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第四章 人神代理戦争 霹靂
六十八話 人神代理戦争 其の伍拾壱 嵐天掃除⑧
しおりを挟む熱は高まり続けるのみであり、互いにそれを冷ますのに必要なのは相手への死であった。必殺の得物は既に握られ、お互いに構えると音が一瞬止んだと同時に踏み込んだ。
天逆鉾を振り回し、近づいたジータ目掛けて放つと、彼女はそれをギリギリで嵐刀を挟み込み、上に弾く。
弾かれた鉾の末端につなげていた糸を使い、無理矢理方向を変換させると再びジータの体を貫こうと動かした。背後から迫る一撃をジータは避けずにレイルへと近づく。
三叉鉾の刃先は既にジータの体を捉えており、背後から彼女を串刺しにしようとした。
ジータはその動きに気づくも気づいていたからこそ、今ここを逃すと武器を持たないレイルに一撃を加えることが出来ないことも知った。
「レイル・カラマーゾフ! あなたは強い!」
敵に賞賛を送るとジータは嵐刀を引き、本来の強みである刃渡の伸縮による決死の突きを放つ。
嵐の突きがレイルを貫くのが先か、それともジータの体を三叉鉾が貫くのが先か。
その答えは。
嵐刀の伸縮、それは時間をほぼ掛けずに刃渡を変えることが可能であり、レイルはそれに気づいてはいた。
しかし、気付き、警戒していたからこそジータの一撃はその予想を超えることを想定しなかった。
「穿て、崩壊嵐剣」
ジータの放つ突きよりも早く肉体に迫った三叉鉾は確実に彼女の体を貫くに至だだはずであった。
ドチャリと音を立て、その方向を向くとそこには自身の右腕、三叉鉾を操作していた手が落ちていた。
そして、レイルの指示を失ったことで天逆鉾の刃はジータの左腕を貫き、彼女の腕を落とした。本来であれば、彼女の体を貫いていたはずの三叉鉾はジータの得物を持たない腕を落とし、レイルは自身の腹部も先ほどの蜘蛛同様に崩れていたことに気づいた。
「そうか、そう来たか」
自身の右腕が飛ばされた場所を凝視するとそこにあるもの全てを理解していた。
嵐刀から放たれた一撃はレイルに当たっておらず、しかし、それはただの目で追うからであった。嵐刀の刃渡を魂で補い、レイルの視覚を免れるとその一撃を彼が気付かれることなく叩き込んだ。
魂の操作により極限まで圧縮した嵐を急に爆発させることで風化させる技術を突きへと合わせたその一撃の名は崩壊嵐剣、レイルの得物を握っていた腕と腹部に放たれ、ジータの体を天逆鉾が貫くよりも早く、炸裂する。
レイルは腹部に空けられた穴が予想よりも大きく、血が溢れ、地面には池が生まれると既に自身が助からないことを感じ取った。
しかし、自分を超え、明確に迫る死という存在にレイルは高揚していた。
レイルの目を欺くほどの薄く伸ばした魂の刃はその一撃を持って砕け散るもジータは正面に立つ、レイルに声をかけた。
「何か、言い残すことは?」
それはジータなりの手向けであり、伝えたい相手が居るのであれば、言葉くらいは届けようと言う戦い殺し合った中で生まれた友情のケジメの付け方であった。
レイルの視界はボヤけ、それでも尚、彼は言葉を紡ごうと堂々と笑いながら満足気に答えた。
「糸を巻いて、お前の腕をくっ付けろ。強化がなされてるから腕は再生する」
「はぁ?! それが最後の言葉ですか?! なんか、こう他には?」
「もう、全部出し切った」
レイルはそう残し、立ちながら意識が途絶えた。
「はぁ、本当に強くて厄介でしたよ、あなたは」
ジータはそう言うと彼の目を閉じて、横にせずに背を向けた。
***
「ここは?」
魂を理解し得たからこそ、レイルはそこに居た。魂の世界、何もない空間に一人だけ立っていると彼は辺りを見渡し、他に誰か居ないかを確認した。
「死後の世界というのであれば、些か退屈しそうだ」
呟いていると微かに音がし、レイルは警戒心を強め、それが鳴った方向に目を向けた。
その視線の先、彼が見たのは
「ど、うして?」
レイルの目に映るのは現実では無い。
魂の世界だからこそ見ることができ、繋がることができた物。しかし、それはレイルにとって救いであり、一番会いたくて、そして、謝りたかった人達である。
「姉さん、アルベル、ごめんな。俺、幸せになろうとしなくて」
泣きじゃくるのはいつの時代のレイルなのか。
それを知るのは彼に会いにきた彼らのみ。
レイル・カラマーゾフ、彼の物語はここで終えるのであった。
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