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どうしてこんな事になったのかは分からない。どうして、今、此処に来てしまったのかも分からない。最後の最後で、コハルは路を間違えた……筈だった。こんな隠し通路、自分だって識らないのだ。
溝の匂いが立ち込める通路を真っ直ぐにに歩いて来たかと思えば、何時も夜来る例の場所に出てしまっていた。兼ねてからの秘密の隠れ家、自分だけの場所……そう思っていたのに、いつ、其れが違えてしまったのか。
「どうしたの? ハルカちゃん?」
出会った時から1ミリも動かない、今は不気味な印象しか受けない満面の笑みを浮かべながら、コハルはハルカに問い掛ける。
「最後の最後で私が道を間違えると思った? ……やだなあ……昔だなんて。いつも来てる場所じゃない。」
言葉を続けたコハルに、ハルカの背筋が凍る。何故、この女がそれを知っているのか。
「昔はさ、よくここで犬や猫を殺したっけ。腹いせだったんだよね。」
ハルカの背筋に怖気が走る。この女は一体何者なのか……なぜ此処まで識っているのか。
「最近は、若くて綺麗な女の子達……だよね?」
そう、完全な笑顔を一切崩さず可憐にそう告げるコハルとは裏腹に、ハルカの顔からは完全に血の気が引いてしまっている。
「さ……さあ……?」
何も知らないといった様子のハルカに構わず、コハルは唐突に背を向けると、部屋の奥に向かって行く。そこは冷蔵室。此処は、昔精肉店だった場所だ。
「此処に、いっぱいあるんだよねえ……」
其処には、肌色の何かが几帳面に並べられていた。
「まさか、こんなに沢山、ドライアイスが買えちゃうだね。びっくりだよ。」
ハルカに背を向けたまま、白々しく驚いた振りをするコハルに、ハルカは只々立ち竦んでその様子を見ることしか出来ない。
「ほら、早く……戦利品、一緒に見ようよ」
双眸に鈍色の光を宿し、鋭く此方を見詰めてくるコハルに逆らうことも出来ず、言われるがまま冷蔵室に足を踏み入れる。其処は、一体に敷き詰められたドライアイスに依って凍てつく程冷やされている。
「私……こんなことやってない……」
其処には、5体、右手の中指と顔の皮が完全に剥ぎ取られた状態で、人間を象ったモノが、綺麗に陳列されている。
「顔の皮なんて、剥いでない……」
腰を抜かして小刻みに震えるハルカは、其処にへたり込む。
「貴女は、自分の右手中指にあるペンだこが嫌いだったんでしょ?」
ハルカは、コハルを睥睨すると、ある考えに至る。
ーーこの女は、遺体から顔を剥いだだけ……つまり、人を殺したことはない
ハルカは、口角を上げると、鞄の中を手で探る。
ーーあった……
すると、そのまま自分に背を向けたままのコハルに向って刃を振り下ろした。
溝の匂いが立ち込める通路を真っ直ぐにに歩いて来たかと思えば、何時も夜来る例の場所に出てしまっていた。兼ねてからの秘密の隠れ家、自分だけの場所……そう思っていたのに、いつ、其れが違えてしまったのか。
「どうしたの? ハルカちゃん?」
出会った時から1ミリも動かない、今は不気味な印象しか受けない満面の笑みを浮かべながら、コハルはハルカに問い掛ける。
「最後の最後で私が道を間違えると思った? ……やだなあ……昔だなんて。いつも来てる場所じゃない。」
言葉を続けたコハルに、ハルカの背筋が凍る。何故、この女がそれを知っているのか。
「昔はさ、よくここで犬や猫を殺したっけ。腹いせだったんだよね。」
ハルカの背筋に怖気が走る。この女は一体何者なのか……なぜ此処まで識っているのか。
「最近は、若くて綺麗な女の子達……だよね?」
そう、完全な笑顔を一切崩さず可憐にそう告げるコハルとは裏腹に、ハルカの顔からは完全に血の気が引いてしまっている。
「さ……さあ……?」
何も知らないといった様子のハルカに構わず、コハルは唐突に背を向けると、部屋の奥に向かって行く。そこは冷蔵室。此処は、昔精肉店だった場所だ。
「此処に、いっぱいあるんだよねえ……」
其処には、肌色の何かが几帳面に並べられていた。
「まさか、こんなに沢山、ドライアイスが買えちゃうだね。びっくりだよ。」
ハルカに背を向けたまま、白々しく驚いた振りをするコハルに、ハルカは只々立ち竦んでその様子を見ることしか出来ない。
「ほら、早く……戦利品、一緒に見ようよ」
双眸に鈍色の光を宿し、鋭く此方を見詰めてくるコハルに逆らうことも出来ず、言われるがまま冷蔵室に足を踏み入れる。其処は、一体に敷き詰められたドライアイスに依って凍てつく程冷やされている。
「私……こんなことやってない……」
其処には、5体、右手の中指と顔の皮が完全に剥ぎ取られた状態で、人間を象ったモノが、綺麗に陳列されている。
「顔の皮なんて、剥いでない……」
腰を抜かして小刻みに震えるハルカは、其処にへたり込む。
「貴女は、自分の右手中指にあるペンだこが嫌いだったんでしょ?」
ハルカは、コハルを睥睨すると、ある考えに至る。
ーーこの女は、遺体から顔を剥いだだけ……つまり、人を殺したことはない
ハルカは、口角を上げると、鞄の中を手で探る。
ーーあった……
すると、そのまま自分に背を向けたままのコハルに向って刃を振り下ろした。
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