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第4章 不意打ちから始まる高校生活
第62話 佐久間修は女子との交流OK
しおりを挟む「「「「た…、大切な…」」」」
ざわ…。
「「「「…ひと?」」」」
ざわ…ざわ…。
僕げ発した言葉に辺りはざわつき始めた。戸惑い…、驚き…、それだけじゃない…他にも色々な感情を帯びたようなざわめきであった。
中には『ちょっと何言ってるか分からない』といった表情の人もいてしきりに『え?え?』みたいな声を洩らしている。もしかすると僕が言った言葉がよく聞こえなかったのかも知れない…、そう思った僕はもう一度同じ内容を聞き取りやすいようにもう一度言う事にした。
僕はもう一度、聞き取りやすい声でハッキリと言った。
「僕の…、大切な人です」
しーん…。今の今まで賑やかだった場が一気に静まり返る。誰も言葉を発さない、まるで時が止まってしまったかのようだ。しかしそんな静寂も、凍りついたような雰囲気も永遠に続く訳ではない。僕の言葉を聞いて固まっていた子達がその目をパチクリし始める。
「そして時は動き出す…」
なぜかこの場にいない体育の出井女先生の声がしたような気がするけど…、気のせいだよね?
きゅっ。
僕は真唯の手に自分の手を重ね軽く握った。その感触に僕の意識が集まる。彼女らしい小さくて柔らかい、真唯の手…。
「「「「「ええええっ!!!」」」」」
申し合わせたように周りから一斉に声が上がった。
「そ、そ、そ、それって…つ、付き合ってるって事?」
「い、いつの間にッ!」
動き始めた時間は真唯と僕だけのものではでなく周りの女子生徒達にも同様で、次々と戸惑いや質問の声が飛び交っている。中には悲鳴のようなものまで混じっている。
一方、僕らはそんな大多数の声に呑まれてしまっていると言おうか、対応に苦慮すると言おうか…ただただお互いの手を強く握り返し合うのが精一杯。それだけが今ここで感じられる心の支えとなるものだった。
きいぃ~ん、こおぉ~ん、かあぁ~ん、こおぉ~ん♪
鐘の音が校内に響いた。今度は予鈴ではない、授業開始を告げる本鈴だ。
「何をやっているんだ、まったく…。教室に早く入らないか、授業を始めるぞ!」
どうやら次の授業の先生のお出ましのようだ。
「あっ!マズっ!!」
「岡山先生来ちゃった!」
「さ、佐久間君っ!早く教室戻ろっ!」
「あっ、はいっ。じゃ、じゃあ真唯、また後で…」
ウチのクラスの生徒達が慌てて教室に戻ろうと提案してきたので、真唯に一声かけた。
「うん…。修(お兄ちゃん)…」
最後が小声で聞き取りにくいものだったけど真唯はしっかり僕の名前を呼んでくれていた。うーん、やっぱり我が妹は可愛い…そんな事を思いながら僕は一年A組の教室内に戻るのだった。
□
五時間目、家庭。
小学校の頃は調理実習とかが出来ると結構楽しみにしていたなあとか思い出す。だけど、その僕が期待していた第一回目の調理実習で作ったのはきゅうりの塩揉みだった。当然、材料はきゅうりと塩だけ…。あの時のガッカリ感は今でも忘れられない。
ちなみに今日は快適な住環境についてだった。なんでも家庭科の授業を担当する岡山先生は少しだが野菜を自分で育てているらしい。夏の時期にはグリーンカーテンにもなるし、口にする物を自分で作ってみようと思いきゅうりやゴーヤを育て始めたのがきっかけらしい。
うーん、またきゅうりか…。別にきゅうりに恨みはないのだが家庭科の授業になるど現れるきゅうりの存在に僕はそっとため息をついたのだった。
そして六時間目、本来なら通常授業の予定だったが今回は一学年の全てのクラスが集め一学年全クラス共通のH・|R(ルーム)となった。その為、会場となる体育館へ向かった。
その体育館に向かう途中、他のクラスの女子生徒の中には僕に声をかけてこようとした子もいた。しかし、ウチのクラスの女子生徒達が鉄壁のチームワークを見せる。なんと僕を中心に円陣を組み、その声かけを未遂に終わらせる。
「佐久間君を死守するのよっ」
合言葉のようにクラスメイト達が口にしている。
「が、頑張れば私が…」
「ふ、二人目に…」
「なれるかも知れないんだし…」
良くは分からないがみんなの気合が凄い。その裂帛の気合いと共に僕を中心とした円陣は体育館へと進んでいく。
「あっ!!なによー!」
「佐久間君、女子と普通に接してくれるんでしょー!?」
「だったらアタシ達だって話したって良いじゃーん!」
周囲からそんな非難の声が上がる。
その時、僕の耳に着けたイヤホンから美晴さんと尚子さんの声が聞こえてくる。
「なあ、シュウ。教室外への移動の時、オレ達がすぐそばで張る事にするか?」
「え?すぐそばで?」
「ええ、修さんは護衛をあまり物々しくしたくないと言ってましたが…。この雰囲気…、暴発する事が無い…とは言い切れなさそうですわ。用心しておくに越した事はないかも知れませんわね」
尚子さんと美晴さんの僕の護衛に関して二人には少し離れた位置にいてもらえるようにお願いしていたが、今の状況は護衛するには好ましくない状態なのかも知れない。
「それについては…、とりあえず放課後にまた相談させていただいても良いでしょうか?」
僕は襟元につけたマイクに小声でそっと告げて体育館に向かう事にした。
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