彼は私を妹と言った薄情者

緑々

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02-2_私の贖罪

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「……レンに怒られること覚悟で言うよ。 私は記憶を思い出してもシュランの事が好きみたいだ」
 「そうか。前に言った通り、告白の資格は与えてやるよ。俺は未だに告白すら出来てない」
 「告白した所で、レンが言う通りに何処の馬の骨かも分からない男に恋しているシュランには振られてしまうだろうけどね」

 そう言えば、今度はこちらをジト目でみてきたから驚いた。 え、今の言葉にレンを不機嫌にさせるだけの何かは無かったと思うけど。

 「ったく。お前の事だよ、モグリ。シュランはお前の事が好きなんだ。だから自信を持って告白してこい……シュラン中央の人間になるのかあ」

 かなり投げやりな感じで言われた、まさかの展開に驚いて固まっているとレンにまた頭をグリグリと攻撃をされてしまった。

 「それは悔しいな。私はシュランに告白できないから……きっと帰ってきたシュランを泣かすことになるから」
 「はぁ……?」

 本当に何を言っているのか分からない、見たいな感じで無言でこちらを見つめてくるレンに対して覚悟を決めた。ぶん殴られる覚悟で。

――【私には幼い頃から結婚を約束している女性が居るんだ】

 そしてあの後、私はレンにぶん殴られた。いや殴ってくれたと言った方が正しいか。 殴った直後にレンはため息をついてこれでいいんだろ?って。

 もちろん、そこでもこれからの事を色々話し合った。その時に明日までに村の皆に挨拶をして回ってから国に帰ろうと思っていると伝えたらシュランが帰ってくるまで待っていてくれと懇願された。

 その時に少しでも、私とシュランを想っての事だと言われていたならその引き止めの声すら聞こえないふりして帰っていたと思う。 レンに俺の為にと言われたら断れる訳がなかった。

 何も言わずに去って、それでもなおシュランがお前の事を想って探され続けたらそれこそどうする事も出来なくなってしまいそうだ、なんて言われたらね。

 そんな話をしてから特に代わり映えのない日々を送り続けて、ようやく帰ってきたシュランに記憶を思い出した事と、明日にでも帰ることを報告すれば案外さっぱりとしていて去るよと言われてしまった。

 少し、いやかなり寂しいなと思った。レンは確かにシュランが何処の馬の骨かも分からない僕の事を好きだと言ってくれたけど、やっぱりそれは嘘だったんじゃないかと疑ってしまうほどにさっぱりとしていた。

 だから、お世話になった人達に見送られて歩くこと十数分。 結局、レンと立てた様々な作戦は使い所なく終わってしまった。シュランのために私が彼女の事を妹のように想っていた事にする作戦は一番ダメージが少ないかと思ってたんだけど。 そんな事を考えるまでもなくシュランはやっぱりしっかり者だったらしい。

――そう、しっかり者だと思っていたんだけどなぁ。 真後ろから抱きつかれた時は流石に焦った。まさか、ここまで歩いてから追いかけてくるなんて思わなかったから。

 いや、多分、勘でしかないけれど何となくシュランをレンがけしかけたんだろうなとは、思う。 でも良かった。これでようやくお互いにとってこれから前を進む為の清算になるだろうから。

 「モグリ!!!!!!」

……だけど、シュラン。 私はこれから君にとても酷いことを言うよ。 きっとこれが本当の最後の別れになるのだろう。

【この三年間で可愛らしい、もう一人の妹のような存在になっているからね】

……一度でも愛した女の涙さえ拭えないような、情けない男で本当に申し訳ない。 足をもう一度進め始めた私の頬を伝うのが涙なのか、降り始めた雨なのか、今になっては分からない。

 きっともう私がこの地に足を踏み入れる事は無いのだろう。 もう振り返らない。振り返ったら甘えてしまいそうになるから。

 「いままでお世話になりました」

 もう何度目になるか分からない言葉を呟いてからその場から逃げるように駆け出した。
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