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閑話の章 研修と高校復学の間に

閑話5 狂乱騒夜

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 5月6日、月曜日(振替休日)。その昼食時…。

 僕は朝から警察署の裏手で多賀山ダンディ教官によるマンツーマンの自動二輪の練習、集中的に免許センターで採点基準となる部分について教えを受けた。その内容は上手く運転する事よりいかに車両と周囲の安全に配慮するかに尽きる、いかに運転技術があろうともそれらが出来なければ公道を走らせる訳にはいかないと言うものだった。

「良いか、プリティ。今も昔も世の中で車走らせてるヤツがみんなA級ライセンス持ちっで訳じゃないだろう?大抵はごく普通のウデさ。だったらいかに周囲の安全に気を配れて、ルールに則っとった運転が出来るかを見ているに過ぎないんだ」

「そーそー、|多賀山(タガ)の言う通りだぜプリティ。その上で試験官は受験者の運転技術を見る。だが、安心しな。免許取り立てのヤツは初心者マーク付けて運転するだろ?」

「は、はい」

「免許を無事に取った奴だって最初はそんなマークを付けなきゃならねえ…、文字通り初心者さ。じゃあ、まだ免許をまだ取ってさえないプリティは何だ?初心者以前…、つまりそれより未熟でも許容範囲なのさ。安心しろ、上手さは求められてねえ。いかに安全に走れるか、法を守れるか、それで良いんだ」

 アドバイスをもらい練習に励む、発進停止にコース走行。S字…クランク…急発進急制動、一本橋や波状路のコツを教わり休憩を挟みながら繰り返す。

「飲み込みが早い、良いぞプリティ。その体の使い方を忘れるな」

「この分なら動作を一つ一つ反復して確認していきゃ良いだろう。だが、油断するな。試験ってのは技術だけじゃない、乗る前から始まってる。その事も忘れるな」

 多賀山さんの教え方が良かったのか僕にバイクの素養があったのか基礎的な運転が出来るようになった。そしてひとまず十二時になったので練習を中断し食堂で昼食を摂る事にした。

 多賀山さんと大信田さんはコンビニで買ってきたホットドッグと缶コーヒー。僕は冷凍食品のパスタ、国内でも大きなスーパーの企業グループで売られている商品で大盛りなんだけど150円しないくらいだ。美味しくて量もあり、そして安い。うーん、お買い得!!

「ところで午後の練習は軽めにしておくぞ」

 多賀山さんが話を切り出してきた。

「実は美晴や尚子達が随分と張り切って今夜の用意をしてるんだ」

「だからプリティは体力を残しといた方が良いぜ。アイツらわけーからトバしてんだろーし」

 二人が苦笑いを浮かべた。

「それは…、楽しみと言うか。ありがたい話です」

「だが、覚悟もいるぞ」

「えっ。どういう事です、大信田セクシーさん?」

「アイツら手加減知らないからな。下手すりゃ一晩中やる気なんじゃないか」

 ぽん。僕の肩に手を置いて多賀山さんが話しかけてきた。

「ええっ、一晩中?」

 驚く僕、そこに大信田さんも同じように僕の肩に手を置いた。

「美晴と尚子だが明日有給を取ってたからな。とことんやる気だぜ、アイツら」

「や、休みを取ってまでって…」

「ああ、言ったろ。クレイジーな夜になるって」

 僕にはありがたい気持ちと共になんだか不安な気持ちも浮かんできた。美晴さんや尚子さん…、無茶な事しなきゃ良いけど…。



 男性向けの研修が終わり復学が内定しているとはいえ学校側が男性の受け入れ準備がまだ出来ていない為、今の僕に社会的肩書きは無い。いわゆる無職状態だ。なので毎日昼はバイク練習に充ていた。そんな毎日を繰り返しているとやがて僕が退寮する日がやってきた。

「さあ、ここらで第一部は終了だ。そんで明日仕事の奴は適当なトコで切り上げでもらう。…そんでもってこっからはいよいよお待ちかね!!アルコールアリの一晩中オールでいくぜ!」

「「「うおおおっ!!」」」

 美晴さんが張り切っていくぞと声をかけると野太く応じる声がする。…おかしいな、婦警さんしかいないのに。

 …と言うより未成年者がいるのに酒出して良いんだろうか?

 何はともあれ食堂に招かれた僕は豪華な夕食をいただいた。僕の誕生日祝いであり、入学祝いでもある。真希子さんと真唯ちゃんも招かれ一緒の時を過ごした。

 そんな中、ただいまーと言いながら食堂に入ってくる婦警さん達の一団が…。

「おっ、中勤ちゅうきんのヤツらも帰ってきたな。丁度良い、こっから第二部開始といこうや!」

 美晴さんの声に婦警さん達が盛り上がる。明日、仕事や学校がある真希子さんと真唯ちゃんはアルコールが飲めない婦警さんがパーティを途中で一旦抜けて車で送ってくれるらしい。

「修クン、また今度…」

「お兄ちゃん、学校で待ってるね」

 真希子さんと真唯ちゃんが帰り際に言い残した言葉だ。とりわけ真唯ちゃんの言葉が胸に響いた。

「僕も同じ学校に…」

 高校生になる、そんな実感が湧いてくる。しかも赤ちゃんだった真唯ちゃんと一緒の学年。それがなんとも不思議な感じがする。

「ねえねえ、佐久間君」

 僕が不思議な感覚のままぼんやりとしていると婦警さんの一人から声がかかっらた。

「あ、はい」

「一緒に写真撮ろ!」

「写真?良いですよ」

「やったあ!じゃあさ、じゃあさ、こうやって…」

 すると彼女は僕の隣に座り、フォークに刺した一口大のケーキを僕の口元に近づけた。

「食べれば良いですか?…ぱくっ!」

 僕がケーキをそのまま口にした瞬間に婦警さんは上手に自分のスマホで自撮りした。こちら側に向けた画面には潤んだ瞳で僕を見つめる彼女に『あーん』をしてもらってケーキを食べる僕の姿が…。

「ふふっ、なんか二人で過ごす誕生日みうな感じになったね…」

 弾んだ声で彼女が言った。

「ああ、ズルい!アタシもっ!!」

 たちまち同じ事をしようと婦警さん達が集まる。

「えっ?い、いや、そんなに沢山の物は食べられないと言うか…」

「じゃ、じゃあさ、食べるんじゃなくて…」

 その後はポーズを変えたりしながらのツーショット撮影会になっていく。そして皆が皆、一生の思い出になると言って喜んでくれた。

 実のところ僕は明日すぐにこの寮を出て行く訳ではない、復学する河越八幡女子高校の受け入れ体制が整い次第連絡が来てそちらに移る事になる。そうなると退寮する日によってはこうして集まれなかったかも知れない。

 たまたま今日が僕の誕生日だから誕生祝いと退寮の会を前倒しして開催してくれたものだ。

「連絡が来たら…か」

 なんの気無しに僕は呟く。僕の十五年ぶり二回目の高校入学、その日がすぐそこまで迫っていた。
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