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2-12.シルク、返り討ちにする
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――ミラが教団の魔神と戦っていた頃。
シルクは、いつも通りに工房の犬小屋で寝ていた。正確には、寝ながらでも、工房を守るように周囲を警戒している。
その日、ミラの予定に合わせて教団員が派遣されたことはミラたちは知らない。だから、留守になった工房は情報を回収する格好の場所となっていた。
黒いマントを羽織った人物が複数人、工房に近づいていた。ミラに差し向けられたのと同じ風貌の教団員だ。
シルクは、人の気配を感じ取って、目を開くと、教団員たちを睨みつけるように起き上がった。
教団員たちは会話をしており、それをシルクは耳を立てて聞く。
「これが例の娘の生活拠点か?」
「ああ、そうらしい。庭には犬のペットも飼っているんだと」
「ずいぶんと優雅な暮らしをしているな。家を出て一軒家で暮らせている上に、ペットを買う余裕まであるのか」
「生贄が好き勝手し過ぎではないか?」
「まあ、そういうな。私達の任務は情報収集だ。生贄にさわりのある事をしていなかったか調査する必要があるし、一般市民に変装してこれから聞き込みもする必要がある。誰に何を聞くかは、まず調べる必要があるだろう」
シルクは、警戒度を最大まで引き上げた。
会話の内容から、ミラの工房に狙いを定めて、物資や情報の略奪を目論んでいることを理解したのである。
犬小屋から出て、工房に立ちふさがるように移動した。
「グルルルルル!」
ちょうどそれを見ていた教団員たちが、足を止める。
「なんだこの犬は……」
「しっしっ、あっちいけ!」
「反抗的な犬だな? しつけが必要か?」
教団員の1人が腰からナイフを取り出し、シルクに向けた。
その様子を見てシルクは威嚇した。
「バウッ!」
「バカにしやがって!」
その威嚇を見て、ナイフを持っていた教団員がシルクに近づく。
「おい! 俺たちの任務を忘れたのか!」
制止もお構いなしに、その男は、シルクの頭にナイフを突き刺そうとした。
だが、そのナイフは刺さることなく、地面に落ちた。
ぽとり。
持っていた右手の腕ごと。
「ぐあああああああああああああ!」
教団員の1人が絶叫した。
右腕をシルクの爪の一撃で切り離されたのだ。
避けられない速さで、防御すらできないまま。
気付いたら地面に腕があったという恐怖は、教団員たちを恐怖のどん底に突き落とした。
もう1人の教団員が後ずさる。
「何だ、この犬……ただの犬じゃないのか?」
隣の男がそれに答える。
「こいつの強さヤバイぞ……もうあれを使うしか!」
「おい、早まるな! それはAランクやSランク級と対峙したときの隠し玉なんだぞ! それに一度でも使うともうお前の寿命は……」
男は警告を無視して、何かを飲もうとした。
だが、シルクはそれを見逃さなかった。
地面を蹴り、一瞬で移動する。男の首筋に爪で切りつけ、首と胴を切り離した。
男の体は倒れて、絶命した。
「動きが早すぎる……」
残った男も逃げようと後ろを向いた瞬間に、背中から心臓を爪で一突きされ、息絶える。
目の前で悠長になにか強化アイテムを使おうとしていたから、その前に対処した。シルクは相手の言動をすべて理解した上で、冷静に処理したのだった。
魔人化アイテムの弱点の1つは、使う前の強さが、元の人間のものでしかないことだ。
犬として買われていたということもあり、教団員が全く警戒していなかったことで、事前にアイテムを使えないのも容易に勝てた理由である。
「わふっ……」
達成感のようなものを感じたシルク。
ミラに出発前に頼まれていたことをやり遂げた。
『私、いまから出かけるから、工房の防犯をお願いね?』
ミラの真意は、吠えて不審者を追い払ってほしい程度の意味だった。
シルクはそのことを知らない。
吠えても向かってくる敵から工房を無事守りきったことだけが事実だ。
シルクは、その場に残った残骸物を引きずって穴を掘り、片付ける。
――その日から、消息の途絶えた教団員を追って来た別の教団員たちをシルクは次々と始末することになる。
これにより、教団側の情報収集部隊は壊滅した。
「ただいま~。シルク元気だった?」
飼い主のミラが帰ってきた時、その手には大量のお肉があった。
留守番と防犯のご褒美だろう。
餌は十分にストックを用意してくれていたため、それとは別口らしい。
「わんっ!」
「よしよしよし……ごめんなさいね。留守番、大丈夫だったかしら?」
「わふ」
「そう、えらいわね」
ミラはシルクの頭を撫でた。
「わふ~」
「そう、よかったわ。王都に行くときは一緒に連れて行くから、安心して」
ミラは、薬師の試験の後、王都に行く予定を立てている。
そのときは、シルクも連れていくことにした。
シルクのためというよりも、長く離れていると、ミラの方が心配でシルクのこと気になってしまうからだった。
だが、ミラとシルクが教団員を返り討ちにしたことは、お互いに知らない。
後日、ミラの父親だった男・ハルドンは、送り込んだ教団の回収要員と情報収集部隊が全滅した事実を知ることになった。
ミラの飼い犬が教団員を返り討ちにしていたことを彼はまったく予想できなかったのである。
シルクは、いつも通りに工房の犬小屋で寝ていた。正確には、寝ながらでも、工房を守るように周囲を警戒している。
その日、ミラの予定に合わせて教団員が派遣されたことはミラたちは知らない。だから、留守になった工房は情報を回収する格好の場所となっていた。
黒いマントを羽織った人物が複数人、工房に近づいていた。ミラに差し向けられたのと同じ風貌の教団員だ。
シルクは、人の気配を感じ取って、目を開くと、教団員たちを睨みつけるように起き上がった。
教団員たちは会話をしており、それをシルクは耳を立てて聞く。
「これが例の娘の生活拠点か?」
「ああ、そうらしい。庭には犬のペットも飼っているんだと」
「ずいぶんと優雅な暮らしをしているな。家を出て一軒家で暮らせている上に、ペットを買う余裕まであるのか」
「生贄が好き勝手し過ぎではないか?」
「まあ、そういうな。私達の任務は情報収集だ。生贄にさわりのある事をしていなかったか調査する必要があるし、一般市民に変装してこれから聞き込みもする必要がある。誰に何を聞くかは、まず調べる必要があるだろう」
シルクは、警戒度を最大まで引き上げた。
会話の内容から、ミラの工房に狙いを定めて、物資や情報の略奪を目論んでいることを理解したのである。
犬小屋から出て、工房に立ちふさがるように移動した。
「グルルルルル!」
ちょうどそれを見ていた教団員たちが、足を止める。
「なんだこの犬は……」
「しっしっ、あっちいけ!」
「反抗的な犬だな? しつけが必要か?」
教団員の1人が腰からナイフを取り出し、シルクに向けた。
その様子を見てシルクは威嚇した。
「バウッ!」
「バカにしやがって!」
その威嚇を見て、ナイフを持っていた教団員がシルクに近づく。
「おい! 俺たちの任務を忘れたのか!」
制止もお構いなしに、その男は、シルクの頭にナイフを突き刺そうとした。
だが、そのナイフは刺さることなく、地面に落ちた。
ぽとり。
持っていた右手の腕ごと。
「ぐあああああああああああああ!」
教団員の1人が絶叫した。
右腕をシルクの爪の一撃で切り離されたのだ。
避けられない速さで、防御すらできないまま。
気付いたら地面に腕があったという恐怖は、教団員たちを恐怖のどん底に突き落とした。
もう1人の教団員が後ずさる。
「何だ、この犬……ただの犬じゃないのか?」
隣の男がそれに答える。
「こいつの強さヤバイぞ……もうあれを使うしか!」
「おい、早まるな! それはAランクやSランク級と対峙したときの隠し玉なんだぞ! それに一度でも使うともうお前の寿命は……」
男は警告を無視して、何かを飲もうとした。
だが、シルクはそれを見逃さなかった。
地面を蹴り、一瞬で移動する。男の首筋に爪で切りつけ、首と胴を切り離した。
男の体は倒れて、絶命した。
「動きが早すぎる……」
残った男も逃げようと後ろを向いた瞬間に、背中から心臓を爪で一突きされ、息絶える。
目の前で悠長になにか強化アイテムを使おうとしていたから、その前に対処した。シルクは相手の言動をすべて理解した上で、冷静に処理したのだった。
魔人化アイテムの弱点の1つは、使う前の強さが、元の人間のものでしかないことだ。
犬として買われていたということもあり、教団員が全く警戒していなかったことで、事前にアイテムを使えないのも容易に勝てた理由である。
「わふっ……」
達成感のようなものを感じたシルク。
ミラに出発前に頼まれていたことをやり遂げた。
『私、いまから出かけるから、工房の防犯をお願いね?』
ミラの真意は、吠えて不審者を追い払ってほしい程度の意味だった。
シルクはそのことを知らない。
吠えても向かってくる敵から工房を無事守りきったことだけが事実だ。
シルクは、その場に残った残骸物を引きずって穴を掘り、片付ける。
――その日から、消息の途絶えた教団員を追って来た別の教団員たちをシルクは次々と始末することになる。
これにより、教団側の情報収集部隊は壊滅した。
「ただいま~。シルク元気だった?」
飼い主のミラが帰ってきた時、その手には大量のお肉があった。
留守番と防犯のご褒美だろう。
餌は十分にストックを用意してくれていたため、それとは別口らしい。
「わんっ!」
「よしよしよし……ごめんなさいね。留守番、大丈夫だったかしら?」
「わふ」
「そう、えらいわね」
ミラはシルクの頭を撫でた。
「わふ~」
「そう、よかったわ。王都に行くときは一緒に連れて行くから、安心して」
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そのときは、シルクも連れていくことにした。
シルクのためというよりも、長く離れていると、ミラの方が心配でシルクのこと気になってしまうからだった。
だが、ミラとシルクが教団員を返り討ちにしたことは、お互いに知らない。
後日、ミラの父親だった男・ハルドンは、送り込んだ教団の回収要員と情報収集部隊が全滅した事実を知ることになった。
ミラの飼い犬が教団員を返り討ちにしていたことを彼はまったく予想できなかったのである。
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