乙女ゲームの世界に池ポチャした

緑々

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優しき青年との出会い

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肩に担がれたまま、先ほど通ってきた方の反対側の廊下の突き当りに存在する扉を開けると隣の塔へと続く廊下に出た。そして一番奥にある似たような構造ではあるものの、やけに錆びた扉が開くと、ロウソクが燃え尽きているのもの多くぼんやりとしかあたりを認識する事が出来なかった。おそらく地下まで続く螺旋状の階段を降りると、いやそれよりも前からかなり酷い臭いが漂ってきていた。あまりの匂いに何度も吐きそうになる。

一番下から続く、薄汚れたジメジメと湿った空間の最奥まで歩いていく。その途中にもどこからともなくうめき声が聞こえてきて目をぎゅっと閉じてしまうが、目を閉じている方が怖さが倍になる事に気付いてからはウィンストンの野郎を睨み続ける事にした。その間も私の事が目に入っていないのか一緒に来ていた一人の騎士に色々と命令をしている。

そして私も大きな石の壁で出来た一室に乱暴に投げ捨てられた。ありとあらゆる所が良く分からない液体で湿っており、臭いも一段ときつい。なによりも投げ捨てられたときに腰を強く打ち付けたのかズキズキと痛む。手を縛られているためその部分をさする事も叶わない。まあでも、私を担いでいた騎士からの鼻息の荒さという不快感からは逃れられただけ良しとしよう。それに私だって腕を縄で縛られていなければ受け身の一つや二つ、簡単に出来るっての!

「貴様らは持ち場に戻って良い」

ウィンストンが彼らにそう支持をすると「はい」と揃った声で返事をして、恐らくリーダーを筆頭に一定間隔で走り去っていった。こちらを睨んでくる彼に負けじと私も強く睨み返す。

そして彼はゆっくりとこちらに近寄ってくる。そんなに顔をしかめるくらいなら近寄らないで欲しい。それにしてもこんな奴がこの城でもかなり偉い地位だと推測するだけですでに面倒くさい予感しかしない。なんであの王子は、こやつの事をあんなにも尊敬しているのかすらも疑問に思う。何よりもこいつといてよく性格が歪まないなと一周回って感動までしてしまうほどだ。

「さて辺りも静かになった所でもう一度、質問をしましょう。貴様はどこから城に侵入した、、、いや、誰の差し金だ」
「だから私は、本当に何もしらなくて!仕事帰りに突然地面に落っこちて、気づいたらあの湖の中に落ちていたんです!」

そうやって反論するも、また顎を片手で強く掴まれて、鼻と鼻が当たりそうなほどに詰め寄られる。そしてよりいっそう目を細めて鼻で笑ってきた。そしてあろう事かこんな事まで言ってきたのだ。

「それに、そんな短い履物。今までも見たことない。キャンデウスがそんな下品な物を作るはずがないだろう。布の出どころは探る必要がありそうだが」

そして彼は勢いよく私から手を放して、着けていたであろう手袋を脱いで投げ捨てていた。おそらく年齢は中年くらいであろうが、それにしても整った顔立ちである事もまら腹が立つ要因の一つである事は間違いない。

「まあ、普通であるならばそんな下品な衣装着たいなんて早々思わないだろう。一つの仮説として最も濃厚なのは、アレクサンダー王子を誘惑する、といった事か」

言葉一つ一つに棘があり、反論したいのも山々だが理不尽にならされてきた影響なのか気持ちを飲み込んでしまった。口論をする事の為だけに余計な体力を使いたくないのだ。

「まあ、ここでしばらく放置しておけばすぐに黒幕の元へ帰りたいと泣きわめくだろう」

そして彼は私の事を見ずに、ご丁寧に鍵までかけてその場を後にした。腹いせに私は舌を出してベーっと、不満を表しておいた。まあその瞬間に最後にのぞき窓をみていたであろうウィンストンと目が合って不快感を表すようにドアをドーンと蹴っていたが。物に当たるなこのやろう。

それにしても私は既に真剣に考えるのを諦めていたため、それを見た私の感想としてはこの世界でもあかんべーは通じるのだという新たな発見のみであった。これからもウィンストンと話すときは舌でも出すか?


そして私は、近くにあった木箱に背中を預ける事にした。あちこちから聞こえてくるネズミの鳴き声や呻き声を背景に全ての意識をシャットダウンするように仮眠をとる事にした。限界社会人なめるなよ。こちとら毎朝、毎晩の電車で立ち寝でエネルギーを補給してきたんだ。座れている今なら通常よりもエネルギーが賄えるだろう。

「さ、さぶい」

否。水でびしょ濡れの服を身にまとっているためもしかしたらプラマイゼロかもしれない。今目を閉じて次に起きたら元の世界だったって展開なら良いな。今の私なた上司の罵詈雑言を気にせずに辞表を叩きつける事も出来るかもしれない。やめる手続きで命の危機が無い事にもう少し早く気付いて置けば、私もまた、何か変わっていたのかな?
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