最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

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第19話

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「俺があいつとやり合うから、ウルはとりあえず外から見ててくれ!」
『ガウウゥゥ、グルルル』
「クゥ!」

 俺は相手の攻撃を待つ。相手が何をしてくるかわからない時は、先に自分が攻撃して少しでもダメージを与えておくのも良いが、俺達は全く余裕がない。

 特に俺が攻撃を受けてしまえば、崩壊の危機だ。
 なので確実にリスク無しで攻撃を当てられるカウンターに絞る。

『ガォォオオオオ!!!』

 咆哮とともに、ボスの前足が右から振り抜かれた。

「おっも、いけどっ、装備に助けられてるな!」

 やはりこの装備は良い。おそらく最初のエリアボスに挑む装備としては最高クラスのものだ。

 足りてないのはレベルだけだな。普通なら13レベルくらいで挑む相手だろう。

 俺は大体のゲームを推奨レベルよりも低いレベルでしか挑まないからいつも通りだが、ウルは初めてのボス戦でこれはキツイだろう。

「ウル! 俺が攻撃するタイミングで一緒に攻撃しろ!」
「クゥ!」

 それでもよく動いてくれている。こちらの指示を聞いて、意図も汲み取って、自分にできることをやっている。

「この感じなら最初の方はウルも大丈夫だな」
「クゥ!」

 一撃は重いが、当たらなければ関係ない。俺が注意を引き続ければウルがやられることはない。

「それにしてもレベル差を、ステータス不足を感じるな」

 流石百獣の王の名を持つものだ。簡単に倒せそうではない。

 この近い距離で相手の攻撃を受け流している時に思うことではないのかもしれないが、本当に見惚れるほどの見た目をしている。
 そして迫力もあり、目の前に顔がきた時はもう終わりだと思ってしまうほどの威圧感がある。

 初心者は本当にこのボスを攻略出来るのかと思ってしまうが、自分自身がその疑問の答えになってしまっている。
 最初は無理だなんだと言っても、結局は大体のことが出来てしまうのが人間だ。 
 途中で諦めるやつもいるが、特に好きでやっていることなんかは出来るまでやる。

「俺もゲームのやりすぎなんだろうな。相手が強いと、恐怖心よりそいつのドロップアイテムが気になって仕方がねぇ」

 現実世界でこんなボスを相手したら即死だろうが、ゲームの世界ではどうとでもなるのが面白い。

 そして今は相手の弱点、行動パターン、周りの状況、色んなことが頭に入ってくる。
 これはすぐに身に着けられるものではない。ギリギリの相手と戦い続けてきて得たものだ。
 
「ウル、そろそろ離れておいて」

 そう言った数秒後、ボスは距離を取り、力をためているような様子を見せる。

 遠距離攻撃ではなさそう。なら答えはもう1つの方だな。

『グゥアオオオオオオ!!!』

 ボス戦ではよくある第何形態ってやつだ。多いもので3回以上してくる相手もいるが、今回はこれで終わりだと思う。

 全身の黒い毛が逆立ち、明らかに先程よりも攻撃性の増した相手は、魔法でも飛ばしてきそうだ。

『グゥアオオ!』
「って本当に飛ばしてくるのかよ!」

 水魔法が俺に向かって飛んでくるが、持続的なものではなく、球体の水魔法が飛んできただけだった。

 もし一定時間魔法を撃たれ続けるものだと、今よりももっと苦戦は必至だったな。

「でもこれは俺たちには追い風だ」

 相手は俺に当てようと何度も魔法を撃っては、近づいて爪で攻撃してくる。
 近接戦だと俺のカウンターをどうしても受けてしまうため、どんどん魔法の比率が上がっていく。
 
 それはこっちにとってとても好都合だった。

「ウル、そろそろやろう」
「クゥ!」

 何も指示しなくても、声を掛けるだけで分かってくれる。
 俺がやりたいことは、ウルのやりたいことでもあった。

「クウゥゥ!!」

 水魔法でどこもかしこも濡れているこのフィールドでは、ウルにとって最高の状況。

 ボスに向かって放たれた氷魔法は、瞬く間に辺りを氷漬けにした。
 
『ガ、ガゥ、グゥアァォ』
「流石にこの状況で、自分から攻撃しないなんてことはあり得ないから」

 動けないボスに近づき、ひたすら斬る

 出来るだけ氷漬けにされている場所には触れないように、今出せる最大の攻撃を与え続ける。

「クゥ!」

 ウルも氷魔法を定期的に使いながら、爪で何度も攻撃している。

「ダメ元で1回だけやってみるか」

 初めて野生のモンスター相手に使うテイマースキル。
 手加減スキルでギリギリまで攻撃してから、テイムを使用。

「ガ、ガゥ、グゥアアオオオオ!!!」

 駄目だったか

 負けるとわかっていても、最後まで抵抗した姿は紛れもなく王であった。

「じゃあ、ありがとう。強かったよ」

 俺はそう言って、鬣で覆われた黒い獅子の首に、片手剣を突き刺す。

《ユーマのレベルが上がりました》
《ウルのレベルが上がりました》
《北のエリアボスを初めて討伐しました》
《北の街が解放されました》
《初めて単独でエリアボスを討伐しました》

名前:ユーマ
レベル:10
職業:テイマー
所属ギルド :魔獣、冒険者
パーティー:ユーマ、ウル
スキル:鑑定、生活魔法、インベントリ、『テイマー』、『片手剣術』
装備品:大荒熊と荒猪の片手剣、大荒熊と劣狼の革鎧、大荒熊と劣狼の小手、大荒熊と劣狼のズボン、大荒熊と劣狼の靴

名前:ウル
レベル:10
種族:子狼
パーティー:ユーマ、ウル
スキル:勤勉、成長、インベントリ、『子狼』『氷魔法』
装備品:青の首輪(魔獣)

 なんか色々アナウンスがあって忙しいのだが、今一番気にするのはそこではない。

「タマゴ?」
「クゥ」

 黒い獅子を倒した後、その場に残された1つのタマゴ。

 ドロップアイテムは基本的にインベントリに入るのだが、ボスだけは地面に落ちるゲームもある。もしくはインベントリに入るが、討伐したパーティー全員に何を獲得したか画面で表示される事も。

 一応インベントリを見たら、獅子(黒)の牙と、獅子(黒)の鬣が入っていたので、このゲームはインベントリに入るパターン、しかも画面が出てくることもなかったので、誰がどんな素材を手に入れたか知ることが出来ないのかもしれない。

「で、このタマゴどうするか考えるか。一旦ここで休憩しよ」
「クゥ…………クッ!?」
「どうした!?」

 そうウルに声をかけると、ウルの身体が輝き出し、段々と大きくなる。

 ウルは最初驚いていたが、しばらくすると落ち着いた。苦しくもなさそうだし、自分の変化を今は受け入れている。

「大丈夫か?」
「クゥ」

 しばらく待っていると、今の大きさで安定したようだ。

「ちょっとステータス見るぞ」

名前:ウル
レベル:10
種族:ホワイトウルフ
パーティー:ユーマ、ウル
スキル:勤勉、成長、インベントリ、『ホワイトウルフ』『氷魔法』
装備品:青の首輪

ホワイトウルフ:部分強化、回避、加速、『子狼』
氷魔法:中級

 順当にレッサーウルフになると思ってたんだが、ホワイトウルフになったか。

 たぶん特殊な進化先なんだろう。レッサーウルフより少し大きい。
 スキルも内容が変わって、更にこれから活躍してくれそうだ。

「進化おめでとう。もう前みたいに持ち上げるのは無理だな」
「クゥクゥ!」

 いや、そんなに体を擦り付けてきても無理なもんは無理だ。

「で、色々あったけどあのタマゴだよな」

 ボス討伐の報酬なのか、エリアボス単独初討伐の報酬なのか、はたまた最後にボスに対してテイムを行ったのが原因なのか、色々予想できてしまって、どれなのかが分からない。

「まあ良いや。とりあえずやることは決まってるな」

 どんな理由であのタマゴがあるのかわからないが、今すぐにしないといけない事はある。

「その進化した体を慣らす意味も込めて、ウルが倒してくれ」
「クゥ!」

 ボスを倒した場所から少し進んだところで、モンスターを探していた。

《あなたのタマゴが進化しました》
《あなたのタマゴが進化しました》
《あなたのタマゴが進化しました。これ以上進化する事はありません》

 ウルの時と同じく、結構な量のモンスターを倒すと、タマゴが進化した。

「何が出て来るかな」
「クゥ」

 魔獣ギルドでもらったタマゴと同じだと思ってしまっているが、もしかしたら黒い獅子が生まれる可能性もある。

「じゃあスキルを使うぞ」

 そう言ってタマゴに孵化スキルを使う。
 
「アゥ」

 そこにいたのは1人の小さな女の子。

「え?」
「アウ?」

 黒い髪に瑠璃色の瞳をもつ彼女は、短めの髪を揺らしてこちらを見つめている。
 どこから見ても人間にしか見えないが、タマゴから出てきたのはこの子しかいない。

「えっと、とりあえず名前だよな。じゃあその瞳の色から取って、ルリで」
「アウ!」

《ユーマのレベルが上がりました》

名前:ルリ
レベル:10
種族:巨人
パーティー:ユーマ、ウル、ルリ
スキル:忍耐、超回復、成長、インベントリ、『巨人』
装備品:なし

巨人:怪力、タフネス、硬質化

「巨人って、あの巨人?」

 どう見ても小さい子どもにしか見えず、持ち上げてみても軽い。

「アウ!」
「クゥ!」

 ウルの背中に乗って2人共楽しそうにしている。ウルは良いお兄さんしてるな。え、ウルってオスだよな?

「ま、とりあえず新しい仲間として、これからよろしく、ルリ!」
「クゥ!」
「アウ!」

 スキルには巨人ならではの巨大化みたいなのは無かったので、もっとレベルが上がれば巨人化したルリが見れるかもしれない。

「じゃあ早速北の街に行こうか!」

 エリアボスを倒し、新しい仲間も増え、俺達は素晴らしい成果を得ることができたのだった。


 
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