56 / 69
【SS(日常話)】
1-SS(2).弟子と剣神とスパイラル
しおりを挟む
ミラには盗賊事件の際に助けた2人の弟子がいた。
少年の名前はウィント、その妹の名前がシュリである。
ミラは冒険者ギルドの訓練場で空いた時間に剣の鍛錬をたまにしており、そこに押しかけてやってくるのが2人の弟子だ。
その日も、ミラがフレアボアをイメージして剣を振っていると、2人がやってきた。
「ミラ姉ちゃん、こんにちは~」
「ミラお姉ちゃん、また来たよ」
そう言って、立て掛けてある訓練用の木剣を拾い上げて、2人は近づいてきた。
「ごきげんよう。今日も来たのね」
ミラはイメージ訓練を止めて、今日も子どもたちの相手をすることにした。
まずは子どもたちが自由に打ち込み、それを捌いて助言をする。
それは本格的な訓練ではなく、ミラにはほんの遊びである。
ミラにとって本気の訓練とは、兄に教えられた「木剣でぼこぼこにされ、それを捌く」という過酷なものであった。普通の厳しい訓練は、ミラにとって訓練のうちに入っていない。
「やあぁああ!」
妹のシュリが打ち込んで木剣に弾かれると、体制を崩してよろめいた。
「シュリさん、それじゃダメよ! 打ち込んだときに手の力だけで支えているから、よろめいてしまうの」
「うん!」
「たぁああああ」
少年のウィントは、その隙を狙うようにして打ち込んでくる。だが、ミラには意味がなく、木剣を弾かれる。
地面にポトりと落ちて、ヘンテコな格好で後ろを振り向いたウィント。
「ウィントくん、剣を落としてもよそ見しちゃダメ。実践だと相手は武器を落としても攻撃をやめてはくれないわ」
「はいっ!」
「もう一度!」
地面の剣を拾い、勢いよく振り上げたウィント。
「たぁああああ」
今度は前進の力を受け流されたことで、前につんのめってコケた。
「く~、さすがミラ姉ちゃん……」
ウィントは頭の天辺をポリポリと掻いた。
だが、木剣を拾ってすぐに構える。
「そうよ、それでいいの」
「しっかし、訓練を始めてから一度もミラ姉ちゃんには、当てたことがないんだけど、これでうまくなってんのかな?」
「ええ、前よりも上達しているわ。何よりも力も体力もついたもの」
「そういえば、最初の頃ってすぐにバテてたな……。木剣も重かったし」
その話にシュリも加わった。
「お兄ちゃんと一緒に毎日体を鍛えるトレーニングしてるもんね?」
「ああ、そうだよな。ミラ姉ちゃんに言われたから、基礎体力の訓練も入れられてるから、それは実感あるんだよ」
ミラは剣の技術だけではダメだと教えて、まずは体を鍛えさせた。
これはミラ自身が、身体の基礎能力や体力が向上したことで実感した事が大きい。剣の振りや裁きのキレが、以前よりも上がったように感じたのである。
何より、ミラが「このくらい当たり前だ」と言ってさせていることは、並の訓練ではなかった。
「私よりも強い人はきっとたくさんいるから、頑張ってほしいわ。疲れたら、この特製のポーションをあげるから飲んで」
「わかってる。頑張って強くなるよ。あの謎ポーションもどんどん飲んでやる。トレーニングの後にも飲んでる」
「私も強くなる!」
2人ともやる気は十分だった。
そして、2人は現在の実力でも、ミラと5分以上の時間を打ち合えているという事実が何を意味するのか全然気付いていない。
「じゃあ、今度は私が打ち込むわよ」
ミラがわざと正面から打ち込みにいった。
しかも割と本気の動きである。
「早い……」
ウィントはほとんど動くことができず、どうにか頭上に木剣を構えてミラの一撃を受け止めた。
しかし、勢いは止まらず、剣が弾かれてしまう。
「うん、大丈夫そうね」
「いや、全然大丈夫じゃないよ……ミラ姉ちゃん早すぎるんだって」
ミラの動きを見続けてきたウィントは、多少の早さに慣れたとは言え、軌道を予想して捌くしかなかった。
「今度は私も!」
シュリがねだったため、ミラは同じように打ち込みをしてあげた。
すると、シュリはミラの動きを真似るようにして、剣を受け止め、少しだけ受け流すことに成功した。
つまり、シュリはミラの剣の細かい動きを見て、力をそらしたのである。
遊び気分のミラの雑な打ち込みではあるが、剣の位置が正確に見えていないとできないことだ。
「もしかして、シュリさんは目がいいのかもしれないわね」
「目がいい?」
首をかしげるシュリ。
シュリは力強さはないが、『見取り』に優れており、さっきもミラの返し技をそのまま真似してみせた。
シュリも兄のウィントと同じように、ミラの動きと技をずっと見続けている。
そもそも、ミラの剣術と同じ動きを、訓練なしでなる人間は多くはない。それがミラの動きを見ただけで可能になる人は、もはや皆無である。
「シュリさんは沢山の人の剣の技を見て覚えると、もっと強くなれるかもしれないわ」
「そうなんだ。うん、そうしてみる!」
訓練終わりにポーションを飲ませて、家の訓練で飲む用を渡し、その日は解散となった。
***
シュリは好奇心が旺盛なのか、人の居ない場所を探索するのが日課である。
ミラの助言を受けて、剣を使う人の場所に行くことにした。
それは裏路地で行われている、謎の戦いのことである。
最近では、はぐれ盗賊の残党とこの街を仕切る裏の人間が武力を持って衝突していた。
そして、武器の中でも剣は特に多い。
その日からしばらくその観察を続けて、この戦いを見るのが日課になった。
そんなある日、裏路地に灰色のローブをかぶった女性が乱入してきた。
「誰か来た……」
初めての展開に隙間から覗くシュリは、少しわくわくしていた。
最近ではこの路地裏に集まる人の剣の技術があまり高くなかったからである。真似をしても強くなれそうになかった。
誰もが予想した通り、その乱入者は男たちにすぐさま絡まれた。
「おいおい、女がこんなところに何のようだ?」
男に手で払われて、ローブの顔部分が剥がれた。
見たことのない女性の顔が出てきた。
この辺の国では見ない顔だ。
だが、それでもシュリにはとても美しい女性に見えた。
まるで女神のような凛々しさと、可憐さを兼ね備えた、完全調和の造形だ。
完全すぎて、逆に人形のように見えるかもしれない。
「うっひょ~、こいつべっぴんだわ」
「マジだぜこいつ」
男の下卑た声に、大して反応もなくその女性は男を剣で斬り伏せた。
シュリは驚愕した。
「え、まったく見えなかった……なに、あの人!」
「こいつ! やりやがったな!」
男たちが剣で応戦しようとして、ものの見事に返り討ちにあっていた。
シュリには、剣筋が見えたのは1~2回で、それ以外は見えずに『見取り』もできなかったほどだ。
「ミラお姉ちゃんの剣でも最近は全部見えるようになったのに、あの人は……」
シュリはミラが言ったことが本当だったのだと固唾を飲んだ。
ミラより強い人はたくさんいるのだと。
「それで、そこに隠れているあなたはなんですか?」
その女性には、隠れているのがバレてしまったシュリ。
「あ、あの……」
「この盗賊崩れの仲間って感じではないみたいですけど」
その女性は表情も大して動くことがなく、疑問の声だけを発した。
「その、剣を見ていて……」
「そうですか、見取りをしていたんですね?」
「うん」
シュリはすぐに言ったことが理解されたことに驚く。
「では私のも見ていたのですか?」
「ううん、なんか早くて見れなかった」
「そうでしたか、呼んだのはあなたかもしれません。じゃあ少し」
そう言って、さっきよりも少しだけゆっくりと、男たちを倒した同じ動きをしてくれた。サービスのよい女性だとシュリは感謝した。
ミラのように見て全部覚えるということはできないが、シュリには自分が見て消化した動きは、自分の動きとして再現できることを知っている。
その女性は、まるでシュリに理解させるように、剣を振った。
その後も、見たことのない動きをしてくれた。
「では、少し打ち合ってみましょうか」
「うん、行くよ! はあぁっ」
ミラがやったように、シュリも正面から打ち下ろす。
「悪くない動きです。それにしても剣の振りが独特ですね。あまり見たことがない」
「ミラお姉ちゃんの真似だよ?」
「ミラお姉ちゃん?」
「剣の師匠のこと」
「ほう……」
打ち返しに来た女性の剣を、この前と同じように、ミラの真似で受け流す。
「またできた!」
「速度を抑えているとはいえ、いまのを受け流せるような師匠がいるのですね……。どの流派にも属していないと見えますが……静の極みにでも至っているのでしょうか、その方は」
「え~と、流派のことはよくわからないけど、ミラお姉ちゃんは自分より強い人はいっぱいいるんだって、言ってたような?」
「ふふっ、あなたの師匠は面白い人ですね。もはや謙虚を通り越して、そう思わされているのか、不思議なほどです」
女性は笑いながら、しばらく打ち合うのだった。
初めて見る剣術ばかりで、シュリは少し興奮していた。一つでも多く、自分の身になるようにその技を見て真似た。
「すごい……すごいよこれ!」
「喜んでくれたなら幸いです。おおよそ、この世界の主要な剣術流派は、見せられたと思いますかね」
「えっと、流派……、と、とにかくありがとう」
シュリには少し何を言っているのかわからないところもあったが、彼女がシュリのために動きを見せてくれていることは理解できていた。
「ではそろそろ帰りますね」
「そっか。うん、じゃあまた」
「はい、またです。あなたがもっともっと強くなった頃にお会いしましょう」
そうこうして、シュリはその場を離れた彼女に続いて、家に帰るのだった。
翌日から、ミラの弟子がさまざまな剣の流派で打ち込んでくるようになった。
間接的にミラの剣術の腕があがることになるきっかけとなる。
シュリをきっかけにそこから攻撃特化の剣術流派にも触れ、ウィントの攻撃バリエーションも増えた。弟子・師匠・弟子で技が循環するのだった。これこそ師匠と弟子の理想的なあり方だ。
まさに正のスパイラルを起こす出来事だった。
そして、ミラがその女性と出会うのはもう少し先のことであるーー。
少年の名前はウィント、その妹の名前がシュリである。
ミラは冒険者ギルドの訓練場で空いた時間に剣の鍛錬をたまにしており、そこに押しかけてやってくるのが2人の弟子だ。
その日も、ミラがフレアボアをイメージして剣を振っていると、2人がやってきた。
「ミラ姉ちゃん、こんにちは~」
「ミラお姉ちゃん、また来たよ」
そう言って、立て掛けてある訓練用の木剣を拾い上げて、2人は近づいてきた。
「ごきげんよう。今日も来たのね」
ミラはイメージ訓練を止めて、今日も子どもたちの相手をすることにした。
まずは子どもたちが自由に打ち込み、それを捌いて助言をする。
それは本格的な訓練ではなく、ミラにはほんの遊びである。
ミラにとって本気の訓練とは、兄に教えられた「木剣でぼこぼこにされ、それを捌く」という過酷なものであった。普通の厳しい訓練は、ミラにとって訓練のうちに入っていない。
「やあぁああ!」
妹のシュリが打ち込んで木剣に弾かれると、体制を崩してよろめいた。
「シュリさん、それじゃダメよ! 打ち込んだときに手の力だけで支えているから、よろめいてしまうの」
「うん!」
「たぁああああ」
少年のウィントは、その隙を狙うようにして打ち込んでくる。だが、ミラには意味がなく、木剣を弾かれる。
地面にポトりと落ちて、ヘンテコな格好で後ろを振り向いたウィント。
「ウィントくん、剣を落としてもよそ見しちゃダメ。実践だと相手は武器を落としても攻撃をやめてはくれないわ」
「はいっ!」
「もう一度!」
地面の剣を拾い、勢いよく振り上げたウィント。
「たぁああああ」
今度は前進の力を受け流されたことで、前につんのめってコケた。
「く~、さすがミラ姉ちゃん……」
ウィントは頭の天辺をポリポリと掻いた。
だが、木剣を拾ってすぐに構える。
「そうよ、それでいいの」
「しっかし、訓練を始めてから一度もミラ姉ちゃんには、当てたことがないんだけど、これでうまくなってんのかな?」
「ええ、前よりも上達しているわ。何よりも力も体力もついたもの」
「そういえば、最初の頃ってすぐにバテてたな……。木剣も重かったし」
その話にシュリも加わった。
「お兄ちゃんと一緒に毎日体を鍛えるトレーニングしてるもんね?」
「ああ、そうだよな。ミラ姉ちゃんに言われたから、基礎体力の訓練も入れられてるから、それは実感あるんだよ」
ミラは剣の技術だけではダメだと教えて、まずは体を鍛えさせた。
これはミラ自身が、身体の基礎能力や体力が向上したことで実感した事が大きい。剣の振りや裁きのキレが、以前よりも上がったように感じたのである。
何より、ミラが「このくらい当たり前だ」と言ってさせていることは、並の訓練ではなかった。
「私よりも強い人はきっとたくさんいるから、頑張ってほしいわ。疲れたら、この特製のポーションをあげるから飲んで」
「わかってる。頑張って強くなるよ。あの謎ポーションもどんどん飲んでやる。トレーニングの後にも飲んでる」
「私も強くなる!」
2人ともやる気は十分だった。
そして、2人は現在の実力でも、ミラと5分以上の時間を打ち合えているという事実が何を意味するのか全然気付いていない。
「じゃあ、今度は私が打ち込むわよ」
ミラがわざと正面から打ち込みにいった。
しかも割と本気の動きである。
「早い……」
ウィントはほとんど動くことができず、どうにか頭上に木剣を構えてミラの一撃を受け止めた。
しかし、勢いは止まらず、剣が弾かれてしまう。
「うん、大丈夫そうね」
「いや、全然大丈夫じゃないよ……ミラ姉ちゃん早すぎるんだって」
ミラの動きを見続けてきたウィントは、多少の早さに慣れたとは言え、軌道を予想して捌くしかなかった。
「今度は私も!」
シュリがねだったため、ミラは同じように打ち込みをしてあげた。
すると、シュリはミラの動きを真似るようにして、剣を受け止め、少しだけ受け流すことに成功した。
つまり、シュリはミラの剣の細かい動きを見て、力をそらしたのである。
遊び気分のミラの雑な打ち込みではあるが、剣の位置が正確に見えていないとできないことだ。
「もしかして、シュリさんは目がいいのかもしれないわね」
「目がいい?」
首をかしげるシュリ。
シュリは力強さはないが、『見取り』に優れており、さっきもミラの返し技をそのまま真似してみせた。
シュリも兄のウィントと同じように、ミラの動きと技をずっと見続けている。
そもそも、ミラの剣術と同じ動きを、訓練なしでなる人間は多くはない。それがミラの動きを見ただけで可能になる人は、もはや皆無である。
「シュリさんは沢山の人の剣の技を見て覚えると、もっと強くなれるかもしれないわ」
「そうなんだ。うん、そうしてみる!」
訓練終わりにポーションを飲ませて、家の訓練で飲む用を渡し、その日は解散となった。
***
シュリは好奇心が旺盛なのか、人の居ない場所を探索するのが日課である。
ミラの助言を受けて、剣を使う人の場所に行くことにした。
それは裏路地で行われている、謎の戦いのことである。
最近では、はぐれ盗賊の残党とこの街を仕切る裏の人間が武力を持って衝突していた。
そして、武器の中でも剣は特に多い。
その日からしばらくその観察を続けて、この戦いを見るのが日課になった。
そんなある日、裏路地に灰色のローブをかぶった女性が乱入してきた。
「誰か来た……」
初めての展開に隙間から覗くシュリは、少しわくわくしていた。
最近ではこの路地裏に集まる人の剣の技術があまり高くなかったからである。真似をしても強くなれそうになかった。
誰もが予想した通り、その乱入者は男たちにすぐさま絡まれた。
「おいおい、女がこんなところに何のようだ?」
男に手で払われて、ローブの顔部分が剥がれた。
見たことのない女性の顔が出てきた。
この辺の国では見ない顔だ。
だが、それでもシュリにはとても美しい女性に見えた。
まるで女神のような凛々しさと、可憐さを兼ね備えた、完全調和の造形だ。
完全すぎて、逆に人形のように見えるかもしれない。
「うっひょ~、こいつべっぴんだわ」
「マジだぜこいつ」
男の下卑た声に、大して反応もなくその女性は男を剣で斬り伏せた。
シュリは驚愕した。
「え、まったく見えなかった……なに、あの人!」
「こいつ! やりやがったな!」
男たちが剣で応戦しようとして、ものの見事に返り討ちにあっていた。
シュリには、剣筋が見えたのは1~2回で、それ以外は見えずに『見取り』もできなかったほどだ。
「ミラお姉ちゃんの剣でも最近は全部見えるようになったのに、あの人は……」
シュリはミラが言ったことが本当だったのだと固唾を飲んだ。
ミラより強い人はたくさんいるのだと。
「それで、そこに隠れているあなたはなんですか?」
その女性には、隠れているのがバレてしまったシュリ。
「あ、あの……」
「この盗賊崩れの仲間って感じではないみたいですけど」
その女性は表情も大して動くことがなく、疑問の声だけを発した。
「その、剣を見ていて……」
「そうですか、見取りをしていたんですね?」
「うん」
シュリはすぐに言ったことが理解されたことに驚く。
「では私のも見ていたのですか?」
「ううん、なんか早くて見れなかった」
「そうでしたか、呼んだのはあなたかもしれません。じゃあ少し」
そう言って、さっきよりも少しだけゆっくりと、男たちを倒した同じ動きをしてくれた。サービスのよい女性だとシュリは感謝した。
ミラのように見て全部覚えるということはできないが、シュリには自分が見て消化した動きは、自分の動きとして再現できることを知っている。
その女性は、まるでシュリに理解させるように、剣を振った。
その後も、見たことのない動きをしてくれた。
「では、少し打ち合ってみましょうか」
「うん、行くよ! はあぁっ」
ミラがやったように、シュリも正面から打ち下ろす。
「悪くない動きです。それにしても剣の振りが独特ですね。あまり見たことがない」
「ミラお姉ちゃんの真似だよ?」
「ミラお姉ちゃん?」
「剣の師匠のこと」
「ほう……」
打ち返しに来た女性の剣を、この前と同じように、ミラの真似で受け流す。
「またできた!」
「速度を抑えているとはいえ、いまのを受け流せるような師匠がいるのですね……。どの流派にも属していないと見えますが……静の極みにでも至っているのでしょうか、その方は」
「え~と、流派のことはよくわからないけど、ミラお姉ちゃんは自分より強い人はいっぱいいるんだって、言ってたような?」
「ふふっ、あなたの師匠は面白い人ですね。もはや謙虚を通り越して、そう思わされているのか、不思議なほどです」
女性は笑いながら、しばらく打ち合うのだった。
初めて見る剣術ばかりで、シュリは少し興奮していた。一つでも多く、自分の身になるようにその技を見て真似た。
「すごい……すごいよこれ!」
「喜んでくれたなら幸いです。おおよそ、この世界の主要な剣術流派は、見せられたと思いますかね」
「えっと、流派……、と、とにかくありがとう」
シュリには少し何を言っているのかわからないところもあったが、彼女がシュリのために動きを見せてくれていることは理解できていた。
「ではそろそろ帰りますね」
「そっか。うん、じゃあまた」
「はい、またです。あなたがもっともっと強くなった頃にお会いしましょう」
そうこうして、シュリはその場を離れた彼女に続いて、家に帰るのだった。
翌日から、ミラの弟子がさまざまな剣の流派で打ち込んでくるようになった。
間接的にミラの剣術の腕があがることになるきっかけとなる。
シュリをきっかけにそこから攻撃特化の剣術流派にも触れ、ウィントの攻撃バリエーションも増えた。弟子・師匠・弟子で技が循環するのだった。これこそ師匠と弟子の理想的なあり方だ。
まさに正のスパイラルを起こす出来事だった。
そして、ミラがその女性と出会うのはもう少し先のことであるーー。
395
お気に入りに追加
2,658
あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される
沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。
「あなたこそが聖女です」
「あなたは俺の領地で保護します」
「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」
こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。
やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】
小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。
しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。
そして、リーリエルは戻って来た。
政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる