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第一章

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 最初にこの部屋に入ってから、どれだけ時間が過ぎたのか。

 食事はセオノアが毎日持って来てくれる。保温の魔法がかかった容器に入っているので温かいし、紅茶や、フルーツ、お菓子までと、目移りするほどの量だ。
 着替えはセオノアが手伝ってくれる。いつの間にそんな事を覚えたのかと問うと、笑って答えてくれなかった。

 部屋には本もたっぷりと備えてあり、他にも刺繍に使う道具なども揃えてあった。

 不自由だと思わないわけではなかった。
 でもルエラを守りたいと言ったセオノアの気持ちを思えば、我慢はできた。
 
 そして、今日は久しぶりに一緒に食事が出来た。食後にソファーへ並んで座り肩を触れ合わせていると、それだけでじんわりと幸せな気持ちになる。

 そこでの他愛ない話の中で、ルエラは外の事を聞いてみた。

 自分はきっと行方不明扱いなのだと思っていたら、セオノアの叔母にあたる方の館へ行儀見習いとして滞在しているという事になっていた。王妃に狙われているので力を貸してほしいと話したら、協力してくれたそう。
 
「『魔法の研究に没頭したいから』と理由をつけて、内々に王妃へ王位継承争いからは身をひく事を告げたよ、だから誓約の儀式自体も辞退させてもらったんだ。陛下は王妃が説得してくれるそうだよ」
「そうなのですね。でしたら私が外に出られる日も近いのでしょうか?」
 何気なく口にしたルエラの言葉に、ぴたりとセオノアの動きが止まった。

「外に?」
「ええ、呪いの指輪もありませんし、狙われる理由も無くなれば外へ出てももう安心ではありませんか? セオノア様は私を守りたいと言ってくださった。ですから、危険が去るまでの間ここへ隠れているようにというおつもりなのかと……」
 首を傾げて言うとセオノアの目から温度が消える。

「どうしたのルエラ? ここは『君の部屋』で、外なんて無い。そう言ったじゃないか」

 ルエラは驚き、続く言葉が見つけられずにいた。そんなルエラの腕をセオノアが掴む。
「駄目だよルエラ。外へ出たら、ルエラはもう……」

 間近にあるセオノアの瞳にはルエラが映り込んでいるのに、その目は何も見ていなかった。
「何か足りないものがあった? それとも一人が寂しかったのかな? 今よりもっとここに来るようにするよ。だから」

 ルエラの腕を掴んでいる手に、縋るように力がこもる。痛みに顔を顰めてもセオノアは気づかず、力を緩める様子もない。
 離せば消えてしまうとでも思っているように。
 
 ルエラは、もしかして、と思う。
 もしかして、前の時の彼は命が尽きた後のルエラを、同じようにここへ連れてきたのかもしれない、と。
 ……外の時間と切り離してあるここなら、身体は腐敗せず保たれたに違いない。そして戻る方法を掴むまで、長い時間を今と同じように『ルエラ』の世話をしながら気持ちを保って来たのなら。
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