【完結】Spice up my life〜元カレが今カレに一目惚れしたら目の前で薔薇が舞い散るようになってしまったんですが

ていくみー

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Episode2:No spice,No life

2-14 天邪鬼と呼ばないで【才造視点】

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 そのまましばらくの間、俺は眠っていたらしい。

 あの修羅場の前よりも深く眠れた気がする。
 目を覚ますと自室のベッドの上にいて、カーテンの隙間から薄明るい陽の光が差し込んでいた。

 俺の横で、ベッドに突っ伏すような姿勢で莉子が眠っていた。背中に毛布が掛けられている。
 さらにその向こう、床の上にもう一人、毛布にくるまって丸まって眠る人間がいた。あのフォルムは恐らくゲス野郎――大崎だ。

 莉子はともかく、アイツのいるこの空間で最高に安堵して眠っていたのかと思うと、自分に寒気がした。

 とりあえず、一番そばにいた莉子の寝顔を眺めた。いつ見ても、何度見ても飽きない。素直にただただ可愛いと思う。
 そう、めたくそ可愛い。寝顔も、笑顔も、拗ねた顔も、怒った顔も、仕草も喋る内容も、行動の何もかもすべてが。

 元々、俺にとっては高嶺の花だった。
 同性も異性も問わず、10人いれば9人から可愛らしいと言われるであろう容姿をしているくせに、本人はそのことを一切鼻にかけることなく、自覚さえしていない。
 その上、口を開けば軽口ばかりのように見えて、その実その場にいる全員が話題の中心になるように巻き込まれてしまう。それも意図しているわけじゃなく、無意識にやっているのだ。
 なので当然、万人に愛される。そんな女が、こんな見た目も中身も冴えない俺みたいな男のそばにいてくれること自体が奇跡なのだ。それももう何年も。

 今にして思えば、身の程もわきまえずによく告白なんてしたもんだと我ながらゾッとする。若さゆえの無謀さというやつか。あの時、なけなしの勇気を振り絞った自分を死ぬほど褒めてやりたい。

 なのに、年月が俺に惰性と油断をもたらし、時折この貴重さを忘れさせる。クソダサいぞう、なんて言われるこの俺の人生に彩りを与えてくれる存在を、決して手放すわけに行かないのに。
 莉子のためにできることは何だってしてやりたい。一生かけて守りたい。

 俺は手を伸ばし、眠る莉子の頭をそっと撫でた。すると、その目がゆっくりと開いて俺の方を向いた。

「ごめん……起こした?」
「ううん……さいぞー、具合は?」
「だいぶマシ……な気がする」

 そう返すと今度は莉子が手を伸ばし、俺の額に触れた。

「うん……熱、下がってきてるかな」

 安心したように微笑み、俺の手をぎゅっと握った。それはそれは大事そうに、両手で包み込むように。

「嬉しかった。あの人の前でハッキリ、どうしてもあたしのこと必要って言ってくれて」
「あれは……本心」
「ねぇ、さいぞー……キスしたい」

 そんな目で、そんな声でそう言われると、理性が吹き飛びそうになる。

「俺もしたい……けど」
「風邪、うつっちゃうからダメ?」
「なんかそんな曲あったような」

 二人でクスクス笑った。

 笑った後、莉子は自分の指先にチュッと口づけをし、その指を俺の唇にそっと当てた。俺は瞼を閉じてその指を彼女の唇と思い、愛おしむようにじっくりと味わった。どんな薬よりも効くと思った。
 でも消毒は忘れるなよ。うがいしろよ。歯ぁ磨けよ。宿題しろよ。

「さいぞーの風邪ならもらってあげる」
「そうなったら……アイツと競って看病してやる」

 そう答えて、俺は莉子の向こう側に横たわる存在へチラリと目をやった。

「それ悪くないかも」
「鼻血出すなよ」
「もう出そうだよ」

 アハハと莉子が声を出して笑った。
 その顔が愛おしい。好きすぎる。止められない。

「さいぞー………ごめんね」
「何が」
「色々」
「莉子は悪くない。俺が全部ダメだったの」
「まぁ……女心を分かってないのはあったね。あと脇が甘い」

 ニヤリと笑いながら、莉子が俺の鼻先をピンと軽く弾いた。

「マジですんませんでした……郡さん、あの後どうした?」
「うん。あの後、一応納得した感じで帰って行ったよ」
「そうか……」
「累くんが説得してくれたおかげもあるかな」

 そう聞いて、俺はハタッと我に返った。ムクッと半身を起こし、冷静に考えた。

「いや待って……結局、郡さんに俺らのことどこまで話したんだっけ? 全部?」
「あんまり覚えてない? まぁ……おおよそ全貌を知ったと思うよ」

 ごーーーーん。。。。

 と、俺の中で寺の鐘のような音が鳴った。

「それで全員納得の上なのかって言うから、累くんとあたしは納得してるって答えて……さいぞーも」

 ごごーーーーーーーーん。。。。。

 さらに鐘が響く。
 俺はブッ倒れる前の自分の発言を思い出した。そう、俺は確かに言った。カレーがどうのとか。

「そしたらね、『草田主任と大崎さんも、お互いに認め合う存在ということなのですね。人間関係の形は多様性に富むという勉強になりました』……みたいなこと言って去ったけど、あの人」

 合ってるのか、その解釈。いいのか、それで。
 いやそれ以前に、俺のアタマどうした?

 だが――――
 部屋の隅で転がるあの存在が、あまり邪魔と感じないこの俺は何なんだ。
 いや、確かに仕事ではそこそこ任せられることも多い。むしろ使える? いや便利?
 しかもコイツの作るメシがまぁまぁ美味いときた。莉子が料理なんかできなくても、コイツにやらせときゃいいとすら思う。

 待て。俺、まだ熱ある?

「どーでもいいけど……アイツ、絶対起きてるよな?」

 俺がそう指摘すると、床で横たわっていた大崎がクスクスと体を揺らした。

「莉子ちゃんが風邪をもらったら、その次は僕がもらいますよ♡ そうなったらお二人で看病お願いしますね」
「てめェは野垂れ死んどけ」

 反射的にそう返すと、莉子が可笑しそうにケラケラと笑った。
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