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第四章 人神代理戦争 霹靂
二十四話 人神代理戦争 其の拾 竜殺帰還⑤
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帰還者の双剣の蓮撃は血の爪を簡単に砕くもすぐに再生され、ジークフリートの体を傷つけるに至らない。一方、ジークフリートは爪以外の攻撃、尻尾で握る邪竜失墜混沌大剣を振るうもそれは帰還者の無量辺処の能力に防がれてしまう。
相手の体力が尽きるか、集中力を削ぐか、それ以外の手段を彼らは模索し、互いに一歩も引かない。
かつて、自身を殺す直前、その瞬間の言葉、ジークフリートが放った一言を帰還者は今はの際に思い出す。
***
視界には邪竜失墜混沌大剣、首に突きつけられた刃に反射して、過去の自分が写っていた。
「アルベール、ここは俺達が居た世界じゃないんだ。俺達は世界を変えるんじゃなく、この世界の維持に尽してきたじゃねえか。それなのに」
紅蓮の髪は短く整えられており、ジークフリートは悲しそうな表情で告げるとそれに対して若き日の自分は答える。
「そうだ。ここは俺の世界じゃない。俺の国は無い、俺の民はいない。だが、だからこそ、この世界には全ての争いの頂点に立つ悪が必要なのだ。今は争いがない、大国は三つのみだ。しかし、これがまた増えてみろ。人々は争いを始めるかもしれない」
「なら、その時止めればいいだろ! 今、この世界は人の時代を謳歌している。それでも、今からお前が言う悪が必要なのか? お前に取って廃棄孔はそのための道具なのか!?」
ジークフリートの瞳に映るかつての自分。身勝手であり、彼女が言うことを理解していながらも自分は思い出す。
かつて焼かれた国を。
亡国の王としての恩讐を。
燃え盛る世界、破壊の運命が己を燃やし尽している。
「そうだ、俺にとってお前も、ロンベルクも廃棄孔も、全て、俺の国の、民の怨讐の道具だ」
嘘である。
全て、嘘。
彼らは友であり、同志。
道具なのではない。
そんなこと、全て知っていた。
だが、そうでもしなければ自分を世界の破壊者の歯車として切り替えれない。自分の世界で成せなかった力を用い、世界の悪として平和を成す。
ジークフリートはその言葉を聞くと剣を仕舞った。それが嘘であると分かっていて、それが真実であることもわかっていた。
だからこそ、ジークフリートは自分の顔に拳を振り抜く。倒れていた体が再び地面に突きつけられ、天を仰いだ。
「お前がそう言うならよく分かったよ、アルベール。俺はここを抜ける。あとは好きにしろ。ロンベルク! お前はどうする?」
話しかけられたロンベルクは笑顔で応えた。
「なぁに、俺も昔は武での平和を語った者よ。俺はここに残ってコイツの生き様を見届ける。ジーク、お前との旅、悪くなかったぞ」
「そうか、なら、お前とも別れだ。体は大事にして、酒ばっか飲むなよ」
ジークフリートは背を向けて、その後、25年間、彼らの前に姿を現す事はなかった。
***
「なぁ、ジーク、お前、私を25年前に殺さなかったことを後悔してるか?」
互いの剣と爪の応酬の最中、帰還者は問う。その問いにジークフリートは嬉しそうに口を開いた。
「後悔? そんなんねえよ! 俺はなあ! 俺の選択を一度たりとも後悔なんてしたことねえ! お前を殺さなかったことも、廃棄孔を出て行った事も! 全部全部、一切合切後悔なんてした事ねえ! だからこそ、その責任を取らなきゃ行けねぇんだわ! 俺はその責任のためにお前を倒す」
その言葉に嘘は無い。
彼はかつて嘘を吐いたはずなのに彼女にその様な素振りすらない。
「迷わないんだな、お前は」
「何だよ、お前は迷ってるのか!」
ジークフリートは帰還者目掛けて声を上げると邪竜失墜混沌大剣により、突きを放った。
それを双剣で受け止めると帰還者は全ての覚悟をその一言に注ぎ込む。
「そうだ。俺は迷っている、だからこそ、その迷いを断ち切るためにこれからお前を殺さなければ行けない」
そこに生まれたのは自身の思想に迷いながらも明確に示した純粋なまでのジークフリートへの殺意。
それを持って帰還者、彼は示す。
静かなる闘争、壊滅の運命、その新たなる一歩を。
相手の体力が尽きるか、集中力を削ぐか、それ以外の手段を彼らは模索し、互いに一歩も引かない。
かつて、自身を殺す直前、その瞬間の言葉、ジークフリートが放った一言を帰還者は今はの際に思い出す。
***
視界には邪竜失墜混沌大剣、首に突きつけられた刃に反射して、過去の自分が写っていた。
「アルベール、ここは俺達が居た世界じゃないんだ。俺達は世界を変えるんじゃなく、この世界の維持に尽してきたじゃねえか。それなのに」
紅蓮の髪は短く整えられており、ジークフリートは悲しそうな表情で告げるとそれに対して若き日の自分は答える。
「そうだ。ここは俺の世界じゃない。俺の国は無い、俺の民はいない。だが、だからこそ、この世界には全ての争いの頂点に立つ悪が必要なのだ。今は争いがない、大国は三つのみだ。しかし、これがまた増えてみろ。人々は争いを始めるかもしれない」
「なら、その時止めればいいだろ! 今、この世界は人の時代を謳歌している。それでも、今からお前が言う悪が必要なのか? お前に取って廃棄孔はそのための道具なのか!?」
ジークフリートの瞳に映るかつての自分。身勝手であり、彼女が言うことを理解していながらも自分は思い出す。
かつて焼かれた国を。
亡国の王としての恩讐を。
燃え盛る世界、破壊の運命が己を燃やし尽している。
「そうだ、俺にとってお前も、ロンベルクも廃棄孔も、全て、俺の国の、民の怨讐の道具だ」
嘘である。
全て、嘘。
彼らは友であり、同志。
道具なのではない。
そんなこと、全て知っていた。
だが、そうでもしなければ自分を世界の破壊者の歯車として切り替えれない。自分の世界で成せなかった力を用い、世界の悪として平和を成す。
ジークフリートはその言葉を聞くと剣を仕舞った。それが嘘であると分かっていて、それが真実であることもわかっていた。
だからこそ、ジークフリートは自分の顔に拳を振り抜く。倒れていた体が再び地面に突きつけられ、天を仰いだ。
「お前がそう言うならよく分かったよ、アルベール。俺はここを抜ける。あとは好きにしろ。ロンベルク! お前はどうする?」
話しかけられたロンベルクは笑顔で応えた。
「なぁに、俺も昔は武での平和を語った者よ。俺はここに残ってコイツの生き様を見届ける。ジーク、お前との旅、悪くなかったぞ」
「そうか、なら、お前とも別れだ。体は大事にして、酒ばっか飲むなよ」
ジークフリートは背を向けて、その後、25年間、彼らの前に姿を現す事はなかった。
***
「なぁ、ジーク、お前、私を25年前に殺さなかったことを後悔してるか?」
互いの剣と爪の応酬の最中、帰還者は問う。その問いにジークフリートは嬉しそうに口を開いた。
「後悔? そんなんねえよ! 俺はなあ! 俺の選択を一度たりとも後悔なんてしたことねえ! お前を殺さなかったことも、廃棄孔を出て行った事も! 全部全部、一切合切後悔なんてした事ねえ! だからこそ、その責任を取らなきゃ行けねぇんだわ! 俺はその責任のためにお前を倒す」
その言葉に嘘は無い。
彼はかつて嘘を吐いたはずなのに彼女にその様な素振りすらない。
「迷わないんだな、お前は」
「何だよ、お前は迷ってるのか!」
ジークフリートは帰還者目掛けて声を上げると邪竜失墜混沌大剣により、突きを放った。
それを双剣で受け止めると帰還者は全ての覚悟をその一言に注ぎ込む。
「そうだ。俺は迷っている、だからこそ、その迷いを断ち切るためにこれからお前を殺さなければ行けない」
そこに生まれたのは自身の思想に迷いながらも明確に示した純粋なまでのジークフリートへの殺意。
それを持って帰還者、彼は示す。
静かなる闘争、壊滅の運命、その新たなる一歩を。
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