二度目の令嬢は、甘い檻に囚われる

セトカ

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第二章

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 お見舞いに来てくれたのだろうか?
 眠りにつく前に願っていたのだけれど、本当にセオノアが側にいてくれるなんて。嬉しいと伝える為に口を開こうとして、だけどルエラは動きを止めた。
 ……セオノアの姿に違和感を感じて。

「ルエラ?」
 何かを確かめるようにか細い声で恐々と、セオノアに再び名を呼ばれる。
「はい、セオノア様」
 答えるとセオノアは大きく目を見開き、次にふと瞳を曇らせて首を左右にゆっくりと振った。
「ああ、僕はとうとう……」
 諦めに満ちた苦しそうな声に、ルエラは首を傾げ、それから先ほどセオノアを見て感じた違和感の正体を探る。

 ひとつは、暗く沈み、苦しみ抜いた後のような表情。
 ひとつは、深く刻まれた眉間の皺。
 ひとつは、輝きを失った金の瞳。

 もしかして、軽い風邪でほんの少し眠っていただけのつもりだったけれど、しばらく寝込んでいたのかもしれない。
 そしてセオノアはずっとそんなルエラを見守っていてくれたのかも……。

「随分とご心配おかけいたしました、セオノア様」
 ルエラはそう言い手を伸ばした。セオノアの乱れた髪を指先で掬い上げ、頬にそっと触れる。
「私はどのくらい眠っておりましたか?」
 その問いに、セオノアは目を閉じて少し考えているようだった。

「もう5年は経つかな」
「5年、ですか?」
 ルエラは困惑の表情を浮かべた。主治医のセインは軽い風邪だと言っていたのに、誤診にしてもあまりに年月が経ち過ぎている。
 でも、改めて良く見てみれば、確かにセオノアの顔立ちは見知ったものより大人びていた。
「……それで、私は一体どのような病で臥せっていたのでしょうか?」
 5年も眠り続けるような病に思いあたる所がなく、ルエラは震える声で問う。セオノアは目を伏せ、言いづらそうに少し逡巡してから口を開いた。

「ルエラは覚えていないかな、その、君は僕を……」
 セオノアはそう言うと、服の襟元を緩め、そのまま胸の辺りまでを露わにした。滑らかな肌には、赤い傷跡が残っていた。

 それを見た瞬間に、記憶が蘇る。
 自分自身の体温に近いセオノアの血が手首を、肘を伝い、絨毯に吸い込まれて行った事。
 むせ返りそうな鉄錆の匂い。
『ごめんねルエラ』という、セオノアの甘い声。

「私が、殿下を……」
 短剣でその胸を貫こうとした。力が足らず致命傷には至らなかったけれど、血を浴びた私は呪具のせいで命を……。

 でもそれは、『前』の時の事で、『今』はもう起こらなかった出来事だったのに。どうして。
 ルエラは頭が混乱し、両手で顔を覆う。セオノアの胸に咲く赤い疵が、目に焼き付いて苦しい。
 呼吸が荒くなったルエラの頬を、セオノアが優しく撫でる。
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