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Episode3:You are my special

3-13 風になりたい妹

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 ようやく羽田空港に降り立ち、あたしたちは到着ロビーを出てタクシー乗り場を探そうとした。

「あっ、いたいた!! リコ姉~~~!!!」

 どこかで聞いたことがあるような声。
 振り返ると、めちゃくちゃ異様なルックスの女がブンブン手を振りながらこちらに駆け寄ってきた。

 アッシュグリーンの前下がりアンシンメトリーボブに、ピンクのインナーカラーが入ったヘアスタイル。
 それだけでも十分目立つけど、ピタッとした黒いTシャツにダメージジーンズ、ピアスと腰のチェーンがジャラジャラして、ヘソにもピアス。当然メイクも濃い、さらに声もデカいその女は、空港内で明らかに浮いていた。

 でも、あたしはその人物を知っていた。どこぞのカリスマギャルでもバンドのボーカルでもない。
 ただのパリピを名乗るあたしの妹だ。

「……瑠那!!!?」

 そう、5きょうだいの3番目・瑠那だった。隣には類は友を呼ぶみたいな男がひとり、ニコニコしながら立っている。瑠那の夫のあきらくんだ。

「リコ姉~!! 会えて良かったぁ~♡ さいぞーちゃんもお久しぶりぃ♪」
「なっ、なんで瑠那がここにいるの!!!?」
「さっきおニィから電話が来てさぁ。リコ姉の一大事だから助けてやってくれって。チラッとしか聞いてないけど、ダンナ二人持とうとしてるんだって~? しかも父ちゃん母ちゃんもそっこー許可するとか、うちの家族みんな頭おかしくない!? ちょーウケんだけど~~~!!!」

 瑠那がゲラゲラ笑う。空港のロビー中に響き渡るよう声で。
 晃くんも目をキラッキラさせながら、なぜか興奮気味。

「超ロックっすね! さすが瑠那のご家族っす!! しかもお義姉さん、男を追っかけて衝動的に飛行機に乗って来るなんて、イカスっす!!! シビれるっすぅぅ!!!!」
「空港のド真ん中でそういうこと言うのやめてくんない?」

 夫婦揃って声がデカい。恥ずかしすぎて、そう言い返すのが精一杯だった。

「それより、追っかけてるのこの人だって? ちょーイケメンじゃ~~~ん」

 派手なネイルをした手で瑠那が差し出したスマホの画面に、累くんの姿が映っている。兄が転送したのだろう。

「この人なら、さっき別の飛行機から降りてきたの見つけたよ。目立つからすぐ分かっちゃった。でも迎えに来てたオジさんと一緒に、なんかちょー高そうな車に乗って行っちゃったよ。アタシの仲間が跡を尾けてるから、急ご! 乗せてくから!!」

 そうまくし立てて、瑠那はあたしの手をグイグイ引っ張って歩き出した。

「尾けてるって……どういうこと? 仲間って誰!?」
「アタシ今さぁ、仲間と一緒にバイク便の会社経営してんの。東京来てさぁ、銀座に山を買おうと思ってたら銀座に山なんてなかったのね」
「だろーね」
「リコ姉、知ってたの!? なら先に教えてよ~!! 騙されたんだけど!! それでね、そんならせめて渋谷にビルでも建ててやろうって思って、そのお金貯めるために今、色々やってんの。感染症が流行って以降、デリバリーの需要が増えてるから儲かってさぁ。仲間もたくさんできて。晃にも手伝ってもらってるんだ~♡」
「瑠那に一生ついて行くっす!!」

 瑠那は数年前、この類友の晃くんと出会ってスコーンと結婚してしまった。初めて会った瞬間にビビッと来たという。高校を出て上京し、間もない頃のことだった。

「とにかく、その仕事仲間もみーんな協力してくれるって言うから、ホラ急いで! すぐそこにバイク停めてるから!!」

 瑠那があたしを引っ張り、晃くんが才造をエスコートしてくれた。

「第一夫人さんはオレの後ろにどうぞ!!!」
「夫人って違くない?」

 皆さんお察しの通り、瑠那はちょっとオツムの弱い子である。そもそも我が家に出来のいい人間なんていないんだけど。でもその分、バイタリティはピカイチなのだ。

 子供の頃、ガキ大将の股間を蹴っ飛ばして失神させたり、学校の職員室に爆竹を投げ込んだりとハチャメチャなことばかりしていたけど、台風で家の畑がやられてみんなで無事な作物を救出しようとなった時は、きょうだいの中で一番の働きを見せた。祖父が危篤でもうすぐお別れという時には、祖父の好きだったグズベリの実(※注)を山から大量に採ってきて、泣きながら病床の枕元にぶちまけた。

 その瑠那が運転するバイクの後ろに乗り、ヘルメットを被らされ、羽田空港の敷地から出発した。

 グォングォングォン!!!!!

 近所迷惑な爆音をあげ、バイクはすぐ高速道路に乗った。才造もロックな晃くんの後ろに乗せられてついて来る。

「仲間からの情報だと、そのイケメンさん、オジさんと一緒に新宿の高級ホテルに入ってったってさ~! そこまで飛ばすから、しっかりつかまっててよぉ!!!」
「う、うん……瑠那、ありがと」
「え~、何!? 聞こえなーい!!!」
「ありがとぉぉぉぉぉぉうって言ったのーーー!!!!!!!!」

 バイクが風を切る音に負けないよう、あたしは声を振り絞って叫んだ。すると妹はケラケラと高らかに笑った。

「いいってことよォォ!!! アタシ、父ちゃん母ちゃんやリコ姉にはたっくさん迷惑かけたからねぇ!!! せめてもの恩返しーーー!!!!!」

 瑠那がヤンチャをして人に迷惑をかけるたびに、父や母だけでなく、あたしもあちこちに頭を下げて回った。
 瑠那の武勇伝は数え上げればキリがないけど、でもグレたり非行に走ったりしたわけではなく、こうやって義理人情に厚い面もあるのだ。
 ガキ大将の股間を蹴ったのも、友達がイジメられていたから。爆竹事件も、れんとが先生に万引きの濡れ衣を着せられたから。

「田舎の農道の風もいいけど、せっかくだから首都高の風も感じて行きなーーーーーー!!!!!」

 あたしの家族、どいつもこいつもみんなブッ飛びすぎ――いや、最高すぎんか。





※注:グズベリの実とは?
セイヨウスグリとも呼ばれるスグリ科の小さな果実。「グズベリ」は北海道弁であり、正しくは「グーズベリー」と言うらしいです。北海道ではわりとそのへんに自生しています。実が青いうちに取ると超すっぱい。
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