実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

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【本編続き】

3-13.嵐の前の静けさとVIPな観客のステージ

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 ミラは、王都試験が近づく中で、試験への準備を進めていた。
 薬の調合と、試験に合格するための知識の蓄えである。
 王都の図書館でまだ読んでいない文献を読み、資料を漁った。
 古代の外国の知識についても時間のあるときに調合に応用できそうな物を取り入れては、研究を進めている。

 しかし、本番に弱いリリカは、試験が近づくにつれて、段々と緊張が増してきたのか、体調が少しずつ悪くなった。
 調合した薬は連用の安全性が確認できていないため、まだ処方できない。だから、本番までは自力で体調を整える必要がある。

「どうしたら緊張が解けるかしら?」

 ミラは真剣に悩んだ。こういうケアも薬師の業務のうちだ。
 というより、リリカのこの体調問題全般を任されている。

 そこで、ステージのことを思い出す。
 ミラはリリカの歌姫のステージに誘うことにした。
 歌と踊りは気分を高揚してくれるし、試験を少しの間だけ忘れるためにもちょうどよかった。緊張がほぐれるはずだ。

「そうだわ。あの方たちも一緒に」

 最近では第一王女のエリスや第三王女のフレドリカも、それぞれ気分が落ち込んでいるようなので、声掛けしてみることにした。
 この前、エリスとも仲良くなったと言うか、話せるようになった。

 王城に向かうと、なぜか顔パスで通されて、入り口に案内された。
 あいかわらず警備は厳重だ。
 それでも簡単に通すということは、ミラが来たら事前に通すように話が通っていたのかもしれない。

 まずは末妹のフレドリカに話をする。
 部屋から出てきたフレドリカは眠そうな顔をしていた。付き人に起こされたのだろう。 
「急にどうしたの?」

「あの、もしよろしければ今度――」

 ミラは歌姫というグループのステージがあり、楽しめるから来ないかと誘った。

「うん、行く……」

 そっけない返事なのに、少しそわそわしている様子だ。
 ステージを見るのに少し興味があったのかもしれない。

 王族は行きたいからと言って、すぐにはイベントに行けないからだ。
 後で母親のマーガレットにミラと一緒に相談に行くと、OKが出た。

 次に、フレドリカを引き連れて、ミラは長女のエリスのもとを訪れた。
 王城の端にある書庫で本を読んでいた。

 エリスは運動がからっきしで、本を読むのが好きらしい。
 ミラよりもずっと線が細く、表情もふだんから儚げだ。日に当たらない白い肌で、不健康そうにも見えるが、それが貴族男性から人気の理由だった。
 儚いからこそ、尊いのかもしれない。寿命の短いものにはよくあることだ。

 フローラが言うには体力がかなりの貧弱だとか。
 確かにフローラと比べても、外出せずに、手足も細いから、ひきこもっている感じが満天だ。

「あら、ミラさん……」

「実はお誘いに来たんです。今度歌姫のステージというのがあって――」

「それって殿方が行くものではないの?」

「いえ、女性もいらっしゃいましたよ。最近、悩みがあるとおっしゃっていましたので」

 エリスは、ミラとフレドリカを見比べて頷いた。

「……わかったわ。外に出るのはあまり気乗りしないけれど」

「ぜひ、気分転換も兼ねているので」

 そうして、2人を誘い終わると、屋敷に帰るのだった。


***


 扉を開けると、第二王女でなぜか屋敷のメイドになりすますフローラがいた。
 先ほど誘った話をすると、わざと唇を尖らせた表情を浮かべたのだ。

「あの、なぜ私を誘ってくれないのですか?」

 お友達のはずと、わざとらしく嘘泣きみたいに、人差し指を目に置いた。

「あ、ごめんなさい」


 それが、ぱっと切り替えるように、笑顔になった。

「いえ、冗談です。でも最初に言ってくれたらよかったのに」

「ではフローラ様もご一緒に」

 最後にリリカを誘った。

「あ、リリカさん、実は――」

「ふ~ん、ミラが気に入ったメンバー知らない女がいるグループ。絶対に行く」

 試験の了承のときよりも力強い返事をもらった。
 

 ***


 当日。
 ミラは約束の場所で集合した。
 リリカとフローラは屋敷から一緒に出て、途中からギルド前で合流したエリスとフレドリカもいる。

「これは……」

 その周囲を物々しい様子で警護する護衛の方たちがいた。
 ミラは彼らが気になってキョロキョロし始めた。

「あの、なんかすみません。王女様を気軽に誘うとこうなるんですね」

 フローラがそれに答える。

「いえいえ、今回は特に厳重なだけですよ。あの襲撃事件の後、バイレンス家の当主が姿を見せなくなって雲隠れしましたから」

「裏で何かを画策しているのでしょうか? 聖教国のこともありますし」

「それはまだわかりません。けど、警戒は必要です」

 その会話を聞いていたリリカが気まずそうな顔をした。
 正真正銘、中途半端に当主を見逃した張本人だからだ。
 とはいえ、最初から捕まえるという選択肢はない。ミラに危険が及ばず、国が乗っ取られなければよく、戦力を削ぐだけで構わなかった。

 ミラは思わず、両隣にいるフローラとリリカの間で視線をさまよわせた。
 フローラはもはや隠す気がないのか、普通に自分が王女だというような会話をしていた。
 おそらく、フローラはリリカに正体がバレていることをすでに察しているのだ。

 実際には、リリカがすべての人形を管理しており、知らない人形とその魂を判別できないわけがないからだ。
 ただ、リリカはその目的を『家格の内定』だと先日まで誤解していただけである。
 ミラが王城に出入りしていたことや王家との関係の事実を話したことで、ミラのためにフローラが来ているとわかった。

 ミラたちが歩いていると、周囲が物騒なものを見る顔でミラたちを避けていった。

「それでこの警備体制なんですね。でも少し目立っている気がします……」

 厳重な護衛がミラたちを囲んでいるからだ。

 それにしても、王女が全員勢揃いで歌姫のステージを見に行くというのは一体どういう状況なのかと改めてミラは思うのだった。

 
「でも、こうやって友達同士で何かのイベントに遊びに行った経験ってないので、実は私、いまからウキウキしています」

 フローラは内情を吐露した。

 ミラも同じだった。友達とイベントに行くことなど経験がない。
 ふと、フローラがミラの左側にいるリリカに話しかけた。

「で、さっきから気になっていたのですが、なぜリリカさんはミラさんの手を握っているのですか?」

「え? 友達だからだけど」

 当たり前のように答えた。
 そういわれて、空いた片手を加え、両手でミラの手を握る。

「友達はお出かけに手を握るものなのですか?」

「もちろん」

 ミラも「そうなの?」という顔をした。
 初耳である。

「じゃあ」

 フローラは手を差し出す。
 そのままミラの右手を握った。

 そこにエリスがジトッとした目で後ろを振り向く。何、この仲良し3人組みたいな光景は、という視線で。
 だが、両隣のリリカとフローラはあまり仲良くはなさそうだった。
 正確には、リリカとフローラは友達ではないのかもしれない。友達の友達だ。
 それが態度に出ていた。

 ミラはそれを見て、2人から手を離した。

「あっ」
「ミラ……」

 同じような反応をした後、その2人の片手をそれぞれ握って、強引に握手させた。
 
「2人で手をつないでいれば、仲良くなれますよね?」

「いや……ミラちゃん」
「ミラ……それはない」

 なぜか2人はすぐに手を離した。
 人間関係は難しい、とため息をつくミラ。

 でも、こうやっていると、リリカは試験への緊張を紛らわせているようだ。
 もういっそ、試験会場にフローラもつれていったほうがいい気がした。
 いつも隣にフローラをおけば、緊張が紛れるかもと考える。

「なんか、ミラちゃんが変なことを考えている気が……」
「ミラの考えていることに寒気がするのは気のせい?」

 2人は息がぴったりなほど、同じようなセリフを吐き、顔を見合わせた。そしてすぐにそらす。


***


 新設したステージの会場に到着すると、前回同様に列に並んで施設内に入る準備をした。
 今回は、護衛の人数を含めてかなりの数の入場手続きになる。

 だが、なぜかミラたちにスタッフが話しかけてきて、別室に案内されることになった。
 王族は一般観衆に紛れると危険で、別の場所から見れるようになっているらしい。
  それを、なぜかフローラがきっぱりと断った。

「いえ、今回はミラちゃんと一緒に見るので、直接会場のところで見たいと思います」

 エリスはそのままそこに残り、フローラが行くならとフレドリカも護衛を引き連れて観衆の中に行くことになった。

 とりあえず、ステージの邪魔にならないように、隅で見ることにした。
 護衛も一緒である。

「あ、始まりますよ」

 ミラがそう言うと、お決まりの挨拶から入り、歌とダンスを披露する。

 フローラは楽しそうに光の棒を振っている。フレドリカも一緒だ。
 こういう経験が少ないからか、ミラが最初に見に来たときのことを思い出した。

 リリカは、真剣にグループのメンバーを見極めていた。
 ミラはその様子を見て、共感した。
 
(メンバーの違いがよくわからないし、リリカさんも同じ気持ちなのかしら。たぶん、後でどの娘と握手するかってのも迷うことになりそうね)

 と見当違いなことを思うミラだった。

 それから、周囲の客にちらちら見られているのは気のせいではない。
 護衛付きの王女が会場に来ていれば誰でも気になるものだ。
 それに歌姫のメンバーもそれに気付いているのか、視線が何度かこちらを向いた気がする。
 
 ミラがこの前握手したユーニスもそれに気付いて意識を取られ、ダンスを失敗していた。いや、王女ではなく、ミラを見ていた気がしたのである。

「気のせいかしら?」

 相変わらず歌はとてもうまい。
 視線を感じたとは言え、ほぼ王女たちと並んでいるし、気のせいだと結論付けた。
 この後、残るは握手会だけだ。


 ミラは、このまま楽しくステージを楽しめて無事に終われたらいいと、2本の棒を胸元でひっそりユーニスに向かって振るのだった。
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