最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

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第12話

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 あのあと少しの間ウルは全く動かなかった。

 俺は話しかけても返事がこないウルに、5秒だとか言ってカッコつけて引かれちゃったなとか、やりすぎてせっかく強くなってたのに自信失くしちゃったかなとか、もう俺のこと嫌いになったかなとか、思考が加速度的にマイナスに向かっていく中、気がつくとウルが近寄ってきていて、俺の身体は硬直した。

 何を言われるんだろうかと怖がっていたが、冷静に考えれば鳴く以外出来ないウルに何を怖がっていたんだと今さら気付く。

 しかしこの時はもう嫌いですとか、カッコつけて気持ち悪いとか、ついていけませんとか言われることを想像していた。

「クゥ」
「ん?」

 俺は目を思いっきり瞑って立っていたところ、ウルが足元で鳴いている。

 目を開いてしゃがむと、ウルは俺に飛びついてきてくれた。

「クゥ! クゥクゥ! クゥクゥクゥ!」

 だんだんと尻尾をふる速度も速くなり、目は輝きを増していく。
 ウルの鳴き声が増え、俺のさっきの戦闘を楽しんでくれたような、讃えてくれているような、そんな気持ちが伝わってきた。

「クゥ~~、クゥ!」
「そうかそうか、ありがとな」

 たぶん俺のことをすごいすごいと褒めてくれてるのかな。
 もうオカちゃんの時の不機嫌さは全く消えて、俺への尊敬の眼差しがすごい。
 オカちゃんも俺と同じレベルでやってましたなんて言ったら、また不機嫌になるか、ショックを受けるんだろうな。

 ちょっとショックを受けるウルも見たいと思いながらも、今はウルに嫌われていなかったこと、そして自信を失くしていないことに安堵するのだった。

「ウルも頑張れば、とりあえず俺レベルにはなれるからな」
「クゥ!」

 この森に入った時よりも良い表情になったウルは、この後モンスターとの戦闘でまたまたすごい成長を見せてくれるのだった。



「これくらいで一旦狩りは終わりにして、湖の方に行こっか」
「クゥ」

 あれから戦闘は何度もしたが、大量のモンスターを一気に相手できる機会は無かった。
 大量のモンスターを相手にしていた今までが異常だったのだと気付いて、あの頃が恋しくなる。

「ま、レベルは上がったし結果はいい感じだな」

名前:ユーマ
レベル:6
職業:テイマー
所属ギルド :魔獣、冒険者
パーティー:ユーマ、ウル
スキル:鑑定、生活魔法、インベントリ、『テイマー』、『片手剣術』
装備品:鉄の片手剣、皮の服、皮のズボン、皮の靴

名前:ウル
レベル:6
種族:子狼
パーティー:ユーマ、ウル
スキル:勤勉、成長、インベントリ、『子狼』『氷魔法』
装備品:青の首輪(魔獣)

 当初上がればいいなと思っていた6レベルになれてよかった。

「それにしても毒消しポーションは必要なかったな」

 人によってはキュアポーションとも言う毒状態を解除するポーションは、ウルがいたため全く必要なかった。

 ポイズンスライムは、おそらく攻撃されれば毒状態になる可能性があり、こっちから攻撃をしてその際に飛び散ったスライムが身体に触れれば、その場合も毒になってしまう可能性があるというモンスターだと考えられる。

 なので本来は攻撃を受けるのも攻撃をするのも難しい厄介なモンスターだったはずなのだが、ウルの氷魔法は相手を凍らせてしまう。

 特にスライムなんてすぐ凍ってしまうため、普通のスライムと討伐難易度は変わらなかった。

「スライム狩りに関してはウルは俺よりも先を行ってるかもな」
「クゥクゥ」

 ウルはそれはないとでも言うように頭を横に振ってくれる。

 ウルに戦ってほしいとせがまれ、見本のために1回だけポイズンスライムと戦ったのだが、攻撃して飛び散ったポイズンスライムの欠片を1つも浴びることなく倒したのを見せたので、このように思ってくれているのだろう。

 あれ、相手が弱くてもめちゃくちゃ神経使うし、何回もやるのはしんどいから、絶対氷魔法の方が強いんだけど、ウルは俺をどうも高く評価してくれてるらしい。

 今は俺も嬉しいしこのままでいいが、もっと成長したら、ちゃんと贔屓無しで評価できるようになってもらおう。

「あと残ってる依頼は湖の調査だけかな」
「クゥ」

 といってもこの辺でポイズンスライムが多くなっているからってのが、調査結果の1つではありそうだ。
 
 ただ、依頼の報酬の書き方的に、より詳しく調べると報酬額も上がるようだったので、もう少し調べてみる。

「なんか静かでめちゃくちゃ落ち着くけどなぁ」
「クゥ」

 しばらくまったりしていると、風も吹かず、周りの音がなく、俺とウルの息遣いだけしか聞こえなくなった。

「ここまで無音だと、急に怖いな」

 風が吹いていた時は森の音と湖の波の音でちょうど落ち着くような気持ちになれたが、風が止んで無音になると、神聖な場所に無断で入ってしまったような居心地の悪さを感じる。

「クゥ」

 そんな中ウルは湖まで近寄って、水面に顔を近づけている。

「落ちるなよ。たぶん泳げる場所では無さそうだからな」
「クゥ」

 サメ映画なら急に水面から出てきて驚くシーンだろうが、この湖は何か出るのか?
 いや、湖だしあなたが落としたのは銀の斧?  金の斧? 的なことの方が可能性としては高そうだな。

「クゥ!」

 すると突然ウルが氷魔法を使い、湖の一部を凍らせる

「急にどうした。大丈夫か?」

 よく見てみると、凍った塊の中に何匹もの魚がいた。
 すぐにその氷塊はなくなり、ウルのインベントリに魚が数匹入っていた。

「魚を食べたいってこと?」
「クゥ!」

 魔法を使うとお腹が空くのか、ウルの1食の量は普通でも、何回も食べている気がする。
 俺はお腹が膨れることはないので無限に食べれてしまうから、ウルの食べるタイミングに合わせて俺も食べている。
 ウルがいる限り、俺がこのゲーム中に食事を取るのを忘れることはないだろう。

「せっかくだしここで食べるか。ウルには木の枝をいくつか持ってきてほしいな」

 湖の調査はあまり進んでいないが、これといって報告することがないので仕方ない。

「まずはウルの腹を満たしてから、調査については考えよう」

 湖の近くで火をつけて、魚をウルが取ってきてくれた木の棒に刺し、よく見る魚の串焼きを作る。

「ギムナさんならもっと美味しく出来るんだろうけど、俺はこれくらいしか出来ないな」
「クゥ……」

 もうウルは焼いている魚に夢中で、今か今かと出来上がるのを待っている。

「気をつけて食べてくれよ」
「クゥ!」

 ウルはすぐに魚にかぶりついているので、今度いただきますを教えようと決める。
 俺も心の中で思う事はあっても、声に出していただきますとごちそうさまをいつからか言わなくなったな。
 ゲームくらいは周りの目を気にすることなくしっかりと声に出して言おう。

「クゥ!」
「おかわりね。これがちょうど焼けてていいんじゃないか?」

 モンスターの徘徊する危険な森の中で、こんなに煙といい匂いを漂わせていたら、何かがやってくることは当たり前であり、俺はそれを期待していた。

「おお、これは大当たりかな。いや、大当たりすぎかも」
「クゥ!」

 大きな身体に硬そうな毛が生えた熊のモンスターが、ゆっくりとこちらに向かってきている。

「ウルは最悪の場合、湖に氷魔法で足場作って避難してくれ。このクラスのモンスターに今の俺の攻撃が通用するとは思えない」
「クゥ……」

 どう考えても今までのモンスターとは格が違う。

 せめて俺が10レベルくらいで武器もNPC製のものなら、まだ戦うという選択肢もあっただろうが、今はどう逃げ切るかが大事だ。

「それにしても、こうやって相手が倒せないってのはなかなか歯がゆいなぁ」

 久しく感じていなかったこの無力感
 どんな相手でも倒せると疑っていなかったあの頃と今
 大人になったと言うべきか、子どもだったと言うべきか

 相手の力量をある程度把握する能力が培われたのはこれまでの膨大な経験があるからだが、こういった時はその経験が恨めしく思う。

 戦いたい
 己の限界を試したい
 つい先程倒せないと自分で判断したにも関わらず、その判断に背くように心と体が動く

「ごめんウル、やっぱさっきの無しで。ウルは遠くから魔法で攻撃し続けてほしい。できれば相手の目をずっと狙って。俺のことは気にせずにどんどん狙って。俺がウルの魔法に当たることはないから。あと、もし俺が倒されそうになっても絶対に助けないで。その代わりウルに敵が攻撃しに行っても俺はたぶん助けられないから、なんとか自分で逃げてほしい。それでも良いなら、ウルと一緒にあいつと戦ってみたいんだけど。どうする?」
「クゥ!」

「どの攻撃も全くダメージが通らない場合は、隙を見て逃げる。これだけは変わらないからな」

 そう言って焼いていた魚をインベントリに入れて、近づいて来た熊と対面する。

「匂いにつられてきたところ申し訳ないが、これは俺たちのもんでね。てかこれあげたとしても襲いかかってきてたでしょ」
『ガアウウゥゥ!』

 なんてことないように話しかけてみれば挑発と受け取ったのか、熊のモンスターは大きな身体をひねり、右腕をフルスイングして俺に攻撃してきた。


 
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