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第5章 カグヤさんはお怒りです

第54話 加代田さん、出禁を食らう

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「おいっ、待てッ!!そこまでだッ!!」

 受付でミニャの応対をしていたスキンヘッドのオッサンがカウンター板を跳ね上げてこちらに向かってきた。

 どうやら冒険者ギルドここのマスターであるらしい。ギルドってのは日本でその存在を当てはめれば同業者の組合とか協会、あるいは連合会。ミニャの言によれば互助会のような側面もあるらしいが所属していない俺にはそこらへんのところ詳しくは分からない。

「ギ、ギルマスッ!!助けッ………!!」

 俺に殴りかかってきた男、ザコネルが助けを求め声を上げたがそれが途中で途切れた。何事かと視線を下に向ければザコネルの口元はすでに影の中へと沈んでいた。

「口がなければしゃべりようもないか」

 思わずそんな事を呟いてしまった。

「おい、お前ら!そこまでだ、早くコイツをそこから出せ!」

 やってきたスキンヘッドが命令口調で言った。カグヤはザコネルを沈める手を止め俺に視線を向けた、このままザコネルを沈めるかそれとも出してやるのか…その判断を任せるつもりのようだ。そして俺はと言えばそんなギルドマスターにカチンときていた。

「なんだよ、その態度は?」

「な、なんだとッ!?」

 自分の言葉に従わないとは思っていなかったらしくギルドマスターの声にわずかに戸惑いが感じられた。

「なんだと、じゃねえよ」

 思わずこちらの声にも力が入った。相手は確かに冒険者ギルドここの大将かも知れない。だが、こっちだって小さくとも商店の主だ。へりくだってばかりじゃやっていけないのが商売だ。言われた事をハイハイ応じてるだけじゃ良いようにされて大損をしてしまう事も少なくない。だからしっかりしなくちゃならない。

「見てただろ!?コイツが女を寄越せ、金も奪ってやるよと殴りかかってきたのをよ!そんなヤツをと解放すると思ってんのか?」

「ぼ、ギルド内での冒険者同士の私闘は御法度ごはっとだ!だからコイツをさっさと…」

「何が御法度だ!!」

 俺は叫んだ。

「コイツが俺に難癖なんくせつけてきた時はッ!?女と金を寄越せと殴りかかってきた時はッ!?それをお前は止めたかッ!?なのに今ごろしゃしゃり出てきやがって!こういうのは私闘って言わねえのか!?」

「そ、それは…。コイツらも元気と不満が有り余っていたみたいで…」

「何が元気だッ!?ロクに取り締まりもしないクセに。そんなヤツが言う事を聞かなきゃならねえいわれは無えぞ!」

「ぐ、ぐ、ぐ…!な、流れモンがあッ!!」

 ギルドマスターが顔を真っ赤にして叫んだ。

「いいかッ!!そこのザコネルは二年もしねえでランクなしからDに上がってきた期待の新人なんだよォ!そこの猫娘はE、ようやくチョロチョロ小型モンスターを狩る程度の腕だ!弱小冒険者に過ぎねえ!」

「はあ!?ミニャが弱小だと!?」

 冗談じゃない、マーダーグリズリーとやり合うだけの強さがあるミニャを弱小だと!?さっきザコネルの能力値パラメータを鑑定してみたから分かるが俺みたいな素人には無双できそうだが少なくともマーダーグリズリーには一撃で沈むような腕だろう。

「ランクが違うんだよランクが!冒険者ってのは実力チカラが全てだ!そんな俺達の稼業かぎょうつええ方に使えるヤツを優遇すんのは当然だろうがッ!!」

「だから止めなかった…ってのか?」

 冷えた、それでいていつもより低い声が俺の口から洩れた。

「そうだ、登録に来たんだろう?だったらお前ら、俺の言う事を聞け。そうすりゃ登録はしてやる。そこの猫娘の拠点変更もな!」

「ふざけるんじゃないニャ!!」

 ミニャが叫ぶ。

「拠点の変更にはどんなモンスターでも良いから三匹狩って来いと言ってたニャ!」

「ギルドマスターの俺が決める事だ!良いから早くザコネルをそこから出せ!ギルドはザコネルの方が価値ありと見てるって事だ!!」

 ミニャの言葉にマスターが言い切った。

「話にならん!!ミニャ…、悪いがここへの拠点変更はナシだ。だが、ミニャは俺が食わしていく。帰るぞ、みんな!!」

「うんッ!!」

 ピョンと跳ねてミニャが俺の横に着地した。

 ふわり…。

 カグヤもまた床から浮かび上がり俺の横に…。ちなみにザコネルは床というか、水たまりのような影の中に口元まで沈んだままだ。

「同意」

 車椅子に座るロゼもまたそんな言葉を口にした。それを聞いて俺も心が決まった。

「行くぞ。そこの男は好きにしとけ」

 そう言って俺はロゼの車椅子を押し始める。

「ク、クソがっ!?テメーは出禁だ!低ランクの猫娘に、ど素人が何の役に立つってんだッ!!おい、誰か腕の立つ魔術師を呼んでこいッ!ザコネルのコレも呪術のたぐいだろうッ、解除させるんだッ!!」

 背後でギルドマスターが大声で指示を出した。俺は構わずギルドを後にしようとした、するとその行き先である出口の扉が開き見知った顔が飛び込んできた。

「こ、ここにいなすったか!客人ッ!!」

「バンズゥの親分さんじゃないか!?」

 ミニャと同じく猫獣人のバンズゥが何人か引き連れて冒険者ギルドに飛び込んできた。

「て、大変てえへんなんだ、客人ッ!マ、マルンがっ…」

「マルン?あの小さな子か?」

「そうだ、見てくれ!…おいっ」

 そう言うとバンズゥは後ろにいる若い衆に声をかけた。

「こ、これはッ…!?」

 若い衆は猫獣人の少年マルンを抱えていた、意識は無く血止めこそされているが腕にナイフが刺さったままだ。そしてもう一人、散々殴る蹴るをしたのだろうボロボロになった男をギルドの床に転がした。

「このクソ野郎がこないだ袋叩きフクロにしたのを逆恨みしやがって…その原因になったと言いがかりつけてマルンの坊主の腕を刺しやがったんだ!や、ヤベえ事によう、腕のけんをやられちまったのかマルンは指一本動かせなくなっちまってるんだ!」

「なんて事を!」

 俺が吐き捨てるように言うと床に転がされた男が不快極まりない声で笑った。

「ヒャハハハァァ!!俺をボコにしやがった礼をしてやったぜェ!!見てみろよ、その刺し傷!完全に腱を切ってやったぜぇ、可哀想かえーそーによォ。もうそのガキの腕、もう一生動かんぜぇ!アヒャヒャヒャヒャ…」

「こ、このクソ酔っぱらいが!」

 若い衆が男を蹴りつけるが男は笑う事をやめない。

「どうしたあ?そのガキィ…何歳いくつだ、五歳か六歳か?あと何年、動かねー手で暮らすんだろうなァ?ヒャハハッ…ゴブッ!!?」

「黙ってろ、クズ野郎」

 そう言うとバンズゥはブーツの靴先を男の口にねじ込んで強引にしゃべるのをやめさせた。そして顔をこちらに向け必死な様子で懇願する。

「な、なんとかならねえか客人ッ!お前さん達がここに入ってくのを見たモンがいてやって来たんだ。頼む、客人ッ!マルンの腕、なんとかならねえか!?」

 ざわざわと周囲の冒険者達が何やら言っている。

「ムリに決まってんだろ…、そもそも聖職者…いやそれ以前に魔法の使い手なのか?」

「スジをやっちまってんだろ、治る訳ねえ…」
 
「ああ…、傷を塞げる事が出来りゃおんの字だろ。それに切れた腱を再生するとか神殿の高僧ハイプリーストでもなきゃ不可能だ。あの手が治るなんてある訳ねえ」

「治すにしたっていくらカネかかるんだよ…神殿への布施ふせによォ…」

 出来る訳ない、そもそもこんな素人達が怪我を治すとか何を言ってやがる…そんな雰囲気だ。だが俺は…。

「やるよ」

 たった一言、そう呟いた。

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