彩~いろどり~

すーたん

文字の大きさ
上 下
1 / 7

農民 一彦

しおりを挟む
とても清々しく小鳥の声が聞こえる朝。
こんなに気持ちいい朝を迎えられたのはいつぶりだろうか?

少年一彦は農民である。普通の農民なら朝から晩まで畑を耕して農作業をするが最近は体調を崩していて仕事はほぼ母と妹に任せていた。一彦は幼い頃から体が弱くて力仕事などはあまり得意ではない。友達と外で追いかけっこをして遊んだことはないし、男の子なら小さいときに一度はやるであろう少し危険なこともしたことはない。こんな風に弱いといじめられもしたし、もちろん友達だって出来なかった。

そんな一彦の普段の仕事は収穫した野菜などを洗ったり、商業をしている祖母の店を手伝いに行ったり、家事をしたりなどそこまでしか一彦には出来なかった。
今日は久しぶりに祖母の店の手伝いに行く。数日ぶりに外に出る。まだ病み上がりだがここまで治ればきっと大丈夫。

「お母様、おばあさまのところへお手伝いに行って参ります」
「あぁ。ならそこの野菜を一緒に持っていってくれ」
「はい。では行ってまいり……ゲホッ…ゴホッ…ゲホッ……」
「大丈夫かい?無理するなよ」
「平気です……では行ってまいります」

本調子ではなさそうなのでゆっくり向かうことにした。これが一彦の日常。


「おーい!一彦!」

祖母の家に向かおうとして家を出ると少し遠くから誰かが声をかけてくる。
一彦はこの声の主をすぐにわかった。

「やぁ、景ノ介じゃないか」

彼は隣の家の景ノ介(けいのすけ)。幼馴染で周りの子たちと仲良く出来なかった一彦に唯一手を差し伸べてくれたのだ。

「最近見なかったから生きてるか心配したぜ?」
「生きてるよ。体調崩してたんだ」

景ノ介は誰にでも優しく困っている人がいたら放っておけないタイプだ。一彦が倒れるたびに見舞いに来てくれるし面白い話もたくさんしてくれる。一彦はそんな景ノ介にとても感謝する反面とても申し訳ない気でいた。

「またかよ?今回はどのくらい寝込んでたんだよ?」
「十日ほどかな?」
「そうか……悪いな。見舞い行けなくて……」
「僕が言ってなかったんだから知らなくて当然だよ。じゃあそろそろ行くね」
「おう!またな!」

こうして幼馴染と別れる。
そして今度こそ祖母の家に向かうために歩き始める。

祖母の家の近くにはとても綺麗な川があり、よくそこで野菜をつけていたりする。その川の流れる音や泳いでいる魚はとても美しくてそれを見るのが一彦の密かな楽しみでもあった。
自分の家からそれほど遠くもないので一時間ほど歩けば着く。いい運動にもなるし、体に負担をかけすぎないのでちょうどいい。

「おばあさま。おはようございます。お手伝いに来ました」
「久しぶりだね。また体調崩してたのかい?」
「はい。復活したので精一杯お手伝いさせていただきます」
「無理するでないよ。じゃあ早速そこに置いてる野菜を川につけてきてくれるかな?」
「はい。いってまいります」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

猿の内政官の息子

橋本洋一
歴史・時代
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~ の後日談です。雲之介が死んで葬儀を執り行う雨竜秀晴が主人公です。全三話です

恐竜大陸サウラシア~Great Dinosaur Rush~

田代剛大
歴史・時代
 1889年西部開拓時代のアメリカ。俳優を目指し都会に出て見事に挫折したフィリップ・バックランドは、幼馴染の少女リズリーと共に巡業サーカス団「ワイルドウェストサーカス」で猛獣使いとして働いていた。巨大肉食恐竜を相手に鞭一つで戦うフィリップのショーは当初は大ウケだったものの、ある日恐竜に詳しい子どもの「あの恐竜は見た目は怖いが魚しか食べない」の一言で、彼のショーは破滅する。  しかしそんなフィリップのうそっぱちの猛獣ショーに観客席からひとり拍手を送る貴婦人がいた。彼女はワイオミングに金鉱を持つアニー・ブラウン。アニーは西部で暴れる凶暴かつ強大な恐竜と戦う勇敢な恐竜討伐人「ダイノ・スレイヤー」を探し求めていたのだ。  莫大なギャラでサーカスからフィリップを引き抜こうとするアニー。奇麗な女性の前で、すぐかっこつけるフィリップは、この依頼の恐ろしさを一切考えず二つ返事でアニーの仕事を引き受けてしまった。  どう考えても恐竜に食べられてしまうと感じた幼馴染のリズリーは、フィリップを止めようと、サーカスの恐竜たちの協力によってこっそりサーカスを抜け出し、大陸横断鉄道でふたりと合流。  かくしてフィリップ、リズリー、アニーの三人は野生の恐竜が支配するフロンティア「恐竜大陸サウラシア」に旅立ったのだが・・・

金鰲幻想譚

鶏林書笈
歴史・時代
韓国版「剪灯新話(〝牡丹燈籠〟が収録されている中国の古典怪談物語集)」と言われている韓国(朝鮮)の古典物語「金鰲新話」をアレンジしました。幽霊と人間が繰り広げるラブストーリー集です。

【受賞作】鶴川橋暮れ六つ

筑前助広
歴史・時代
――男には人生に一度、全てを賭して誰かの為に戦わねばならない時がある―― 過去に藩の討っ手役を失敗した為に、左遷の上に禄高半減の処分を受けた過去を持つ臼浦覚平は、〔万里眼〕と呼ばれる目の良さと、立信流免許皆伝の腕前を持つが、その口下手故に「むっつり覚平」と嘲られていた。 そうした鬱屈した感情を抱えながら、幼き娘と二人で暮らす覚平は、ある日大きな事件に巻き込まれてしまうのだが――。 武士としてではなく、父として何としても生きる道を選んだ覚平の覚悟とは!? ノベルアッププラス 第1回歴史・時代小説大賞 短編部門受賞作

大正ロマンとコンツエルト

魔法使いアリッサ
歴史・時代
大正時代を舞台にした音楽家の卵の主人公、アキラの成長物語とラブコメ。

短編歴史小説集

永瀬 史乃
歴史・時代
 徒然なるままに日暮らしスマホに向かひて書いた歴史物をまとめました。  一作品2000〜4000字程度。日本史・東洋史混ざっています。  以前、投稿済みの作品もまとめて短編集とすることにしました。  準中華風、遊郭、大奥ものが多くなるかと思います。  表紙は「かんたん表紙メーカー」様HP にて作成しました。

新説・川中島『武田信玄』 ――甲山の猛虎・御旗盾無、御照覧あれ!――

黒鯛の刺身♪
歴史・時代
新羅三郎義光より数えて19代目の当主、武田信玄。 「御旗盾無、御照覧あれ!」 甲斐源氏の宗家、武田信玄の生涯の戦いの内で最も激しかった戦い【川中島】。 その第四回目の戦いが最も熾烈だったとされる。 「……いざ!出陣!」 孫子の旗を押し立てて、甲府を旅立つ信玄が見た景色とは一体!? 【注意】……沢山の方に読んでもらうため、人物名などを平易にしております。 あくまでも一つのお話としてお楽しみください。 ☆風林火山(ふうりんかざん)は、甲斐の戦国大名・武田信玄の旗指物(軍旗)に記されたとされている「疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山」の通称である。 【ウィキペディアより】 表紙を秋の桜子様より頂戴しました。

流浪の太刀

石崎楢
歴史・時代
戦国、安土桃山時代を主君を変えながら生き残った一人の侍、高師直の末裔を自称する高師影。高屋又兵衛と名を変えて晩年、油問屋の御隠居となり孫たちに昔話を語る毎日。その口から語られる戦国の世の物語です。

処理中です...