと思うよ」
「分かりました。その時間は出来るだけここに居るようにしますね」
「ユーマくん、ありがとう」

 正直昨日はもう少しゲームをしたいと思いつつもログアウトを早めたのは、フカさんの家族が来る時間にログインしているためだった。

「あ、モニカさんの話聞きました?」
「うん、話を聞く前に本人にも会って、家に帰ってからも言われたよ」
「これから本人が居たいと思う限りは一緒にここに住むと思うので、よろしくお願いします」
「あぁ、良いお隣さんが増えて私は嬉しいよ」

 そこからはフカさんを誘って簡単な朝ご飯にする。

「フカさんはこのアイスをどうぞ。今はアイスを入れる容物がないので作ってるところはあまり見ないでほしいです」

 そう言い、ミルク(砂糖入り)をボウルに入れウルに氷魔法で凍らせてもらったあと、スプーンで凍ったアイスを削り皿に盛り付ける。

「どうぞ。ルリはまだ駄目だ。皆で先にご飯食べてからな。さっきもケーキ食べたのにまたデザートは良くないから」
「ありがとう、いただくよ」

 俺達は以前一生懸命焼いた魚を食べ、その後アイスを食べた。

 ルリが小さいままだったのは良かったかもしれない。正直ルリのデザートに対する欲望は凄まじいもので、本当にあの小さな体のどこに入っているのか分からない。

「ルリ? あの、無理して食べると頭痛とかお腹冷えたりとかしちゃうと思うけど「アウ!」おかわりね。どうぞ」

 ウルが小さい時に、お肉が好きだけどお腹いっぱいで食べられない、ってなってたのはありがたかったんだな。
 無限にルリの口にアイスが吸い込まれてく。

「よ、よーし、このボウルに入ってるのが最後にしような。またいつでも食べられるからなー」
「クゥ!」「アウ!」「(コク)」

「ユーマくん、美味しかったよ。これ、娘と妻が来た時に作ってもらってもいいかな? 娘の体調次第では食べられないかもしれないけれど」
「良いですよ。インベントリから出してウルに凍らせてもらうだけですし」
「ありがとう、じゃあ私は行くよ」
「はい、またあとで」

 フカさんを玄関まで見送ったあと、皆で畑の水やりをする。

「これってもう食べられないかな?」

 エメラが来てから成長がすごくて、もう食べられそうな気もする。

「そんな時は魔法の万能農具だよな。……なるほど、もうちょっとかかるのか」
「クゥ!」「アウ!」「……!」

 魔獣達はいつも通り水撒きをしてくれる。何よりもルリがウルの背中に乗って楽しそうなのを見ると、魔獣用アイテムの変わらない道を使ってやって良かったと思う。

「でも、プレイヤーの都合じゃなくて、魔獣の意志であのアイテムを使うことになるなんてな」

 俺は心の何処かで、魔獣は全員進化だったり身体が大きくなったりしたいのだと勘違いしていた。
 あの魔獣用アイテムもプレイヤーの都合で使うアイテムなんだろうなと、可愛いから小さいままにしておくとか、そういうやつなんだろうと思ってたが、今のルリを見ると本当にあの姿のままが良かったんだろう。
 元々そのままの姿が良いと思ってたかもしれないし、ウルの背中に乗るのが楽しいとか環境によってそう思うようになったのかもしれないが、ちゃんとその意思を示してくれてよかった。

「ウルもあの時ルリの背中を押してくれて良かった」

 ホントに良いお兄ちゃんしてる。結局俺の魔獣達の中で一番頼られているのはウルだからな。
 今もウルはエメラとルリに挟まれて一緒に遊んでやっている。

「あと数日で収穫できそうだから、楽しみにしてような」
「クゥ!」「アウ!」「……!」

 水撒きも終わり、マウンテンモウ達の方に行く。

「おー、もう元気だな。もしかしたら今日か明日くらいにフカさん達を乗せてもらうことになるかもしれないから、しっかり食べろよー」
『『ヒヒーン』』『ヒヒン』

 外で草を食べているライドホースに声をかけつつ、厩舎に魔法の搾乳機を取りに行く。

「よし、初めて使うけど全く緊張しないのは魔法シリーズだからだな」
『モウ』『ムウ』

 早速魔法の搾乳機をマウンテンモウにセットして使う。

「すげー、どんどん溜まってくな」
『ムウ』

 魔法の搾乳機を使うと、何もしなくてもミルク保存缶の中にミルクが流れていく。

「これならルリでもエメラでも出来そうだな」
「アウ!」「……!」

 ただ、もう空いてるミルク保存缶は10Lの方があと1つしかない。

「買いに行くか」

 高い買い物ではあるが、20Lと10Lの両方を3本ずつ買い足す。

「よし、あとはなんだろう。あ、マルスさんのとこ行くか」

 気になっていたマルスさんのところへ行こうと思い、家の裏のクリスタルに行くとちょうどモニカさんと出会った。

「ユーマ、もう今日は畑の世話は終わったのだな。遅れてすまない」
「いえいえ、いない時に面倒を見てくれるだけでもありがたいですし、ちょっと早めにやっただけなんで。モニカさんは今までどこへ?」
「私は冒険者ギルドで依頼を受けていた。そうだ! ユーマのアドバイス通り女性冒険者にパーティーを持ちかけたぞ。いやぁユーマの言うことは正しかった。パーティーを組んでからあまり話しかけられなくなったんだ」

 モニカさんの表情を見ると、それはもう嬉しそうで、力になれたのなら良かった。

「ユーマこそ今からどうするんだ?」
「俺は今からマルスさんのとこに行こうかなと。モニカさんも行きます?」
「そうだな。あの後のことも気になるし行くか。そうだ、レイの家族が今日来るらしいから12時までには帰るぞ」
「あぁモニカさんも聞いてたんですね。俺もそのつもりです」
「また私に対して敬語になってる。まぁ良いか」
「すみません。もうモニカさんには敬語になっちゃいます」

 モニカさんの纏うオーラが貴族っぽさも騎士っぽさもあって、勝手に敬語になってしまう。

「ではワイバーン交通で行こう。ちょうど無料券を今の仲間から貰ったんだ」

 ということで一緒にワイバーン交通を利用する。

「この前の記憶があまりないんですけど、こんなに上の方を飛んでたんですね」
「ちょうど雲の上だな。下の景色は見えないが、雲の海もなかなか良いものだ」

 ワイバーンに吊るされた籠に俺達は乗っている。ワイバーンを操縦している人はワイバーンの背中にいるので、俺達の会話は聞こえない。

「いやぁ、良かったです。ちょっと怖さもありましたけど、楽しかった」
「良かった。この前は何の反応も無かったから退屈だったのかと思ったぞ」
「すみません」

 そんな話をしながらマルスさんのお店に向かう。

「店はやってないのか」
「ちょっと中を見ますか」

 扉は閉まっていなかったので中に入る。

「すみませーん、ユーマです。マルスさん居ますか?」
「モニカだ。この前の続きが気になってここまで来た」

 モニカさん、そんな堂々と今言わなくていいのに。

「お久しぶりです!」
「マルスさんこんにちは。お忙しくなかったですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。奥に椅子があるのでそこまで移動しましょう」
「私はユーマのこの前のアイスを食べたいな」
「じゃあそうしましょうか」

 意外とモニカさんも甘いものが好きなんだな。というかモニカさんの今の発言でルリが1番嬉しそうだ。まだそのお腹に入るの? 大丈夫?

「ありがとうございます。ではあの後のことを話します」

 マルスさんが言うには、商人ギルドの人に問い詰められて、ゲウスさんが運搬を行った人達と繋がっていたことはポロッと本人の口から漏れてしまったらしい。
 どうやらゲウスさん自身もあの事件のことは想定外のことが起こってしまって、発言の辻褄が合わなくなったそうだ。

「じゃあマルスさんの疑いは晴れたんですね」
「はい」

 ゲウスさん達の計画としては、手紙にも書いてあったようにフォルスさんから宝石を奪って、自分達がたまたま見つけた事にしようとしたらしい。
 その宝石はとんでもない金額のものだったらしく、宝石の価値の10分の1でも謝礼金をもらえれば、今後何十年は暮らせるほど。

 しかし、運悪くフォルスさんとゲウスさんの仲間達はやられてしまった。そして宝石も失くしてしまい、計画が全て崩れる。
 このまま問い詰められればゲウスさんと運搬の人達のつながりがバレるかと思ったが、マルスさんはフォルスさんの捜索を依頼し、仕事もせずずっと従業員を探す日々。

 これを、チャンスと思ったゲウスさんはマルスさんの仕事先を回り、莫大な借金をマルスさんが抱えていると言いふらすことでマルスさんの信用を下げ、自分に仕事をくれと交渉。
 マルスさんもその時は仕事をせずにフォルスさんを探すので精一杯だったため、皆ゲウスさんに乗り換えた。

「ユーマさんとフォルスのおかげで、私の疑いはこうして晴れました。借金も全てゲウスさんが背負うことになりましたし」
「それってすごい額なんじゃないですか?」
「ええ、ですがゲウスさんも相当な金額をお持ちでしょう。返済自体はできると思います。ですが信用は失ったため、これから貴族様相手の販売は絶対に出来ないでしょうね」

 噂が広まるのは早いですから、と言ってマルスさんの話は終わった。

「私としては真実が皆に知られて良かったと思うぞ。それにゲウスとやらが殺人を企てていなかったことも証明されたのは良かったではないか」

 確かにゲウスさんがフォルスさんを亡き者にする計画を立てていたと思われる可能性もあったのか。

「だから彼は私をずっと恐れていたのかもしれません。私が本気であの時の犯人を探そうとすれば、見つかってしまう可能性もありましたからね。私はフォルスが生きていればそれだけで良かったのですけど、それは叶いませんでした」

「結局そのフォルスは、何の秘密を握られていたんだ?」
「少し遠くの貴族の方だったらしいです。家から飛び出して私のお店で隠れて働いていたらしくて。実家の方はフォルスのことを把握してたらしいですけどね。あまりにも生き生きとしているから、貴族としての役目を果たさないといけない時までは、見逃すことにしていたようです」

 だいぶ話し込んでしまったが、とりあえず宝の地図で見つけた手紙のことも、マルスさんの借金も無事解決と言うことでいいだろう。

「ユーマさん、この件は私もそうですが、フォルスも、フォルスの親である貴族様も、各ギルドの方々も感謝しております。今後ユーマさんはオークション会場には私と同じように特別席が設けられましたので、気軽にご利用ください。本当にありがとうございました」

 そう言ってマルスさんは頭を下げるのだった。


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