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第2章 天然男子を巡る思惑とそうはさせない佐久間修

第22話 みんなで食べる晩御飯

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「おっ!シュウ~!メシ出来たぞー!」

「あっ、はーい!」

「ほら。あちーから気をつけろよ!」

 そう言って美晴さんがレンジで温めたナポリタンのパスタを手渡してくる。鴫田警察署の最上階、4階にある柔道場は捜査本部が立ち上がった時に泊まり込みもできるように冷蔵庫やレンジなどが奥の小部屋に揃っていた。

 また、柔道場の片隅にはテレビもある。確かに寝泊りするには十分なのかも知れない。

 時刻は午後六時、僕は美晴さんと尚子さんとの三人の夕食を予想していたのだが…。

「「「いただきまーす!!!」」」

 ずらり…。婦警さんがいっぱい。なんか…若い人が多い、僕よりは歳上だけど。

 仕事の終わった婦警さんは私服で、休憩時間中の人は制服で。パンだったり、コンビニのおにぎりやお弁当だったり、ある人はお手製のお弁当…みんなが思い思いの食べ物を持って来ていた。

「ワリーな、少年。オイお前ら…、少年は警護対象であり、未成年の民間人なんだからな。あんまりハメ外すんじゃねーぞ」

 半ば呆れながら署長さんが缶コーヒー片手に釘を刺す。

「分かってますよー、署長《ボス》ぅ!」

「でも私達、寮に帰っても一人寂しくコンビニメシだしぃ」

「ここに来れば佐久間君がいるから…」

「そうそう、むしろそれが主食みたいな…」

「しゅ、主食!…じゅるり」

 なんか気になる発言もあるが寮に帰って一人でご飯か…、それは寂しいな。でも、社会人になって働いていたら一人暮らしとかしてる人なら珍しくない事なのかも知れない。

「皆さん一人暮らしをされてる方も多いんですか?」

「ああ、まあな。半数よりちょっと多いくらいか。この署は寮から割と近いから、寮から自転車チャリ原付げんチャで通ってくる奴も多いんだよ」

 肉巻きおにぎりを食べていた美晴さんが応じた。

「そうなんですね。でも確かにそれだと帰宅してから一人で食べる事になりますね。僕が同じ立場なら味気なく感じてしまうかも知れません」

「あっ、分かるぅ?佐久間君、お姉さん達の悩みが」

「一人で食べても美味しくないのよ!」

「そうそう、毎日が職場と寮の往復だけでさあ」

「帰っても食べて寝るしか無くてねえ」

「こうやって佐久間君と食べられたから今日は美味しく感じるけど…」

 婦警さん達は口々にそう言う。その姿は何だか寂しそうだ。一人はやっぱり寂しい、そんな当たり前の事を改めて認識する。

 いきなり男の人がいなくなった世界、中にはお父さんやお兄さんや弟…一つ屋根の下に暮らしていた人をいきなりなくしてしまった人もいるだろう。それを思うと…、とても悲しく寂しい。

「もし良ければ…、ご飯だけでもこうやって食べませんか?皆さんで集まればきっと楽しい食事になると思います。どうでしょうか…?」

 僕はそう提案してみた。



「佐久間君、マジ神」

 婦警さん達がそんな事を言っている。別に大した事を言った覚えは無いのだが、いたく皆さんは喜んでくれた。

「そう言えば修さん。修さんは空白の十五年があるんでしたよね。それを埋めるならテレビを見るのが一番ですわ。今ならニュースもまだやってる時間ですし…」

 あ、確かに。少なくとも今起こってる事は分かる。

「あ、はい。見てみたいです」

 テレビをつけると飛び込んできたのは、僕が退院した時の映像。そして警察署に入る映像。おまけに買い物の為に行ったドラッグストアに入る映像まであった。

『…という事は、佐久間修さんは鴫田警察署に今夜から宿泊するという事ですか?』

『はい、当初は市の中心部や宮大駅周辺のホテル等を宿泊場所にする調整がされていたようですが…』

『一体どうしてこのような決定になったんでしょうか?』

『一部情報によりますと、佐久間さんは男性が受ける新しい日常復帰プランを鴫田警察署で受講したいという申し出たそうです。すると宿泊はホテル、研修は鴫田警察署内という事になり送迎などで時間や手間をかけてしまうと心配した佐久間さんが警備の面からも署内は安全でしょうからと宿泊を希望したそうです』

『なるほど。では、今日はホテル等の宿泊施設ではなくドラッグストアに訪れたのは…』

『はい、宿泊に必要な日用品を買いに行ったようですね』

『スタジオの木村さん。この事をどう思いますか?』

『うーん、佐久間さんは余程警察を…、というより鴫田署を信頼している事がうかがえますね。研修から宿泊や警護の全てを鴫田警察署に委ねている訳ですから…』

 キャスターの人とかが何やら色々と言っている。

「うわ…」

 僕は思わず声を上げてしまった。なんだろう、この自分の預かり知らぬところで勝手に盛り上がっている感じ。

 芸能人でもない僕にどうしてこんなに…。

「気にすんなよ、シュウ。しばらくすりゃ慣れるからよ。ただ、うかつに言い寄ってくるマスコミとかに返事とかしない方が良いだろうな」

「そうだね。とりあえずその辺は明日から私が教えるよ」

 美晴さん、そして一山さんがそう声をかけてきた。うん、とりあえずは明日からの研修で僕の認識と世の中の常識のギャップを埋めていこう。

 そんな風に思った鴫田警察署での最初の夜だった。
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