乙女ゲームの世界に池ポチャした

緑々

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牢屋での進展

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まだ話の全容を理解していない私は、ウーロンがキーパーソンと首を傾げてしまう。

「不法侵入者を地下牢に入れているものの、今後の処遇に悩んでるとウィンストン様がいったらウーロン様が悪事が確かになっていない幼き子をあんな劣悪な空間にいれているのかって言っていてね」

その言葉に私はさっきとは手のひらを返す勢いで心の中で私の神様、仏様、ウーロン様、だなんて言って喜びを最大限に表していた。さっきはお茶を想像して笑ってごめんなさい。因みに私が幼い扱いをされている件に関しては既に諦めている。トーマスにも僕の前では見栄を張らずに兄だと思って頼ってもいいんだよ、なんて言われているし、処遇的に幼いほうが色々と動きやすいだろうから無理に本当の年齢を言って今の立場を危うくすることもないだろうと判断したからだ。決して手足の切断に怯えているからじゃない。怯えているからじゃ、、ないもん! 自分でふざけておいて、何となく空しくなってきたから一つ深呼吸をして落ち着きを取り乱した。

「でも彼もまた貴族なのよね?それなのにそんな事を言ってくれるの?」
「まあ、彼は言っちゃ悪いけど脳筋一族だから。まあ己の剣で王族を守れたら後は貴族の仕来りだのなんだの面倒くさい人なんだろうね。まあ騎士ゆえに平民と触れ合う機会も多いから他の貴族よりも理解はある人だと思うよ」

何となく、普通は後者の方が真意に近いんじゃないかと思ったけど、その説明を聞いて何となくウーロン様に親近感を抱いてしまった。まあ、まだ想像上でしか知らないから本当の所は分からないけど、私が幼い時から大好きだった祖父がまるで今、トーマスが説明してくれたような人物そのままだったから。元々は自衛官だったらしく、いつまでたっても自分の体力の低下に気付く事のないバカだった。

祖父の地元からはかなり離れている事や祖父が私が中学に上がる前に亡くなっている事で思い出と言える思い出もかなり少ないけど、それでもあの交流は今でも心の奥深くに残っている。とても大切な記憶。

しかしその言葉に一つ私は疑問を抱いた。私の事を幼いと勘違いしてそれを少なくとも哀れに思うような人が、何故母親を求める男の子の処遇はそのままに変えないのか。その事に気付いてしまうと嬉しい気持ちよりももやもやとした気持ちが勝ってしまう。

「お母さんって言ってる男の子の事は助けられないの?」

結局気になって、男の子について尋ねてみると彼は珍しく数秒間もの間、沈黙してから答えた。僕がこの城で仕える前からいる平民の男の子の事だね、と。その言葉に私は絶句した。どれだけ小さいころから、あの子は一人で寂しい思いをしてきたのだろう。しかし、次の返答はトーマスらしからぬ冷たいものだった。

「だけど仕方ないよね。間違えたとは言え、アレクサンダー王子の額に石をぶつけて怪我をさせたのだから。本当なら一族もろとも死刑でもおかしくないよ。両親は数日も経たぬうちに処刑されたと聞いているよ。でもあの子が生きているのもウーロン様のおかげだよ。もう少し大きくなったら奴隷で済むんじゃないかな。流石に僕としても王子に実害を加えた張本人を活かす事に疑問には思っているけどね」

何となく、何となく彼が平民だったとしてもウィンストンからこの城の使用人として選ばれたその本質が垣間見えたような気がして、ほんの少し恐怖を覚えた。しかしすぐに慌てたように笑って彼はこう言った。

「ごめん。脱線してしまったね。まあ、僕が何を言いたいかと言うと、今日の午後にウーロン様が来るからガンバレ!って事。時間が無いから僕はこれで失礼するよ!またな!もう一人の妹さん」

そう言って来た時とは正反対にタッタッタと軽やかな足音でこの場を去っていった。さてはこやつ、初めから言い逃げする気まんまんだったな、と笑ってしまった。

何よりも私には至急やる事が出来てしまった。トーマスの情報から言えばまだ朝だろうから考える時間はあるはずだ。いかにして、ウーロン様を懐柔するか、その事だけを考えよう。ここで失敗したら今度こそいつこの牢屋から出る事が可能になるか分からないから。

ウーロン様の名前を聞いてから、今まで以上に頭痛が悪化したように感じるけど、今はまだダウンしている場合じゃないと頭を振って気合で体調の悪さはごまかす事にした。

「さあ、今日もまた頑張るのよ、私。限界社会人の底意地をみせてやるのよ!!」

私の想いの籠った決意は他の呻き声と共にこの地下牢へと消えて言った。
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