上 下
20 / 82
第2章 天然男子を巡る思惑とそうはさせない佐久間修

第19話 修、ここで寝泊まりするってさ

しおりを挟む

「とりあえず少年が鴫田警察署ウチで復帰プランを受講するのは問題無いが、そうなるとどこでまずは寝泊りするかだな…」

 エリート官僚を帰らせた後、しばらく休憩した僕は署長室に場所を移し明日からの事の話し合いを始めた。その冒頭、署長の真賀里さんが腕組みしながら話を切り出した。

「え?自宅から通うのはダメなんですか?」

 医療センターでのメディカルチェックも終わった事だしと僕はお伺いを立ててみた。すると今度は副署長の一山さんが口を開いた。

「それはやめといた方が良いだろうね」

「えっ?それはどういう…?」

 不思議に思って尋ねてみた。

「昨日の退院の時、そして署に着いた時にマスコミを見ただろう?今まさに君は時の人だ。どこへ行くにも何をしていても注目されるだろう。君が帰るとなればおそらく自宅の方へもマスコミが殺到するだろう。いや、すでにその兆候はある。まあ、ご自宅やお母様、妹さんにも陰日向に警官を派遣しているからその辺は安心して欲しい」

「そんな事になってるだなんて…。ありがとうございます。で、でも、どうして…」

 僕は予想外の事に驚く。

「驚くのも無理は無い。だがな少年、これが現実なんだ。『天然の男』、それも年頃の…。男性消失現象が起きた十五年前の行方不明者、それが再び姿を現した時には当時と変わらない姿。いかにもマスコミが食い付きそうなミステリアスな話だ」

「それにね、佐久間君。十五年前に世界から男が姿を消した、わずかに残った男も当然その十五年間で歳をとる。いわゆる数少ない天然男子の高年齢化だ。ましてや男性の数が減った今、その後に生まれる男子出生数も比例して減る。これはまさに世界的な社会問題でもある。なんせ若い男性ほど先細りになるんだからな。そんな中で現れた君はまさに明るいニュースそのものだ。十五年間の空白というミステリアスな出来事といい注目を集めるのも無理は無いよ」

「そ、そうなんですか…」

「そこで我々警察としては…少年、君にしばらくはホテル暮らしをしてみてはどうかと考えている」

「え?ホ、ホテル暮らし…ですか?」

 署長さんの思わぬ提案に僕は戸惑いながら問い返す。

「ああ。今の時点で我々が考えているのは街の中心部、昨日泊まったホテルだな」

「昨日のホテル…、ですか?」

「ああ、そうなるな」

「いや…、でも僕みたいな者がホテル暮らしとか申し訳ないですし…」

「費用とかを心配しているのか?それなら全てこちら持ちだから気にする事は無いぞ。それにもちろん警護と送迎もする」

「え、ええ。そこも気になりますけど…。街のあの辺りって役所もあるし、それに観光エリアじゃないですか。江戸時代の風情を残してはいるけど道幅は狭いしいつも渋滞してますよね、今日だって…。それを毎日送迎をお願いするとなるとお時間も取らせてしますし…」

「でもよ~、シュウ。そこがダメってなるともうウチの署からのどこにも行けなくなっちまうぞ?そしたらオレ達がたまにするみたいに署で寝泊まりするか?なぁ~んて…」

 僕の警護の為に部屋の中にいる美晴さんが冗談めかしてそんな事を言った。

「えっ?警察署に?泊まったりするんですか?」

「ああ。特別捜査本部が出来るようなデカい事件があった時はな。帳場ちょうばが立つって言うんだけどよ、そーいう時は捜査の為に捜査本部に泊まり込みだからな。4階の柔道場とか剣道場に布団敷いて寝泊りすんだよ」

「なんか合宿とか修学旅行みたいですね」

「ああ、そんな感じだな。まあ署内にはシャワー室もあるし、ゼータク言わなきゃ泊まるのにゃあ問題ねーよ」

「うーん…」

 そう言われて僕は少し考え込む。署内か…、もし泊まれれば研修の時にわざわざ送迎してもらわなくても良いんだから時間も人員もかなくて済む筈だ…。それにここは警察署の中、これほど安全な場所もないだろう。そこで僕は署長さんに向き直った。

「署長さん。もしよろしければ研修の期間、こちらにお世話になる事は出来ませんか?」

……………。

………。

…。

 僕が署長さんにお願いした署内で寝泊りさせて下さいというお願い…、署長さんはすぐに県警の上層部にお伺いを立ててくれた。

 するとすぐに返事が来て、署長さんから正式に部外者である僕の警察署内での宿泊許可と県警が全責任を持って警備を行うとの事だ。

 その許可が降りたとの話を聞いた瞬間、美晴さんは拳を天に突き上げ尚子さんは何やら手を組み神に感謝を伝えるかのごとく祈りを捧げていた。

 しかし、さすがに美晴さんも尚子さんも特別警護任務をする資格がある腕利きの刑事さん。すぐ頭を切り替えたのかキリッとした表情に変わった。さらにしばらく署内に寝泊りするのだから何かと身の回りの物は必要になる、だから買い出しに行こうと美晴さんと尚子さんが僕に持ちかけた。それを署長さんに確認すると外出の許可が下りた、もちろん警備をしっかりするという条件付きで。

「よし、話は決まった!署長ボス、オレは署の正面入り口にパトカー回して来るぜ!」

「わ、私も行きますわ!あなただけじゃはしゃいで何かやらかしそうで不安ですわ!」

 勢いよくドアを開けて美晴さんと尚子さんが署長室を飛び出して行った。

「私からすると館本も武田もなんだか危なっかしいんですがね…」

 一山さんがヤレヤレといった感じで呟く。

「まあ良いじゃないか、ヤマさん。若いうちは何かとハミ出す事もあるだろう」

「それを言いましたらボスも…。いや、それは今も…ですかな」

「ふふふふっ!それを言ったらヤマさんだって今も…、だろう?」

 そんなやりとりをしながら署長さんと一山さんが笑い合う。良いコンビだなあと思いながら僕は二人と一緒に警察署の出入り口に向かった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

処理中です...