上 下
7 / 12

4ー1

しおりを挟む
 どうしてこんな事になったのかは分からない。どうして、今、此処に来てしまったのかも分からない。最後の最後で、コハルは路を間違えた……筈だった。こんな隠し通路、自分だって識らないのだ。
 どぶの匂いが立ち込める通路を真っ直ぐにに歩いて来たかと思えば、何時も夜来る例の場所に出てしまっていた。兼ねてからの秘密の隠れ家、自分だけの場所……そう思っていたのに、いつ、其れが違えてしまったのか。
「どうしたの? ハルカちゃん?」
出会った時から1ミリも動かない、今は不気味な印象しか受けない満面の笑みを浮かべながら、コハルはハルカに問い掛ける。
「最後の最後で私が道を間違えると思った? ……やだなあ……昔だなんて。いつも来てる・・・・・・場所じゃない。」
言葉を続けたコハルに、ハルカの背筋が凍る。何故、この女がそれを知っているのか。
「昔はさ、よくここで犬や猫を殺したっけ。腹いせだったんだよね。」
ハルカの背筋に怖気が走る。この女は一体何者なのか……なぜ此処まで識っているのか。
「最近は、若くて綺麗な女の子達……だよね?」
そう、完全な笑顔を一切崩さず可憐にそう告げるコハルとは裏腹に、ハルカの顔からは完全に血の気が引いてしまっている。
「さ……さあ……?」
何も知らないといった様子のハルカに構わず、コハルは唐突に背を向けると、部屋の奥に向かって行く。そこは冷蔵室。此処は、昔精肉店だった場所だ。
「此処に、いっぱいあるんだよねえ……」
其処には、肌色の何かが几帳面に並べられていた。
「まさか、こんなに沢山、ドライアイスが買えちゃうだね。びっくりだよ。」
ハルカに背を向けたまま、白々しく驚いた振りをするコハルに、ハルカは只々立ち竦んでその様子を見ることしか出来ない。
「ほら、早く……戦利品、一緒に見ようよ」
双眸に鈍色の光を宿し、鋭く此方を見詰めてくるコハルに逆らうことも出来ず、言われるがまま冷蔵室に足を踏み入れる。其処は、一体に敷き詰められたドライアイスに依って凍てつく程冷やされている。
「私……こんなことやってない……」
其処には、5体、右手の中指と顔の皮が完全に剥ぎ取られた状態で、人間を象ったモノが、綺麗に陳列されている。
「顔の皮なんて、剥いでない……」
腰を抜かして小刻みに震えるハルカは、其処にへたり込む。
「貴女は、自分の右手中指にあるペンだこが嫌いだったんでしょ?」
ハルカは、コハルを睥睨へいげいすると、ある考えに至る。
ーーこの女は、遺体から顔を剥いだだけ・・・・・・・……つまり、人を殺したことはない・・・・・・・
ハルカは、口角を上げると、鞄の中を手で探る。
ーーあった……
すると、そのまま自分に背を向けたままのコハルに向って刃を振り下ろした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茨城の首切場(くびきりば)

転生新語
ホラー
 へー、ご当地の怪談を取材してるの? なら、この家の近くで、そういう話があったよ。  ファミレスとかの飲食店が、必ず潰れる場所があってね。そこは首切場(くびきりば)があったんだ……  カクヨム、小説家になろうに投稿しています。  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330662331165883  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5202ij/

終電での事故

蓮實長治
ホラー
4つの似たような状況……しかし、その4つが起きたのは別の世界だった。 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」に同じモノを投稿しています。

教師(今日、死)

ワカメガメ
ホラー
中学2年生の時、6月6日にクラスの担任が死んだ。 そしてしばらくして不思議な「ユメ」の体験をした。 その「ユメ」はある工場みたいなところ。そしてクラス全員がそこにいた。その「ユメ」に招待した人物は... 密かに隠れたその恨みが自分に死を植え付けられるなんてこの時は夢にも思わなかった。

怖いもののなり損ない

雲晴夏木
ホラー
『純喫茶・生熟り』では、〝いい話〟が聞ける――。あなたもそれを知って、いらしたのでしょう。どうぞ、お好きな席におかけ下さい。怖いものになり損ねた者たちが、今度こそ怖いものになるため、あなたに自身の物語を聞かせようと待っています。当店自慢のコーヒーで気分を落ち着けて、さあ、彼らの話に耳を傾けてください。

オーデション〜リリース前

のーまじん
ホラー
50代の池上は、殺虫剤の会社の研究員だった。 早期退職した彼は、昆虫の資料の整理をしながら、日雇いバイトで生計を立てていた。 ある日、派遣先で知り合った元同僚の秋吉に飲みに誘われる。 オーデション 2章 パラサイト  オーデションの主人公 池上は声優秋吉と共に収録のために信州の屋敷に向かう。  そこで、池上はイシスのスカラベを探せと言われるが思案する中、突然やってきた秋吉が100年前の不気味な詩について話し始める  

鯨井イルカ
ホラー
 主人公の見た悪夢を主軸として進む、オムニバス形式の短編ホラーです。  作中に若干の残酷な描写があります。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ファムファタールの函庭

石田空
ホラー
都市伝説「ファムファタールの函庭」。最近ネットでなにかと噂になっている館の噂だ。 男性七人に女性がひとり。全員に指令書が配られ、書かれた指令をクリアしないと出られないという。 そして重要なのは、女性の心を勝ち取らないと、どの指令もクリアできないということ。 そんな都市伝説を右から左に受け流していた今時女子高生の美羽は、彼氏の翔太と一緒に噂のファムファタールの函庭に閉じ込められた挙げ句、見せしめに翔太を殺されてしまう。 残された六人の見知らぬ男性と一緒に閉じ込められた美羽に課せられた指令は──ゲームの主催者からの刺客を探し出すこと。 誰が味方か。誰が敵か。 逃げ出すことは不可能、七日間以内に指令をクリアしなくては死亡。 美羽はファムファタールとなってゲームをコントロールできるのか、はたまた誰かに利用されてしまうのか。 ゲームスタート。 *サイトより転載になります。 *各種残酷描写、反社会描写があります。それらを増長推奨する意図は一切ございませんので、自己責任でお願いします。

処理中です...