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3-4.王家の食卓

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 馬車が到着すると、ミラは王城の中庭に通された。
 そこら中には、王城を警備する兵たちが警戒を強めている。

 その時、ちょうど入り口からフローラが姿を表した。

「お待ちしておりました」

「フローラ様、こんばんは。ところで、ここの警備はいつもこんな感じで厳重なのでしょうか?」
 ミラは周囲を見回した。
 城内に入ってきた人間を睨み殺す勢いで見てくる兵たち。その様子を窺うようにミラは聞く。

「いえ、普段はここまでの警戒はありません。ミラさんにはお伝えしていなかったのですが、王家が狙われる危険が近日中に起きるそうで、警戒を強めていたのです」

「そうなんですか……」

 それを聞いたミラは、心当たりがあった。

(これって、実家のバイレンス家が王家の暗殺を狙っているってことよね?)

 ミラはフローラから事前に聞いていた話を頭の中でまとめた。

 現王家の人間を殺すことで、聖女システムとやらが起動し、ミラを生け贄にできるようになるというものだ。
 その生贄をもって、王権を受け取り、王に成り代わるのが目的らしい。
 「らしい」というのは、本人から聞いたわけではなく、あくまでも推測だ。しかし、この予想は的を射ているだろうと王妃がいっていたらしく、ミラもその又聞きだ。


***


 王城の中に案内されて、ミラは準備の整ったテーブルがある大きな部屋に案内された。
 ここで一緒に食事を取る予定だ。
 ミラは王家の人たちが座るのを待つ。周囲を見回した。
 するとフローラが最初に座り、その後、集まっていた次男のレオ、長女のエリス、三女のフレドリカ、母親のマーガレット、最後に現国王フィフスが座る。

 ミラが座らないことにフローラが疑問を抱いた。

「どうしました? ミラちゃんも座って下さい」

「あ、いいんですね、どこでも……」

「はい。いつもなんとなく座ってます」

 どうやら座る順番などは特に決まっていなかったらしい。
 王様には挨拶すべきかとも思ったが、それも不要だという。

 ミラは失礼だとは思ったが、現国王は少し存在感が薄い気がした。
 だが、威厳みたいなものは感じられる。

 ミラの前に使用人が料理を持ってきた。
 大きな皿で取り分けるのではなく、個人に料理が配られた。

 野菜の前菜にスープ、パン、肉料理がいくつかである。

 そこで、気になった料理があった。
 少し、外が赤みがかった料理だ。
 
「これはなんでしょうか?」

 その質問には、母親のマーガレットが答えた。

「それは辛くてその刺激が美味しい料理ね。西の方の国で取れる食材よ。お気に入りだから、今日も出すことにしたの」

「そうでしたか。お答えありがとうございます」

 毎日のように食卓に出しているとのことだった。
 相当気に入っているらしい。
 ミラは周囲を見ながら同じ順番で料理を口に運んだ。王家のマナーなどわかるはずもない。
 

 素材にこだわっているのかどれも美味しい。

(でも、豪華すぎるわけでもなくて、想像よりは普通だわ。リリカさんの歓迎食事会が豪勢すぎたのよね……たぶん)

 ミラはリリカの歓迎会を思い出して、希少な食材に豪華な料理の数々で無理させたのではないかと少し心配になるくらいだ。
 シルクもここぞとばかりに大量の高級肉を美味しそうに食べていた。

 フローラは、ミラの顔を見て聞いた。

「もしかして、ミラちゃんはリリカさんの家でのことを思い出していますか?」

「はい……実は」

 そこに母親のマーガレットが聞き返した。

「どういうこと?」

「それは……」

 フローラがリリカの家でのことを簡単に話す。

「なるほどね」

「家のインテリアも装飾がすごかったです」

 ミラは軽く感想を述べておくことにした。

「ああ、そういうこと」

 ミラは首を傾げた。まるで豪勢な理由がわかっていたかのようだ。

「お母様。ミラさんに説明しないとわかりませんよ?」

「ああ、そうね。シャンプマーニュ家は、昔から王家に対抗する家柄なのよ、何かとね。邸宅は見たのでしょうけど、あれもこの王城より予算をかけているらしいわ。大きさは邸宅のほうが小さいけれど、豪華さで言えば金額は向こうのほうが大きいらしいの」

「それで……」

 どうやら趣味ではなく、シャンプマーニュ家が代々続く中での王家に対する対抗意識だったらしい。
 そう考えると、王家を特に嫌う理由となった出来事も、急なことではなく、元となる源泉があったのだろう。

 ミラは赤い食べ物をまだ誰も食べないため、先に食べることにした。
 すると、舌が辛くて、でもその刺激が美味しかった。舌がピリつく何ともいえない味だ。
 白くて柔らかい食材もパンとよくあっている。

「これ美味しいですね」

「でしょ?」
 
 ミラが食べたのを見て他も食べ始めた。
 どうたらミラの感想が聞きたかったらしい。驚かせたかったという意図があったことに気付くミラ。

 これを家族一丸となって言葉を交わさずに以心伝心した。ということは、すでに他の家族もマーガレットからの料理のサプライズを経験していたのだろう。

 母親のマーガレットが「うん、やっぱり美味しいわ」と絶賛し、姉妹が食べて、フローラが「美味しいですね」と笑顔になる。
 国王も口にした。最後にレオだ。

「俺は苦手だ。今日のはいつもより辛い気がする」

 レオは辛いものが苦手だった。
 水を飲み、舌を出して空気で冷やす真似をした。

 そして、ミラが見ている前で、ガチャンと音がする。
 一同はあまりの美味しさだったのか、皿の料理に全員が顔を突っ込んだ。
 天にも登るような気持ちになり、全身が痙攣したのだ、とミラは考えた。
 
「みなさん……美味しいからってそんな、はしたないのではないでしょうか? それともこれがマナーなのですか?」

「それは……違う」

 フローラは何とか言葉を振り絞った。

 料理が顔中と鼻・口の周りにへばりついて、上手くしゃべれない様子だ。
 舌で皿の上でケーキ? の料理をぺろぺろと舐めて、息ができるようにしていた。
 だが、舌も上手く動かないらしく、口周りを舐め取ろうとし、途中で諦めた様子だ。

 とても国民には見せられない王女の姿だった。

「体がしびれて動けない」

 そういったのは三女のフレドリカだった。
 彼女は小さい口でパクパクして、料理を飲み込んでいた。
 痺れて口が動かしにくいのか、ただでさえ小さい口が小魚のようになっていた

「ありえないわ。一体どうやって毒を。それに何なのこの毒……体だけ動かないわ」

 母親のマーガレットがかすれ声で文句を吐き捨てた。
 彼女が一番悲惨だったのは、どろどろのスープの中に顔を突っ込んだことだ。
 それもかなり熱いはずだ。
 上品な王妃の姿はなく、もはや誰かもわからない。
 見た目も黄色い粘土でも顔にかぶったかのようである。
 そして、口の端から呼吸するので手一杯だった。口を必死に動かして呼吸する。
 
 
 その様子を見ながら、ミラは手を組んで目をつぶり、考え込む。

(似てるわよね、この麻痺の仕方……)

「まさか、これって!」

 思い当たる原因を導き出した。
 半信半疑ではあるから、確信は持てないが、ミラの視覚記憶は鮮明だ。
 冒険者がこれと同じように森で倒れていた。

「あの深海クラゲのような神経毒なの!?」

 ような、ではなく、まさにその深海クラゲの毒だった。
 

 警戒するように周囲の騎士たちが集まってくるが、周囲の匂いにも刺激がまじり始めたのが、何者かが部屋にに仕掛けたのか、全員が床に倒れ伏した。
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