32 / 184
間話4
しおりを挟む
「俺があのモンスターのタンクするから、他はみんなで倒して」
「それは俺に任せろ!」
「わたしもそっち手伝うわ」
複数体の敵に対し連携を取りながらモンスター達と戦うパーティーが居た。
「よし、ナイスナイス」
「もう初心者とは言わせないぞ」
「お前らも強くなったなぁ」
モンスターを倒し終わり、その場で少し休憩を取る。
「あんな特訓受けたら、少しの時間でも動きは身につくわよ」
「思い出したくない。俺の余計な一言のせいで地獄を見たんだ」
「でも、そのおかげって言いたくないけど、前よりも動きは良くなったよな」
冒険者ギルドの戦闘指南を受けたおかげで、彼らは前と比べて確実に強くなっていた。
「でも、そろそろ次の街行きたくね?」
「それもそうだな」
はじめの街からはどんどんプレイヤーが少なくなっていき、彼らもその流れに乗って次の街に行きたいと思っている。
「お金を払ったらボス討伐を代わりにやるっていうプレイヤーを最近見かけるけど、あれってなんなの?」
「そのままの意味だよ。パーティーを組んで、ボスを倒して、お金をもらう。自分の力で次の街に行けない人達も、それなら行けるってわけ」
「それってズルくないの? 自分の力で倒さないって、次の街に行く資格が無いってことなんじゃないの?」
「まぁ、生産職とかだとモンスターを狩る時間があんまりとれないからな。それにルールで禁止されてるわけでもないし。お金を取るのは正直どうかと思うけど」
「それ自体もあんまり良くないと思うけど、ボスによって料金が違うことも問題だよ。この前ボスに挑もうとしたら、あとから来た奴にこの種類のボスは予約してたって言われて、横入りされたってのを聞いた」
「感じ悪いねその人達。全部のボスが同じ料金ならそんなことにもならないのに。案外ボスとギリギリの戦いするような人達がそういう商売やってんじゃないの?」
「ボスを余裕で倒せる人たちはそもそもはじめの街じゃなくて、次の街でモンスター狩ってるはずだからな」
休憩を終えて、パーティーはまたレベル上げのためにモンスターを探す。
「ま、俺達はそもそも自分達の力でボスを倒すつもりだから、ああいう連中は無視するに限る」
「そだな。もしそいつらがボス戦前に話しかけてきたら鼻で笑ってやるぜ」
「そんなことで喧嘩にならないようにね」
「へいへい」
「ほら、あそこにレッサーウルフだぞ。また食われてこーい」
「流石にもう負けないわ。もしワイルドベアーの群れが来たら倒される自信があるけれど」
「冒険者ギルドで言われたワイルドベアー亜種の目撃情報はこの辺だったし、気を抜くなよ」
「今の俺らなら大丈夫だって……大丈夫だよな?」
次の街を目指して気合を入れたパーティーは、軽口を叩きながらも着実に実力をつけていくのだった。
「はぁ、どうしましょう」
「どうしたんですか?」
ここは西の街1番のカジノで、毎日多くの人がギャンブルをしに訪れる。
「実はさっき、とんでもない量のチップを獲得されたプレイヤー様がいましてね」
「それはまあ、そういうこともあると思いますけど」
「それで支配人が、プレイヤー様が換金する際はチップ10枚で1G、つまりこれまでの10分の1にすると決定されまして」
「えっ、えええ!! それって大丈夫なんですか!?」
声が大きい、と他のスタッフに怒られ小声で話す。
「ええ。幸いチップを預けているプレイヤー様は現在1人だけですし、これから遊ばれるプレイヤー様には最初に説明することになります。そもそも初めて来るプレイヤー様がほとんどなので、カジノのシステムはそういうものだと思ってくれるでしょう」
「でも、1人チップを預けているプレイヤー様がいるんでしょう? どう説明するんですか?」
「それに困っているんです。そもそもそのプレイヤー様が原因で今回のイベントを前倒しで行うことになりました。今よりも更にプレイヤー様が獲得チップを増やすことがあれば、もう手に負えない問題になるとかで支配人が強引に。それを受けてプレイヤー様に一度チップを預けることを提案したのは私で、更にその話をした後に10分の1の話が支配人から出て、もうどうすればいいか分かりません。私は大事なプレイヤー様のお金を10分の1にしてしまいました」
どうすれば……と困っているスタッフに声がかかる。
「君、支配人から伝言があって、イベントの日は絶対に最初から居るように、とのことだ。何があったかは分からないが、まぁ、頑張れ」
「はい。ありがとうございます」
「大変ですね」
「イベントは明後日に決定した。それにそもそもイベントの日はほぼ全員駆り出されるはずだから、君もそのつもりでいるように」
「は、はい」
支配人の伝言を伝えてくれた人は、自分の持ち場に戻っていった。
「で、プレイヤー様のことなんですけど、いくら勝ったんですか? 1000万? なんなら2000万だったりして」
「……ぉく、……ん万です」
「なんですか?」
「だから、1億2000万です。あまりこういうことは大きい声で言わな「えええーー!!」」
「静かにしなさい!」
「「すみません」」
こうしてこのカジノスタッフ2人はイベント日まで、担当外のトイレ掃除をさせられるのだった。
「はぁ」
「どうされたんですか? ため息なんかついて」
少し外に出かけていた主が、先ほど帰ってきたと思えばため息ばかりついている。
「彼に畑をどうすればいいかのアドバイスを求められてね。一緒に職人ギルドの方まで種や苗を買いに行ってたんだ」
「それはお疲れ様でした。それが何か?」
「それだけで帰ってきてしまった」
「え?」
「アドバイスしてそのまま帰ってきてしまったんだ」
「それを相手も求めていたのでは?」
「君は言ったじゃないか。私は彼に依頼すら出していないのかって」
「確かにあなたが勝手に家を渡して、勝手に借金を背負わせたのに、なんのフォローもしていないことは以前指摘しましたね」
そして使用人に紅茶を頼むと、主はイスに座り直す。
「彼はまっすぐ私の言うことを聞いて、一生懸命育てようと頑張ってくれている。なのに私は依頼の1つすら切り出せなかった」
「ああ、そうなんですね。(これは面倒くさい時の主だ)」
「私は何度も依頼をしようとしたんだ。でも、それが彼の邪魔になってしまうと思うと、このままでも良いと思ってね」
「はぁ。そうなんですね」
「彼には自由にやって欲しいんだ。これは私の本心だよ」
「そうですか。では簡単な依頼をお願いして、報酬を高めにすればよろしいのでは? 一度達成したことのある依頼だと、面白みはないかもしれませんが、あまり負担もないと思われます」
「それは良い案だね。候補の1つとしよう」
「それは良かったです」
「でね、君の言う通り私は彼に重いものを背負わせてしまったのかもしれない。もしかしたらもっと冒険に出たいのに、あの家に縛られているのかも「もう結構です!」ひっ」
「お話は分かりました。それとは別の話をこちらから1つ。お嬢様が近々こちらに会いに来るそうです。奥様も一緒にいらっしゃるとのことなので、何かプレゼントでも考えておくとよろしいかと」
「なに、そうか、分かった。久しぶりに家族が揃うのは楽しみだな。それに、プレゼントか。なにか物を贈るのも良いが、それだと普通すぎるか。考えておこう」
そう言って先ほどとは違い、真剣な表情で考える主。
「では私はこれで失礼いたします」
執事はそう言うと部屋を出ていく。
「おまたせしました」
「ありがとう。そこに置いておいてくれ」
「失礼します」
紅茶を持ってきた使用人は、先程まで自分が見ていたため息ばかりの主とは違い、真剣な表情をしているのを見て、たった数分で主をこのようにしてしまう執事に凄さを感じるのだった。
「ガイルさん」
「なんだ?」
「ユーマさんって、凄い人なんですか?」
「そりゃ、凄えだろ。少なくとも俺たちよりはな」
2人はユーマにレベル上げを手伝ってもらったあと、はじめの街に戻っていた。
「私、あんなに強い人見たことないです」
「それは俺もだ。どのゲームでもレベルを上げればある程度の強さにはなれるが、それ以上になるためには実力が、プレイヤースキルが必要だ。攻略組はレベルなんか関係なしに強い超人的な奴ばっかだが、ユーマはたぶんその超人達の中でも上澄みの超人だろうな」
「なんでそんな人が1人で、いや、魔獣も合わせたら3人ですけど、私達のお手伝いをしてくれたんですかね?」
「そもそも俺が呼んだんだ。お前は途中で誘ったイレギュラーな」
「あ、そうでした。でもガイルさんはそんなに強くなかったですよね?」
「うるせぇ。お前自分のこと棚に上げてよく言えるな」
「す、すみません」
ガイルがメイを叩こうとするが、いつものことなのか魔獣のピピは庇おうともしない。
「まぁユーマが言っていたのが本当なら動画投稿をしてるらしいし、気になるなら見てみればいいんじゃないか?」
「そうですね。でも、ゲームがやりたいのでしばらく見ることはなさそうです」
「そうかよ。あ、ちなみに前に素材を大量にくれたのはユーマだからな」
「ええっ、それは先に言ってくださいよ! お礼を言いたかったのに」
こうして話しながら、いつもの職人ギルドに到着した。
「では、私はもう少ししたら寝ますね。またお願いします」
「あぁ、俺ももう少しやったら寝るか。取り敢えずその戦闘力をどうにかしないと置いてくぞ」
「う、頑張ります」
「まぁ俺も手伝うが、最悪冒険者ギルドで戦闘指南受けてこい。評判はいいらしいぞ」
こうしてガイルはメイと別れて、また武器を作り始める。
「俺もちんたらやってっと、ユーマに一生武器の1つも作ってやれねえからな」
ユーマの戦闘を目の前で見て熱が入ったガイルは、寝ると予定していた時間を大きく過ぎるまで武器を作り続けるのだった。
「おい、これどうすんだ?」
「うちに聞かれてもね~」
「無視が1番」
最前線攻略組は自分達の装備を作ってくれるクランメンバーを次の街に連れて行くため、半分に別れて生産職のプレイヤーとパーティーを組んでいた。
「俺達が次のボスを狩る。そうだよな?」
「あぁそうだ。ちなみにお前らもここで頷かねえと金が余計にかかるぞ?」
「う、はい。僕たちが並んでました」
「そんなっ、君たちは奥の方で座ってただけじゃないか」
並んで順番を待っていたパーティーが、ずっと列には加わらず端の方でいたパーティーにいちゃもんを付けられている。
「俺らはあそこで並んでたんだよ。その証拠にずっと居たことは認めんだろ?」
「それは君達が他のプレイヤーを連れてボスを倒す商売をしているからだろ。ちゃんとこの列に並んでくれないと、いつでもボスに挑戦できることになるじゃないか」
「うるせえよ。お前らは俺らの次にボスに挑めばいいだろ」
こうしてどちらが先にボスへ挑むかの言い合いをしている中、それを横目にボスへと挑戦するパーティーがいた。
「おいお前ら、ま……」
「待てって言われて待つ馬鹿がいるかよ」
「ま、あの言い合いの時間があれば、うちらは倒せるしね~」
「すぐ、倒す」
そして数分後には、生産職のクランメンバーを次の街へ送り、最前線攻略組の3人は西の街からはじめの街に戻って、また先程のボス前に帰ってきた。
「あの、本当にボスをあの時間で倒せたんですか?」
「ん? あぁ、さっきは順番抜かして悪かったな」
「いえ、迷惑をかけていたのはこちらもですし」
「なら、次のボスをあいつらに譲ってやれよ。あれだけ先に行くって言ってたんだから、断ることはねぇだろうしな」
そう言って先程までうるさかったパーティーを見ると、ボスエリアの近くに行こうともしていない。
「あの、少し料金は高くなってもいいですから、あの方たちも譲ってくれてますし、先に行かせてもらいましょう」
「あ、いや、それは無理だ。最初に言ってた通り、蛇のボスじゃないと」
「おいお前ら、そろそろ見栄張るのやめろよ。こっちも次の街にクランメンバー連れてくために今日はずっとここに居んだよ。蛇しか狩れねえくせに他のボスの料金がなんだ? そもそも全部のボス狩れるやつはこんなとこでちまちま金稼ぎなんてしねえよ」
「うわ~、言い過ぎ~。うちも必死に蛇のボスを客に選ばせようとしてるの見て笑うの我慢してたんだから、そんなに言ってあげると可哀想だよ」
「それ、トドメ刺してる」
「う、くそっ、もういい。こんなのやめだ。お前ら行くぞ!」
「おい待てよ」
「ま、待ってください! お金は返してもらわないと」
こうしてプレイヤー向けにボス討伐の商売をしていた数人のプレイヤー達は、依頼を達成していないにも関わらず、報酬を持ち逃げしたということで、GM、商人ギルドから注意され、プレイヤー達にも恥と悪い噂が広まる結果となったのだった。
「それは俺に任せろ!」
「わたしもそっち手伝うわ」
複数体の敵に対し連携を取りながらモンスター達と戦うパーティーが居た。
「よし、ナイスナイス」
「もう初心者とは言わせないぞ」
「お前らも強くなったなぁ」
モンスターを倒し終わり、その場で少し休憩を取る。
「あんな特訓受けたら、少しの時間でも動きは身につくわよ」
「思い出したくない。俺の余計な一言のせいで地獄を見たんだ」
「でも、そのおかげって言いたくないけど、前よりも動きは良くなったよな」
冒険者ギルドの戦闘指南を受けたおかげで、彼らは前と比べて確実に強くなっていた。
「でも、そろそろ次の街行きたくね?」
「それもそうだな」
はじめの街からはどんどんプレイヤーが少なくなっていき、彼らもその流れに乗って次の街に行きたいと思っている。
「お金を払ったらボス討伐を代わりにやるっていうプレイヤーを最近見かけるけど、あれってなんなの?」
「そのままの意味だよ。パーティーを組んで、ボスを倒して、お金をもらう。自分の力で次の街に行けない人達も、それなら行けるってわけ」
「それってズルくないの? 自分の力で倒さないって、次の街に行く資格が無いってことなんじゃないの?」
「まぁ、生産職とかだとモンスターを狩る時間があんまりとれないからな。それにルールで禁止されてるわけでもないし。お金を取るのは正直どうかと思うけど」
「それ自体もあんまり良くないと思うけど、ボスによって料金が違うことも問題だよ。この前ボスに挑もうとしたら、あとから来た奴にこの種類のボスは予約してたって言われて、横入りされたってのを聞いた」
「感じ悪いねその人達。全部のボスが同じ料金ならそんなことにもならないのに。案外ボスとギリギリの戦いするような人達がそういう商売やってんじゃないの?」
「ボスを余裕で倒せる人たちはそもそもはじめの街じゃなくて、次の街でモンスター狩ってるはずだからな」
休憩を終えて、パーティーはまたレベル上げのためにモンスターを探す。
「ま、俺達はそもそも自分達の力でボスを倒すつもりだから、ああいう連中は無視するに限る」
「そだな。もしそいつらがボス戦前に話しかけてきたら鼻で笑ってやるぜ」
「そんなことで喧嘩にならないようにね」
「へいへい」
「ほら、あそこにレッサーウルフだぞ。また食われてこーい」
「流石にもう負けないわ。もしワイルドベアーの群れが来たら倒される自信があるけれど」
「冒険者ギルドで言われたワイルドベアー亜種の目撃情報はこの辺だったし、気を抜くなよ」
「今の俺らなら大丈夫だって……大丈夫だよな?」
次の街を目指して気合を入れたパーティーは、軽口を叩きながらも着実に実力をつけていくのだった。
「はぁ、どうしましょう」
「どうしたんですか?」
ここは西の街1番のカジノで、毎日多くの人がギャンブルをしに訪れる。
「実はさっき、とんでもない量のチップを獲得されたプレイヤー様がいましてね」
「それはまあ、そういうこともあると思いますけど」
「それで支配人が、プレイヤー様が換金する際はチップ10枚で1G、つまりこれまでの10分の1にすると決定されまして」
「えっ、えええ!! それって大丈夫なんですか!?」
声が大きい、と他のスタッフに怒られ小声で話す。
「ええ。幸いチップを預けているプレイヤー様は現在1人だけですし、これから遊ばれるプレイヤー様には最初に説明することになります。そもそも初めて来るプレイヤー様がほとんどなので、カジノのシステムはそういうものだと思ってくれるでしょう」
「でも、1人チップを預けているプレイヤー様がいるんでしょう? どう説明するんですか?」
「それに困っているんです。そもそもそのプレイヤー様が原因で今回のイベントを前倒しで行うことになりました。今よりも更にプレイヤー様が獲得チップを増やすことがあれば、もう手に負えない問題になるとかで支配人が強引に。それを受けてプレイヤー様に一度チップを預けることを提案したのは私で、更にその話をした後に10分の1の話が支配人から出て、もうどうすればいいか分かりません。私は大事なプレイヤー様のお金を10分の1にしてしまいました」
どうすれば……と困っているスタッフに声がかかる。
「君、支配人から伝言があって、イベントの日は絶対に最初から居るように、とのことだ。何があったかは分からないが、まぁ、頑張れ」
「はい。ありがとうございます」
「大変ですね」
「イベントは明後日に決定した。それにそもそもイベントの日はほぼ全員駆り出されるはずだから、君もそのつもりでいるように」
「は、はい」
支配人の伝言を伝えてくれた人は、自分の持ち場に戻っていった。
「で、プレイヤー様のことなんですけど、いくら勝ったんですか? 1000万? なんなら2000万だったりして」
「……ぉく、……ん万です」
「なんですか?」
「だから、1億2000万です。あまりこういうことは大きい声で言わな「えええーー!!」」
「静かにしなさい!」
「「すみません」」
こうしてこのカジノスタッフ2人はイベント日まで、担当外のトイレ掃除をさせられるのだった。
「はぁ」
「どうされたんですか? ため息なんかついて」
少し外に出かけていた主が、先ほど帰ってきたと思えばため息ばかりついている。
「彼に畑をどうすればいいかのアドバイスを求められてね。一緒に職人ギルドの方まで種や苗を買いに行ってたんだ」
「それはお疲れ様でした。それが何か?」
「それだけで帰ってきてしまった」
「え?」
「アドバイスしてそのまま帰ってきてしまったんだ」
「それを相手も求めていたのでは?」
「君は言ったじゃないか。私は彼に依頼すら出していないのかって」
「確かにあなたが勝手に家を渡して、勝手に借金を背負わせたのに、なんのフォローもしていないことは以前指摘しましたね」
そして使用人に紅茶を頼むと、主はイスに座り直す。
「彼はまっすぐ私の言うことを聞いて、一生懸命育てようと頑張ってくれている。なのに私は依頼の1つすら切り出せなかった」
「ああ、そうなんですね。(これは面倒くさい時の主だ)」
「私は何度も依頼をしようとしたんだ。でも、それが彼の邪魔になってしまうと思うと、このままでも良いと思ってね」
「はぁ。そうなんですね」
「彼には自由にやって欲しいんだ。これは私の本心だよ」
「そうですか。では簡単な依頼をお願いして、報酬を高めにすればよろしいのでは? 一度達成したことのある依頼だと、面白みはないかもしれませんが、あまり負担もないと思われます」
「それは良い案だね。候補の1つとしよう」
「それは良かったです」
「でね、君の言う通り私は彼に重いものを背負わせてしまったのかもしれない。もしかしたらもっと冒険に出たいのに、あの家に縛られているのかも「もう結構です!」ひっ」
「お話は分かりました。それとは別の話をこちらから1つ。お嬢様が近々こちらに会いに来るそうです。奥様も一緒にいらっしゃるとのことなので、何かプレゼントでも考えておくとよろしいかと」
「なに、そうか、分かった。久しぶりに家族が揃うのは楽しみだな。それに、プレゼントか。なにか物を贈るのも良いが、それだと普通すぎるか。考えておこう」
そう言って先ほどとは違い、真剣な表情で考える主。
「では私はこれで失礼いたします」
執事はそう言うと部屋を出ていく。
「おまたせしました」
「ありがとう。そこに置いておいてくれ」
「失礼します」
紅茶を持ってきた使用人は、先程まで自分が見ていたため息ばかりの主とは違い、真剣な表情をしているのを見て、たった数分で主をこのようにしてしまう執事に凄さを感じるのだった。
「ガイルさん」
「なんだ?」
「ユーマさんって、凄い人なんですか?」
「そりゃ、凄えだろ。少なくとも俺たちよりはな」
2人はユーマにレベル上げを手伝ってもらったあと、はじめの街に戻っていた。
「私、あんなに強い人見たことないです」
「それは俺もだ。どのゲームでもレベルを上げればある程度の強さにはなれるが、それ以上になるためには実力が、プレイヤースキルが必要だ。攻略組はレベルなんか関係なしに強い超人的な奴ばっかだが、ユーマはたぶんその超人達の中でも上澄みの超人だろうな」
「なんでそんな人が1人で、いや、魔獣も合わせたら3人ですけど、私達のお手伝いをしてくれたんですかね?」
「そもそも俺が呼んだんだ。お前は途中で誘ったイレギュラーな」
「あ、そうでした。でもガイルさんはそんなに強くなかったですよね?」
「うるせぇ。お前自分のこと棚に上げてよく言えるな」
「す、すみません」
ガイルがメイを叩こうとするが、いつものことなのか魔獣のピピは庇おうともしない。
「まぁユーマが言っていたのが本当なら動画投稿をしてるらしいし、気になるなら見てみればいいんじゃないか?」
「そうですね。でも、ゲームがやりたいのでしばらく見ることはなさそうです」
「そうかよ。あ、ちなみに前に素材を大量にくれたのはユーマだからな」
「ええっ、それは先に言ってくださいよ! お礼を言いたかったのに」
こうして話しながら、いつもの職人ギルドに到着した。
「では、私はもう少ししたら寝ますね。またお願いします」
「あぁ、俺ももう少しやったら寝るか。取り敢えずその戦闘力をどうにかしないと置いてくぞ」
「う、頑張ります」
「まぁ俺も手伝うが、最悪冒険者ギルドで戦闘指南受けてこい。評判はいいらしいぞ」
こうしてガイルはメイと別れて、また武器を作り始める。
「俺もちんたらやってっと、ユーマに一生武器の1つも作ってやれねえからな」
ユーマの戦闘を目の前で見て熱が入ったガイルは、寝ると予定していた時間を大きく過ぎるまで武器を作り続けるのだった。
「おい、これどうすんだ?」
「うちに聞かれてもね~」
「無視が1番」
最前線攻略組は自分達の装備を作ってくれるクランメンバーを次の街に連れて行くため、半分に別れて生産職のプレイヤーとパーティーを組んでいた。
「俺達が次のボスを狩る。そうだよな?」
「あぁそうだ。ちなみにお前らもここで頷かねえと金が余計にかかるぞ?」
「う、はい。僕たちが並んでました」
「そんなっ、君たちは奥の方で座ってただけじゃないか」
並んで順番を待っていたパーティーが、ずっと列には加わらず端の方でいたパーティーにいちゃもんを付けられている。
「俺らはあそこで並んでたんだよ。その証拠にずっと居たことは認めんだろ?」
「それは君達が他のプレイヤーを連れてボスを倒す商売をしているからだろ。ちゃんとこの列に並んでくれないと、いつでもボスに挑戦できることになるじゃないか」
「うるせえよ。お前らは俺らの次にボスに挑めばいいだろ」
こうしてどちらが先にボスへ挑むかの言い合いをしている中、それを横目にボスへと挑戦するパーティーがいた。
「おいお前ら、ま……」
「待てって言われて待つ馬鹿がいるかよ」
「ま、あの言い合いの時間があれば、うちらは倒せるしね~」
「すぐ、倒す」
そして数分後には、生産職のクランメンバーを次の街へ送り、最前線攻略組の3人は西の街からはじめの街に戻って、また先程のボス前に帰ってきた。
「あの、本当にボスをあの時間で倒せたんですか?」
「ん? あぁ、さっきは順番抜かして悪かったな」
「いえ、迷惑をかけていたのはこちらもですし」
「なら、次のボスをあいつらに譲ってやれよ。あれだけ先に行くって言ってたんだから、断ることはねぇだろうしな」
そう言って先程までうるさかったパーティーを見ると、ボスエリアの近くに行こうともしていない。
「あの、少し料金は高くなってもいいですから、あの方たちも譲ってくれてますし、先に行かせてもらいましょう」
「あ、いや、それは無理だ。最初に言ってた通り、蛇のボスじゃないと」
「おいお前ら、そろそろ見栄張るのやめろよ。こっちも次の街にクランメンバー連れてくために今日はずっとここに居んだよ。蛇しか狩れねえくせに他のボスの料金がなんだ? そもそも全部のボス狩れるやつはこんなとこでちまちま金稼ぎなんてしねえよ」
「うわ~、言い過ぎ~。うちも必死に蛇のボスを客に選ばせようとしてるの見て笑うの我慢してたんだから、そんなに言ってあげると可哀想だよ」
「それ、トドメ刺してる」
「う、くそっ、もういい。こんなのやめだ。お前ら行くぞ!」
「おい待てよ」
「ま、待ってください! お金は返してもらわないと」
こうしてプレイヤー向けにボス討伐の商売をしていた数人のプレイヤー達は、依頼を達成していないにも関わらず、報酬を持ち逃げしたということで、GM、商人ギルドから注意され、プレイヤー達にも恥と悪い噂が広まる結果となったのだった。
194
お気に入りに追加
382
あなたにおすすめの小説

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。

動物大好きな子が動物と遊んでいたらいつの間にか最強に!!!!
常光 なる
ファンタジー
これは生き物大好きの一ノ瀬夜月(いちのせ ないと)が有名なVRMMOゲーム
Shine stay Onlineというゲームで
色々な生き物と触れて和気あいあいとする
ほのぼの系ストーリー
のはずが夜月はいつの間にか有名なプレーヤーになっていく…………
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる