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第一章
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「待っていたよ、ウォーリック伯爵令嬢」
ルエラは窓を背にして立つ彼を見て、眩しさに目を瞬いた。
陽の光を受けて輝く金の髪、青みを帯びた金の瞳。すっとした鼻筋と冷たい印象が宿る唇。空間魔法を操る高位の魔法使いでもあり、この国、ダーウェントの第二王子。
近々王太子となるだろうとも噂される人。
ご令嬢方の間でこっそり冬王子とも呼ばれている、セオノア王子殿下。
その立ち姿に、この場面に既視感があった。
だとしたら、この両手が血に塗れ、彼が最後の息をほろりと溢した所まで見届けた……それは夢ではなかったのかもしれない。
きっと、まだ何も起きていない今この時に戻ったのは、神が与えてくれたやり直しの機会。
「どうかしたかい?」
セオノアの問いにルエラは慌てて表情を切り替える。いつもの微笑みに。
「失礼ながら、殿下に見惚れておりました」
少し顔を伏せて頬を手で覆う。いかにも羞恥に頬を染める少女のように。前の時はその言葉通り、見る度に素敵な方だと見惚れていた。
だけど今は、あの結末を思い出してルエラの心はすっと冷えて行った。
「貴女にそう言ってもらえるのは嬉しいよ」
声と共に、コツコツという足音が近づいてくる。
あの時もそうだった、ルエラは段々と思い出してきていた。
……そうしてルエラの前で足を止め、彼は冷たくこう言った。
『だけどごめんね。僕には愛する人が居るんだ』
と。
それが始まりの合図だった。ルエラの父であるウォーリック伯爵、トマス・グレイヴィルとこの国の王エルグ・セラン・ダーウェントが決めた婚約が、ただの重い鎖に変わる瞬間。
ルエラは彼に愛されない事を認めたくなかった。だから足掻いてもがいて、それらはすべて空回り、最後には婚約破棄に至った。
だからといって王族に手を掛けるなんて、今考えればなんて恐ろしい事をしたものだろう、当家だけでなく連なる一族諸共、歴史から姿を消してしまう事だってあり得るのに……。
だから今度はもう間違えない。彼の愛する人との仲を邪魔なんてしない。そう決意してルエラは次の言葉を待った。
なのに。
「嬉しいよルエラ。また君に会えて」
蕩ける甘い声が耳元に注がれる。痛いくらいに抱きしめられていると気づいたのは、たっぷり二呼吸はおいてから。
「殿下?」
「覚えてるよね、だって前の時とは違う顔をしてるから」
吐息が溶け合う程に近くでルエラを見つめるセオノアの瞳には、怯えた顔の自分自身が映っていた。
ルエラは窓を背にして立つ彼を見て、眩しさに目を瞬いた。
陽の光を受けて輝く金の髪、青みを帯びた金の瞳。すっとした鼻筋と冷たい印象が宿る唇。空間魔法を操る高位の魔法使いでもあり、この国、ダーウェントの第二王子。
近々王太子となるだろうとも噂される人。
ご令嬢方の間でこっそり冬王子とも呼ばれている、セオノア王子殿下。
その立ち姿に、この場面に既視感があった。
だとしたら、この両手が血に塗れ、彼が最後の息をほろりと溢した所まで見届けた……それは夢ではなかったのかもしれない。
きっと、まだ何も起きていない今この時に戻ったのは、神が与えてくれたやり直しの機会。
「どうかしたかい?」
セオノアの問いにルエラは慌てて表情を切り替える。いつもの微笑みに。
「失礼ながら、殿下に見惚れておりました」
少し顔を伏せて頬を手で覆う。いかにも羞恥に頬を染める少女のように。前の時はその言葉通り、見る度に素敵な方だと見惚れていた。
だけど今は、あの結末を思い出してルエラの心はすっと冷えて行った。
「貴女にそう言ってもらえるのは嬉しいよ」
声と共に、コツコツという足音が近づいてくる。
あの時もそうだった、ルエラは段々と思い出してきていた。
……そうしてルエラの前で足を止め、彼は冷たくこう言った。
『だけどごめんね。僕には愛する人が居るんだ』
と。
それが始まりの合図だった。ルエラの父であるウォーリック伯爵、トマス・グレイヴィルとこの国の王エルグ・セラン・ダーウェントが決めた婚約が、ただの重い鎖に変わる瞬間。
ルエラは彼に愛されない事を認めたくなかった。だから足掻いてもがいて、それらはすべて空回り、最後には婚約破棄に至った。
だからといって王族に手を掛けるなんて、今考えればなんて恐ろしい事をしたものだろう、当家だけでなく連なる一族諸共、歴史から姿を消してしまう事だってあり得るのに……。
だから今度はもう間違えない。彼の愛する人との仲を邪魔なんてしない。そう決意してルエラは次の言葉を待った。
なのに。
「嬉しいよルエラ。また君に会えて」
蕩ける甘い声が耳元に注がれる。痛いくらいに抱きしめられていると気づいたのは、たっぷり二呼吸はおいてから。
「殿下?」
「覚えてるよね、だって前の時とは違う顔をしてるから」
吐息が溶け合う程に近くでルエラを見つめるセオノアの瞳には、怯えた顔の自分自身が映っていた。
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