乙女ゲームの世界に池ポチャした

緑々

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優しき青年との出会い

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ーーーそして一人で寒さに震えながらも、目を閉じて体力の温存を試みる事、どのくらいの時間が経ったのか。寒気が落ち着く事は未だに無いものの、少なくとも髪の毛から水分がポタポタと落ちて来ないだけの時間は過ぎたと思う。

しかし私の聴覚はこの短時間でかなり洗練したのかコツコツと誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。久しぶりの人の足音に感動して涙が出てしまいそうになるものの、可能性としてはウィンストンである事を考えるとまた胃がズキズキと痛くなってくる。舌を出しておく準備でもした方が良いのだろうか。

「あ、あの。大丈夫ですか?死んでますか?」

しかし予想に反して聞こえてきた声は、若い男の人の声だった。門番か何かの見張り人であろうか?それにしてもやけに不謹慎な声掛けをされたものである。

「ご飯ですか、飲み物ですか。それ以外なら要らないです」

やけにぶっきらぼうな言い方になってしまって申し訳なさもあるが今は生きるか死ぬかのサバイバルの真っただ中なのである。他人を気遣う思いやり精神はいまここで発揮なんてしている場合じゃないのだ。すると何やら扉越しでガチャガチャ音がすると思ったらゆっくりと扉が開いた。

「ご、ごめん。ウィンストン様怖かったよね。君が連れていかれるのを見てしまって、妹達を思い出したらいてもたってもいられなくて、入るね」

そして入ってきたのは大学生くらいの年齢の、まあとにかく若い男だった。この世界にきてから日本人離れした人しか見かけてこなかったから栗色の髪に茶色のおっとりとした瞳をみて、ほんの少し安堵した。しかしそんなに私はこの世界では幼く見えるのだろうか?それにこの言い方から察するに彼はウィンストンの目を盗んでここに来たように見えるが色々と大丈夫なのだろうか。

「ウィ、ウィンストン様に言わないでもらえると助かるよ。ちょっと縄を外すね。うわーー、かなりきつく結んでるなあ。でも君が幼くてよかったよ。大人なら足も腕も切り落とされていたかもしれないから」

やはり彼はこっそりと助けに来てくれたらしい。しかし見ず知らずの私を助けても私は彼に何かお礼を渡す事も出来ないしデメリットがあるようにしか思えない。

それにしても最後の言葉に恐怖でふるりと震えてしまった。え、なに。手加減って、このキツキツの縄そのもの?これこそがその手加減だったの?え、もしも私が彼らにとって幼く見えていなければ腕も足も無かったって事?

そして彼は数分間、苦戦したのちにようやく解けた縄を解く事に成功していた。手首には赤黒い跡が残ってしまったものの久しぶりの解放感に嬉しくなる。そして私は立ち上がって腰を丁寧に曲げてお礼をする。

「あはは、君はやっぱり迷い込んじゃっただけなんだね。だめじゃないか、解けたら逃げないと。しかしよりにもよって城に侵入するだなんて、、そんな発想はなかったて顔をしないでおくれ」

私も馬鹿な事をしたと思い。お礼をしないで一目散に逃げればよかった。彼はお腹を抱えて笑っているが、横を通り抜けようとすれば腕を広げて止められた。

「助けてあげたいのは山々だけど、ごめんね。いま逃げ出して見つかったら切り殺されちゃうかも。ウィンストン様が君の仲間が来るのを警戒して城内ピリピリしているんだ」
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