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第3章 ひとつ屋根の…下?
第36話 旧友(?)の訪問
しおりを挟む「おお、少年。外出していたのか?」
「あっ、署長さん」
多賀山さんと大信田さんと共に警察寮から戻った僕に声がかかった。
「はい、ちょっと寮母さんに挨拶に…」
「おお、そうだったか。それでだな、少年。実は教育委員会から面会の申し入れがあってな。少年の高校復学をどうするか聞き取りをしたいって話なんだと」
「高校復学…」
本来なら僕は入学したばかりの高校生、生年月日を元に判断すれば今の僕は現在30歳となる。しかし、肉体的なデータはその15年前とほとんど変わりがなかった。
そこで国としては30歳ではなく15歳相当として扱う事にしたのだという。しかし、この15歳相当というのがなかなかに曲者だ。正真正銘の15歳ではないし、だからといって30歳かといえば肉体的にはそこまで成熟していない。
国は公式見解として『身体的特徴から見てその肉体は15歳。だから15歳にしちゃおう』という事らしい。
署長さんに言わせれば『男性は国から社会的・経済的に保護される代わりに義務を負う事になる。だから若い方が良いのさ』という事だ。その義務とやらはいくつかあるが、その最たるものを平たく言えば人間という種の保存の為に子種を提供しろというものだ。
そしてこの子種の提供は満16歳から満40歳を迎えるまで毎月行われる、そうなると本来の年齢で考えれば30歳の僕では10年足らずしかその役目が果たせない。しかし、15歳の僕ならどうか?当然、16歳になってから始まる訳だからその提供期間は最大限に取れる。そうなれば誰が考えたって僕が若い方が都合が良いのだ。それゆえの15歳って事らしい、国も考えたものだ。
「ところでどうする?少年に問題が無ければ明日にでも面会を…だとさ。なるべく早いうちにその意向を聞きたいって話だ」
「意向…ですか。うーん、高校生に戻れるかどうか…って話ですよね。当時通っていた学校は今や統廃合されたみたいですし…。というより今は女子校ですもんね…、となると僕は男だから戻れないよなあ。あ、それと仮に再入学するとして場合によってはまた入試とか…、って言うより今年はもう入学シーズンは過ぎてるから入学は来年に持ち越しとか…。うわあ…」
僕は再び振りかかってきそうな入試とそれに伴う受験勉強、あるいは前例の無い僕という存在はどんな風に扱われるのか…そんな不安に悩まされるのだった。
□
「えっ?無試験で入学可能なんですか?」
翌日の午前九時、署内の一室で僕はやってきた人の言った事に戸惑い、疑問をそのまま口にしていた。
「いや、無試験と言う訳ではありませんよ。面接試験を受けていただいて…その上で判断しようという事でして」
「ははは、良いじゃないですか鍋尾理事長。佐久間君は不安なんだ。|有(あ)り|体(てい)に…、ああ若い人はこう言うのかな?『ぶっちゃける』って…。そう意味では実質的に無試験と言えなくもないんじゃないかな?」
挨拶もそこそこに入学案内を出して説明をしてきたのは県内でも昔から私立女子高校と知られた貞聖高校の理事長さん。県内だけでなく都内にも複数の系列校がある私立の女子高校として知られていた。
そしてその隣には隣町…政令指定都市でもある埼玉県の県庁所在地さいたま市の教育長という人。教育長というのは教育委員会の長という事だと先程教えてもらった。五十代くらいの人の女性で、なんと言うかエネルギッシュな印象を受ける。
それにもう一人、こちらは若い…、と言っても多賀山さんや大信田さんより歳上に感じる。少なくとも二十代後半か三十代に入ったくらいか…。訪ねてきた三人の中では一番若いだろう。
「えっと…、その…『実質的に無試験』というのは…?」
「それについては私から…」
そう言って若い女性が口を開いた。
「久しぶりね。覚えてる?」
□
「すいません、あなたがどなたか分からないんですが…」
正直に言って誰だか分からない。僕の記憶ではこのくらいの年齢の人に知り合いはほとんどいない。せいぜい小学校か中学校の時の先生か?いや、間違いない、知らない人だ。
そう言えば、先程渡された名刺にはこの人は『貞聖高等学校 庶務』という肩書が書かれていた。名前は…。
「まだ思い出さない?迫池あかり、中学ン時、一緒だったでしょ」
そう言って『アタシ、アタシ』と繰り返し、早く思いだせとばかりに急かしてくる。
「え?あの…?」
中学校の同級生?僕としてはつい最近の記憶のはずだけど…、ああ思い出した。中二の時にクラスが一緒だったっけ。ただ、接点はまったくと言って無かった。
と言うのもこの迫池と言うこの人、いわゆる陽キャ。それも騒がし過ぎるタイプで、クラスの女子生徒のリーダー…、悪く言えばボス的な存在。
進路先は確か…、ああ貞聖だ。家もなんか事業をやってる小金持ちだったっけ。中学受験は失敗してたけど、高校はここに合格したって廊下で騒いでいたっけ…。
僕はいわゆる陽キャではなかったので、この迫池あかりと、中学の時に何かを特に話したという記憶はない。
「思い出した?」
「あー…。二年の時…クラスが一緒だった?確か貞聖女子に行ったんじゃなかったっけ…?」
僕がそう返すと、中学時代の同級生は望み通りの返事が来たとばかりに頷いた。
正直言って記憶にある顔と、今この場で相対《あいたい》しているその顔は同一人物かと問われると確信を持って『はい』とは言えないのが正直なところだ。しかし、その甲高い声が時折うるさく耳障りだったという記憶がある。
「そーそー!なんだ、覚えてんじゃん!!最近ニュースで見て、まさか…って思ってたけどホントだったんだねー」
ああ…、その声と話し方だよ。少なくとも僕にとっては関わり合いになりたいとは思えないそれは15年過ぎたという今になっても同一人物だと確信させるには十分なものだった。
「高校入ってすぐにいなくなって家出とか行方不明とかウワサになってたけど、その後すぐ男性消失現象じゃん。だからウワサはすぐになくなったけど…ふーん、ホントに歳も取らずに変わってないんだ?」
そう言って迫池はこちらを値踏みするように見ていたが、再び口を開く。
「…で、本題なんだけど」
そう言って迫池は説明を始めた。一言で言ってしまえば勧誘である。貞聖に来ないかと。かつては貞聖女子高校と呼ばれていたこの学校は今では女性ばかりの世の中になった為にわざわざ女子校と銘打つ必要がないので貞聖高校と名を変えて現在に至っているという。
「高校入学…、あれ復学になるんだっけ?希望なんでしょ?」
これは間違いない、最初僕が保護された時に医療センターで各種健康診断や検査などをするのと同時にこれからの生活についても聞き取りを受けていた。その時に高校に通いその後は進学するなり就職するなりしたいと。もっとも家庭の事を考えれば選択の幅は広くないのは理解していた。
その話を聞いてここにやってきたのだという。先程渡されたパンフレットにチラッと書いてあったのを見るとやはりそこは名門私立、入学金に授業料…お高くていらっしゃる。とても通えないなあと言うのが正直なところだ。
しかし、そこは学校側からのオファー。入学金に受験料、制服や学校で使う物品に至るまで全ての費用を出してくれると言う。また、寮完備であり、生活面のサポートもバッチリ、もし東京都内で高校生活を送りたいなら都内の系列校への編入はいつでもご自由に…そんな風にする事も可能なのだという。
「どうだろうね、良い条件と思うんだけどウチに来てくれないかな?」
「もちろん市の教育委員会としてもバックアップさせてもらういますよ。それにね、市長もこの話には乗り気でしてね、市としても佐久間君を歓迎させてもらいますよ」
うーん、オファーってやつだな、これ。
「正直、ビックリしています。貞聖女子…いや今は貞聖高校ですか、そんな有名校からお声がかかるなんて」
僕の言葉に理事長さんや教育長さんは笑みを浮かべた。少なくとも15年前に仮に僕が女子だったとしても入学なんて…、たとえ入学出来たとしても金銭的に三年間通えるなんて思えない。
「アタシさぁ、ニュース見て思い出したから理事長に話を上げてこうやって勧誘に来たの。まあ、研修も終わってない男子を勧誘するのは御法度ってヤツだけど今日は心配だから面会に来たってワケ。中学校ン時の友人って事でさ」
ロクに話をした事もなかったけど友人ねえ…、少なくとも派手な女子グループにいた君とは無縁だったと思うけど?僕は心の中でそんな事を考えた。
「ところでどうだろう?この条件でウチに入学…っていうのは…。佐久間君さえ良ければ回答だけでも今もらって、書類の方は後でゆっくりと記入してもらえばいいから…」
「貞聖さんに今日決めてもらえれば、我々行政側としても余裕を持って準備が出来るからここはひとつ…」
理事長さんと教育長さんはそう勧めてくる。
「良い話だと思うんだよね。決めちゃえば?そうすればあとは|入学(はい)っちゃえば良いだけだし?入学したらアタシが学校との専属の窓口になるし」
さてさて…この降って湧いたような勧誘話、どう対応すべきだろうか。
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