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第2章 創造(つく)られた女性と創造するスキル
#16 来訪者
しおりを挟むトントントン…。
再びドアをノックする音がした。
ごくり…。
自分で飲み込んだ生唾の音が意外なほど大きく響いた。
「相手は一人…」
「えっ?」
ロゼのボソッと呟く言葉に俺は思わず振り返る。
「外にいるのは一人だけ、周囲に潜む反応は無い…」
「分かるのか?」
「ええ」
ロゼには人の気配のようなものを察する能力があるらしい、それで来訪者の数を教えてくれたのだろう。外にいるのが俺達二人を逃がさないように複数の…、それこそ取り囲んでいるようなものでなければ追手という訳ではないのかも知れない。
「しかし…」
俺は考える、それなら今ドアを叩いているのは誰なんだと…。
「カヨダ」
ロゼが再び口を開いた。
「あなたには物を作り出せる能力があるように見受けられる。だから作って欲しい物がある、動けない私でもあなたを守る事が出来るように…」
それはロゼからのリクエストであった。
……………。
………。
…。
俺は玄関ドアに近づいて声をかける。
「誰だい?そこにいるのは…」
同時に玄関横のモニターに視線を走らせる、外にいる来訪者の正体を見極める為だ。そのモニターにはドア前に人影が映っている。しゃがんでいるのか、あるいは背が低いのかおでこより上しか映っていない。そして特徴的なのが頭の上に何かがついていて、時折それがぴょこぴょこと動いている。
「やっぱり人がいたニャ!」
ドア越しに応じる声がした。
それにしても…、『ニャ?』ずいぶんと変な語尾をつけて話すものだ。そして相手はどうやら女性のようだ。少し高めの声、さらには若いようだ。
「ここはお家かニャ?」
「あ、ああ、そうだが…」
「ボクはミニャ、冒険者なのニャ!お外は強い雨でボクは難儀しているのニャ。だから雨宿りをさせてほしいのニャ!」
「雨宿り…」
「うん!もちろんタダで入れてくれとは言わないのニャ!お金はあまり無いけど代わりに獲れた獲物があるのニャ!それを分けるって事でどうニャ?」
ミニャと名乗ったモニター越しの頭部しか見えていない彼女は必死に身振り手振りを交えて話しているようだ。その様子からは悪だくみをしているようには感じないが…。
(どう思う?ロゼ)
俺はそんな問いかけをすべく視線を後ろに向けた、そこには布団にうつ伏せになりながらも俺が創造した弩を構えるロゼの姿があった。その彼女がゆっくりと頷いた、俺がドアを開ける事に反対はしないという事だろう。
「分かった、ミニャ…だったな?今からドアを開ける。ただし、ゆっくり開けるからな。そこを動かないでくれ」
「分かったニャ!」
俺はドア横に移動した、ドアの正面に立たないのはロゼが構えるボウガンの射線を塞がない為…。彼女の射撃の腕がどれくらいのものかは分からないが自ら申し出るくらいだ、きっと自信があるのだろう。俺は彼女を信じ、ドアノブを捻り軽く押した。
ゆっくりとドアが開いていく、屋根を打つ雨音から強い降りだと分かってはいたが開いていくドアの隙間から侵入してくる地面を打ちつける音に激しさを改めて痛感する。そして姿を現したのは…。
「ニャ…」
そこにはすっかり雨に濡れた小柄な女の子が立っていた。しかし何より特長的なのは頭部にある耳と長い尻尾。そして両頬にそれぞれ赤い丸型の模様がある。
彼女は俺の言った事を守りその場から動かず両の足で立っていた。その小さな体は小刻みに震えていた。頬を伝う水がポトリと地面に落ちた。
「ッ!」
俺は思わず駆け寄った。この真っ暗な外にいてさらには激しい雨だ、心細くその体が冷えきっている事は容易に想像がつく。彼女からすれば明るい…、さらには雨も避けられ暖かい室内はどれだけ羨ましく感じるだろう。窮状を訴え、俺に縋り付いてでも強引に中に入ろうとしたって無理からぬ事だろうに…。
「悪い!待たせたッ!中に入るんだ、寒かったろう…」
俺は亜空間物質収納からタオルを取り出し彼女に手渡し家の中に招き入れた。
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