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1-22.気づく、本当の品質
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後を追ってきたスフィアに合流し、ミラは今回のことを知らせた。
異常個体の発生が原因だったこと、ミラがその個体を倒して深海クラゲの大群が帰ったことを簡単に説明する。
「そういうわけで、もう大丈夫だと思います」
スフィアは目を見開いた後、静かに安堵のため息を付いた。
「なるほど、そういうことだったんですね。ミラさん、お手柄です」
「いえ、そんな……偶然上手くいっただけですから」
ミラは、先ほどの出来事を振り返って、1つでも推測が間違っていれば街は壊滅していた、と考えた。
「それでもです。魔物と戦えないのに、こんなにも無茶して」
スフィアは虫食いのようになった服の上からミラに上着を掛けた。
「ありがとうございます」
「それにしても調合魔法の気弾ってすごかったんですね。空飛ぶとか、知りませんでした」
スフィアは、調合魔法は薬師が使う魔法というイメージが強く、出力の小さな魔法で、空を飛ぶのに使ったということに驚いた。
「いえ、一般庶民ほどではないです」
「えっと、一般の人はできないと思いますよ?」
スフィアは、ミラの勘違いに気づいて、疑問符を頭の上に浮かべる。
スフィアの疑問を映し取ったように、ミラも疑問の表情を浮かべた。
「え? 一般庶民は頑張れば空くらいは飛べるのでは?」
スフィアは真剣に、抑揚のない声で言った。
「飛べません」
「飛べないんですか?」
「はい。飛べるとしたら、魔法でしょうけど、使える人を見たことないですね」
「……そう」
ミラは少し驚きの表情を浮かべた。
(では、姉が嘘をついていたのね)
確かに、この街に来て誰も飛んでいなかったが、頑張れば=無理すれば、ということで、普段は飛ばないだけだと思っていた。
ミラは自分も頑張れば空を飛べるかもしれないと考えたため、この事実が意外にもショックだった。
スフィアはミラをじっと見た。
(誰に常識を教わったら、こうなるんだろう……)
ミラはつい先日のある報告と目の前のミラを照らし合わせる。
泥だらけのドレスでこの街に来て、お金もなく、一般庶民と自分との区別を当たり前のように持っている存在。
彼女はやっぱり貴族だと再認識した。
薄々は貴族ではないかとは考えていたが、没落した家など事情はさまざまあるはずだし、ギルド職員はその話題に触れないことになっている。
冒険者ギルドは貴族の子も含めて多様な存在を冒険者として受け入れているのである。
少し歩くのが遅れる。ミラが振り返った。
「どうかしましたか?」
「ミラさん、歩くのも結構速い」
スフィアはそう言って、駆け足でミラに追いついた。
(ミラさんのこの足の速さなら、説明できてしまう。例の矛盾が。街に来た日程で否定された探し人はたぶん……。ああ、面倒なことに気づいてしまった。けど、このことを国に報告すべき、なのよね……)
冒険者ギルドに到着すると、スフィアが職員に状況を説明し、歓声が上がった。
その後、それを他の職員が外にも伝えに行く。
情報が広まったところで、街の喧騒(けんそう)は落ち着いた。
しばらくして、住人に声をかけ、有志の人や職員の協力で冒険者を救助することに決めた。
いまのところ、多くの冒険者は、森林地帯の浅い場所に大勢が倒れており、置物と化している。
職員に手伝いを申し出たミラは、すでにギルドに運び込まれていた自分の作ったポーションをできるだけ持って現場に向かう。他の職員にも配られた。メリエラのポーションもある。
他の有志の人は、途中の道で倒れている人たちにポーションを飲ませた後の運搬役(肩を貸す役・木のタンカで救護テントまで運ぶ人員)として、各地に散らばった。
ミラたちの作ったポーションは、職員たちの手によって冒険者に飲ませる。
ギルド職員たちと同じように、ミラもポーションを地面に倒れている女性冒険者に飲ませた。
茶色の髪が短い、目つきの少し鋭い女性だ。
その女性は地面に仮死状態のように置物となっている。
だが、目は開いている。動けないだけなのだ。
そして、股間のあたりに、水をかけられたような跡がある。これは地面に倒れている冒険者の全てに当てはまる現象だ。
麻痺すると、おしっこをきちんとしたくても、動けないため、倒れたまま放尿する。
結果、漏れなく全員が『おもらし』をしたみたいになっていた。
「これを飲んでください」
飲ませようとするミラだったが、その女性は瓶から液体を上手く飲めない。
そこで、ミラは女性の顔をすこし起こして口の中に流し込んだ。
しばらくすると、女性が手足を動かして、ゆっくりと地面に腰を下ろす。
「ありがとう。もう平気よ」
女性はしばらく座ったまま、調子を整えると立ち上がった。
「それならよかったわ」
「でも変ね。いつもの麻痺ポーションじゃ、こんなに早く動けないのに」
「そうなんですか?」
ミラが手にしているのは、自分が作ったポーションだった。
それと同じポーションを持つ職員もすこし驚いている様子だ。
冒険者が次々と起き上がる。
だが、メリエラの作った方は、冒険者が倒れたまま、いつものゆっくりした効き目のようだ。しばらくは動けないらしい。
女性冒険者はミラに伝えた。
「なんか動けるみたいだし、私も手伝うわ」
「あの、それ気になりませんか?」
ミラは街に戻って着替えを促す意図で、さっと股下のあたりに視線を向ける。
「ええ、慣れると結構平気よ。これでも、ここに来るのは今年で5回目だから」
彼女の話によると、深海クラゲの討伐は、参加すると彼女はいつもこうなるらしい。
彼女だけでなく、針を食らって置物になった冒険者はポーションを飲ませてもしばらく放置されるため、おしっこを垂れ流す。
最初はかなり恥ずかしいとのこと。だが、繰り返すと慣れてきたという。
羞恥の度合いは、人によるらしい。
慣れるには「この程度は冒険者ならどうってことない」という開き直りが重要なのだという。
慣れたくないわ、とミラはそう心のなかでそう言って首を振った。
ミラは飲ませるポーションを全て自分の作ったものにした。これを優先して飲ませ、多くの冒険者をお手伝い要員に変えたのだ。
その結果、予定よりも早く冒険者を街に帰還させることに成功した。
これでスフィアの仕事もかなり楽になったことをミラは後で聞かされた。
「それにしても、なぜ私のポーションだけ? あ!」
ミラは冒険者ギルドに来ていたメリエラとルーベックを見つけて、話しかけた。
「あの、お二人はどうしてこちらに?」
メリエラはさっと答える。
「一応、手伝いにね。それより、なんか大事件になっていたみたいね」
ルーベックはミラに何故か感謝した。
「ありがとう。君のおかげだ」
ミラは一瞬、疑問を浮かべたが、とりあえず、「どういたしまして」といまは返しておくだけにした。
今回のことで何かあったのかも知れない。
「そうでした、お二人にお聞きしたいことがあります」
ミラは事情を説明した。ミラが作った方のポーションだけ、効果時間が早かった理由がよくわからないと。
「ねえ、もしかして、あなたのポーションって複数同時に作っていても1本と同じ高品質だったんじゃない?」
ルーベックはミラが手に持つポーションを手で受け取り、すこし振った。
何かを観察しているらしい。
「これを複数同時に制作したのかい? 驚きだ」
メリエラは「まさか!」と言うと、ミラのポーションを受け取って鑑定した。
「うわ! これ最高品質のポーションになってるわよ」
「えっ! 本当ですか?」
確かに、作ったときはマイナスの2番目品質だったはず。
それが最高品質に変わっていた。
「まず、複数同時調合で2番目品質ってのがすごいんだけど、それが最高品質を示している。たぶん時間経過が理由かも。品質が変化しているわ。あなた、品質に合わせて、ポーションを暗所で寝かせる時間を変えていなかったんじゃない?」
低級ポーションの仕上げのときと同じで、いつもどおりの時間しか置かなかったのではないかと。
ミラにそう聞いた。
「……それは一体どういう?」
ミラは困惑した表情を浮かべた。
ルーベックはため息を付いた。
「メリエラ。君さ、教えなかったんじゃない? 低級ポーションの作り方だったあの時は僕も説明なかったけどさ、高品質なポーションが作れるってわかったなら、君が教えないと知らないんだと思うよ」
ミラは、ルーベックの話から、『調合基礎』の文の記述を即座に思い返す。
品質による時間の調節が必要。これが書かれた『調合基礎』には、それしか書いておらず、時間は書かれていない。
「ポーションを置く時間が足りないまま鑑定していた、ってことですね……」
メリエラは少し焦って、謝罪する。
「あ、ごめんなさい。完全に忘れてたわ。というより、置いた時間が不十分でも高品質だったから、まさか十分な時間を置いていないなんて思わなかったのよ」
「じゃあ、私が作ったポーションは最初から最高品質だったんですか?」
「ええ、その通りよ。おそらくだけど、魔法で調合する欠点を彼(ルーベック)の技術で補ったんだわ」
「それって……」
「魔法の調合にはある欠点があるの。仕上げや終盤の除去作業でムラが残るのよ。だから最高品質にはならないわ」
「そうだったんですか」
「けど、これで1つ、わかったことがあるわ」
「えっと、何を?」
それにはルーベックが答えた。
「師匠が、なぜメリエラと2人の弟子をとったのかだよ。薬師の師匠は、普通1人だ。けど、あの師匠が目指したのは技術のさらなる研鑽(けんさん)だった。どちらかの作業しか得意でなくても、2人なら互いから学んで高い品質をそのうち出せると考えたんだろうね」
「たしかに……最初どうして2人なんだろう? って思ってました。弟子を2人とっていたのは、そういうことだったんですね」
メリエラは言った。
「だから、ありがとう。また、気づけたわ」
その日、冒険者の補給など、まだまだ忙しさはあった。
だが、無事、大きなトラブルもなく終えることが出来た。
ルーベックは高品質ポーションを作るときの調合技術を早めに見せてくれると言われた。
ミラは師匠が考えていた理想の技術に最も近かったのだ。
そんな長い1日が終わって、ミラは宿に帰るのだった。
その日、深海クラゲ事件が無事に解決されてしまった夜のこと。
放棄された古い教会で、怪しげな雰囲気の男たちが謎の集会が開いていた。
それをミラは知る由もない。
異常個体の発生が原因だったこと、ミラがその個体を倒して深海クラゲの大群が帰ったことを簡単に説明する。
「そういうわけで、もう大丈夫だと思います」
スフィアは目を見開いた後、静かに安堵のため息を付いた。
「なるほど、そういうことだったんですね。ミラさん、お手柄です」
「いえ、そんな……偶然上手くいっただけですから」
ミラは、先ほどの出来事を振り返って、1つでも推測が間違っていれば街は壊滅していた、と考えた。
「それでもです。魔物と戦えないのに、こんなにも無茶して」
スフィアは虫食いのようになった服の上からミラに上着を掛けた。
「ありがとうございます」
「それにしても調合魔法の気弾ってすごかったんですね。空飛ぶとか、知りませんでした」
スフィアは、調合魔法は薬師が使う魔法というイメージが強く、出力の小さな魔法で、空を飛ぶのに使ったということに驚いた。
「いえ、一般庶民ほどではないです」
「えっと、一般の人はできないと思いますよ?」
スフィアは、ミラの勘違いに気づいて、疑問符を頭の上に浮かべる。
スフィアの疑問を映し取ったように、ミラも疑問の表情を浮かべた。
「え? 一般庶民は頑張れば空くらいは飛べるのでは?」
スフィアは真剣に、抑揚のない声で言った。
「飛べません」
「飛べないんですか?」
「はい。飛べるとしたら、魔法でしょうけど、使える人を見たことないですね」
「……そう」
ミラは少し驚きの表情を浮かべた。
(では、姉が嘘をついていたのね)
確かに、この街に来て誰も飛んでいなかったが、頑張れば=無理すれば、ということで、普段は飛ばないだけだと思っていた。
ミラは自分も頑張れば空を飛べるかもしれないと考えたため、この事実が意外にもショックだった。
スフィアはミラをじっと見た。
(誰に常識を教わったら、こうなるんだろう……)
ミラはつい先日のある報告と目の前のミラを照らし合わせる。
泥だらけのドレスでこの街に来て、お金もなく、一般庶民と自分との区別を当たり前のように持っている存在。
彼女はやっぱり貴族だと再認識した。
薄々は貴族ではないかとは考えていたが、没落した家など事情はさまざまあるはずだし、ギルド職員はその話題に触れないことになっている。
冒険者ギルドは貴族の子も含めて多様な存在を冒険者として受け入れているのである。
少し歩くのが遅れる。ミラが振り返った。
「どうかしましたか?」
「ミラさん、歩くのも結構速い」
スフィアはそう言って、駆け足でミラに追いついた。
(ミラさんのこの足の速さなら、説明できてしまう。例の矛盾が。街に来た日程で否定された探し人はたぶん……。ああ、面倒なことに気づいてしまった。けど、このことを国に報告すべき、なのよね……)
冒険者ギルドに到着すると、スフィアが職員に状況を説明し、歓声が上がった。
その後、それを他の職員が外にも伝えに行く。
情報が広まったところで、街の喧騒(けんそう)は落ち着いた。
しばらくして、住人に声をかけ、有志の人や職員の協力で冒険者を救助することに決めた。
いまのところ、多くの冒険者は、森林地帯の浅い場所に大勢が倒れており、置物と化している。
職員に手伝いを申し出たミラは、すでにギルドに運び込まれていた自分の作ったポーションをできるだけ持って現場に向かう。他の職員にも配られた。メリエラのポーションもある。
他の有志の人は、途中の道で倒れている人たちにポーションを飲ませた後の運搬役(肩を貸す役・木のタンカで救護テントまで運ぶ人員)として、各地に散らばった。
ミラたちの作ったポーションは、職員たちの手によって冒険者に飲ませる。
ギルド職員たちと同じように、ミラもポーションを地面に倒れている女性冒険者に飲ませた。
茶色の髪が短い、目つきの少し鋭い女性だ。
その女性は地面に仮死状態のように置物となっている。
だが、目は開いている。動けないだけなのだ。
そして、股間のあたりに、水をかけられたような跡がある。これは地面に倒れている冒険者の全てに当てはまる現象だ。
麻痺すると、おしっこをきちんとしたくても、動けないため、倒れたまま放尿する。
結果、漏れなく全員が『おもらし』をしたみたいになっていた。
「これを飲んでください」
飲ませようとするミラだったが、その女性は瓶から液体を上手く飲めない。
そこで、ミラは女性の顔をすこし起こして口の中に流し込んだ。
しばらくすると、女性が手足を動かして、ゆっくりと地面に腰を下ろす。
「ありがとう。もう平気よ」
女性はしばらく座ったまま、調子を整えると立ち上がった。
「それならよかったわ」
「でも変ね。いつもの麻痺ポーションじゃ、こんなに早く動けないのに」
「そうなんですか?」
ミラが手にしているのは、自分が作ったポーションだった。
それと同じポーションを持つ職員もすこし驚いている様子だ。
冒険者が次々と起き上がる。
だが、メリエラの作った方は、冒険者が倒れたまま、いつものゆっくりした効き目のようだ。しばらくは動けないらしい。
女性冒険者はミラに伝えた。
「なんか動けるみたいだし、私も手伝うわ」
「あの、それ気になりませんか?」
ミラは街に戻って着替えを促す意図で、さっと股下のあたりに視線を向ける。
「ええ、慣れると結構平気よ。これでも、ここに来るのは今年で5回目だから」
彼女の話によると、深海クラゲの討伐は、参加すると彼女はいつもこうなるらしい。
彼女だけでなく、針を食らって置物になった冒険者はポーションを飲ませてもしばらく放置されるため、おしっこを垂れ流す。
最初はかなり恥ずかしいとのこと。だが、繰り返すと慣れてきたという。
羞恥の度合いは、人によるらしい。
慣れるには「この程度は冒険者ならどうってことない」という開き直りが重要なのだという。
慣れたくないわ、とミラはそう心のなかでそう言って首を振った。
ミラは飲ませるポーションを全て自分の作ったものにした。これを優先して飲ませ、多くの冒険者をお手伝い要員に変えたのだ。
その結果、予定よりも早く冒険者を街に帰還させることに成功した。
これでスフィアの仕事もかなり楽になったことをミラは後で聞かされた。
「それにしても、なぜ私のポーションだけ? あ!」
ミラは冒険者ギルドに来ていたメリエラとルーベックを見つけて、話しかけた。
「あの、お二人はどうしてこちらに?」
メリエラはさっと答える。
「一応、手伝いにね。それより、なんか大事件になっていたみたいね」
ルーベックはミラに何故か感謝した。
「ありがとう。君のおかげだ」
ミラは一瞬、疑問を浮かべたが、とりあえず、「どういたしまして」といまは返しておくだけにした。
今回のことで何かあったのかも知れない。
「そうでした、お二人にお聞きしたいことがあります」
ミラは事情を説明した。ミラが作った方のポーションだけ、効果時間が早かった理由がよくわからないと。
「ねえ、もしかして、あなたのポーションって複数同時に作っていても1本と同じ高品質だったんじゃない?」
ルーベックはミラが手に持つポーションを手で受け取り、すこし振った。
何かを観察しているらしい。
「これを複数同時に制作したのかい? 驚きだ」
メリエラは「まさか!」と言うと、ミラのポーションを受け取って鑑定した。
「うわ! これ最高品質のポーションになってるわよ」
「えっ! 本当ですか?」
確かに、作ったときはマイナスの2番目品質だったはず。
それが最高品質に変わっていた。
「まず、複数同時調合で2番目品質ってのがすごいんだけど、それが最高品質を示している。たぶん時間経過が理由かも。品質が変化しているわ。あなた、品質に合わせて、ポーションを暗所で寝かせる時間を変えていなかったんじゃない?」
低級ポーションの仕上げのときと同じで、いつもどおりの時間しか置かなかったのではないかと。
ミラにそう聞いた。
「……それは一体どういう?」
ミラは困惑した表情を浮かべた。
ルーベックはため息を付いた。
「メリエラ。君さ、教えなかったんじゃない? 低級ポーションの作り方だったあの時は僕も説明なかったけどさ、高品質なポーションが作れるってわかったなら、君が教えないと知らないんだと思うよ」
ミラは、ルーベックの話から、『調合基礎』の文の記述を即座に思い返す。
品質による時間の調節が必要。これが書かれた『調合基礎』には、それしか書いておらず、時間は書かれていない。
「ポーションを置く時間が足りないまま鑑定していた、ってことですね……」
メリエラは少し焦って、謝罪する。
「あ、ごめんなさい。完全に忘れてたわ。というより、置いた時間が不十分でも高品質だったから、まさか十分な時間を置いていないなんて思わなかったのよ」
「じゃあ、私が作ったポーションは最初から最高品質だったんですか?」
「ええ、その通りよ。おそらくだけど、魔法で調合する欠点を彼(ルーベック)の技術で補ったんだわ」
「それって……」
「魔法の調合にはある欠点があるの。仕上げや終盤の除去作業でムラが残るのよ。だから最高品質にはならないわ」
「そうだったんですか」
「けど、これで1つ、わかったことがあるわ」
「えっと、何を?」
それにはルーベックが答えた。
「師匠が、なぜメリエラと2人の弟子をとったのかだよ。薬師の師匠は、普通1人だ。けど、あの師匠が目指したのは技術のさらなる研鑽(けんさん)だった。どちらかの作業しか得意でなくても、2人なら互いから学んで高い品質をそのうち出せると考えたんだろうね」
「たしかに……最初どうして2人なんだろう? って思ってました。弟子を2人とっていたのは、そういうことだったんですね」
メリエラは言った。
「だから、ありがとう。また、気づけたわ」
その日、冒険者の補給など、まだまだ忙しさはあった。
だが、無事、大きなトラブルもなく終えることが出来た。
ルーベックは高品質ポーションを作るときの調合技術を早めに見せてくれると言われた。
ミラは師匠が考えていた理想の技術に最も近かったのだ。
そんな長い1日が終わって、ミラは宿に帰るのだった。
その日、深海クラゲ事件が無事に解決されてしまった夜のこと。
放棄された古い教会で、怪しげな雰囲気の男たちが謎の集会が開いていた。
それをミラは知る由もない。
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