【完結】Spice up my life〜元カレが今カレに一目惚れしたら目の前で薔薇が舞い散るようになってしまったんですが

ていくみー

文字の大きさ
上 下
45 / 60
Episode3:You are my special

3-8 本当のこと

しおりを挟む
「……ウソこいてんじゃねぇよ」

 ぐるぐる考えながらあたしが押し黙っていると、才造がボソッとそんな言葉を発した。
 顔を上げてみると、才造は腕組みしながら不機嫌そうに累くんをジロリと睨みつけていた。

「全っ然心にもないこと言ってんの、バレバレ」
「え~? やだなぁ、ウソじゃないですよ。僕は本心で……」
「ウソだろ。演技下手か」

 それまでヘラヘラ笑っていた累くんの顔が、ヒクッと引きつった。

「……どうしてですか?」
「分かるに決まってる」

 シーンと室内が静まり返る。

 そう――あたしが抱いたのと同じ違和感を、才造も感じ取ったらしい。なのでここぞとばかりに横から口を出した。

「……あたしもさいぞーと同じように思った。累くん、なんか変だよ。ホントにこの人のこと好きで結婚しようと思ってる?」

 そう伝えると、彼の表情が一転して、グッと泣きそうな顔になった。あたしも才造も、それを見逃さなかった。
 でも、それはほんの一瞬だけだった。彼はすぐにまた口元に微笑みを浮かべ、心を持ち直した。

「何言ってるの、二人とも。僕は本当に聡子さんが……」
「本当のこと言ってよ!」
「本当だってば」

 フフン、と。累くんは半笑いしていた。ともすれば、あたしたちを嘲笑するみたいに。

「お二人とも、ウソだって思いたいだけですよね? 僕が側にいれば何かと便利だし、3Pも楽しいし気持ちいいし、可愛い、愛してるって持ち上げられるのも気分がいいし、ただ都合良く僕を近くに置いておきたいだけなんでしょう。だからそう言って引き留めようとしている。本当の家族にするつもりもないのに……そんなのズルいですよ。こういう時が来たら僕の気持ちを尊重するっていうのも、ウソだったんですか?」
「ウソじゃないよ。累くんが本心で言ってるんならね」

 あたしが強気でそう返すと、累くんの半笑いは消えた。そしてその瞳が潤む。よし、あと一押しだ。

「累くんが……本当に、心から他の人を好きになったんなら、あたしは全力でおめでとうって言いたい。これまで累くんがあたしとさいぞーを推してくれたみたいに、累くんとその人のことを推しカプにするよ。決まってんじゃん。でも、今の累くんの言葉は本心じゃない。なんでかって言われても説明できないけど、そのくらい見抜けるくらいの………アレ、何? ほらアレ……絆!?」

 ポロッと、累くんの目から涙が1滴こぼれた。

「絆、あんじゃん!! 分かるよ!!!」

 2滴、3滴と、次々こぼれ落ちる涙。ほら、やっぱウソじゃん。
 才造もただ黙って累くんを見つめる。

「お願いだからホントのこと言ってよ! 何か、無理にでも結婚しなきゃいけない事情でもあるの!? それとも結婚自体がウソ?」
「ウソじゃない」

 掌で涙を拭いながら、累くんは落ち着いた声を発した。グッと唇を結び、顔を上げて、まっすぐにあたしたちの方へ向き直した。

「結婚は本当。でも二人の言う通り、この人のことをまだ心から愛せてないっていうのは当たってる――けど、これから愛そうと思ってる。きっとできると思う。そうしたいんだ」
「どうして……そんなムリヤリ」
「辛くなったんだよ。二人のことをどれだけ愛しても、受け入れてもらっていても、決して本当の家族にはなれない。明日も明後日も、1年先も一緒にいられる確証がない。家族に紹介されて、温かく迎え入れてもらっても、結局はただの友達として。お盆やお正月の里帰りには一緒に行けない。今はそれで良くても、これから歳を重ねてもそんな存在でしかいられないと考えると、このままじゃいけないって思った。だから僕もちゃんと、陽の当たる場所を見つけようと思っただけだよ。理由、それじゃダメ?」

 目を真っ赤にして、見たことがないくらい鋭い眼差しで見つめられ、あたしは思わず怯んでしまった。

「……何を今更、まっとうな人間みたいなことを」

 才造がまたボソッと、忌々しそうに呟く。

「そうですよ。まっとうになろうとしていけませんか?」

 才造も、それ以上は言い返せなくなった。

「……すみません。これまで言ってたことと180度違うので、お二人が戸惑うのも当然ですよね。要するに、ただの心変わりなんです。ごめんなさい、お二人のせいにするような言い方をして」
「本当に……それでいいの?」
「いいんだよ。僕にとっても、お二人にとっても」

 才造が深く息を吐いたあと、静かに切り出した。

「……今のが、お前の本音なわけ?」
「はい」
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー」

 そんなやりとりを交わして、才造と累くんは半ば睨み合うようにお互いを見つめていた。
 たっぷりと時間をかけ、間をおいたあと、やがて才造がふっと視線を外した。

「……分かった」

 静かに一言、そう告げる。累くんも俯きながら目を伏せた。

「本来、俺たちの方から突き放すべきだったんだと思う。それをせず、ぬるま湯に浸かって、これまで中途半端な状態でお前を縛り付けておいて悪かった」

 累くんがふるふると首を横に降った。

「莉子ちゃんとさいぞーさんと……三人で過ごした時間がとても幸せだったのは本当です。だからこそ、僕もそのぬるま湯から抜け出せなかった。お二人も同じように思っていてくれたら……それ以上嬉しいことはありません」

 もう、何て言葉をかければいいのか分からなかった。できることなら泣いてしまいたかったけど、多分それは違う。

 おめでとう? 幸せに? それとも、ありがとう? はたまた――

 カタッと椅子の音を立てて、累くんが立ち上がった。その顔には、もういつもの微笑みが戻っていた。

「あと1ヶ月ほどこちらにいますけど、もう気軽にここへ来るのはやめておきますね。最後に一度、お二人の顔だけ見に来ます」

 穏やかにそう言い残して、累くんは自分のアパートに帰って行った。後に残されたあたしは呆然と立ち尽くし、才造はテーブルに頬杖をついたまま、ただ黙って考え込んでいるようだった。





「ねぇ、やっぱり累くん、まだ何か隠してるような気がしない? 全部本当のこと言ってるとは思えないよ」

 累くんが去ったあと、しばらく考え込んでいた才造に、あたしはそっと声をかけた。すると才造は頭に当てていた手をだらんと降ろし、視線を床に向けながら大きく息を吐いた。

「……どこからどこまで本気なのかなんて、多分これ以上考えても分からん」
「だったら……もう一回話して……」
「けどな、本人が考え抜いて出してきた結論なんだよ。あそこまで言って覆らないんなら、俺らはもうそれを額面通り受け取るしかないんじゃないの」
「じゃあさいぞーは……このまま累くんと終わってもいいの?」

 そう問いかけると、才造はまた少し考え込む素振りを見せた。でも、その間はそんなに長くはなかった。

「正直……情が湧いてたのはもう否定しない。いなくなると……物足りない」

 ボソボソと、だけどはっきりそう漏らした。そしてさらに言葉を続ける。

「でも、だからこそ、アイツにとってどうすることが一番いいのか考えなきゃいけない。本人の意思を尊重するのが、今俺らにできることなんだと思う……」

 そんな風に結論を出した。あたしは返す言葉を失い、それ以降はあえて彼のことを話題にしなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...