9 / 15
01エドワード
②私の贖罪
しおりを挟む
――次に起きた時には家に戻ってきていたから。 隣町に住んでいる医者が居る事から既にあれから二日は経過してしまった事は分かった。 身体中は痛かったけど、それよりもレンに伝えなきゃ行けないと必死だった事は覚えている。
傷むからだを何とか起こして、レンと目を合わせて言った。「記憶が戻った」と。 目を見開いたレンは「今は治療に専念しろぶぁぁか」と言ってデコピンをしてきた。 それに対して私も軽く笑いながら肯定をしてもう一度横になった。
最初の頃は記憶を無くす前の自分と記憶を無くした後の自分との違いに眉をひそめてしまう事も多かった。自分の情報を整理するのでいっぱいだった。 記憶を無くす前の自分が正しい自分でもわかっているのに、この三年間の記憶に翻弄されている自分が居るのも事実だった。自分の正体を認めたくなかったって言い方の方が正しいかもしれない。
そんな事を悶々と考え続けて一週間。気付けば立ち上がっても傷が開く心配も無くなるほど、順調に治っていっていた。 レンに限っては普段通りに接して貰いたいのに、怪我の事でかなりの責任を感じているのか暫く口を開けば謝罪の言葉ばかりだった。 私が目覚めた時の勢いはどうしたのか、と突っ込めば目を左右に泳がせながらまた謝ってくる。 それが聞きたいわけじゃないのに。
それにしても、僕の怪我はレンとゴンチャンが獣から早く僕を引き剥がして適切な処置を直ぐに行ってくれたお陰らしい。医者も関心した様子でレンとゴンチャンを何度も褒めていた。
その言葉を聞いて私は酷く安心したのを覚えている、真っ先にシュランが村の外に出ていて良かったと思ってしまったんだ。きっとこの事を彼女に知られていたら無駄に心配をかけてしまうだろうから。この調子で怪我も治っていけば帰ってくるまでには自然に接する事が可能だろう。
そこまで考えて私は一つのことに気づいた。なぜシュランが戻ってくる必要があるのかと。いっそのこと帰ってくるまでに村を去る方が互いにとっても正しい選択なのかもしれないと、そう考える自分がいた。
記憶を思い出した時に、今までの三年間の記憶も忘れられていたらどれほど良かったか。記憶を取り戻してから毎日のように考えている事だ。記憶を取り戻してもなお、私はシュランが好きだったから。
それだけなら、きっと幸せだった。レンにも記憶を取り戻してもなお、シュランの事が好きならば告白もしても良いと言われていたから。 だから幸せになれるはずだった。けど、それを妨害するのは他でもない、私自身の本来の立場にある。
……そして今、私はレンに記憶の全てを話す時が来たと思っている。 レンがいつものように狩りから帰ってきて、獣の解体をしている時を見計らって声をかけた。
「レン……」
「本当に今で大丈夫なんだな……?」
「なんだよ、それ」
ただ名前を呼んだだけで、まるで分かってましたと言わんばかりの、返事が返ってきた事に少しだけくすぐったい気持ちになりながら首を縦に降って肯定した。
急いでレンの前に移動して、向かいあって話せるように準備をした。 そのままでも良いと言われたけど何となく自分がそうしたかった。メリハリを付けるために。
「じゃあ、モグリ。 名前を教えてくれるか」
「ん。 エドワード。 エドワード・サン・グラウィール。それが僕の本当の名前」
「え、?えどわーどさんぐらうぃーる? 随分と長い名前なんだな。似合わねぇ。 このままモグリって呼ばせてくれ 」
「それは良いけど少し、いやだいぶ失礼じゃないかい……まぁ良いけどさ」
レンも最初は真剣な顔をして聞いてくれようとしたけど、後半になる頃にはいつも通りのお調子者な様子に戻っていた。 うん。それでこそ私の知る最高の親友の顔だよ。
「それで、モグリ。お前の住んでいた場所は思い出せたんだろ?やっぱり中央か?」
……そこでやっと僕は何かを察した。 名前を言った時に気付いた上で笑い飛ばしたのかと思ったけれど、もしかしなくてもレンは私の身分に気が付いて居ない?え、グラウィールって国の名前なんだけどなぁ。そうかぁ。少し悲しいな。
「ねぇ、レン。少しおかしなこと聞いてもいい?」
「ん」
「国の名前わかる?」
「は?バカにしてんのか、モグリ、こら」
「い、いふぁいいふぁいよ!」
その途端に、汚れてない拳を使って私の頭をグリグリとやってきたものだから痛いと抵抗していれば鼻で笑ってから自信満々に答えていた。
「えーと。ほら、あれだよ。グランドール、じゃなくてグリフィンじゃなくて、そうそう!グラウィール。グラウィールだった気がする」
その回答に少しだけ苦笑いしながらもこれでもまだ気付かないのかと、ちょっとした驚きも感じていた。 ひとつため息をついてレンに言った。
「それが僕の住んでいた答えだよ。エドワード……サン……グラウィール。エドワードが僕の名前。サンが僕のミドルネーム。そしてグラウィールは僕の家名。もう分かっただろ?」
「王様……?」
「ちょっと違うかなぁぁ!! レン!」
「悪い。流石に冗談だよ。 モグリ若いから。 えーと王様の子どもって事だよな。 確かに貴族では無いな。 なーんか悔しいけど、うん。 納得はできる」
理解してもらうまでに少しだけ時間はかかったけど、それでもレンに伝えた事でなにがいちばん嬉しいかって……態度を変えない事だと思う。城では私よりも何歳も何十歳も歳上の人も変わらず私に対して跪くような人たちに囲まれていたから嬉しくて仕方ない。
そしてもう一つだけ、レンに言わなきゃ行けない事があった。頼まなきゃ行けないことがあった。
傷むからだを何とか起こして、レンと目を合わせて言った。「記憶が戻った」と。 目を見開いたレンは「今は治療に専念しろぶぁぁか」と言ってデコピンをしてきた。 それに対して私も軽く笑いながら肯定をしてもう一度横になった。
最初の頃は記憶を無くす前の自分と記憶を無くした後の自分との違いに眉をひそめてしまう事も多かった。自分の情報を整理するのでいっぱいだった。 記憶を無くす前の自分が正しい自分でもわかっているのに、この三年間の記憶に翻弄されている自分が居るのも事実だった。自分の正体を認めたくなかったって言い方の方が正しいかもしれない。
そんな事を悶々と考え続けて一週間。気付けば立ち上がっても傷が開く心配も無くなるほど、順調に治っていっていた。 レンに限っては普段通りに接して貰いたいのに、怪我の事でかなりの責任を感じているのか暫く口を開けば謝罪の言葉ばかりだった。 私が目覚めた時の勢いはどうしたのか、と突っ込めば目を左右に泳がせながらまた謝ってくる。 それが聞きたいわけじゃないのに。
それにしても、僕の怪我はレンとゴンチャンが獣から早く僕を引き剥がして適切な処置を直ぐに行ってくれたお陰らしい。医者も関心した様子でレンとゴンチャンを何度も褒めていた。
その言葉を聞いて私は酷く安心したのを覚えている、真っ先にシュランが村の外に出ていて良かったと思ってしまったんだ。きっとこの事を彼女に知られていたら無駄に心配をかけてしまうだろうから。この調子で怪我も治っていけば帰ってくるまでには自然に接する事が可能だろう。
そこまで考えて私は一つのことに気づいた。なぜシュランが戻ってくる必要があるのかと。いっそのこと帰ってくるまでに村を去る方が互いにとっても正しい選択なのかもしれないと、そう考える自分がいた。
記憶を思い出した時に、今までの三年間の記憶も忘れられていたらどれほど良かったか。記憶を取り戻してから毎日のように考えている事だ。記憶を取り戻してもなお、私はシュランが好きだったから。
それだけなら、きっと幸せだった。レンにも記憶を取り戻してもなお、シュランの事が好きならば告白もしても良いと言われていたから。 だから幸せになれるはずだった。けど、それを妨害するのは他でもない、私自身の本来の立場にある。
……そして今、私はレンに記憶の全てを話す時が来たと思っている。 レンがいつものように狩りから帰ってきて、獣の解体をしている時を見計らって声をかけた。
「レン……」
「本当に今で大丈夫なんだな……?」
「なんだよ、それ」
ただ名前を呼んだだけで、まるで分かってましたと言わんばかりの、返事が返ってきた事に少しだけくすぐったい気持ちになりながら首を縦に降って肯定した。
急いでレンの前に移動して、向かいあって話せるように準備をした。 そのままでも良いと言われたけど何となく自分がそうしたかった。メリハリを付けるために。
「じゃあ、モグリ。 名前を教えてくれるか」
「ん。 エドワード。 エドワード・サン・グラウィール。それが僕の本当の名前」
「え、?えどわーどさんぐらうぃーる? 随分と長い名前なんだな。似合わねぇ。 このままモグリって呼ばせてくれ 」
「それは良いけど少し、いやだいぶ失礼じゃないかい……まぁ良いけどさ」
レンも最初は真剣な顔をして聞いてくれようとしたけど、後半になる頃にはいつも通りのお調子者な様子に戻っていた。 うん。それでこそ私の知る最高の親友の顔だよ。
「それで、モグリ。お前の住んでいた場所は思い出せたんだろ?やっぱり中央か?」
……そこでやっと僕は何かを察した。 名前を言った時に気付いた上で笑い飛ばしたのかと思ったけれど、もしかしなくてもレンは私の身分に気が付いて居ない?え、グラウィールって国の名前なんだけどなぁ。そうかぁ。少し悲しいな。
「ねぇ、レン。少しおかしなこと聞いてもいい?」
「ん」
「国の名前わかる?」
「は?バカにしてんのか、モグリ、こら」
「い、いふぁいいふぁいよ!」
その途端に、汚れてない拳を使って私の頭をグリグリとやってきたものだから痛いと抵抗していれば鼻で笑ってから自信満々に答えていた。
「えーと。ほら、あれだよ。グランドール、じゃなくてグリフィンじゃなくて、そうそう!グラウィール。グラウィールだった気がする」
その回答に少しだけ苦笑いしながらもこれでもまだ気付かないのかと、ちょっとした驚きも感じていた。 ひとつため息をついてレンに言った。
「それが僕の住んでいた答えだよ。エドワード……サン……グラウィール。エドワードが僕の名前。サンが僕のミドルネーム。そしてグラウィールは僕の家名。もう分かっただろ?」
「王様……?」
「ちょっと違うかなぁぁ!! レン!」
「悪い。流石に冗談だよ。 モグリ若いから。 えーと王様の子どもって事だよな。 確かに貴族では無いな。 なーんか悔しいけど、うん。 納得はできる」
理解してもらうまでに少しだけ時間はかかったけど、それでもレンに伝えた事でなにがいちばん嬉しいかって……態度を変えない事だと思う。城では私よりも何歳も何十歳も歳上の人も変わらず私に対して跪くような人たちに囲まれていたから嬉しくて仕方ない。
そしてもう一つだけ、レンに言わなきゃ行けない事があった。頼まなきゃ行けないことがあった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり


あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる