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テスト編
幸長の妹
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翌日の昼。予定よりも十分遅れて、集合場所にしていた公園に幸長が到着した。
「遅いですよー。幸長先輩」
「遅れちゃってごめんね。ところで、僕が来るまでに女の子がここに来なかったかい?」
幸長は軽く微笑みながら問いかけると、彰久はスナイパーに追われる標的のように、首を上下左右に何度も動かしあたりを探り出した。
「どうしたんすか堂城先輩? 幸長先輩がここに来るまでに誰も来てませんし、そもそもこんな見渡しのいい公園じゃ隠れる場所なんてないっすよ?」
すると、彰久は首を横に大きく振って答えた。
「そんな生ぬるい存在じゃないんだよ。幸長の妹は……」
彰久が大きく震えながら答えると、幸長は腕を組んで少し不機嫌そうにしていた。自分の妹を恐ろしいと言われたのだから当然の反応だ。
「堂城先輩が怯えるなんて……。先輩の妹さんは一体どんな人何ですか?」
涼紀は怖いもの見たさに聞いてみた。今まで涼紀の前で一度も怯えた様子を見せなかった彰久が、こうも恐怖に怯えている以上、とても乱暴で物凄く恐ろしい人なのだろうと想像していた。
すると、それを見透かしたかのように、幸長は笑い出した。
「ハハハッ。多分涼紀クンが思っているようなパーソンではないと思うよ。マイシスターこの娘のことなんだ」
幸長はスマートフォンから一枚の女の子の写真を見せた。
「か、かわいい」
反射的に涼紀はつぶやいていた。
ネイビーのロングヘアーに華奢で小柄な体つき。その辺で売ってある人形よりもずっとかわいい顔。
そして、そのかわいさを身体中から発しているのが写真越しでも確認できる程である――もっとも胸は残念なことになっているが――。
「この人、本当に先輩の恋人じゃないんですか?」
「ノンノン。さっきも言ったようにこの娘はフィアンセじゃなくて、本当のマイシスターだよ。ネームは優梨華。中学二年生なんだ。ルックスはこの通り、ベリーキュートなんだ」
幸長は少しばかりか誇らしそうにしていた。
「羨ましいっすね、こんなかわいい子が妹なんて。でも、なんでこんなかわいくて、か弱そうなのに、堂城先輩は怯えてるんっすか?」
涼紀は自分の疑問を素直にぶつけた。
「そうだねえ。マイシスターは簡単に言うなら、兄である僕をとことんまで愛してやまない、ヤンデレというタイプの娘なんだ」
幸長は淡々と説明した。
「それって何も問題ないんじゃないんすか? 愛してるだけなんですよね? 俺にも先輩の妹と同い年の妹いるんすけど、毎日馬鹿兄貴だのアホだの貶されるよりは百倍マシじゃないですか」
ヤンデレという言葉にピンとこないせいか涼紀はイマイチピンとこないようだ。
「うーん、ちょっと僕の説明が足りなかったみたいだね。ヤンデレさんは確かに好きな人のことを凄く愛するんだけど、それが行き過ぎてメンタルに異常をきたすような状態になっちゃうんだ」
「ぐ、具体的に言いますと?」
「これはあくまで僕の実体験だけど、小学六年生の時のある日、たまたま帰り際にクラスメイトの女の子と軽いトークをしたんだ。そして、家に帰るとマイシスターが氷のように凍てつく恐ろしい目でサバイバルナイフを突きつけながら『ねえあの子は一体誰? どんな関係なの? お兄様は私以外の女なんて見ちゃいけないんだよ』って迫って来ったんだよね。流石の僕でも恐怖を覚えたよ」
身の毛がよだつような恐ろしい体験を、まるで幼い頃の面白い思い出のように幸長は語った。
「うわぁ……」
一方、聴かされた側の涼紀はそれに思わず言葉を失っていた。一般人が絶対に経験することではない事だが、その並々ならぬ恐ろしさは十二分に伝わってきた。
「それで話をアッキーの事に戻すと、去年の冬休みにアッキーと自主トレという――」
「やめろぉっ!! その話はもうするんじゃあないッ!!」
彰久は耳を両手で塞ぎながら叫ぶ。どうやら彰久のトラウマになっているようだ。
「アッキーったら、そんなに怖がることはないじゃないか。本当は内気で大人しくて寂しがり屋で甘えん坊で、ベリーキュートな女の子なんだからさ。だから涼紀君、僕も行きながら探すけど涼紀君もさっきの画像の子を見かけたら僕に教えてくれないかな?」
「いいっすけど、どうして探してるんっすか?」
「心配なんだ。とてもシャイだから誘拐とかされないか凄く」
この時の幸長からはなぜか後ろめたさのようなものが醸し出されていた。
「先輩って、もしかしてシスコンっすか?」
「うーむ、それをノーとはいえないかな」
幸長は恥ずかしそうに微笑んでいた。
三人が公園を出て三分ほど後。スマートフォンに映し出されていたネイビーの髪をした少女が、公園から少し離れた倉庫の陰から出てきた。
「はああああ。お兄ちゃんったら私のことなんて素敵なの。私のことをあんなにも心配してくれるなんて」
優梨華はどうやら服か何かに仕掛けていた盗聴器から幸長の会話を聞いていたらしい。
「それに、私のことかわいいって言ってくれたし、私のフィアンセだなんて――フィアンセに関しては優梨華の幻聴である――。ああお兄ちゃんったらぁ。私は凄く嬉しいわ。……おっと。それは置いておいて。行く前に言ってたことは本当みたいだけど、ちょっと心配だから跡をつけようっと」
優梨華は盗聴器同様、幸長の手荷物にあらかじめ取り付けておいた発信機の位置を見ながら、ゆっくりと後追いかけた。
「遅いですよー。幸長先輩」
「遅れちゃってごめんね。ところで、僕が来るまでに女の子がここに来なかったかい?」
幸長は軽く微笑みながら問いかけると、彰久はスナイパーに追われる標的のように、首を上下左右に何度も動かしあたりを探り出した。
「どうしたんすか堂城先輩? 幸長先輩がここに来るまでに誰も来てませんし、そもそもこんな見渡しのいい公園じゃ隠れる場所なんてないっすよ?」
すると、彰久は首を横に大きく振って答えた。
「そんな生ぬるい存在じゃないんだよ。幸長の妹は……」
彰久が大きく震えながら答えると、幸長は腕を組んで少し不機嫌そうにしていた。自分の妹を恐ろしいと言われたのだから当然の反応だ。
「堂城先輩が怯えるなんて……。先輩の妹さんは一体どんな人何ですか?」
涼紀は怖いもの見たさに聞いてみた。今まで涼紀の前で一度も怯えた様子を見せなかった彰久が、こうも恐怖に怯えている以上、とても乱暴で物凄く恐ろしい人なのだろうと想像していた。
すると、それを見透かしたかのように、幸長は笑い出した。
「ハハハッ。多分涼紀クンが思っているようなパーソンではないと思うよ。マイシスターこの娘のことなんだ」
幸長はスマートフォンから一枚の女の子の写真を見せた。
「か、かわいい」
反射的に涼紀はつぶやいていた。
ネイビーのロングヘアーに華奢で小柄な体つき。その辺で売ってある人形よりもずっとかわいい顔。
そして、そのかわいさを身体中から発しているのが写真越しでも確認できる程である――もっとも胸は残念なことになっているが――。
「この人、本当に先輩の恋人じゃないんですか?」
「ノンノン。さっきも言ったようにこの娘はフィアンセじゃなくて、本当のマイシスターだよ。ネームは優梨華。中学二年生なんだ。ルックスはこの通り、ベリーキュートなんだ」
幸長は少しばかりか誇らしそうにしていた。
「羨ましいっすね、こんなかわいい子が妹なんて。でも、なんでこんなかわいくて、か弱そうなのに、堂城先輩は怯えてるんっすか?」
涼紀は自分の疑問を素直にぶつけた。
「そうだねえ。マイシスターは簡単に言うなら、兄である僕をとことんまで愛してやまない、ヤンデレというタイプの娘なんだ」
幸長は淡々と説明した。
「それって何も問題ないんじゃないんすか? 愛してるだけなんですよね? 俺にも先輩の妹と同い年の妹いるんすけど、毎日馬鹿兄貴だのアホだの貶されるよりは百倍マシじゃないですか」
ヤンデレという言葉にピンとこないせいか涼紀はイマイチピンとこないようだ。
「うーん、ちょっと僕の説明が足りなかったみたいだね。ヤンデレさんは確かに好きな人のことを凄く愛するんだけど、それが行き過ぎてメンタルに異常をきたすような状態になっちゃうんだ」
「ぐ、具体的に言いますと?」
「これはあくまで僕の実体験だけど、小学六年生の時のある日、たまたま帰り際にクラスメイトの女の子と軽いトークをしたんだ。そして、家に帰るとマイシスターが氷のように凍てつく恐ろしい目でサバイバルナイフを突きつけながら『ねえあの子は一体誰? どんな関係なの? お兄様は私以外の女なんて見ちゃいけないんだよ』って迫って来ったんだよね。流石の僕でも恐怖を覚えたよ」
身の毛がよだつような恐ろしい体験を、まるで幼い頃の面白い思い出のように幸長は語った。
「うわぁ……」
一方、聴かされた側の涼紀はそれに思わず言葉を失っていた。一般人が絶対に経験することではない事だが、その並々ならぬ恐ろしさは十二分に伝わってきた。
「それで話をアッキーの事に戻すと、去年の冬休みにアッキーと自主トレという――」
「やめろぉっ!! その話はもうするんじゃあないッ!!」
彰久は耳を両手で塞ぎながら叫ぶ。どうやら彰久のトラウマになっているようだ。
「アッキーったら、そんなに怖がることはないじゃないか。本当は内気で大人しくて寂しがり屋で甘えん坊で、ベリーキュートな女の子なんだからさ。だから涼紀君、僕も行きながら探すけど涼紀君もさっきの画像の子を見かけたら僕に教えてくれないかな?」
「いいっすけど、どうして探してるんっすか?」
「心配なんだ。とてもシャイだから誘拐とかされないか凄く」
この時の幸長からはなぜか後ろめたさのようなものが醸し出されていた。
「先輩って、もしかしてシスコンっすか?」
「うーむ、それをノーとはいえないかな」
幸長は恥ずかしそうに微笑んでいた。
三人が公園を出て三分ほど後。スマートフォンに映し出されていたネイビーの髪をした少女が、公園から少し離れた倉庫の陰から出てきた。
「はああああ。お兄ちゃんったら私のことなんて素敵なの。私のことをあんなにも心配してくれるなんて」
優梨華はどうやら服か何かに仕掛けていた盗聴器から幸長の会話を聞いていたらしい。
「それに、私のことかわいいって言ってくれたし、私のフィアンセだなんて――フィアンセに関しては優梨華の幻聴である――。ああお兄ちゃんったらぁ。私は凄く嬉しいわ。……おっと。それは置いておいて。行く前に言ってたことは本当みたいだけど、ちょっと心配だから跡をつけようっと」
優梨華は盗聴器同様、幸長の手荷物にあらかじめ取り付けておいた発信機の位置を見ながら、ゆっくりと後追いかけた。
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