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第5章 カグヤさんはお怒りです

第56話 加代田さん、剣も一流?

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 俺は仲間達、そしてバンズゥの一行と共に冒険者ギルドを後にしようとした。

「おい、待てよ」

「このまま帰すって訳にゃあいかねえ!」

 その俺のそばに二人の男が近づいてきていた、あのザコネルとかいっていたヤツの連れの二人だった。

「どういう意味だ?」

「俺たちゃ冒険者、やられっぱなしナメられっぱなしじゃいらんねえンだよッ!行くぞ、ピラチン!」

「おうよ、サンシター!!ちいとばかし痛めつけさしてもらうぜえ!」

 そう言うと二人は飛びかかってくる。

「コイツら、そう強くはない!助太刀はいらなそうだ!」

 俺はそう言って体をかわし先に接近してきたサンシターの足を引っかけるとものの見事に奴はつんのめり転倒、それに足を取られピラチンとかいうやつももつれるように転倒した。

「カヨダの動きが速いニャ…、ボクより…」

 俺の動きを見てミニャが呟いた。

「そりゃ光栄だ。ミニャにそう言ってもらえるなら自信が持てそうだよ。だけど動き始めるまでの反応とかはミニャの方が圧倒的に早い。全部含めたら俺より先にコイツらの足を引っかけてるんじゃないか?」

 俺がミニャより速い理由、それは今履いているブーツの効果によるものだ。これは単純に足の速さを二倍にする、例えば元々50メートルを7秒で走れるのなら単純計算でこのブーツを履いて走れば3秒半で走れる事になる。

「テ、テメエ…」

「よ、よくも…」

 そう言って二人が起き上がった。

「名は体を表す…、まさにその通りだな」

「な、なにィ?」

「どういう意味だ!?」

 俺の呟きに二人が戸惑ったような反応を見せた。

「だってそうだろう、お前達の名…。チンピラに三下さんした…まさにその通りじゃないか」

「テ、テェンメー、ぶち殺したらァ!!」

 一人はショートソード、もう一人は大ぶりのナイフを左右の手に抜いた。そのまま二人が俺に迫る。対する俺はストレージから星幽の黒い剣アストラル・スレイヤーともう一振り、新たに創造していたフェンシングで使うような刀身が白銀色に輝く細身の剣レイピアをストレージから取り出した。

「曲剣ともうひと振り、合わせて持つならこういう剣だよな。白銀の戦…シルバーチャリオッ…、おおっと危ない…『シルバーなんとか』プラス『アストラル・スレイヤー』ッ!!二刀流ッ!!」

「ヘッ!!二刀流気取りかよォ!素人がッ!!形もバランスも不揃いな二本の剣なんて使えるかァァ!!」

「よしんば剣を二本同時に扱えてもようッ、こっちは二人合わせて武器三本だぜえ!もらったァ!!」

 俺と二人が交錯する。三度みたび撃剣の音が響いた後、ショートソードの男が武器を取り落としその腕に血が滲む。

「ク、クソッ!」

「サ、サンシターッ!?よ、よくも…」

 ナイフを二本持って遅い来る男、確かピラチンだったか…サンシターがやられても怯む事なく再び切りかかってくる。

 二度の撃剣の音がした後にピラチンは両方の手に持っていたナイフを取り落とし、さらにはその両手に傷を負っていた。

「くっ…。な、なんで…」

「俺達、ひと呼吸で三回の攻撃…三本の刃物で襲いかかったのに…。ヤツは二本の剣しか…」

 サンシターとピラチンは悔しそうにこちらを睨みながら言った。あの手ではしばらく剣は持てないだろうが万が一を考え奴らの取り落とした武器をストレージに収納、俺は一つ息を吐き言ってやった。

「単純な話だ。俺は四回切りつけた。だから最初の斬り合いで三回は互いの武器を打ち合い、残り一回でそのショートソードを持つ手を切り裂いた。あとはお前一人、再び切り結んで二回は互いの武器を打ち合い、残る二回の切りつけでお前の左右の手を切り裂いた。終わりだな、お前達はしばらく剣を持つ事は出来ん」

「な、なんで…そんな事が…出来るんだ?一瞬で二回も剣を振るなど…」

「お、俺達おれたちゃあ…ふ、二人がかりなんだぞ…」

 サンシターとピラチンはがっくりとうなだれ床に膝を着いた。

「さあな、それだけの技量があるってだけの話だろう」

 俺はさも当たり前のように返答した。ちなみにこれは真っ赤な嘘、俺は剣の素人だ。しかし、今俺が身につけている手袋に秘密がある。レトロゲームから着想を得たアイテムだ、元ネタのアレは籠手ガントレットだったが。

 そのアイテムは入手すると剣の鞘からの抜き差しが二倍の速さで出来るようになる。そして効果はそれだけではなく、ラスボスとなる相手にはこれがないと切り結ぼうにも接触しただけで即死してしまう。おそらくは抜剣と納剣だけが速くなるのではなく、剣の扱い自体が速く上手になるのだろう。それでラスボスと初めて切り結ぶ事ができる。

「す、すげえ、アイツDランクとは言え勢いのある奴らの二人がかりを簡単にあしらっちまった!」

「ま、魔法の使い手は長年の修行が要るッ!それでも魔術師になれるとは限らねえ!だから体を動かしてるヒマなんかねーはずだ!」

「それを杖を一瞬で呼び出し、回復魔法を使って…あの素早さに剣まで使えるだと!や、ヤツはいったい何者なんだ!!?」

 野次馬どもが騒いでいる。

「あ…、忘れものしてたなあ…」

 ふと思いついた事があったので俺は床に崩れ落ちている二人に近づいた。

「お前達、ナメられたままじゃあいられねえと言ってたよな…。丁度良い、俺も同じような気持ちだよ」

「「え…?」」

「俺をぶち殺すって言ってたよな?それなら殺されそうになったままではいられない。こちらだけ襲われてお前らに何のお咎めナシってのはどうにも気分が悪い」

 俺は再び二振りの剣を取り出した。

「今からお前達には試し切りの実験台になってもらおうか、俺は商業ギルド所属の商人でもある。その俺にお前らは女と金を寄越せ、あまつさえぶち殺すと武器まで抜いて襲ってきた。これは商人を襲う盗賊の所業だ、返り討ちにしても何の非難も受けなくて済む」

 だんっ!!

 わざと踏み込む音を大きく立てて俺は二人に接近した。

「どうせこの場で返り討ちに遭わなくても捕まれば盗賊ってのは縛り首か過酷な環境で死ぬまで働かせられる奴隷になるんだってな?だったら今死ぬか、後で死ぬかってだけだ。俺の故郷じゃこんな言葉があったよ」

 コホン…、軽く咳払いして俺は言ってやった。

「いつ死ぬの?今で…」

「「ヒ、ヒイイィッ」」

 脅すだけのつもりの言葉だったが俺にみなまで言わせず二人は背中を見せて這いずるように逃げ出した。

「逃がさない…」

 一言そんな呟きが聞こえたと思ったら逃げようとした二人の足首が白い手に掴まれた。そのまま片足ずつギルドの床にいつの間にか現れた影の中に引き込まれた。

「う、動けねえ…」

「な、なんだこりゃあ!?」

 影に引き込まれ奴らはその場所から抜け出る事が出来なくなっていた。

 ふわぁ~…、ふわり…ふわり…。

 代わりにカグヤが影から現れゆっくりと浮上した。

「カグヤ…よくやったね」

 俺がそう言うとカグヤがこちらを振り向いた。

 にこり…。

 そして静かに笑った、本当に嬉しそうに。…うん、マネしてみるか。

「さて…、死にたくなければ逃げても良いよ。ほら逃げろ。…俺って優しいだろ?死刑確定のお前達に命が助かるチャンスを与えてんだから」

 そう言って俺は微笑みを浮かべた。
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