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優しき青年との出会い
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その言葉に早く言えと思わなくもないが、彼の言葉一つ一つにしてやられてばかりな気がしてついクスリと笑ってしまう。それに少し歳の離れた弟を思い出してしまった。私が乙女ゲームで興奮しながら推しのアレクサンダー、ん?あれ?アレクサンダーはここの王子様よね。だめだ。記憶が混濁しているのか推しの名前が思い出せない。まあとにかく私が乙女ゲームをプレイする度に、これはなあに、だとか、お姉ちゃんは誰にもやらないよだとか横でニコニコとプレイを見届けていた、そんな弟を。
確か今年で成人だったはずだ。もし元の世界に帰ってお姉ちゃんも無事だったら成人の祝いくらい買ってあげても良いかもしれない。それらの事を思い出しながら少し目をウルウルとさせていると、助けてくれた青年に再度謝られてしまった。
するとなにやら彼は辺りを見渡してから、懐をガサゴソといじり出したかと思えば、一つの袋を取り出してきた。柔らかいものでも入っているのであろう、彼の動きに合わせてその袋も重力に従って垂れている。
「そうだ。これ持ってきたんだ。寒いでしょ。ボロ着で申し訳ないけどそれよりは、寒くないはずだから。あとこれ、メイドさんの所から拝借してきた下着も。その、もちろん後ろを向くから着替えて。風邪を引いたらとても辛いから。平民は医者に診てもらえないから、辛いんだ。」
本当にこっそりと持ってきていたらしく、彼はもう一度辺りを見渡してからその袋を開けて着替えを出して渡してくれた。彼の肌のぬくもりでやけに暖かくなっているのも、今の私にとってはありがたかった。どこか麦の香りのする、くるぶし程の長さまであるワンピース一枚と半ズボンのような何かを渡される。私からすると、この半ズボンの中にもう一枚履きたい所であったが、それは我儘となってしまうだろう。あるだけマシである。
元々私が身に着けていたものは、木箱の中に入れておく事にした。入れた瞬間に水の音とネズミの鳴き声が聞こえてきたから、その服とはこれでお別れになるのだろう。少し高かったんだけどなと、思いながら肩を落としてしまうものの待ってくれている青年に声をかけた。
「もういいよ、ありがとう」
そう伝えると、ゆっくり振り返った彼は私の背後に回ってタオルを頭にかぶせてわしゃわしゃと乾かしてくれている。あまりの手際のよさにうっとりとしてしまう。しかし慌てて理性を取り戻して、断りを入れる。タオルがあるなら自分でも出来るから。
「そこまでしなくてもいいのに」
「僕がしたいからしているだけなんだよ」
そうやって後ろでニコニコと笑う青年の言葉に甘える事にした。本当に美容師並みに慣れていて、妹の世話も日ごろからしているのだろうと分かる。そして彼は乾かしながら色々と話してくれる。
「ウィンストンさんは悪い人じゃないんだよ、王家に忠実なだけなんだ、誰よりも。本当に本当に王家の事が大切なんだ。特にアレクサンダー王子に関しては特に過保護な一面もあるほどに。まあ、何が言いたいかと言えば、無理があると思うけどあんまり彼を悪く思わないで欲しいな」
言葉通りに、確かに悪く思わない事は難しいかもしれない。だけど、私はどうして彼がそこまでウィンストンを尊敬しているのか理解する事が出来ない。
「この城の7割の使用人の大抵が貴族の次男とか、まあ貴族なんだ。残りは平民。まあロイヤルアカデミーっていう専門の学校でより優秀だった者が数名城に派遣される。それでもやらせてもらえるのは雑用位だけど。因みに僕は平民出身だよ」
付け加えられた境遇の言葉のどこにも彼がウィンストンを尊敬する理由なんてない。なのになんで彼はそんなに笑顔で語る事が出来るのか。きっと辛いはずなのに、会社では色々と不遇な扱いを受けてきたけど、それでも私は平等な国で過ごしてきたからこそ分かる。こんな制度あまりにも間違っている。
「彼は確かに純血主義だ。けどだれよりも法に厳しい。だからこそ僕が平民で、冷たい態度や怒声なんて他に比べたら多いけど、だけど決められたお給料はいつだって正しく渡してくれるんだ」
その言葉に続けて彼は、そのお金のおかげで何とか城下町の医者に病気の妹を診て貰えて、治すことが出来たんだ。唯一、治療魔法が扱える貴族が営む病院でね、態度も厳しかったし掲示されいてる金額の五倍もとられてしまったけど、だけど本当に妹が元気に走り回っていると連絡が来るたびに嬉しくて嬉しくて仕方ないんだと笑っている。
その言葉に私は簡単に涙腺が崩壊してしまって次から次に涙を流してしまう。私の住んでいた世界と比べるまでもない、あまりの差別社会に悔しくて悔しくて仕方が無いのだ。何よりも目の前にいる健気な少年のような子がたくさんいるのだと思うとより一層、涙があふれる。優秀な彼でさえそのような扱いなら学校に通えないような子はもっと過酷な生活を強いられているはずだ。
私自信も仕事で一生懸命、子どものための募金のシステムを整えて少しでも子ども達がひもじい思いをしなくなるように願いながら頑張っていた事が、何年か経った時にその募金のほとんどが幹部の懐に入ったと知った時と同等かそれ以上に悔しくて悔しくて仕方がない。
ボロボロと泣いていると彼は泣かないで、といって、私を後ろから抱きしめて大丈夫、大丈夫とあやしてくれる。僕の為に泣いてくれるだけで嬉しいと、彼もまた少し震えた声で慰めてくれる。抱きしめてあげないといけないのは私の方であるはずなのに、情けなくも暖かいそのぬくもりに甘えるようにして大人げなくわんわんと泣き続けてしまった。
そしてそのまま私は寝てしまったのか、次に目を覚ました時に彼はもういなかった。形ばかりの縄をもう一度私に結んでくれていたが、クスクスと笑ってしまうほどに緩くて頑張れば自分でも解けてしまいそうだった。
「うん、そうだね。まだ諦めるのは、早いよね」
同時に私は決意した。私がこの世界に落ちた事に何か意味があるなら、私にしか出来ない何かがあるなら、元の世界に帰る事ができるその日まで頑張っていこうと。
そのために、まず私がやらなければ行けない第一の目標はこの場所から出る事だ。
確か今年で成人だったはずだ。もし元の世界に帰ってお姉ちゃんも無事だったら成人の祝いくらい買ってあげても良いかもしれない。それらの事を思い出しながら少し目をウルウルとさせていると、助けてくれた青年に再度謝られてしまった。
するとなにやら彼は辺りを見渡してから、懐をガサゴソといじり出したかと思えば、一つの袋を取り出してきた。柔らかいものでも入っているのであろう、彼の動きに合わせてその袋も重力に従って垂れている。
「そうだ。これ持ってきたんだ。寒いでしょ。ボロ着で申し訳ないけどそれよりは、寒くないはずだから。あとこれ、メイドさんの所から拝借してきた下着も。その、もちろん後ろを向くから着替えて。風邪を引いたらとても辛いから。平民は医者に診てもらえないから、辛いんだ。」
本当にこっそりと持ってきていたらしく、彼はもう一度辺りを見渡してからその袋を開けて着替えを出して渡してくれた。彼の肌のぬくもりでやけに暖かくなっているのも、今の私にとってはありがたかった。どこか麦の香りのする、くるぶし程の長さまであるワンピース一枚と半ズボンのような何かを渡される。私からすると、この半ズボンの中にもう一枚履きたい所であったが、それは我儘となってしまうだろう。あるだけマシである。
元々私が身に着けていたものは、木箱の中に入れておく事にした。入れた瞬間に水の音とネズミの鳴き声が聞こえてきたから、その服とはこれでお別れになるのだろう。少し高かったんだけどなと、思いながら肩を落としてしまうものの待ってくれている青年に声をかけた。
「もういいよ、ありがとう」
そう伝えると、ゆっくり振り返った彼は私の背後に回ってタオルを頭にかぶせてわしゃわしゃと乾かしてくれている。あまりの手際のよさにうっとりとしてしまう。しかし慌てて理性を取り戻して、断りを入れる。タオルがあるなら自分でも出来るから。
「そこまでしなくてもいいのに」
「僕がしたいからしているだけなんだよ」
そうやって後ろでニコニコと笑う青年の言葉に甘える事にした。本当に美容師並みに慣れていて、妹の世話も日ごろからしているのだろうと分かる。そして彼は乾かしながら色々と話してくれる。
「ウィンストンさんは悪い人じゃないんだよ、王家に忠実なだけなんだ、誰よりも。本当に本当に王家の事が大切なんだ。特にアレクサンダー王子に関しては特に過保護な一面もあるほどに。まあ、何が言いたいかと言えば、無理があると思うけどあんまり彼を悪く思わないで欲しいな」
言葉通りに、確かに悪く思わない事は難しいかもしれない。だけど、私はどうして彼がそこまでウィンストンを尊敬しているのか理解する事が出来ない。
「この城の7割の使用人の大抵が貴族の次男とか、まあ貴族なんだ。残りは平民。まあロイヤルアカデミーっていう専門の学校でより優秀だった者が数名城に派遣される。それでもやらせてもらえるのは雑用位だけど。因みに僕は平民出身だよ」
付け加えられた境遇の言葉のどこにも彼がウィンストンを尊敬する理由なんてない。なのになんで彼はそんなに笑顔で語る事が出来るのか。きっと辛いはずなのに、会社では色々と不遇な扱いを受けてきたけど、それでも私は平等な国で過ごしてきたからこそ分かる。こんな制度あまりにも間違っている。
「彼は確かに純血主義だ。けどだれよりも法に厳しい。だからこそ僕が平民で、冷たい態度や怒声なんて他に比べたら多いけど、だけど決められたお給料はいつだって正しく渡してくれるんだ」
その言葉に続けて彼は、そのお金のおかげで何とか城下町の医者に病気の妹を診て貰えて、治すことが出来たんだ。唯一、治療魔法が扱える貴族が営む病院でね、態度も厳しかったし掲示されいてる金額の五倍もとられてしまったけど、だけど本当に妹が元気に走り回っていると連絡が来るたびに嬉しくて嬉しくて仕方ないんだと笑っている。
その言葉に私は簡単に涙腺が崩壊してしまって次から次に涙を流してしまう。私の住んでいた世界と比べるまでもない、あまりの差別社会に悔しくて悔しくて仕方が無いのだ。何よりも目の前にいる健気な少年のような子がたくさんいるのだと思うとより一層、涙があふれる。優秀な彼でさえそのような扱いなら学校に通えないような子はもっと過酷な生活を強いられているはずだ。
私自信も仕事で一生懸命、子どものための募金のシステムを整えて少しでも子ども達がひもじい思いをしなくなるように願いながら頑張っていた事が、何年か経った時にその募金のほとんどが幹部の懐に入ったと知った時と同等かそれ以上に悔しくて悔しくて仕方がない。
ボロボロと泣いていると彼は泣かないで、といって、私を後ろから抱きしめて大丈夫、大丈夫とあやしてくれる。僕の為に泣いてくれるだけで嬉しいと、彼もまた少し震えた声で慰めてくれる。抱きしめてあげないといけないのは私の方であるはずなのに、情けなくも暖かいそのぬくもりに甘えるようにして大人げなくわんわんと泣き続けてしまった。
そしてそのまま私は寝てしまったのか、次に目を覚ました時に彼はもういなかった。形ばかりの縄をもう一度私に結んでくれていたが、クスクスと笑ってしまうほどに緩くて頑張れば自分でも解けてしまいそうだった。
「うん、そうだね。まだ諦めるのは、早いよね」
同時に私は決意した。私がこの世界に落ちた事に何か意味があるなら、私にしか出来ない何かがあるなら、元の世界に帰る事ができるその日まで頑張っていこうと。
そのために、まず私がやらなければ行けない第一の目標はこの場所から出る事だ。
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