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第1章 世界の半分をやろう

第15回 再会。姉のような母と初対面的な妹

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 パトカーに揺られ警察署に着くと病院の時と同じように沢山の婦警さん達から拍手と共に熱烈な出迎えを受けた。また、ここにもカメラを持った人がいる。

 よく分からないが署長さんや埼玉県警のお偉いさんが集合しており名刺を渡されまくった後に記念撮影、また警察署の皆さん全体との集合写真を撮った。

「おらーッ、お前らメイクにリキ入れ過ぎてンじゃねえよ!普段の仕事もそんくらい気合い入れろ!!」

 署長さんがそんな声を上げている。

「そっか…写真か!」

 その声にいち早く反応したのは美晴さん。その様子に尚子さんが訝しげに声をかける。

「どうしたんですの?」

 その声に美晴さんはニヤリとするとスーツのポケットからスマホを取り出した。

「シュウ~、一緒に写メ撮ろーぜ!」

 そう言って駆け寄ってくる。

「あっ!ずっ、ズルいですわ!わっ、わたくしもっ!」

 尚子さんが追いすがるように続いた。

「館本ーッ!武田ーッ!職権を濫用するなっていつも言ってンだろーが!」

 美晴さんと尚子さんが署長さんに耳を引っ張られ退場していった。

「ウチの馬鹿がすまない…」

 疲れた様子で戻ってくると署長さんが頭を下げる。

「いえ…」

 僕は力無く応じた。なんだろう、豪快に見えて署長さんも苦労してるんだなあ…。

「さて…気を取り直して…と」

 居住まいを正して署長さんが改めて話しかけてきた。

「少年…、機密情報漏洩を避ける為に今初めて言うが…署内にご家族を案内している。面会…するだろう?」

「えっ!?き、来ているんですか?あ、会います!もちろん会いますッ、会わせて下さい!」



 警察署内に入り第一会議室と表記された部屋に入ると二人の女性がいた。そのうち一人の女性が僕を見るなり走り寄ってきて口を開いた。

「しゅ、修クンッ!修クンなのねッ!?」

 あ、間違いない。この声、呼び方、声…。その姿も見覚えがある…。

「ま、真希子さんッ!」

 ぼ、僕はその人の名を呼んだ。すると、その女性の表情がたちまち曇った。

「しゅ、修クン…」

 女性はガックリと膝をつくように落胆した。

「じゅ、十五年ッ…。十五年も経つのに…。まだ私をッ…、まだ私を『お母さん』とか『ママ』って呼んでくれないのね…。私、悲しいっ!!」

 あああ、間違い無い。他の事はしっかりやる人なのに呼び方に関してはたちまちポンコツになって僕にウザ絡みになるところ…、この人まるで変わって無いなあ…。

 この人は佐久間真希子さん、僕の母だ。あえて言えば父の後妻である。僕の生みの母は幼い頃に病没していた。そして、僕が中学校三年…丁度今から一年前に父と真希子さんが再婚をした。当時、真希子さんは19歳。僕にしてみれば真希子さんは母と言うよりはお姉さんといった感じだった。

 うん。警察とか政府を疑う訳じゃないけど、僕にこんなウザ絡みをしてくるあたり真希子さんは偽物とか替え玉ではないみたいだ。ただ単に僕や家族のデータを叩き込んだだけじゃこういう反応は再現しないだろう。

 あれ…?でもそう言えば真希子さんには…。

「あ、あの…。お兄…ちゃん…?」
 
 ひょこっと現れたのは真希子さんの後ろに隠れるようにしていた小柄な女の子。僕をお兄ちゃんと呼ぶこの子は…。

「ま、真唯まいちゃん…なの?」

「うんっ」

 小柄な彼女が嬉しそうに頷いた。肩より少し上のあたりで切り揃えられた髪が揺れた。

 し、信じられない。あの赤ん坊だった女の子…真唯ちゃんが…すっかり大きくなって…。と、言っても小柄だけど…。真唯ちゃんは真希子さんの連れ子、血のつながりはないけど僕の妹って事になる。

 真希子さんは真唯と母一人子一人だった。旦那さんはいなかった。それが死別によるものか離別によるものなのか…。それについては僕は聞いていないけれど。

 生まれたばかりの真唯ちゃんを抱えて真希子さんは父さんと出会い結婚をしたんだ。どういう経緯いきさつだったのかは分からない。だけど新しい家族を得た、手探りだったけど家族のカタチを探しながら僕達は暮らした…。そんな時だった、僕の父があっけなく病没してしまう。

 残されたのは僕達三人。僕には祖父母を頼るという選択肢もあったが真希子さんは一緒にいないかと聞いてきた。

 僕には経済力は無い。だけど祖父母の元なら食べていく事は出来るだろう。だけど住み慣れたこの鴫田の町から遠く離れなければならない。

 乳飲み児の真唯を抱えて僕までいては楽な暮らしになる訳はないだろうと感じていた。まだ十代中盤の僕でさえそう思うのに僕よりも歳上で母親でもある真希子さんはもっともっと痛切に感じていた事だと思う。

 それこそ僕の手を離したとしても仕方ないと思えるくらいに。だけど真希子さんはそれをしなかった。それからだろうか…、僕達は『家族』だってより強く思えるようになったのは…。

 これから…、これから埋めていこう。十五年の空白を…、家族としての十五年を…。僕はそんな風に考えていた。

 真希子さんと真唯ちゃんとの再会の時間はつつがなく終わった。あまり長くは時間が取れず短い間だったけど、時間はこれからもまだまだある。そうだ、これから一緒に暮らしていけば良いんだ…僕は再び会えた二人にそんな思いを馳せていた。

……………。

………。

…。

 真希子さんと真唯ちゃんを交えて僕は今後の方針…、具体的に言えばどのように生活をしていくかを話し合う事になった。

 まずは当面の僕の生活についてだ。仮に僕が都会で暮らしたいと望めば当然ながら東京都内に引っ越す事になる。そうなると僕の護衛を担当するのは今の埼◯県警ではなくなる。そのあたりも含めて署長である真賀里さんと副署長の一山さん、そして警察のお偉い人達も交えて署内の一室で話している。

「なるほど…。希望としては高校に復学…、その後はなんらかの職に就いて暮らしていきたいと…」

「はい、僕はまずは高校を卒業したいですね。それで高校生活を送りながら就きたい職を考えたり、あるいは学びたい分野があったりすれば進学を考えていきたいです」

「そうだな…。確かに小さな頃からの夢というか、強い憧れを持っていた職というような事でもなければそう簡単には進路を決められるものではないからなあ…」

 僕の話を聞き取りながら署長さんが応じた。

「小さな頃ですか…?そうなると刑事さんになってみたいとかありましたねえ。…あとは派出所、いや今は交番と呼ぶんでしたっけ?そこで勤務してみたいなとか思ったものです」

「「ッ!!!」」

 なぜ警察官か?それは単純極まりない理由だがやっぱり子供心に拳銃を持って撃ってみたいと思うものだ。昨日も多賀山さん達が持っていた拳銃を見てもの凄く羨ましく思ったし…。

 それに交番で勤務してみたいというのは某有名漫画の影響も大きい。はちゃめちゃな事をする男性警官が主人公の物語だが、色々な金儲けやら趣味の話も多く楽しく読んだものだ。

「佐久間…、修君…」

「は、はい!」

 いつの間にか警察のお偉いさん達が僕の横にまで来ていた。そして何か力強い目で僕を見つめながら僕の名を呼んだ。

「そうか、君は警察官や刑事に憧れを感じていたのか…」

「は、はい。今回の警護も鴫田警察署の方達にはとてもよくしてもらいましたし改めて警察官という職業の素晴らしさを感じました」

「ほ、ほほう…、それはそれは…。そうか、そんな事が…。佐久間修君…、君さえ良ければだが…是非いつか一緒に仕事をしてみたいものだな」

「あ…、は、はい」

 僕がそう応じると埼◯県警の幹部の人は満足そうに頷き署長さんに声をかけた。

「…うん。真賀里署長…ちょっと。佐久間修君、お母様も妹さんも…申し訳ありませんが我々は急ぎ話し合わなければならない事が出来てしまったので失礼させていただきます」

 そう言ってお偉いさん達は署長さんを連れて一礼すると部屋をそそくさと出ていった。そして部屋には副署長の一山さんと僕達家族だけが残された。

「すまないね…、どうやら急に話すべき内容が出来たみたいで…」

「そうなんですね。警察の方は色々お忙しいんですね」

 そう返答した僕に何やら一山さんが苦笑いする。

「いや…まあ…。それより佐久間君、十五年ぶりの再会だ。まだまだ話したい事とかあるんじゃないのかい?」

「あ、はい」

「それならゆっくり話すと言いよ。…そうだ、それならこんな会議室なんかじゃなくて応接室の方が良いか。せっかく話すにしてもパイプ椅子ではいささか硬い」

 そう言うと一山さんは立ち上がった、応接室に案内される。

「それではお母様も妹さんも…。こちらで家族水いらず、積もる話もあるでしょう。くつろぎながらお話し下さい。後ほどお茶も持って行かせますので」

「ありがとうございます」

 僕達は頭を下げた、そして先ほどよりゆったりとした雰囲気の時間を過ごした。



 一方その頃、県警幹部達は…。

「お、おい。聞いたか!あの少年の発言を!!」

「もしかすると警察を…、それこそ我が埼◯県警を志望するかも知れないじゃないか!!真賀里君、キミ、分かってるね!?」

 警察機構の幹部達が沸きたっている。

「はあ…」

 一方で真賀里署長は極めて冷静だ。

「しかも、どうやらこの鴫田署を憎からず思っているようじゃないか!彼が我々と関わってくれるだけで我らが埼○県警への良いイメージにもつながっている!」

「もしこれでウチの県警に入ってくれれば…。クク…、本庁さんの鼻を明かしてやれるぞ!大金星だ!ニュースにもなる!!」

「あの少年…、決して逃すなよ!必ず、ウチに入れるんだ!」

 盛り上がる幹部達に一応合わせる形で真賀里署長は返事をした。興奮した幹部の一人はさらに続けた。

「それにな…」

「はい」

「ウチの娘は佐久間君と同じ年齢でね…。もし同じ職場ともなれば…くっつくかも知れんだろ?ふふふ、色々と…、色々と期待を持たせてくれる少年だ」

 もうここまで来ると職権濫用と言うのが馬鹿馬鹿しくなるな…、真賀里署長はそんな風に思い始めていた。そしてあの佐久間修という少年のこれからが大変だな…とも。

 まあ、誰が何を言おうと守ってやろうと思う。そうでないとウチの署員達やつらが黙ってない。

 さてそうなると誰を護衛に付けるかな…、龍崎は頭の中で人選を急いでいた。

 



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