乙女ゲームの世界に池ポチャした

緑々

文字の大きさ
上 下
10 / 12

牢屋での進展

しおりを挟む
まだ話の全容を理解していない私は、ウーロンがキーパーソンと首を傾げてしまう。

「不法侵入者を地下牢に入れているものの、今後の処遇に悩んでるとウィンストン様がいったらウーロン様が悪事が確かになっていない幼き子をあんな劣悪な空間にいれているのかって言っていてね」

その言葉に私はさっきとは手のひらを返す勢いで心の中で私の神様、仏様、ウーロン様、だなんて言って喜びを最大限に表していた。さっきはお茶を想像して笑ってごめんなさい。因みに私が幼い扱いをされている件に関しては既に諦めている。トーマスにも僕の前では見栄を張らずに兄だと思って頼ってもいいんだよ、なんて言われているし、処遇的に幼いほうが色々と動きやすいだろうから無理に本当の年齢を言って今の立場を危うくすることもないだろうと判断したからだ。決して手足の切断に怯えているからじゃない。怯えているからじゃ、、ないもん! 自分でふざけておいて、何となく空しくなってきたから一つ深呼吸をして落ち着きを取り乱した。

「でも彼もまた貴族なのよね?それなのにそんな事を言ってくれるの?」
「まあ、彼は言っちゃ悪いけど脳筋一族だから。まあ己の剣で王族を守れたら後は貴族の仕来りだのなんだの面倒くさい人なんだろうね。まあ騎士ゆえに平民と触れ合う機会も多いから他の貴族よりも理解はある人だと思うよ」

何となく、普通は後者の方が真意に近いんじゃないかと思ったけど、その説明を聞いて何となくウーロン様に親近感を抱いてしまった。まあ、まだ想像上でしか知らないから本当の所は分からないけど、私が幼い時から大好きだった祖父がまるで今、トーマスが説明してくれたような人物そのままだったから。元々は自衛官だったらしく、いつまでたっても自分の体力の低下に気付く事のないバカだった。

祖父の地元からはかなり離れている事や祖父が私が中学に上がる前に亡くなっている事で思い出と言える思い出もかなり少ないけど、それでもあの交流は今でも心の奥深くに残っている。とても大切な記憶。

しかしその言葉に一つ私は疑問を抱いた。私の事を幼いと勘違いしてそれを少なくとも哀れに思うような人が、何故母親を求める男の子の処遇はそのままに変えないのか。その事に気付いてしまうと嬉しい気持ちよりももやもやとした気持ちが勝ってしまう。

「お母さんって言ってる男の子の事は助けられないの?」

結局気になって、男の子について尋ねてみると彼は珍しく数秒間もの間、沈黙してから答えた。僕がこの城で仕える前からいる平民の男の子の事だね、と。その言葉に私は絶句した。どれだけ小さいころから、あの子は一人で寂しい思いをしてきたのだろう。しかし、次の返答はトーマスらしからぬ冷たいものだった。

「だけど仕方ないよね。間違えたとは言え、アレクサンダー王子の額に石をぶつけて怪我をさせたのだから。本当なら一族もろとも死刑でもおかしくないよ。両親は数日も経たぬうちに処刑されたと聞いているよ。でもあの子が生きているのもウーロン様のおかげだよ。もう少し大きくなったら奴隷で済むんじゃないかな。流石に僕としても王子に実害を加えた張本人を活かす事に疑問には思っているけどね」

何となく、何となく彼が平民だったとしてもウィンストンからこの城の使用人として選ばれたその本質が垣間見えたような気がして、ほんの少し恐怖を覚えた。しかしすぐに慌てたように笑って彼はこう言った。

「ごめん。脱線してしまったね。まあ、僕が何を言いたいかと言うと、今日の午後にウーロン様が来るからガンバレ!って事。時間が無いから僕はこれで失礼するよ!またな!もう一人の妹さん」

そう言って来た時とは正反対にタッタッタと軽やかな足音でこの場を去っていった。さてはこやつ、初めから言い逃げする気まんまんだったな、と笑ってしまった。

何よりも私には至急やる事が出来てしまった。トーマスの情報から言えばまだ朝だろうから考える時間はあるはずだ。いかにして、ウーロン様を懐柔するか、その事だけを考えよう。ここで失敗したら今度こそいつこの牢屋から出る事が可能になるか分からないから。

ウーロン様の名前を聞いてから、今まで以上に頭痛が悪化したように感じるけど、今はまだダウンしている場合じゃないと頭を振って気合で体調の悪さはごまかす事にした。

「さあ、今日もまた頑張るのよ、私。限界社会人の底意地をみせてやるのよ!!」

私の想いの籠った決意は他の呻き声と共にこの地下牢へと消えて言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた

よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。 国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。 自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。 はい、詰んだ。 将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。 よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。 国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です

宇水涼麻
ファンタジー
王城の素晴らしい庭園でお茶をする五人。 若い二人と壮年のおデブ紳士と気品あふれる夫妻は、若い二人の未来について話している。 若い二人のうち一人は王子、一人は男爵令嬢である。 王子に見初められた男爵令嬢はこれから王子妃になるべく勉強していくことになる。 そして、男爵一家は王子妃の家族として振る舞えるようにならなくてはならない。 これまでそのような行動をしてこなかった男爵家の人たちでもできるものなのだろうか。 国王陛下夫妻と王宮総務局が総力を挙げて協力していく。 男爵令嬢の教育はいかに! 中世ヨーロッパ風のお話です。

処刑から始まる私の新しい人生~乙女ゲームのアフターストーリー~

キョウキョウ
恋愛
 前世の記憶を保持したまま新たな世界に生まれ変わった私は、とあるゲームのシナリオについて思い出していた。  そのゲームの内容と、今の自分が置かれている状況が驚くほどに一致している。そして私は思った。そのままゲームのシナリオと同じような人生を送れば、16年ほどで生涯を終えることになるかもしれない。  そう思った私は、シナリオ通りに進む人生を回避することを目的に必死で生きた。けれど、運命からは逃れられずに身に覚えのない罪を被せられて拘束されてしまう。下された判決は、死刑。  最後の手段として用意していた方法を使って、処刑される日に死を偽装した。それから、私は生まれ育った国に別れを告げて逃げた。新しい人生を送るために。 ※カクヨムにも投稿しています。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、イザベラは少しずつ変わっていく。/拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり)/第17回恋愛小説大賞にエントリーしています/番外編連載中

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...