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第三章 人神代理戦争 勃発

五十八話 五大王国会議 其の弐拾肆

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 ミカの突きをバサラは防ぐことが出来ない。それは防ぐことに使う体力が回復していないのと死装束シュラウドを身に纏っているために致命には至らないと判断した。

 先程までのバサラは涅焔カーラの生む、黒い焔をマントの様にし、羽織っていた。自身を禍々しく見せるのと、師であるロンベルグを意識したものであり、バサラが出せる最大限の見た目からの脅しである。

 しかし、弟子五人との戦いにおいて、マントを用いた戦略を悉く潰された結果、マントだけでは足りないとし、自身が全身に黒い焔を纏えば良いと結論付け生まれたのが死装束シュラウドであった。

 涅焔カーラとの運命の共鳴をした後のみに生成できる、黒い焔により編み込まれたバサラ自身が追い求めた最善の姿。故に、バサラはこの状態での防御であれば、ミカの突きから放たれる二重の衝撃は受け付けないと考えた。

 だが、そこには誤算があった。
 ミカの拳、それは確かに母なる大地・四重奏ヨルズ・クインテットの能力が加えられており、彼の体にぶつけられる四重の衝撃はなくなる。

 あくまで、四重の衝撃がなくなるだけ。
 ミカ・イゾルデが得物を持たないのであれば、四護聖の中で最強とされる所以、それは鍛え上げられたおのが肉体による蹂躙。ジータ、グラン、シンクの三人が肉迫することを許さない、努力の塊と積み上げてきた物があるから。

 それをバサラは見誤った。
 防ぐことは出来ずとも、その威力を抑え込むことは出来る、そう考えた自分を今、ミカの拳がつきささった瞬間に理解する。

 ようやく、反応が出来るまで回復するもバサラがミカの拳を止めようとした時、ジータによる一矢が彼の手を動かせた。

(ジータの矢! 氣が籠っていて反応してしまった!)

 バサラが防ごうとするよりも早く、ミカの拳の連打が彼を襲う。

「これで、どうですか!」

 ミカの一言の後、バサラの体に全力の一撃がヒットさせ、地面についていた彼の足が離れたと同時に勢いよく飛んで行った。

(あ、れ。吹き飛ばされたのか? すごい、な、ミカは。驕ってた、完全に自分の驕り。バカだな、おれ。あの子達がおれの考えに収まるなんて事は無いだろう)

 0.2秒の瞬間であったが、バサラは意識が飛んでいた。決闘場の壁に打ち付けられ、全身に痛みが走るもそれでも尚、バサラは立ち上がる。

 孤独、今までの人生、強さ、全ての証明をするためにバサラは負ける訳には行かない。今、立てなければ、これまでの自分を否定することになる。

 思い人を守れず、燃え上がった怨嗟の中、神を殺した人生。

 その後に残ったのは守りたいと思う大切な存在達ばかり。

 ならば、その子達を守るために、自分が幾ら嫌われようとも、自分が幾ら削られようとも、全てを費やし、己の信念を燃やし尽くす。

 大切な者を、今度こそは守るために。

 バサラが立ち上がった時、既に決着をつけるために、ジータは自身が放てる最大の一矢のために声を上げた。

「穿て、無窮壱尽・嵐廼王バアル・ゼブル

 詠唱の後、ジータ・グランデの右腕をガンドレッドが包み込んでおり、その手にはバサラを確実に倒すと言う信念が込められた嵐の一矢が番われていた。

「終わりです、御師様」

 そして、その矢は放たれる。
 師であるバサラ、彼に自分達の強さを認めさせるために。

 濃縮された嵐の一矢、それはジータがこの一撃で全てを終わらせる時に放つモノ。

 大切なバサラ、師であるバサラ、愛すべきバサラ、それら全てをその一矢で伝える。

 迫る嵐を前に、バサラは右手に握る涅槃静寂ニルヴァーナに力を込めた。

「ジータ、ごめん。それには応えられない」

 バサラの呟きに涅槃静寂ニルヴァーナが呼応する。

 涅槃静寂ニルヴァーナの準備は整っており、主人の一振りを待っていた。

 目の前の嵐を面とし、その目で氣を捉えるとバサラは三十年ぶりに、かつて神を殺した本当の剣を振るった。

 音すらも無く、嵐は切り裂かれるとその向こうにいたジータとミカ、二人の体を傷つける。

 ジータ達を殺すためでは無く、戦闘不能にする世界を断つ斬撃。

 人の時代を齎したその剣が、今、人に向けられ、奇しくもそれは自身の弟子達に放たれた。
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