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第4章 不意打ちから始まる高校生活
第59話 早くシャワー、浴びておいで
しおりを挟む体育の授業が終わった僕が向かったのは寮の自室だった。授業に出席するようになる今日からこの部屋の警備を担当してくれている浦安さん&崎田さんペアに挨拶して僕は部屋の中に入った。ちなみにこれは当番制で明日は尚子さんと美晴さんのペアだ。
目的は二つ。一つ目は着替えの為、タオルで体中の汗を拭き、手早く制服に着替える。
もう一つの目的は昼食、真唯ちゃんが一緒に食べようと今朝方メールを送ってきてくれたのだ。
四時間目の授業が終われば昼休みの始まりである。十五年前の高校生活の時、クラスメイト達は弁当派、学食派、購買派と分かれていた。運動部の中には二時間目終了あたりで早弁し昼に学食、午後は購買のパンを食べている人もいた。誰が言ったか弁当・学食・購買パン全て食べる事をフルコースとか称していたっけ…。
そんな高校時代の昼食を懐かしさと共に思い出していると連絡用のスピーカーからドア前で警護をしてくれている浦安さんの声がした。
「佐久間君、妹さんが来たよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
そう言って僕はリビングの壁面を見る。壁に埋め込み式の画面には玄関付近からでは見えない位置にある周囲確認用の映像が映っている。玄関前の廊下の様子が映っている。部屋の中にいながらにして外の様子が確認出来るというものだ。
モニターには確かに護衛中の浦安さんと崎田さん、そしてジャージから制服に着替えた真唯ちゃんが画面に映っており他には誰もいない。
僕は壁を手でスライドさせモニターを隠した。こうすればただの壁にしか見えない。室内から外を見ることが出来るというのは逆に言えば外部の人を疑っているとも言える、そんな風に聞けば気分を害する人もいるだろうし防犯設備をわざわざ知らせる必要もない。
ちなみにこの映像は僕のスマホに転送も出来る為、離れた場所からも部屋付近の様子を確認出来る優れモノだ。
周囲の安全確認をしたのでドアを開ける。そこには先程確認した通り小さな袋を持った真唯ちゃんがいた。
……………。
………。
…。
一方、その頃…。
「佐久間君、出てこないね…」
「うん。どうしたんだろ?」
「これはもしや…わざと時間をかけて着替えてるとか?」
「え!?焦らしプレイでござるか?」
「それはないでしょー!?」
「とりあえず待ってみる?」
「うーん…」
多目的トイレの前で待ちぼうけをしている一年A組の女子生徒達の姿があった…。
□
寮の部屋に真唯ちゃんがお弁当を持ってやって来た。制服に着替えた彼女は可愛らしい包みを持っている、中身はきっとお弁当だろう。
僕はどうしようか…、幸いこの部屋には冷蔵庫も電子レンジもある。冷凍パスタでも温めて食べようかな…。…おっと、いけない!ドアの前に立たせっぱなしというのは良くない。
「さあ、入って」
僕は真唯ちゃんを招き入れ、さらにドアの前で警備をしてくれている浦安さんと崎田さんに声をかけた。
「僕達はこれから中で昼食を摂ります、浦安さんと崎田さんも中でどうですか?
「気遣いありがとう。だが、大丈夫だよ。もうすぐ校舎周辺をパトロールしている者達がやって来るからその時にここを任せて昼食にさせてもらうよ」
「そうよ。せっかく妹さんが来てくれたんでしょ?二人、家族水入らずで食べると良いわよ」
「あ、はい。ありがとうございます。じゃあ真唯ちゃん、どうぞ…」
二人の言葉に甘え、僕は真唯ちゃんを部屋に招き入れ昼食にする事にした。
…ぱたん。…ぎぃー。がちゃ!!
ドアが閉まると自動的に鍵が閉まった、いわゆるオートロックである。
「……………」
「……………」
急に外界から遮断された僕達はとりあえず何を話すという事もなく互いを見つめ合った。しかしその真唯ちゃん、何かに気づいたようなハッとした表情を見せると『すすす…』と。僕から距離を取るように少し後退った。
「ど、どうしたの、真唯ちゃん?」
僕、真唯ちゃんの気に触るような事を何かしちゃっただろうか。
「あ、あのっ!」
そんな真唯ちゃんが勇気を振り絞るようにしていつもより少しだけ大きな声を出した。
「わ、私…、さっきまで体育だったから…」
「う、うん。僕も同じ授業だったし…、マラソン…したよね」
「だ、だから…、その…あ、汗とかかいちゃったし…。急いで着替えてお弁当持ってきたから…その…。軽くタオルで拭いたくらいで…」
「あ…、えっと…」
「あ、汗くさいの…イヤだよね…?」
い、意外とセンシティブな話だった!ど、どうしよう。『そんな事ないよ』って言うか…?いや、なんかそれは違うし…。『だが、それがいい!』…これはなんか変態って思われそうだし…。あ、そうだ!お風呂があるぞ、この部屋!
「ま、真唯ちゃん!もし良かったらお風呂に入る?」
「えっ?」
僕の提案に真唯ちゃんが驚きの声を上げた。
「ほら、そこに。タオルとかもあるから」
僕は部屋の奥にあるドアを指差した。
「のんびり湯舟に浸かるっていうのはアレだけどササッとシャワーを浴びる時間くらいは有ると思うし…」
「………ッ!」
何やら真唯ちゃんはビクッと体を震わせた。あれ?なんだか顔も赤いぞ…。
…し、しまった!いかに兄妹と言えども僕らは血がつながっていない!そんな僕の部屋で浴室に入るという事は…ふ、服を脱ぐという訳で…。か、考えてたらなんだか…マ、マズイのでは…色々と…。ど、どうしよう…とりあえず何か言わないと…。
「あ、あの、真唯ひゃんッ!」
「ひゃ、ひゃいッ!」
色々な事を考えてたら思わず僕の声は裏返り、そのせいか真唯ちゃんも焦った感じで返事をしてきた。
「……………」
「……………」
マ、マズイぞ、ヘンな雰囲気に…。こういう時こそ冷静にならなきゃ…冷静に…。えっと…僕が焦ったらダメだ、そうしたら真唯ちゃんまでつられて焦ってしまう。だからこういう時は冷静に…落ち着いた声で…。
そう思った僕は心の中で咳払い、声の調子を整える。少し低い声で良声になるようにイメージ、イメージ…。
「真唯ちゃん」
おっ、なんかワリと良い声出た!そんな僕の声に真唯ちゃんはピクリと体を震わせる、これならいけるかも知れない。
「早くシャワー、浴びておいで…」
「…は、はい…」
ぎゅっ、持っていた可愛らしい包みを軽く握り締めて真唯ちゃんが浴室に向かう。何やらぎこちない動きだ、潤滑油が切れた機械を連想させる。そんな真唯ちゃんが浴室内に消えた。しばらくして水音が聞こえてくる。
「うーん、我ながら良い声だった。それにしても…あれ?二人っきりの部屋でシャワーを浴びてこいって言うのは…あ、あ、あ…マ、マズい!なんかいけない意味にも…」
そ、それにしても真唯ちゃんが今シャワーを浴びている訳で…ダメ、ダメ、ダメ!意識したらダメーッ!部屋で僕はひとり、アタフタと慌てだす。
その後、浴室から戻った真唯ちゃん(お風呂上がり)を僕はドキドキしながら出迎えたのだった。
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