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第2章 天然男子を巡る思惑とそうはさせない佐久間修
第20話 署長さん、部下にキレて発砲す
しおりを挟む「ヤッさん、ハルさん、よろしく頼むよ」
真賀里署長が僕の身辺近くの警護の任に就く六人の中で年長者である浦安さんと崎田さんに声をかけた。
「はい、署長。しっかり警護してきます!それにしても若い男の子が何を買うのかすっごく気になっちゃうわね!」
「ハルちゃん、我々は警護なんだから好奇心は程々にね…」
ため息混じりに浦安さんが崎田さんをたしなめる。僕の警護もそうだが、もしかすると若い美晴さんや尚子さんのお目付役を兼ねるといった感じなのかも知れない。
「頼むぞ、ヤッさん。特にあの二人がハメを外し過ぎるかも知れない。その時は遠慮なくシメてやって欲しい」
署長さんが浦安さん達にそう声をかけた。あ…、間違いない、お目付け役の意味合いが強そうだ。そんな事を思いながら署長室を後にして出入り口に向かうと何やら『うおおおおっ!!』と歓声が上がった。その歓声は高い声、黄色い声、女性のものだがなぜか野太い声…、様々な声だった。そして『わあああっ、わあああっ』と絶え間無く歓声は続いた。
何事かと思っていると正面入り口前にパトカーを用意して署内に戻ってきたのだろう、美晴さんと尚子さんがいる。その周りにはたくさんの婦警さん達。
どうやら興奮しているのはその婦警さん達のようだ。入り口すぐ近くの受付のブースなども巻き込んで大盛り上がりだ。なんて言うか、お祭り騒ぎの様相だ。
「お前ら、浮かれてんじゃねーぞ!それと館本、武田!噂ばらまいてんじゃねーぞ!コイツら仕事になんなくなるだろーがッ!」
うわついた雰囲気を署長さんの一喝が引き締める。
「で、でもぉ署長ぅ…。せっかく佐久間君と一つ屋根の下に暮らすんですから…」
「そうそう!男の子と一緒に寝泊りするんだし…」
婦警さん達が食い下がる。
「なんで少年と同棲するみたいな感じで言ってんだ!署はお前らの住処じゃねーんだぞ!」
「だ、だって佐久間君は柔道場にお布団敷いて寝泊りするんでしょ!?」
「あそこなら二十人くらいなら軽く布団並べて寝られるしぃ…」
「わ、私達、夜も寝ずに警護ヤリますから!」
「も、もし希望者多くて布団を敷く場所が足りなくなったら私が佐久間君の布団に入りますし!」
「あっ、テメッ!シュウはオレが!」
「わ、わたくしの修さんですわよっ!誰にも渡さないですわっ!」
わーわー、ギャーギャー。署長さんに談判していた婦警さん達だが、いつの間にやら内輪揉めの様相を呈すようになってきた。そしてなんだかみんな揃って目がギラギラしている。
「いい加減にしろー!!」
ぱぁん!
署長さんが発砲、一瞬で喧騒がシーンと静まり返る。
「良いかッ!少年はまだ未成年だ。そんな少年と夜中まで一緒にいさせる訳ねーだろ!」
「その通りだ。それに何をするつもりだ。署内から性犯罪者を出す訳にはいかんッ!」
「良いか、お前ら!もし、おかしなマネしたら警備から外すぞ!分かったかッ!!」
署長さんと一山さんがピシャリと言い放つとその気迫に尚子さんも美晴さんも他の婦警さん達もウンウンと頷いた。
「よし…。ヤッさんハルさん、大変だとは思うが…改めてよろしく頼む」
そう言って署長さんは僕達を送り出したのだった。
□
「あっ、出てきました、出てきました!佐久間修さんが警察官に伴われて鴫田警察署から出てきました!おそらくこれから宿泊先に向かうと思われます。我々、取材班はこれからその宿泊先までの道のりを…」
「はい、現場の庄司です。ただいま動きがありました。佐久間修さん、佐久間修さんが署内から出てきました。佐久間さ~ん、佐久間さ~ん!これからどちらに向われますか~?これより我々は車に乗り換え…」
芸能リポーター達だろうか、何やらそれらしき人達の声がしている。
「シュウ、何にも応じなくて良いからな」
「そうですわ。目を合わせないようにして車へ…」
美晴さん達のアドバイス通りにして、浦安さんに続いて後部座席に乗り込む。後には崎田さんが続いた。二人が僕を挟み込むようにしてガードするようだ。
そして運転席には美晴さん、助手席には尚子さんが乗った。尚子さんは座席に座るやいなやマイク付きのヘッドホンを装着、どうやら無線でのやりとりをしているようだ。買い物の為の移動。それは僕が乗っている一台のパトカーだけでなく、複数台の車両で移動するようだ。
そして鴫田警察署から10分もしない距離にある一軒のドラッグストアに向かう。ここでならインスタント食品や飲料、歯ブラシやシャンプーなど身の回りの物がすぐに揃う。寝る時に着る無地のスウェット上下なんかも売っているからと僕がここに行きたいとリクエストしたのだ。駐車場に入る頃には僕達よりも先行していた婦警さんや私服警官の人が車を降り配置につくところだった。
僕達の後ろからも警察関係車両が続いた。その後から来た車からも婦警さん達が降りて警備に加わる。先程、受付の辺りで見た婦警さん達も何人かいた。その中に一人、僕と目が合うと遠慮がちに小さくこちらに手を振ろうとした人がいた。
「うーん、婦警さんはマスコミ関係者じゃないからスルーしなくても良いですよね」
そう言って僕はその婦警さんに小さく手を振り返した。その婦警さんは『キャッ』と小さな声を上げるとものすごく嬉しそうな顔をした。
「ま、まずい!!」
浦安さんが声を上げ相棒の崎田さんと共に僕の前に立ち塞がる。そして手を振り返した婦警さんとの視界から僕を完全にシャットアウトした。
「えっ!?」
驚いている僕に崎田さんが声をかけてくる。
「あのね、佐久間君。明日から研修していくけど、基本的に女性は『天然』の男性にリアクションを返されると嬉しいものなの」
「は、はあ…」
「それでね、そのリアクションの中でも特に…、相手と同じ動作をしてリアクションを返すというのは考えものなの」
「え、それはどういう…?」
もしかして…、僕が先ほどの婦警さんに対して同じように手を振り返すという行動は良くなかったという事なんだろうか?状況がよく分かっていない僕は浦安さんや崎田さんの言葉にただただ戸惑うばかりであった。
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