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【本編続き】
3-10.5.シャンプマーニュ家VSバイレンス家(後編)
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門周辺の騒ぎに気づいたのか、黒いフードの者たちが後ろに引いて行く。
バイレンス家の当主が前に出てきた。
「これはどういうことだ? なぜシャンプマーニュ家の当主がこのタイミングで出てくる! もしや、中継地点を潰したというのはお前らか?」
よほど切羽詰まっているのか、なりふり構わず喚き散らした。まだ何も言っていないのに、自分がこの事件の犯人だと口走っていたのは、何かの演出や冗談なのかとさえ思うほどだ。
リリカたちにシルクがしたことまで、勘違いの冤罪を押し付けられた。まあ、けしかけたのはリリカだけど。
あきれた表情をして、リリカは首を横に振った。後ろの男もため息を付く。
周囲に踊らされて、自分がすべての物事を進めていると勘違いした者。その哀れな振る舞いだ。とはいえ、この馬鹿は正直どうでもいい。
問題は周囲の連中だ。
リリカは、王城を襲うのに、この過剰な戦力を減らしに来たのだ。
後は、王家が勝手に始末をつけるだろう、という目算もある。
リリカの後ろに付き従う男が前に出て答えた。
「中継地点の話は、勘違いでございます。ただ、王都での狼藉は度が過ぎているので、何割かそこの者たちを狩らせていただきます」
バイレンス家の当主・ハルドンは、その返答をあざ笑った。
「はっ、お前たち。人形だけでどうにかなる戦力差だと思っているのか?」
実際、屋敷にはかなりの人員と戦力がある。
そのうち、魔人の変身アイテムを持たされているのは一部だが、それでも数十人はくだらない。
「もちろん、簡単だとは思っておりません」
元当主の男は答える。
その隙にリリカは小声で指示を出し、魔人の変身アイテムを持ったフードの男たちを狙って押さえさせる。
あのアイテムは飲まなければ使えない。押さえた状態ではアイテムを取り出すこともできない。
口からすぐ飲み込めるようにしておかなかったのが彼のミスだと言わんばかりに。ポケットに入っている赤い液体入りのビンを回収する。
「アイテムは没収させてもらいました」
しかしだ。何人かは戦闘の腕がかなり立つ人物だったのか、拘束から逃れてビンを取り出していた。
「やっぱり、そう上手くはいかない」
リリカはぼやいた。
フードの男は言った。
「甘いですよ。そのへんの雑魚と一緒にしてもらっては」
周囲にいたフードの男3人もそれに頷く。
逃れたのは4人だけだった。意外と少ない。やはり、教団員には下っ端の雑魚しかいない。そんなのしかハルドンには付けていないのだ。
統率のために、何人か強いものは紛れているようだが、数は判明した。
リリカは号令をかける。
「じゃあ、人形たち。攻撃してもいいよ――」
いままで人形にむやみに攻撃させなかったのは、強者と雑魚を区別するためだった。
そして、攻撃に移った人形たちはあっという間にフードの男たちを地面に叩き伏せていった。
「な、なんだ……何が起きているんだ!」
「気づかないの?」
馬鹿にしたようなリリカの声に、ハルドンは目を回した。
「貴様! だいたいさっきからお前は誰なんだ!」
「私はリリカだけど。あ、ミラの友達? それも一番の」
「ふ、ふざけるな!」
ハルドンはそこで娘の名前を聞いて、怒りが頂点に達した。この無謀な計画を立てた理由こそが、娘に策を全部潰されたからである。
「まあ聞いてよ。そもそもさ、魂は人間の肉体限界がなければすっごく強いんだよね。だから、単純な力比べで人間に負けることは無いの」
「……それは」
ハルドンは少し冷静になったのか、周囲を見回した。
フードの男たちはもともと戦闘が得意ではなく、力で武器を振っている。
なかには戦闘のできるものもいるが、倒されていた。
そういう相手をする人形には、もともと生前強かった人間の魂を選んでいる。
つまり、人形のほうが強い。
「あ、これであと5人だね」
意外だったのは、4人以外にも人形を返り討ちにした者がいたことだ。
あれだけいたフードの男たちは死んだか気絶している。
生き残ったものをかき集めても、もう大した戦力はならないだろう。
だが、強者のこの5人は始末しておきたいと考えるリリカだった。ミラに万が一のことがあってはいけない。
人形に対応できるということは、魔人化のアイテムも使えるということであり、アイテムを持つ4人はその場で変身した。
肉体が歪に膨れ上がり、異形の者と化している。
「うっわ、キモい……」
リリカは正直な感想が口から出た。
もはや目の前の存在は人間とはかけ離れていた。
「では私が代わりに押さえます!」
差し向けた人形から逃れて変身した手練の4人。彼らが魔人化したのだ。
その戦力は、敵の人数が減っても大きく変わっていない。
それだけの力を一体が内包していた。
魔人の一体が両手を前に掲げて、黒い球を形成した。
リリカはそれに気付いて、前当主の男に声をかけた。
「例の攻撃来るよ……。人形たちは、ほか3体を押さえて!」
この攻撃はギルドに報告のあったものだ。
通常攻撃の迎撃ができず、自然物や生き物が死に絶える。
「わかっています」
前当主の男が魔法を発動して、その場を離れた。彼には黒魔法と呼ばれる独特の魔法が使える。基本的には攻撃を飲み込んだり、黒い壁を形成したりする魔法である。
黒い球の攻撃は、その黒魔法に飲み込まれて、はるか後方で炸裂した。
まるで異次元のホールを通ったように。
3体の魔神に数十体の人形をぶつけて、位置をばらけさせた。
連携して戦われたら勝ち目が減る。
そして、単純な力や早さだけなら人形は負けない。しかし、あの黒い球は人形でも受けると肉体が消滅することになる。そこで、何体かは繰り返し近接攻撃して、黒い玉を打つ隙を与えない。
ミラにはできなかった戦法である。
それも、人間では不可能な稼働限界を超えた多数の人形を捨て駒にしないと成立しない戦術だ。
黒玉を打った魔人の反動を見て、前当主の男は好機だと前に突っ込んだ。
黒いかぶせ布のようなものを形成し、視界を塞いで、背後から黒い縄で魔人を押さえつけた。
これらすべてが黒魔法である。
相手にダメージを与えることはできないが、練度の高い相手でも押さえつけることができた。それは人間も魔人も変わらないようだ。
それに気付いて、魔法で形成された板にリリカは足をのせ、そのまま魔人まで走る。長方形の板が魔人のところまでかかっていた。
走ってあっという間にたどり着くと、リリカは魔人の胸に片手を入れた。
青白い光が取り出されて手のひらに浮かび、それを手で握りつぶす。
すると、魔人は光の残滓になって消えていった。
「死んだ……ってこと?」
これもギルドの報告通りだとリリカは頷いた。
魔人の身体は歪でも、中身は人間の魂である。それなら、十分に倒せる。
ただし、倒す方法はこれで想定内だったが、その後に肉体がすぐ消えてしまったのは想定外だ。
少し余裕があれば、魂を入れ直せるのだが、それもできなかった。
魔人を利用して、魔人を倒させることはできないらしい。
前当主の男はリリカに声をかけた。
「まあ、上々の結果でしょう」
「仕方ない。残りを消すよ」
「かしこまりました」
人形が押さえている間に検証は済んだ。
前当主の男を前方に押し出して、リリカが魂を抜き取って破壊することで、魔人は全滅した。
「ふう、思ったより大変だった」
魔人には強さがあり、個体によってかなりの差があった。
特に最後まで生き残った魔人は、そもそもリリカが魂を抜き出すところまでなかなかできず、抑え込めなかったのである。
誰かが背後から空気の鎌鼬のようなもので援護して抑え込むことができた。
魔人の背中には爪のような引っかき傷ができたことを考えると、誰がしたかは想像がつくリリカだった。
***
魔人が全て潰された光景を見て、ハルドンは尻を地面につけて、後ずさった。
「馬鹿な……。こんなことがあるわけ……。ひぃ~~~~~~」
駆け出したハルドンは屋敷の扉を閉めると、鍵をかけて、さらに自室に閉じこもった。
「さて、帰ろうか」
リリカはそう言って、過剰戦力の数減らしを終えたのだった。
「はい」
数減らしと言うには、主要戦力はほぼ全滅である。
元当主の男は思わず首を横に振った。
(これだと介入しすぎですよ……)
「ミラが帰ってくるところを待ち構えていないと。あ、プレゼントも渡しそびれていたし、ちょうどいいかも」
その頃、シルクもちょうど帰路につくのだった。
ミラが帰路についたのはだいぶ後になってからだ。
突入がなかなか行われず、かなり時間差ができてしまったのが原因だ。これは、中継地やバイレンス家の屋敷と連絡がつかなくなったことで起きた内部のゴタゴタが起因している。ようするに、リリカたちのせいだ。
リリカは陰からミラを手助けして、戦力的な憂いは消したはずだったが、なかなか帰ってこないミラを心配していた。
王城は霧に包まれて視界を共有しても状況がわかりにくかったのもある。
「あ、帰ってきたみたい……」
そうして、扉が開くと、シルクとリリカは嬉しそうに飛びついて、ミラを出迎えたのだ。
***
「くそ……全部あいつが悪いんだ。そうだ、あいつがすべて邪魔しなければ! あの女こそ諸悪の根源だ。俺は間違えていた。あいつこそ先に殺すべきだったのだ!」
全てはミラが原因だと。
さっきも、ミラがけしかけた(と思っている)シャンプマーニュ家によって計画が瓦解した。
ハルドンは暗い部屋の中で急に立ち上がった。
「生贄として生かしておくことに固執したことが失敗だった。もう構わない。あの娘はどんな手を使っても始末するんだ!」
バイレンス家の別邸から生き残った教団員を連れて姿をくらますことにした。
「家の力さえ残っていれば、まだなんとかなるんだ! あの娘の代わりになる生贄は……」
そこで、ふとハルドンは気付いた。最初に優秀な次女を候補にした。その後さらにふさわしいミラが出てきて生贄を誰にするかの計画が変わったことに。
その後、まるで逃げるかのように次女は外国に留学していった。
「そうだ、代わりはまだいるじゃないか!」
ハルドンは屋根裏に潜む影に、作戦を伝え、さっきまで負けていたことも頭から消えていた。懲りないハルドンは、次の行動に移るのだった。
バイレンス家の当主が前に出てきた。
「これはどういうことだ? なぜシャンプマーニュ家の当主がこのタイミングで出てくる! もしや、中継地点を潰したというのはお前らか?」
よほど切羽詰まっているのか、なりふり構わず喚き散らした。まだ何も言っていないのに、自分がこの事件の犯人だと口走っていたのは、何かの演出や冗談なのかとさえ思うほどだ。
リリカたちにシルクがしたことまで、勘違いの冤罪を押し付けられた。まあ、けしかけたのはリリカだけど。
あきれた表情をして、リリカは首を横に振った。後ろの男もため息を付く。
周囲に踊らされて、自分がすべての物事を進めていると勘違いした者。その哀れな振る舞いだ。とはいえ、この馬鹿は正直どうでもいい。
問題は周囲の連中だ。
リリカは、王城を襲うのに、この過剰な戦力を減らしに来たのだ。
後は、王家が勝手に始末をつけるだろう、という目算もある。
リリカの後ろに付き従う男が前に出て答えた。
「中継地点の話は、勘違いでございます。ただ、王都での狼藉は度が過ぎているので、何割かそこの者たちを狩らせていただきます」
バイレンス家の当主・ハルドンは、その返答をあざ笑った。
「はっ、お前たち。人形だけでどうにかなる戦力差だと思っているのか?」
実際、屋敷にはかなりの人員と戦力がある。
そのうち、魔人の変身アイテムを持たされているのは一部だが、それでも数十人はくだらない。
「もちろん、簡単だとは思っておりません」
元当主の男は答える。
その隙にリリカは小声で指示を出し、魔人の変身アイテムを持ったフードの男たちを狙って押さえさせる。
あのアイテムは飲まなければ使えない。押さえた状態ではアイテムを取り出すこともできない。
口からすぐ飲み込めるようにしておかなかったのが彼のミスだと言わんばかりに。ポケットに入っている赤い液体入りのビンを回収する。
「アイテムは没収させてもらいました」
しかしだ。何人かは戦闘の腕がかなり立つ人物だったのか、拘束から逃れてビンを取り出していた。
「やっぱり、そう上手くはいかない」
リリカはぼやいた。
フードの男は言った。
「甘いですよ。そのへんの雑魚と一緒にしてもらっては」
周囲にいたフードの男3人もそれに頷く。
逃れたのは4人だけだった。意外と少ない。やはり、教団員には下っ端の雑魚しかいない。そんなのしかハルドンには付けていないのだ。
統率のために、何人か強いものは紛れているようだが、数は判明した。
リリカは号令をかける。
「じゃあ、人形たち。攻撃してもいいよ――」
いままで人形にむやみに攻撃させなかったのは、強者と雑魚を区別するためだった。
そして、攻撃に移った人形たちはあっという間にフードの男たちを地面に叩き伏せていった。
「な、なんだ……何が起きているんだ!」
「気づかないの?」
馬鹿にしたようなリリカの声に、ハルドンは目を回した。
「貴様! だいたいさっきからお前は誰なんだ!」
「私はリリカだけど。あ、ミラの友達? それも一番の」
「ふ、ふざけるな!」
ハルドンはそこで娘の名前を聞いて、怒りが頂点に達した。この無謀な計画を立てた理由こそが、娘に策を全部潰されたからである。
「まあ聞いてよ。そもそもさ、魂は人間の肉体限界がなければすっごく強いんだよね。だから、単純な力比べで人間に負けることは無いの」
「……それは」
ハルドンは少し冷静になったのか、周囲を見回した。
フードの男たちはもともと戦闘が得意ではなく、力で武器を振っている。
なかには戦闘のできるものもいるが、倒されていた。
そういう相手をする人形には、もともと生前強かった人間の魂を選んでいる。
つまり、人形のほうが強い。
「あ、これであと5人だね」
意外だったのは、4人以外にも人形を返り討ちにした者がいたことだ。
あれだけいたフードの男たちは死んだか気絶している。
生き残ったものをかき集めても、もう大した戦力はならないだろう。
だが、強者のこの5人は始末しておきたいと考えるリリカだった。ミラに万が一のことがあってはいけない。
人形に対応できるということは、魔人化のアイテムも使えるということであり、アイテムを持つ4人はその場で変身した。
肉体が歪に膨れ上がり、異形の者と化している。
「うっわ、キモい……」
リリカは正直な感想が口から出た。
もはや目の前の存在は人間とはかけ離れていた。
「では私が代わりに押さえます!」
差し向けた人形から逃れて変身した手練の4人。彼らが魔人化したのだ。
その戦力は、敵の人数が減っても大きく変わっていない。
それだけの力を一体が内包していた。
魔人の一体が両手を前に掲げて、黒い球を形成した。
リリカはそれに気付いて、前当主の男に声をかけた。
「例の攻撃来るよ……。人形たちは、ほか3体を押さえて!」
この攻撃はギルドに報告のあったものだ。
通常攻撃の迎撃ができず、自然物や生き物が死に絶える。
「わかっています」
前当主の男が魔法を発動して、その場を離れた。彼には黒魔法と呼ばれる独特の魔法が使える。基本的には攻撃を飲み込んだり、黒い壁を形成したりする魔法である。
黒い球の攻撃は、その黒魔法に飲み込まれて、はるか後方で炸裂した。
まるで異次元のホールを通ったように。
3体の魔神に数十体の人形をぶつけて、位置をばらけさせた。
連携して戦われたら勝ち目が減る。
そして、単純な力や早さだけなら人形は負けない。しかし、あの黒い球は人形でも受けると肉体が消滅することになる。そこで、何体かは繰り返し近接攻撃して、黒い玉を打つ隙を与えない。
ミラにはできなかった戦法である。
それも、人間では不可能な稼働限界を超えた多数の人形を捨て駒にしないと成立しない戦術だ。
黒玉を打った魔人の反動を見て、前当主の男は好機だと前に突っ込んだ。
黒いかぶせ布のようなものを形成し、視界を塞いで、背後から黒い縄で魔人を押さえつけた。
これらすべてが黒魔法である。
相手にダメージを与えることはできないが、練度の高い相手でも押さえつけることができた。それは人間も魔人も変わらないようだ。
それに気付いて、魔法で形成された板にリリカは足をのせ、そのまま魔人まで走る。長方形の板が魔人のところまでかかっていた。
走ってあっという間にたどり着くと、リリカは魔人の胸に片手を入れた。
青白い光が取り出されて手のひらに浮かび、それを手で握りつぶす。
すると、魔人は光の残滓になって消えていった。
「死んだ……ってこと?」
これもギルドの報告通りだとリリカは頷いた。
魔人の身体は歪でも、中身は人間の魂である。それなら、十分に倒せる。
ただし、倒す方法はこれで想定内だったが、その後に肉体がすぐ消えてしまったのは想定外だ。
少し余裕があれば、魂を入れ直せるのだが、それもできなかった。
魔人を利用して、魔人を倒させることはできないらしい。
前当主の男はリリカに声をかけた。
「まあ、上々の結果でしょう」
「仕方ない。残りを消すよ」
「かしこまりました」
人形が押さえている間に検証は済んだ。
前当主の男を前方に押し出して、リリカが魂を抜き取って破壊することで、魔人は全滅した。
「ふう、思ったより大変だった」
魔人には強さがあり、個体によってかなりの差があった。
特に最後まで生き残った魔人は、そもそもリリカが魂を抜き出すところまでなかなかできず、抑え込めなかったのである。
誰かが背後から空気の鎌鼬のようなもので援護して抑え込むことができた。
魔人の背中には爪のような引っかき傷ができたことを考えると、誰がしたかは想像がつくリリカだった。
***
魔人が全て潰された光景を見て、ハルドンは尻を地面につけて、後ずさった。
「馬鹿な……。こんなことがあるわけ……。ひぃ~~~~~~」
駆け出したハルドンは屋敷の扉を閉めると、鍵をかけて、さらに自室に閉じこもった。
「さて、帰ろうか」
リリカはそう言って、過剰戦力の数減らしを終えたのだった。
「はい」
数減らしと言うには、主要戦力はほぼ全滅である。
元当主の男は思わず首を横に振った。
(これだと介入しすぎですよ……)
「ミラが帰ってくるところを待ち構えていないと。あ、プレゼントも渡しそびれていたし、ちょうどいいかも」
その頃、シルクもちょうど帰路につくのだった。
ミラが帰路についたのはだいぶ後になってからだ。
突入がなかなか行われず、かなり時間差ができてしまったのが原因だ。これは、中継地やバイレンス家の屋敷と連絡がつかなくなったことで起きた内部のゴタゴタが起因している。ようするに、リリカたちのせいだ。
リリカは陰からミラを手助けして、戦力的な憂いは消したはずだったが、なかなか帰ってこないミラを心配していた。
王城は霧に包まれて視界を共有しても状況がわかりにくかったのもある。
「あ、帰ってきたみたい……」
そうして、扉が開くと、シルクとリリカは嬉しそうに飛びついて、ミラを出迎えたのだ。
***
「くそ……全部あいつが悪いんだ。そうだ、あいつがすべて邪魔しなければ! あの女こそ諸悪の根源だ。俺は間違えていた。あいつこそ先に殺すべきだったのだ!」
全てはミラが原因だと。
さっきも、ミラがけしかけた(と思っている)シャンプマーニュ家によって計画が瓦解した。
ハルドンは暗い部屋の中で急に立ち上がった。
「生贄として生かしておくことに固執したことが失敗だった。もう構わない。あの娘はどんな手を使っても始末するんだ!」
バイレンス家の別邸から生き残った教団員を連れて姿をくらますことにした。
「家の力さえ残っていれば、まだなんとかなるんだ! あの娘の代わりになる生贄は……」
そこで、ふとハルドンは気付いた。最初に優秀な次女を候補にした。その後さらにふさわしいミラが出てきて生贄を誰にするかの計画が変わったことに。
その後、まるで逃げるかのように次女は外国に留学していった。
「そうだ、代わりはまだいるじゃないか!」
ハルドンは屋根裏に潜む影に、作戦を伝え、さっきまで負けていたことも頭から消えていた。懲りないハルドンは、次の行動に移るのだった。
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