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第2章 天然男子を巡る思惑とそうはさせない佐久間修
第19話 修、ここで寝泊まりするってさ
しおりを挟む「とりあえず少年が鴫田警察署で復帰プランを受講するのは問題無いが、そうなるとどこでまずは寝泊りするかだな…」
エリート官僚を帰らせた後、しばらく休憩した僕は署長室に場所を移し明日からの事の話し合いを始めた。その冒頭、署長の真賀里さんが腕組みしながら話を切り出した。
「え?自宅から通うのはダメなんですか?」
医療センターでのメディカルチェックも終わった事だしと僕はお伺いを立ててみた。すると今度は副署長の一山さんが口を開いた。
「それはやめといた方が良いだろうね」
「えっ?それはどういう…?」
不思議に思って尋ねてみた。
「昨日の退院の時、そして署に着いた時にマスコミを見ただろう?今まさに君は時の人だ。どこへ行くにも何をしていても注目されるだろう。君が帰るとなればおそらく自宅の方へもマスコミが殺到するだろう。いや、すでにその兆候はある。まあ、ご自宅やお母様、妹さんにも陰日向に警官を派遣しているからその辺は安心して欲しい」
「そんな事になってるだなんて…。ありがとうございます。で、でも、どうして…」
僕は予想外の事に驚く。
「驚くのも無理は無い。だがな少年、これが現実なんだ。『天然の男』、それも年頃の…。男性消失現象が起きた十五年前の行方不明者、それが再び姿を現した時には当時と変わらない姿。いかにもマスコミが食い付きそうなミステリアスな話だ」
「それにね、佐久間君。十五年前に世界から男が姿を消した、わずかに残った男も当然その十五年間で歳をとる。いわゆる数少ない天然男子の高年齢化だ。ましてや男性の数が減った今、その後に生まれる男子出生数も比例して減る。これはまさに世界的な社会問題でもある。なんせ若い男性ほど先細りになるんだからな。そんな中で現れた君はまさに明るいニュースそのものだ。十五年間の空白というミステリアスな出来事といい注目を集めるのも無理は無いよ」
「そ、そうなんですか…」
「そこで我々警察としては…少年、君にしばらくはホテル暮らしをしてみてはどうかと考えている」
「え?ホ、ホテル暮らし…ですか?」
署長さんの思わぬ提案に僕は戸惑いながら問い返す。
「ああ。今の時点で我々が考えているのは街の中心部、昨日泊まったホテルだな」
「昨日のホテル…、ですか?」
「ああ、そうなるな」
「いや…、でも僕みたいな者がホテル暮らしとか申し訳ないですし…」
「費用とかを心配しているのか?それなら全てこちら持ちだから気にする事は無いぞ。それにもちろん警護と送迎もする」
「え、ええ。そこも気になりますけど…。街のあの辺りって役所もあるし、それに観光エリアじゃないですか。江戸時代の風情を残してはいるけど道幅は狭いしいつも渋滞してますよね、今日だって…。それを毎日送迎をお願いするとなるとお時間も取らせてしますし…」
「でもよ~、シュウ。そこがダメってなるともうウチの署からのどこにも行けなくなっちまうぞ?そしたらオレ達がたまにするみたいに署で寝泊まりするか?なぁ~んて…」
僕の警護の為に部屋の中にいる美晴さんが冗談めかしてそんな事を言った。
「えっ?警察署に?泊まったりするんですか?」
「ああ。特別捜査本部が出来るようなデカい事件があった時はな。帳場が立つって言うんだけどよ、そーいう時は捜査の為に捜査本部に泊まり込みだからな。4階の柔道場とか剣道場に布団敷いて寝泊りすんだよ」
「なんか合宿とか修学旅行みたいですね」
「ああ、そんな感じだな。まあ署内にはシャワー室もあるし、ゼータク言わなきゃ泊まるのにゃあ問題ねーよ」
「うーん…」
そう言われて僕は少し考え込む。署内か…、もし泊まれれば研修の時にわざわざ送迎してもらわなくても良いんだから時間も人員も割かなくて済む筈だ…。それにここは警察署の中、これほど安全な場所もないだろう。そこで僕は署長さんに向き直った。
「署長さん。もしよろしければ研修の期間、こちらにお世話になる事は出来ませんか?」
……………。
………。
…。
僕が署長さんにお願いした署内で寝泊りさせて下さいというお願い…、署長さんはすぐに県警の上層部にお伺いを立ててくれた。
するとすぐに返事が来て、署長さんから正式に部外者である僕の警察署内での宿泊許可と県警が全責任を持って警備を行うとの事だ。
その許可が降りたとの話を聞いた瞬間、美晴さんは拳を天に突き上げ尚子さんは何やら手を組み神に感謝を伝えるかのごとく祈りを捧げていた。
しかし、さすがに美晴さんも尚子さんも特別警護任務をする資格がある腕利きの刑事さん。すぐ頭を切り替えたのかキリッとした表情に変わった。さらにしばらく署内に寝泊りするのだから何かと身の回りの物は必要になる、だから買い出しに行こうと美晴さんと尚子さんが僕に持ちかけた。それを署長さんに確認すると外出の許可が下りた、もちろん警備をしっかりするという条件付きで。
「よし、話は決まった!署長、オレは署の正面入り口にパトカー回して来るぜ!」
「わ、私も行きますわ!あなただけじゃはしゃいで何かやらかしそうで不安ですわ!」
勢いよくドアを開けて美晴さんと尚子さんが署長室を飛び出して行った。
「私からすると館本も武田もなんだか危なっかしいんですがね…」
一山さんがヤレヤレといった感じで呟く。
「まあ良いじゃないか、ヤマさん。若いうちは何かとハミ出す事もあるだろう」
「それを言いましたらボスも…。いや、それは今も…ですかな」
「ふふふふっ!それを言ったらヤマさんだって今も…、だろう?」
そんなやりとりをしながら署長さんと一山さんが笑い合う。良いコンビだなあと思いながら僕は二人と一緒に警察署の出入り口に向かった。
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