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農民 一彦
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とても清々しく小鳥の声が聞こえる朝。
こんなに気持ちいい朝を迎えられたのはいつぶりだろうか?
少年一彦は農民である。普通の農民なら朝から晩まで畑を耕して農作業をするが最近は体調を崩していて仕事はほぼ母と妹に任せていた。一彦は幼い頃から体が弱くて力仕事などはあまり得意ではない。友達と外で追いかけっこをして遊んだことはないし、男の子なら小さいときに一度はやるであろう少し危険なこともしたことはない。こんな風に弱いといじめられもしたし、もちろん友達だって出来なかった。
そんな一彦の普段の仕事は収穫した野菜などを洗ったり、商業をしている祖母の店を手伝いに行ったり、家事をしたりなどそこまでしか一彦には出来なかった。
今日は久しぶりに祖母の店の手伝いに行く。数日ぶりに外に出る。まだ病み上がりだがここまで治ればきっと大丈夫。
「お母様、おばあさまのところへお手伝いに行って参ります」
「あぁ。ならそこの野菜を一緒に持っていってくれ」
「はい。では行ってまいり……ゲホッ…ゴホッ…ゲホッ……」
「大丈夫かい?無理するなよ」
「平気です……では行ってまいります」
本調子ではなさそうなのでゆっくり向かうことにした。これが一彦の日常。
「おーい!一彦!」
祖母の家に向かおうとして家を出ると少し遠くから誰かが声をかけてくる。
一彦はこの声の主をすぐにわかった。
「やぁ、景ノ介じゃないか」
彼は隣の家の景ノ介(けいのすけ)。幼馴染で周りの子たちと仲良く出来なかった一彦に唯一手を差し伸べてくれたのだ。
「最近見なかったから生きてるか心配したぜ?」
「生きてるよ。体調崩してたんだ」
景ノ介は誰にでも優しく困っている人がいたら放っておけないタイプだ。一彦が倒れるたびに見舞いに来てくれるし面白い話もたくさんしてくれる。一彦はそんな景ノ介にとても感謝する反面とても申し訳ない気でいた。
「またかよ?今回はどのくらい寝込んでたんだよ?」
「十日ほどかな?」
「そうか……悪いな。見舞い行けなくて……」
「僕が言ってなかったんだから知らなくて当然だよ。じゃあそろそろ行くね」
「おう!またな!」
こうして幼馴染と別れる。
そして今度こそ祖母の家に向かうために歩き始める。
祖母の家の近くにはとても綺麗な川があり、よくそこで野菜をつけていたりする。その川の流れる音や泳いでいる魚はとても美しくてそれを見るのが一彦の密かな楽しみでもあった。
自分の家からそれほど遠くもないので一時間ほど歩けば着く。いい運動にもなるし、体に負担をかけすぎないのでちょうどいい。
「おばあさま。おはようございます。お手伝いに来ました」
「久しぶりだね。また体調崩してたのかい?」
「はい。復活したので精一杯お手伝いさせていただきます」
「無理するでないよ。じゃあ早速そこに置いてる野菜を川につけてきてくれるかな?」
「はい。いってまいります」
こんなに気持ちいい朝を迎えられたのはいつぶりだろうか?
少年一彦は農民である。普通の農民なら朝から晩まで畑を耕して農作業をするが最近は体調を崩していて仕事はほぼ母と妹に任せていた。一彦は幼い頃から体が弱くて力仕事などはあまり得意ではない。友達と外で追いかけっこをして遊んだことはないし、男の子なら小さいときに一度はやるであろう少し危険なこともしたことはない。こんな風に弱いといじめられもしたし、もちろん友達だって出来なかった。
そんな一彦の普段の仕事は収穫した野菜などを洗ったり、商業をしている祖母の店を手伝いに行ったり、家事をしたりなどそこまでしか一彦には出来なかった。
今日は久しぶりに祖母の店の手伝いに行く。数日ぶりに外に出る。まだ病み上がりだがここまで治ればきっと大丈夫。
「お母様、おばあさまのところへお手伝いに行って参ります」
「あぁ。ならそこの野菜を一緒に持っていってくれ」
「はい。では行ってまいり……ゲホッ…ゴホッ…ゲホッ……」
「大丈夫かい?無理するなよ」
「平気です……では行ってまいります」
本調子ではなさそうなのでゆっくり向かうことにした。これが一彦の日常。
「おーい!一彦!」
祖母の家に向かおうとして家を出ると少し遠くから誰かが声をかけてくる。
一彦はこの声の主をすぐにわかった。
「やぁ、景ノ介じゃないか」
彼は隣の家の景ノ介(けいのすけ)。幼馴染で周りの子たちと仲良く出来なかった一彦に唯一手を差し伸べてくれたのだ。
「最近見なかったから生きてるか心配したぜ?」
「生きてるよ。体調崩してたんだ」
景ノ介は誰にでも優しく困っている人がいたら放っておけないタイプだ。一彦が倒れるたびに見舞いに来てくれるし面白い話もたくさんしてくれる。一彦はそんな景ノ介にとても感謝する反面とても申し訳ない気でいた。
「またかよ?今回はどのくらい寝込んでたんだよ?」
「十日ほどかな?」
「そうか……悪いな。見舞い行けなくて……」
「僕が言ってなかったんだから知らなくて当然だよ。じゃあそろそろ行くね」
「おう!またな!」
こうして幼馴染と別れる。
そして今度こそ祖母の家に向かうために歩き始める。
祖母の家の近くにはとても綺麗な川があり、よくそこで野菜をつけていたりする。その川の流れる音や泳いでいる魚はとても美しくてそれを見るのが一彦の密かな楽しみでもあった。
自分の家からそれほど遠くもないので一時間ほど歩けば着く。いい運動にもなるし、体に負担をかけすぎないのでちょうどいい。
「おばあさま。おはようございます。お手伝いに来ました」
「久しぶりだね。また体調崩してたのかい?」
「はい。復活したので精一杯お手伝いさせていただきます」
「無理するでないよ。じゃあ早速そこに置いてる野菜を川につけてきてくれるかな?」
「はい。いってまいります」
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