38 / 69
2-13.報告と試験予告
しおりを挟む
ミラは、実家から送り込まれた教団員の襲撃を退けて、街のギルドに帰還した。
その後、内情を知る受付のスフィアに報告した。個室の相談部屋に移動をしてから、詳細を伝える。
「それは……大変でしたね」
「そもそも教団ってなんなのでしょうか? 実家がその教団と繋がっているみたいで……」
「いえ、私にはちょっとそのへんはよくわかりません。教団については、ギルドでも把握していない情報ですね」
「ギルドでもわからないんですか?」
「王家の方ならなにかわかるかも知れませんが……」
「わかりました……今度王都に行ったときにフローラ様に聞いてみます」
スフィアは笑みを浮かべるが、すぐに渋い顔になって、ため息を付いた。
「これ、上にどう報告すればいいんでしょうね……」
「そのまま報告しても良いのでは?」
「でも、その教団って実態がよくわからないんです。どこに潜んでいるか。もしかすると……」
「ギルドにも……いるかもしれない?」
「ええ、その可能性は考えておいたほうが良さそうです。とりあえず、ギルドマスターにだけは報告しますけど、他の職員にはあまり詳細を漏らさないようにしたほうが良いかも知れません」
「確かに……、ではそうすることにします」
ミラは周囲に誰も居ない部屋で必要以上に声を押さえて喋っていることに気づき、少しだけおかしくなった。
スフィアも釣られて笑い、部屋の中に笑い声が響いた。
用意した紅茶を一口飲むと、スフィアが聞いた。
「それにしても、魔人(?)をよく倒せましたね。ギルドの文献ではSランク相当に分類されている幻の魔物ですよ?」
「このギルドで読んだ文献とこの前王家の方が来て話をしてくださったおかげです。倒すヒントを得られました」
「そうですか。ギルドの文献が役に立てたようで良かったです」
スフィアは少し誇らしげな表情だ。ギルドの書庫が役に立てたようで嬉しそうだった。 ギルドの書庫開放や秘匿文献の公開は、今代のギルドになってからだという。
「ギルドの書庫開放の仕組って、昔は違ったんですか?」
「はい、以前は書庫から職員が本を持ち出して、その場で読んでもらう規則だったんです。とはいっても、利用する人は少なかったですけどね」
「ではなぜ?」
「当時、冒険者の死亡率が異常に高かったんです。そのせいでどの街も冒険者不足になりました。一人前になる前に死んでしまうと、冒険者が育たなくなってしまうんです」
「そういえば、新人教育もされていますよね?」
「あれも、最近になって導入されたんです。以前は、初心者が体当たりで実態を知るのが普通でしたね。そもそもギルドが初心者のお世話をしていませんでしたから」
「そう、だったんですね……」
ミラは冒険者になったタイミングが良かったのだろう。
昔なら、ここまでの待遇は受けられなかった。
***
ミラたちは個室を出て、受付の場所に戻ってくる。
カウンターから紙を取り出したスフィアがミラを呼び止めて伝える。
「あ、そうそう、伝え忘れるところでしたが、ギルドの薬師試験の条件を満たしたので、受験資格を得ました」
「そういえば……」
ミラは、何のために依頼を達成したのか、魔人の襲撃によるインパクトが強くて、すっかりその認識が薄れていた。
「はい、ですので今度行われる当ギルドでの試験を受けられます。詳細はこの紙に書いてありますが、簡単に説明しますね」
「お願いします」
「試験は全部で3つ。筆記と実技、面接です実技はポーションの納品ですね。調合の監督ありで納品します。面接は人柄や倫理観の確認ですが、最近では形式的なものとなっているので、実質的には、筆記と実技の2つが試験です」
「わかりました。何か準備するものはありますか?」
「紙のこの辺に書いてありますよ」
「あ、本当ですね」
ミラは紙をちらっと見て内容を記憶する。
持ち物は、昼食や飲み物、後は、実技に使う器具だ。とはいっても、器具はほとんどがギルドで用意している。そのため、補助的な器具や材料を個別に用意したい人だけ自分で持ってくることになっていた。
「器具・材料の項目ですけど、調合方法にもいろいろなものがあるようですから、基礎魔法の調合方法以外、特殊な器材や材料はありません。それ以外の方法で試験に挑む方だけは用意しておくようにとのことです」
ミラはそれを聞いて頷いた。
ミラは魔法と原始的な作業の両方を使う特殊な薬師見習いである。
「わかりました。その試験は何人くらいが受けるんですか?」
「え~と、12人くらいですね。これから少し増えると思います」
「え? 聞いておいてなんですけど、この街って薬師の弟子は私しかいませんよね?」
「あ~、そうですね。でも他の街や王都からも来るんですよ?」
「王都からも?」
「はい、ミラさんはあまり外のことをご存じないようですけど、王都を除くと、この街って監督ができる優秀な薬師が2人もいる珍しい街なんです。王都の人は王都のギルド試験を受けるのではありません。ギルド薬師の上に、箔付けとして王都の『国家薬師』があるんです。王都はそのときの試験会場を用意していますね」
「つまり、この街がこの国の『ギルド認定薬師』の受験会場ということですか?」
「はい、そのとおりです。ギルド薬師の試験に使われる薬草も全部揃う地域は少ないですし、この辺はその意味で立地が良いですね。他にも2つありますけど、距離が近いのはこの街ですし、王都からは受験者がこの街に受けに来るんです」
「そう聞くと、逆に12人は少ない気もしますね」
王都は学院もあるはずだから、人数がもっと来ても良いはずだ。
受験資格を得られた人が少ないのだろうか、とミラは疑問を浮かべる。
「それから注意点なんですけど、問題は全部解こうとしなくても大丈夫ですよ? すでに受験されている方は知っていることなのでお伝えしますけど、毎年、『誰も解けない難問』が1つ出題されることになっています」
「そうなんですね……」
「まあ、でもミラさんならその問題も解けるかも知れませんよ?」
「どうなんでしょうか? 誰も解けないなら私にも無理だと思いますけど、でも解けたら嬉しいですね……」
そんなこんなで、ミラはスフィアからギルド認定の薬師試験の概要と会場についての情報を得て、工房の自宅に帰宅することにした。
***
帰りの途中、留守番しているシルクのために大量の肉を購入した。
「だいぶ家を留守にしてしまったけれど、シルクは大丈夫かしら?」
不要な心配をしながら、ミラは少しだけ早足になるのだった。
その後、内情を知る受付のスフィアに報告した。個室の相談部屋に移動をしてから、詳細を伝える。
「それは……大変でしたね」
「そもそも教団ってなんなのでしょうか? 実家がその教団と繋がっているみたいで……」
「いえ、私にはちょっとそのへんはよくわかりません。教団については、ギルドでも把握していない情報ですね」
「ギルドでもわからないんですか?」
「王家の方ならなにかわかるかも知れませんが……」
「わかりました……今度王都に行ったときにフローラ様に聞いてみます」
スフィアは笑みを浮かべるが、すぐに渋い顔になって、ため息を付いた。
「これ、上にどう報告すればいいんでしょうね……」
「そのまま報告しても良いのでは?」
「でも、その教団って実態がよくわからないんです。どこに潜んでいるか。もしかすると……」
「ギルドにも……いるかもしれない?」
「ええ、その可能性は考えておいたほうが良さそうです。とりあえず、ギルドマスターにだけは報告しますけど、他の職員にはあまり詳細を漏らさないようにしたほうが良いかも知れません」
「確かに……、ではそうすることにします」
ミラは周囲に誰も居ない部屋で必要以上に声を押さえて喋っていることに気づき、少しだけおかしくなった。
スフィアも釣られて笑い、部屋の中に笑い声が響いた。
用意した紅茶を一口飲むと、スフィアが聞いた。
「それにしても、魔人(?)をよく倒せましたね。ギルドの文献ではSランク相当に分類されている幻の魔物ですよ?」
「このギルドで読んだ文献とこの前王家の方が来て話をしてくださったおかげです。倒すヒントを得られました」
「そうですか。ギルドの文献が役に立てたようで良かったです」
スフィアは少し誇らしげな表情だ。ギルドの書庫が役に立てたようで嬉しそうだった。 ギルドの書庫開放や秘匿文献の公開は、今代のギルドになってからだという。
「ギルドの書庫開放の仕組って、昔は違ったんですか?」
「はい、以前は書庫から職員が本を持ち出して、その場で読んでもらう規則だったんです。とはいっても、利用する人は少なかったですけどね」
「ではなぜ?」
「当時、冒険者の死亡率が異常に高かったんです。そのせいでどの街も冒険者不足になりました。一人前になる前に死んでしまうと、冒険者が育たなくなってしまうんです」
「そういえば、新人教育もされていますよね?」
「あれも、最近になって導入されたんです。以前は、初心者が体当たりで実態を知るのが普通でしたね。そもそもギルドが初心者のお世話をしていませんでしたから」
「そう、だったんですね……」
ミラは冒険者になったタイミングが良かったのだろう。
昔なら、ここまでの待遇は受けられなかった。
***
ミラたちは個室を出て、受付の場所に戻ってくる。
カウンターから紙を取り出したスフィアがミラを呼び止めて伝える。
「あ、そうそう、伝え忘れるところでしたが、ギルドの薬師試験の条件を満たしたので、受験資格を得ました」
「そういえば……」
ミラは、何のために依頼を達成したのか、魔人の襲撃によるインパクトが強くて、すっかりその認識が薄れていた。
「はい、ですので今度行われる当ギルドでの試験を受けられます。詳細はこの紙に書いてありますが、簡単に説明しますね」
「お願いします」
「試験は全部で3つ。筆記と実技、面接です実技はポーションの納品ですね。調合の監督ありで納品します。面接は人柄や倫理観の確認ですが、最近では形式的なものとなっているので、実質的には、筆記と実技の2つが試験です」
「わかりました。何か準備するものはありますか?」
「紙のこの辺に書いてありますよ」
「あ、本当ですね」
ミラは紙をちらっと見て内容を記憶する。
持ち物は、昼食や飲み物、後は、実技に使う器具だ。とはいっても、器具はほとんどがギルドで用意している。そのため、補助的な器具や材料を個別に用意したい人だけ自分で持ってくることになっていた。
「器具・材料の項目ですけど、調合方法にもいろいろなものがあるようですから、基礎魔法の調合方法以外、特殊な器材や材料はありません。それ以外の方法で試験に挑む方だけは用意しておくようにとのことです」
ミラはそれを聞いて頷いた。
ミラは魔法と原始的な作業の両方を使う特殊な薬師見習いである。
「わかりました。その試験は何人くらいが受けるんですか?」
「え~と、12人くらいですね。これから少し増えると思います」
「え? 聞いておいてなんですけど、この街って薬師の弟子は私しかいませんよね?」
「あ~、そうですね。でも他の街や王都からも来るんですよ?」
「王都からも?」
「はい、ミラさんはあまり外のことをご存じないようですけど、王都を除くと、この街って監督ができる優秀な薬師が2人もいる珍しい街なんです。王都の人は王都のギルド試験を受けるのではありません。ギルド薬師の上に、箔付けとして王都の『国家薬師』があるんです。王都はそのときの試験会場を用意していますね」
「つまり、この街がこの国の『ギルド認定薬師』の受験会場ということですか?」
「はい、そのとおりです。ギルド薬師の試験に使われる薬草も全部揃う地域は少ないですし、この辺はその意味で立地が良いですね。他にも2つありますけど、距離が近いのはこの街ですし、王都からは受験者がこの街に受けに来るんです」
「そう聞くと、逆に12人は少ない気もしますね」
王都は学院もあるはずだから、人数がもっと来ても良いはずだ。
受験資格を得られた人が少ないのだろうか、とミラは疑問を浮かべる。
「それから注意点なんですけど、問題は全部解こうとしなくても大丈夫ですよ? すでに受験されている方は知っていることなのでお伝えしますけど、毎年、『誰も解けない難問』が1つ出題されることになっています」
「そうなんですね……」
「まあ、でもミラさんならその問題も解けるかも知れませんよ?」
「どうなんでしょうか? 誰も解けないなら私にも無理だと思いますけど、でも解けたら嬉しいですね……」
そんなこんなで、ミラはスフィアからギルド認定の薬師試験の概要と会場についての情報を得て、工房の自宅に帰宅することにした。
***
帰りの途中、留守番しているシルクのために大量の肉を購入した。
「だいぶ家を留守にしてしまったけれど、シルクは大丈夫かしら?」
不要な心配をしながら、ミラは少しだけ早足になるのだった。
513
お気に入りに追加
2,651
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい
咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。
新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」
イルザは悪びれず私に言い放った。
でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ?
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる