最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

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第13話

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 目の前の相手を鑑定したところ、名前はワイルドベアー亜種と表示されている。
 通常はここまで大きくないのだと思うが、亜種だからここまで大きいのだろう。

「力も馬鹿みたいに強いな」

 相手の攻撃を片手剣で受け流したのだが、受け流しただけで手が痺れている。
 ただ、幸いなことに素早い動きは見られないため、倒せないと思ったら逃げることは出来そうで良かった。

『ガッ、ガゥゥ!』
「ナイスだウル!」
「クゥ!」
 
 ウルは言われた通り相手の目の付近めがけてずっと氷魔法で攻撃してくれている。

 この一瞬の隙をつき、敵に攻撃を仕掛ける。
 両腕で目を覆っているため、がら空きの鼻に片手剣術スキル全がけの一撃を叩き込んだ。

『ガゥゥゥゥ!?』

 敵は後ろに倒れ込み、もがき苦しんでいる。

「ダメージは少ないだろうけど、それでも意外と通用するもんだな」

 ダメージとしてはあと何百回同じ攻撃を与えて倒せるくらい。
 相手が強いと言ってもボスモンスターでもないし、戦闘の実力には圧倒的に差がある。

 問題はステータスの差であったが、それも今俺の攻撃がギリギリ通用すると証明された。

「お前がボスモンスターとして生まれたなら、今の俺は敵わなかったかもしれないが、レベルが高いだけの熊相手に、俺が負けることはないだろうな」
『ガウウウウウウ!!』

 先程まで圧倒的に優位で、自分が狩る側だと思っていたのに、急に攻撃をされてパニックになっているようだ。

 しばらくして立ち上がり、相手は怒りの全てを俺にぶつけるように向かってきた。

『ガウウウウウウ!』
「おっ、もい、けどっ、技術の欠片もねえ攻撃だな!」

 相手の攻撃は単調で、腕を振り回して攻撃するか、噛みついてくるかの2択しかない。

 普通はここまでステータスに差があると、この単調な攻撃も脅威ではあるのだが、さすがに踏んできた場数が違う。

 ただ、最初俺がこいつは倒せないと思ったのも間違いではなかった。
 スキルを使った攻撃でないと、クリティカルを出しても全く攻撃が通らなかったからだ。
 素の状態の俺ではこいつにダメージは与えられなかったが、スキルを使えば攻撃が通る。

 まだこのゲームのスキルを使い慣れていないため、どれほど強化されるのか分からなかったが、あそこで諦めずに挑戦してよかった。
 あとは俺がミスをせずにこいつに攻撃を当て続けるだけのゲームだ。

『ガウゥ』
「お、さすが同じ行動を続けてくれるほど馬鹿ではないか」

 俺に攻撃を避けられ、カウンターされ続けたことにより、怒りに身を任せるだけでは駄目だと気付いたのか、動きが止まった。

「でもその目はまだ自分のほうが強いって思ってるみたいだな」
『ガアウゥッ』

 俺のほうが強いことに気づいてないのか、気づいてないふりをしてるのか、どっちかはわからないがこのまま続けていればいずれ嫌でも気付くだろう。

「クゥ!」
『ガウゥゥ』

 ウルの氷魔法は最初の方こそ相手を苦しめていたが、今は少し鬱陶しそうにするだけで、基本無視されている。
 熊のモンスターもウルが自分の脅威でないことには気づいていて、俺に集中しないとヤバいことも分かっているのだろう。

 それでもウルには攻撃をし続けて貰う必要がある。少しでも相手の集中を切らし、不快にさせてくれれば、俺はその分攻撃を当てやすい。
 ウル自身も自分にはこの相手は危険だとわかっているのか、今は湖の中央付近に氷魔法で氷塊を作り、その上から氷魔法で援護してくれている。

『ガアウゥッ!』

 先程よりも鋭い攻撃が増えたが、受け流してしまえばどちらも変わりない。

「でも、1回でも当たったら終わりってのは、どんな相手でもスリルがあるな」
『ガウゥ、ガウウウ!』

 相手も少しずつ攻撃パターンを増やしてくる。
 腕の振り回しと噛みつきだけだったのが、手で掴もうとしたり、全身で俺にのしかかろうとしたり、体当りしてきたり、段々と俺もやりづらくなってきた。

 そしてついに俺の懸念していた事態が起こる。

『ガウウウウウウ!』
「うぉっとっと、っあっぶねぇ!」

 相手もスキルを使ってきたのだ。

 一瞬動きが速くなる、攻撃の威力が上がる、爪が少し伸びる等のスキルが見られた。
 俺も相手がどれだけスキルがあるかわからないし、ずっと注意しながら戦うのはとても神経を使う。

「クゥ!」

 それでもウルの援護をもらいながら相手に攻撃を重ねていく

『ガウウウウウウ!』
「そうやって暴れてくれる方がありがたい」

 俺はずっと敵の首と鼻あたりしか攻撃しておらず、カウンターでの攻撃のみだ。
 相手は俺が顔面を狙っているのに気付き、自分が攻撃するとき以外は顔を守っていたのだが、カウンターしか来ないため防御は無駄だと思ったのだろう。
 
 そしたらまたウルの氷魔法が当たってしまうのに。
 
 それでも守りを捨てたのは、早く俺を倒さないとそろそろまずいと思ったからだろうな。

『ガウウウウウウ!』

 これがボスなら第2形態とか、魔法を使ってくるとか、攻撃パターンが変わるとか、色々あるんだろうけど、ちょっと強いモブのモンスターにはそんな機能はないらしい。

 まだ序盤も序盤だからかもしれないが、俺にとってはありがたかった。

『ガウ、ガゥ、ガウウゥゥ!』
「はぁっ、やっと終わりそうだ、なっ!」

『ガアウゥ、ガ、ゥ』

 まだ立ち向かって来ようとする敵に渾身の一撃を叩き込み、ようやく相手を倒しきった。

《ユーマのレベルが上がりました》
《ウルのレベルが上がりました》

名前:ユーマ
レベル:7
職業:テイマー
所属ギルド :魔獣、冒険者
パーティー:ユーマ、ウル
スキル:鑑定、生活魔法、インベントリ、『テイマー』、『片手剣術』
装備品:鉄の片手剣、皮の服、皮のズボン、皮の靴

名前:ウル
レベル:7
種族:子狼
パーティー:ユーマ、ウル
スキル:勤勉、成長、インベントリ、『子狼』『氷魔法』
装備品:青の首輪(魔獣)
 
「ふぃ~、お疲れ様」
「クゥ!」

 やり切ったなぁ。今回は自分のことを褒めてやりたいし、あの熊のモンスターのことも讃えたい。

 もし俺があの熊だったら絶対に途中で逃げてた。それくらい自分の攻撃が当たらないってのは絶望だし、自分が攻撃するたびに相手の攻撃を受け続けるなんて、俺だったら自分から攻撃をしなくなるに違いない。

 それでもあの熊は俺に挑んできた。

 そういう風に作られていると言えばそれまでだが、全てのNPCに高度なAI技術は組み込まれてるだろうし、俺に恐怖を感じて逃げてもおかしくなかった。

「ウルも、あのモンスターの根性は見習っても良いレベルだ」
「クゥ」

 そういえばウルもずっと氷魔法で攻撃し続けてくれたけど、魔法の使用限界とかはどうなっているのか気になるな、後で調べてみよう。

 あと、ウルは今回の戦闘で俺の戦い方を十分に学べたはずだから、次に戦う時が楽しみだ。

「ウルもゆっくり休んでくれな」
「クゥクゥ!」

 ウルの要望により、途中で中止になった魚の串焼きをまた再開することになったのだが。

「なんか、魚増えてね?」
「クゥ!」

 どうやら湖に氷塊を作るついでに魚も捕まえてたらしい。

「まぁいいや。ウルも頑張ってたし、ある程度は残すが、もうちょっとだけ焼く魚を増やすか」
「クゥ!」

 俺もウルも、さっきまで強敵と戦っていた疲労からか、魚の串焼きはあっという間になくなるのだった。



「えっと、ワイルドベアー亜種ですか?」
「そうですね、なんかすごく強かったです」

 冒険者ギルドに来て、納品依頼と討伐依頼の報告は終わり、無事達成できた。
 そして初めての調査依頼の報告に来たので、調査窓口の人に細かく説明していた。

「あと、ポイズンスライムも湖の付近にいたので、それで様子がおかしかったのかもしれませんね」
「なるほど、お怪我はありませんでしたか?」

「それはもう全然大丈夫です。ポイズンスライムで毒になることもなかったですし、ワイルドベアー亜種に関しては一撃でも喰らえば終わりでしたから。いやぁ、倒せてよかったです」
「え、倒せてよかった?」

「一応調査依頼ということなんで、勝手に予想してみるんですけど、ポイズンスライムがワイルドベアー亜種の縄張りに多くなって、餌が少なくなったんだと思います。それで餌を求めて湖まで来て魚を食べてたのかなと。結構強かったんで、あの辺りの生態系のトップだったと思うんですよ。居なくなったらまた他のモンスターが代わりに入るんでしょうけど、しばらくは縄張り争いとかも発生して、荒れるかもしれませんね」
「な、なるほど」

 どうしよう、微妙な返事しかこなくて不安になってきた。なんか間違ってたのだろうか。

「えっと、調査依頼はこんな感じだったんですけど、ど、どうでしょう?」
「あ、はい! ありがとうございました。ユーマさんのご指摘の通り、しばらく湖の近くは警戒する方向で考えたいと思います。調査依頼としても十分に調べていただいたと思いますし、内容もわかりやすく、納得できるものでしたので報酬も最高額を払わせていただきます!」

 そう言って3,000Gの報酬を受け取るのだった


 
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