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夏の大会編
旧友との出会い
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その頃。球場外の三塁側出入り口付近を、薗部は一人で歩いていた。
「この球場に、選手として来たのも、八年前のことですか……」
球場を見ながら懐かしさと、時の早さを感じていた。
「あの頃は、思い上がっていたな。いや。つい、五年前くらいですかね。自分が上で通用するなんて、本気で思っていたのは」
呟いたその言葉には、並々ならぬ重さが纏っている。それは本当の世界を見て絶望した人間にしかわからない、そんな言葉だった。
伸哉君はいいピッチャーだ。これは誰が見てもそういうだろうし絶対にプロかそれ以上までにはいく。そういう確信は持てる。
薗部も伸哉の持つ才能を認めてはいる。だが、逸樹と勝負をしにいこうとする伸哉の気持ちは、理解できなかった。
将来の伸哉ならまだしも、今の伸哉ではとても抑え切れるとは思えない。それなのに何故勝負に拘るのだろうか。
自分の心にもう一度問うてみるが、答えは出ない。やはり理解できないと思ったその時、
「ハロー。ケータ」
外人訛りの日本語と共に、冷たい感覚が首に伝わる。
「だ、誰……って、君は……」
背後に立っていたのは黒人の男性だった。そして薗部は見覚えがあった。その黒人男性は、かつて一緒にメジャーを目指していた、同僚でありアメリカの親友だった。
「ウィリアムじゃないか」
「そうね。ボクウィリアムね」
ウィリアムはにっこりと笑いながら答えた。ウィリアムと薗部はその場で立ち話をしながら、今の自分達の仕事やプライベートについて、少し話していた。
「へえ、ウィリアム日本の高校で、野球教えてるんだ」
ウィリアムは親日家で、日本の野球に興味があった事は薗部も知っていた。しかし、いくらなんでも日本の高校野球の指導者になっているとは思いもしなかった。
「こーちょう先生に、誘われたからネ。直接」
「凄く熱心だな…。ところで、どこの高校?」
「北九州国際大学付属高ネ」
「北国だって?!」
薗部はずっこけそうになる程驚いた。北九州国際大学付属高校は、全国屈指の激戦区と言われる福岡県で、毎年優勝候補に上げられている名門校だ。甲子園にも春夏七回出場し、昨春の選抜で準優勝を果たしている。
今年も二人のアメリカ人選手を中心に、県でも屈指の強打のチームとして、優勝候補の一角に数えられている。
「じゃあ、ライバルってわけか。ちなみに、今年は甲子園にいけそうかい?」
薗部がそう尋ねると意外な事に、ウィリアムは首を横に振った。
「九十パーセント無理ネ。一人が、チームの輪を乱してる。強くても、あれじゃダメネ。本当は外したいネ。けど、外したら、あいつ不貞腐れる。おまけに試合、成り立たないネ。だから外せないネ。監督も困ってるヨ」
「そうか」
どんなに強い強豪校の指導者も、何かしらの悩みを抱えているという事が分かった。
「これはあいつが変わらないと、どしよもないネ。そいえばケータも、悩みあるんじゃないの?」
図星だった。そして薗部は、伸哉との意見の食い違いについて話した。
そして、ウィリアムはしばらく考え込んだ。そうして、考えが纏まったのか口を開くと、こう断罪した。
「なるほどネ。それは、ケータが間違ってるヨ」
「え?!」
薗部には、分からなかった。さらに、薗部に反論させる間も与えず続ける。
「ケータは、勝負にこだわりすぎて、大切なモノ、忘れてるヨ。プロなら、わかる。けど、これ高校生の野球。エデュケーションね。もっと必要なもがある。今のケータは凄いチームの指揮しても、優勝出来ないネ。そして、ボクハ、今のケータに魅力感じないネ。ボクが言えるのこれだけ。それじゃあネ」
ウィリアムは、そのまま三塁側出入り口へと消えて行った。
薗部はウィリアムの言いたかった事が、分からなかった。
「この球場に、選手として来たのも、八年前のことですか……」
球場を見ながら懐かしさと、時の早さを感じていた。
「あの頃は、思い上がっていたな。いや。つい、五年前くらいですかね。自分が上で通用するなんて、本気で思っていたのは」
呟いたその言葉には、並々ならぬ重さが纏っている。それは本当の世界を見て絶望した人間にしかわからない、そんな言葉だった。
伸哉君はいいピッチャーだ。これは誰が見てもそういうだろうし絶対にプロかそれ以上までにはいく。そういう確信は持てる。
薗部も伸哉の持つ才能を認めてはいる。だが、逸樹と勝負をしにいこうとする伸哉の気持ちは、理解できなかった。
将来の伸哉ならまだしも、今の伸哉ではとても抑え切れるとは思えない。それなのに何故勝負に拘るのだろうか。
自分の心にもう一度問うてみるが、答えは出ない。やはり理解できないと思ったその時、
「ハロー。ケータ」
外人訛りの日本語と共に、冷たい感覚が首に伝わる。
「だ、誰……って、君は……」
背後に立っていたのは黒人の男性だった。そして薗部は見覚えがあった。その黒人男性は、かつて一緒にメジャーを目指していた、同僚でありアメリカの親友だった。
「ウィリアムじゃないか」
「そうね。ボクウィリアムね」
ウィリアムはにっこりと笑いながら答えた。ウィリアムと薗部はその場で立ち話をしながら、今の自分達の仕事やプライベートについて、少し話していた。
「へえ、ウィリアム日本の高校で、野球教えてるんだ」
ウィリアムは親日家で、日本の野球に興味があった事は薗部も知っていた。しかし、いくらなんでも日本の高校野球の指導者になっているとは思いもしなかった。
「こーちょう先生に、誘われたからネ。直接」
「凄く熱心だな…。ところで、どこの高校?」
「北九州国際大学付属高ネ」
「北国だって?!」
薗部はずっこけそうになる程驚いた。北九州国際大学付属高校は、全国屈指の激戦区と言われる福岡県で、毎年優勝候補に上げられている名門校だ。甲子園にも春夏七回出場し、昨春の選抜で準優勝を果たしている。
今年も二人のアメリカ人選手を中心に、県でも屈指の強打のチームとして、優勝候補の一角に数えられている。
「じゃあ、ライバルってわけか。ちなみに、今年は甲子園にいけそうかい?」
薗部がそう尋ねると意外な事に、ウィリアムは首を横に振った。
「九十パーセント無理ネ。一人が、チームの輪を乱してる。強くても、あれじゃダメネ。本当は外したいネ。けど、外したら、あいつ不貞腐れる。おまけに試合、成り立たないネ。だから外せないネ。監督も困ってるヨ」
「そうか」
どんなに強い強豪校の指導者も、何かしらの悩みを抱えているという事が分かった。
「これはあいつが変わらないと、どしよもないネ。そいえばケータも、悩みあるんじゃないの?」
図星だった。そして薗部は、伸哉との意見の食い違いについて話した。
そして、ウィリアムはしばらく考え込んだ。そうして、考えが纏まったのか口を開くと、こう断罪した。
「なるほどネ。それは、ケータが間違ってるヨ」
「え?!」
薗部には、分からなかった。さらに、薗部に反論させる間も与えず続ける。
「ケータは、勝負にこだわりすぎて、大切なモノ、忘れてるヨ。プロなら、わかる。けど、これ高校生の野球。エデュケーションね。もっと必要なもがある。今のケータは凄いチームの指揮しても、優勝出来ないネ。そして、ボクハ、今のケータに魅力感じないネ。ボクが言えるのこれだけ。それじゃあネ」
ウィリアムは、そのまま三塁側出入り口へと消えて行った。
薗部はウィリアムの言いたかった事が、分からなかった。
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