【完結】Spice up my life〜元カレが今カレに一目惚れしたら目の前で薔薇が舞い散るようになってしまったんですが

ていくみー

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Episode2:No spice,No life

2-7 変態は見た【累視点】

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 なんと郡さんは、才造さんのためにお弁当を作ってきたのだ。
 朝、いつも一番最初に出勤する郡さんが、後から出勤してきた才造さんに声をかけている場面を僕は目撃してしまった。そう、家政婦のように。

「もしよろしければ、お昼に召し上がってください」

 差し出された弁当箱を前にして、才造さんは頭の上に大きな疑問符を浮かべていた。

「それとこちらは、私の書き溜めたレシピのコピーです。作り方のコツなどもメモしましたので、ぜひ未来の奥様にお渡しください。少しでも参考になれば幸いです」

 さらにそんなことを言われて、しばらく溜めに溜めた後、才造さんはようやく返事を絞り出した。

「えと………………なんで?」
「草田主任の健康のためです。体に良いものを主任に召し上がっていただきたいので、差し出がましいかとは思いましたが。先日、本をいただいたお礼も兼ねております」
「お礼とか別にいいけど……」
「不要でしたら破棄していただいて構いません。容器も使い捨てですので、返却いただく必要もありません」

 そう言って、郡さんはほとんど強引に才造さんに弁当とメモの束を押し付けてスタスタ去って行った。

 さぁ、なおも不可解な顔で固まる才造選手。この後、それを一体どうする――?





 その日の夜、自宅にいた僕のスマートフォンに1本の電話が入った。

『累くん? おひさ~♡』
「やぁ、桃ちゃん。急にどうしたの? 僕が恋しくなった?」
『違うわよぉ。さっきね、莉子がさいぞーとケンカしたって半ベソであたしのとこに駆け込んで来たのよね。でもあたし、これから男と会う約束があってぇ。莉子をうちにおいて出かけて来ちゃったのよ。だから累くん、話だけでも聞いてあげてくれない?』

 電話の主は、莉子ちゃんと才造さんの共通の友人である浅香桃あさかももちゃんだった。僕ら三人のイケナイ関係を知る唯一の人物だ。

 そんな桃ちゃんからの知らせを受けて、僕は莉子ちゃんに電話をかけた。

『累くん~~~~~~別れよう~~~~~~』

 第一声、彼女は半泣きでそう訴えてきた。

「ちょっと待って。別れようも何も、僕ら今、付き合ってないよね?」
『そうだった。でもさぁ、あたしどうしたらいいのか分かんなくなっちゃった……なんかさ、さいぞーの彼女としての自信もなくなってきたし……』

 彼女の言わんとしていることにバリバリ心当たりがあったが、僕は何も知らないフリをして応じることにした。

「ひとまず落ち着いて。莉子ちゃん、何かあったの?」
『うん……今日さいぞーがね、職場の後輩の女の子からお弁当をもらって食べたって……しかもその子からあたし宛てに、料理のレシピをもらったって渡されて……なんかさぁ、料理下手ですみませんでしたねぇぇぇぇぇぇ。多分アレでしょ? この前累くんが言ってた、さいぞーに気があるって人?』

 僕の期待、いや懸念が的中し、才造さんは郡さんから押し付けられたレシピをご丁寧に莉子ちゃんに渡したらしい。僕はまたニヤついてしまったことを電話の向こうの莉子ちゃんに悟られないよう必死だった。

『さいぞーは特に深い意味はないんじゃない? って言うけどさぁ、なんか当てつけっていうか……マウント? 取られた気がして。すっっごくイラッと来ちゃって、そんでさいぞーに八つ当たりしてケンカになって、家飛び出して来ちゃったぁ~~~~~』

 そう感じた莉子ちゃんの感覚はごく真っ当だと思う。そりゃ嫌だよね。

「それなら莉子ちゃん、僕のとこに来ればいいのに」
『だからそれはアカンて!! 累くん何するか分かんないでしょ!? さいぞーを裏切る気はないんだってば!!! 話だけ聞いてくれればいいの!!!』
「僕って都合よく使われてるねぇ。まぁ、自ら望んでそうしてるんだけど。さいぞーさんは今、君の居場所知ってるの?」
『一応、桃のとこに行くとは言って来た』
「それならいいけど。それにしても郡さん……まさかそんな行動に出るとは思わなかったよ。それは莉子ちゃんからしたらいい気分がしないのは当然だよね」
『やっぱり? あたし怒って良かったのかな?』
「彼女がいると分かっている男に弁当を作ってくるなんて、そりゃあ腹も立つでしょ。彼女としてのプライドが傷つくよ。さいぞーさんもさいぞーさんだけどね。馬鹿正直に全部莉子ちゃんに話すことないのに」
『だよねぇ? でも、隠されたら隠されたでそっちの方が嫌なんだけどね』
「まぁね。一番いいのは必要ないって突っぱねることだけど、さいぞーさんの性格的にそれもできないだろうしね。その優しさがいいところでもあるんだけど……かえってそれが仇になってしまったってとこかな」
『相手が累くんだったらバッサリ突っぱねるのにねぇ。でもさ、そもそもあたしがちゃんと料理できればこんなことにはならなかったんだから……あたしに怒る資格なんてあるのかなぁ? って気もして』
「莉子ちゃん、お人好しだねぇ。それとこれとは話が別だよ。君はそれは怒っていい。僕も目を光らせておくと言っておきながら、そんなことになっていたなんて……ごめんね。郡さんがまさかそんな行動に出るなんて……」

 まぁ、僕が一部けしかけたせいなんだけどね(笑)
 でも、それを差し引いても想像以上の行動力だった。僕が言うのもなんだけど、なかなかのブッ飛びっぷりだ。ただ、莉子ちゃんの感情にまで配慮できていないのが残念。
 え? 自分のことを棚に上げるなって?

『や……それは別に累くんのせいではないんだけど。でも……』
「まだ何か引っかかる?」
『あのね……冷静に考えたら、さいぞーだってあたしと累くんの関係に目を瞑ってくれてるわけじゃん? そこがまず大前提としてあるわけよ』
「うん。自分で言うのもなんだけど、僕らの関係って正気の沙汰じゃないからね」
『でしょ。だから……もしさいぞーが他の女の子と関係を持ったとしても、あたしは文句言える立場じゃないんだよね』

 それでさっきのあの第一声が出たというわけか。
 この娘、やっぱり真面目だ。だからこそこの正気の沙汰じゃない状態を思い悩む。僕みたいに開き直ってしまえば楽なのに、彼女にはそれができない。
 そして、莉子ちゃんのそういう真面目なところが僕はとても好きだ。

「でも、さいぞーさんって今の状況に嫌々甘んじてるのかなぁ。僕はそんなことないと思うんだけど」
『え~、そう?』
「口では僕に辛辣なこと言うけど、何だかんだ受け入れてくれているような気がするよ。仕方ないから莉子ちゃんのワガママに付き合ってくれてるってわけじゃなくて、さいぞーさん自身、僕のこと少しずつ好きになってくれてるなぁって感じるけど」
『累くん……その自信、どこから来るの?』
「僕、顔がいいから。それだけで大抵のことは許されると思ってる」
『…………』

 莉子ちゃんを絶句させてしまった。電話の向こうでどんな顔をしているのかだいたい分かる。けど、それもまたいい。

「そんなに気に病んでるのなら、今度さいぞーさん本人に直接聞いてみない? 本当に嫌なのかどうか。三人でさ、本音で話し合おうよ」
『えっ』
「その上で、もしさいぞーさんが本当に心から嫌だと感じているのなら――その時は僕が潔く身を引くから」

 そう告げると、電話の向こうで莉子ちゃんが言葉を詰まらせるのが分かった。

「僕なら大丈夫。僕にとっての最優先事項は、君とさいぞーさんの幸せだから。推しカプの邪魔をするなんて、そんなことをするくらいなら死んだ方がマシだよ」
『どうしてそこまで……累くん、なんでそんなにあたしとさいぞーにこだわるの? 累くんだったら、他にいくらでも……』
「前にも話したよね。僕にとって君は、一番辛い時に心の支えになる思い出をくれた人なんだよ。だから、君のためなら何だってする」

 これは嘘じゃない。掛け値なしの、僕の本心。
 彼女がまた声を詰まらせたので、僕はいつもと変わらない軽い口調で話題を変えた。

「……話を戻すけどね。とにかく色んな事情を差っ引いたとしても、郡さんの行動は行き過ぎ。そこは僕からそれとなく注意しておくよ。だから、莉子ちゃんは早いとこ、さいぞーさんと仲直りしなよ。きっと今頃、心配してるよ」
『うん……さっきから電話もSINEもいっぱい来てる』
「SINE、何て来てるの?」
『無神経でごめん。莉子の気持ち考えてなかった。帰って来て欲しい。などなど』

 それには隠すことなくアハハと笑った。才造さんの慌てぶりと、莉子ちゃんの拗ねっぷりが愛おしすぎる。そういうのが聞きたかったんだよ。

「気持ちが落ち着いたらちゃんと帰るんだよ。逆に考えるとね、さいぞーさん、郡さんに言われたことを莉子ちゃんにそのまま正直に伝えるってことは、やましいことがないって証拠なんだから。少しでも後ろめたい気持ちがあったら言えないでしょ。そこはさいぞーさんを信じてあげなよ」
『そっか……それはそうかもしれない』
「そうだよ。じゃあ……今日はもう切るよ」
『うん……』
「それじゃあね。おやすみ」
『あの、累くん……』
「何?」
『その……ごめんね。ありがと』

 ううん、と言って電話を切った。

 半ば自作自演のようなものだけど、恩を売ってまたひとつ特等席に近づくことに成功した。僕のそんな思惑に気が付いていない莉子ちゃんの「ありがと」を耳に焼き付け、その夜はそれだけで2回抜けた。
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