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練習試合編
新たな強敵
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試合から二日後の放課後。伸哉の入部が認められ、今日から全体練習に参加することになった。
「久しぶりだな。こうやって大人数の中で練習するのは」
一年前からは全く想像すら出来なかった状況だった。だがそれは現実のものになって伸哉の眼前に広がっている。
「やあ、伸哉クン」
想いふけっているところに、幸長が颯爽と声をかけてきた。
「どうだい? 久しぶりにこうやって練習するのは」
「ええ。最高ですよ」
伸哉は頬を緩ませて即答する。それを聞いた幸長はあはは、とまた一段と爽やかな声で笑っていた。
「いやあ。伸哉クンならそういうと思っていたから安心したよ。グッドだよ」
なるほど。この人はやっぱりこういう人だったんだなと、伸哉が幸長を改めて評価しなおした。
「それから、また投手としての練習も再開することになったから、コツとか色々よろしく頼むよ。それじゃ!」
幸長は足早に外野グラウンドに向かっていった。そうか。僕も頑張らないとね。伸哉は決意を新たにした。
「おーい! 伸哉。はやくー」
「あ、はーい。今行きます」
伸哉は彰久が待っている投球練習場へ走った。
練習終了後、部員全員が監督の元に集められた。
「練習お疲れ様でした。今日から伸哉君が入部することになりましたが、残念なことに部活は今日から二週間停止です」
二週間停止という言葉が出た瞬間、多くの部員からは溜息が聞こえ始める。
顔にこそ出ていないが、薗部はそれを楽しんでいる雰囲気を出しながら続ける。
「二、三年生は分かっていると思いますがテスト期間です。なお、去年は四十五点以下だったらペナルティを課せられたとのことですが、私が監督になったからには平均点六十点以下だった場合、試合に出さないので覚悟しておいて下さい。当たり前ですよね? 学生の本分は勉強ですから。それではお疲れ様でした」
言い終わるとともににっこりと、策を練るときのような不気味な微笑みを見せながら、薗部はゆっくりとグラウンドを後にした。
「なーんだ、平均六十なら楽勝ですね」
伸哉は軽々しく言った。しかし、それと同時に周囲から恐ろしく鋭い視線が浴びせられているのを感じ取った。
「平均六十点が優しいだとぉ?!」
「俺たちの頭の悪さを舐めてんのかぁ?」
「学年上位の秀才添木くんにはわからんでしょうなあ!」
周囲は伸哉を中心にざわついている。伸哉はまさに、四面楚歌というにふさわしい状況に追い込まれた。だが、そんな状況に颯爽と助け船を出す人物がいた。
「まあまあ落ち着こうじゃないか。伸哉クンも悪気があったわけではないんだから。とはいえ、この野球部でそんなことは言うのはよくないな。場所をわきまえないと」
「す、すいません。幸長先輩。それで先輩は大丈夫なんでしょうか?」
すると幸長は沸騰したやかんのように笑い出した。
「伸哉クン。それはどういうジョーク? 僕みたいな天才が勉強出来ないわけないじゃないか。いやー、あまりにもおかしなこと言うから品のない笑い方しちゃったじゃないか」
「まあそうだよなー。お前うちの学年トップどころか、全国模試でも上から三十番以内にはいるしなー」
誰かが死んだ目で言った。それに続いて他の上級生部員が同じようなコメントを残す。どうやら幸長は本当に勉強できるらしい。
「それより伸哉クン。あの二人をどうしようか」
幸長は愉快な表情をしながらすっと前方を指差す。差した先にいたのは、頭を抱えて蹲っている涼紀と彰久だった。これを見た伸哉は苦笑するしかなかった。
「久しぶりだな。こうやって大人数の中で練習するのは」
一年前からは全く想像すら出来なかった状況だった。だがそれは現実のものになって伸哉の眼前に広がっている。
「やあ、伸哉クン」
想いふけっているところに、幸長が颯爽と声をかけてきた。
「どうだい? 久しぶりにこうやって練習するのは」
「ええ。最高ですよ」
伸哉は頬を緩ませて即答する。それを聞いた幸長はあはは、とまた一段と爽やかな声で笑っていた。
「いやあ。伸哉クンならそういうと思っていたから安心したよ。グッドだよ」
なるほど。この人はやっぱりこういう人だったんだなと、伸哉が幸長を改めて評価しなおした。
「それから、また投手としての練習も再開することになったから、コツとか色々よろしく頼むよ。それじゃ!」
幸長は足早に外野グラウンドに向かっていった。そうか。僕も頑張らないとね。伸哉は決意を新たにした。
「おーい! 伸哉。はやくー」
「あ、はーい。今行きます」
伸哉は彰久が待っている投球練習場へ走った。
練習終了後、部員全員が監督の元に集められた。
「練習お疲れ様でした。今日から伸哉君が入部することになりましたが、残念なことに部活は今日から二週間停止です」
二週間停止という言葉が出た瞬間、多くの部員からは溜息が聞こえ始める。
顔にこそ出ていないが、薗部はそれを楽しんでいる雰囲気を出しながら続ける。
「二、三年生は分かっていると思いますがテスト期間です。なお、去年は四十五点以下だったらペナルティを課せられたとのことですが、私が監督になったからには平均点六十点以下だった場合、試合に出さないので覚悟しておいて下さい。当たり前ですよね? 学生の本分は勉強ですから。それではお疲れ様でした」
言い終わるとともににっこりと、策を練るときのような不気味な微笑みを見せながら、薗部はゆっくりとグラウンドを後にした。
「なーんだ、平均六十なら楽勝ですね」
伸哉は軽々しく言った。しかし、それと同時に周囲から恐ろしく鋭い視線が浴びせられているのを感じ取った。
「平均六十点が優しいだとぉ?!」
「俺たちの頭の悪さを舐めてんのかぁ?」
「学年上位の秀才添木くんにはわからんでしょうなあ!」
周囲は伸哉を中心にざわついている。伸哉はまさに、四面楚歌というにふさわしい状況に追い込まれた。だが、そんな状況に颯爽と助け船を出す人物がいた。
「まあまあ落ち着こうじゃないか。伸哉クンも悪気があったわけではないんだから。とはいえ、この野球部でそんなことは言うのはよくないな。場所をわきまえないと」
「す、すいません。幸長先輩。それで先輩は大丈夫なんでしょうか?」
すると幸長は沸騰したやかんのように笑い出した。
「伸哉クン。それはどういうジョーク? 僕みたいな天才が勉強出来ないわけないじゃないか。いやー、あまりにもおかしなこと言うから品のない笑い方しちゃったじゃないか」
「まあそうだよなー。お前うちの学年トップどころか、全国模試でも上から三十番以内にはいるしなー」
誰かが死んだ目で言った。それに続いて他の上級生部員が同じようなコメントを残す。どうやら幸長は本当に勉強できるらしい。
「それより伸哉クン。あの二人をどうしようか」
幸長は愉快な表情をしながらすっと前方を指差す。差した先にいたのは、頭を抱えて蹲っている涼紀と彰久だった。これを見た伸哉は苦笑するしかなかった。
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