実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

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1-20.そして来る

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「ここまで魔法の伝導率が高いなら、同時に圧縮できるわよね?」

 ミラは試しに、3本のポーションを製作する工程を試してみる。
 この工房には複数用の機材がそろっており、機材の型は多少古いが、使うことはできる。
 その機材にそれぞれ溶液と処理した薬草をセットする。

 調合工程を3つ同時に行う。効率化した作業のおかげか、仕上げが手作業でも十分に早くできる。
 このスピードと本数のペースなら、結構な数のポーションを確保できそうだ。

 ミラは夜更けまでこの作業を続けた。
 大量のポーションを作った後、作業を切り上げると、メリエラの工房に向かった。

 メリエラもかなりの速さでポーションの作成をしていた。
 作成した量だけならミラ以上の数だった。

 メリエラなら上級魔法も使えるため、効率化できる範囲も増える。
 その結果、ミラよりも多くのポーションを生み出したのだ。

 だが、このときは誰も気づいていなかった。ミラの作り出したポーションは、品質が1本のときと、まったく変わっていなかったことを。

 その日はきりの良いところで終わり、翌日にギルドへと運ぶことにした。



 夜も遅かったので、ミラはメリエラの工房に泊まることにした。

 部屋の中は、以前、ミラが見かけた時よりも片付いていた。
 だが、相変わらずところどころ散らかっている。

 屋敷で部屋の掃除をしたことがなかったミラでも、いまは簡単な片付けや整理くらいはできるようになった。
 こういうのは、性格的な個人差が出るのかも知れない、と気づくミラ。
 少し大きめのベッドに、ミラはその隅を使わせてもらう。


 しばらく沈黙が続いた。
 すると、メリエラは、横になっているミラにふと声をかけた。

「ねえ、あなたどうして古い言語で書かれた技術文献を読めたの?」

 その質問はミラの過去に関わる話のため、少し答えにくかった。
 だが、大丈夫なところだけを話すことにした。

「すこし前まで、そういう古い言語の本を読んでいたんです。読めばだいたい理解できて。わかる言語も読むたびに増えていきました。それからは、古い言語はだいたい読めましたから。たぶん古い言語の解読に慣れて、気付いたらできるようになったんだと思います」

「そう、本で言語を学んで他国の専門書も理解してたのね。普通、あんな古い技術書を読むためだけに、難解な外国の古語を学ぶ人なんていないもの」

「はい、私もあのために古い言語を学んだとは思っていなかったです。正直、今日のことがなければ一生、使われない知識でした」

 姉は、ミラが使えない知識を学ばせて時間を浪費させたと思っていたのだろう。
 だが、ミラにとっては有用なものとなった。
 姉が知ればハンカチを噛み締めて、悔しがることだろう。


「そっか。ほんと師匠って昔から回りくどいのよ。技術書のことも直接言えばいいのに」「恥ずかしかったのでしょうか?」
「さあ。でも、ありがと」

 それだけ言って、メリエラは静かになった。
 ミラも寝ることにする。


 次の日、ミラたちはポーションの一部をギルドに運び込んだ。
 量が多いため、ギルドの職員を工房まで呼び寄せて、残りは運搬を依頼した。

 ミラが改めて報酬を受け取りに行く。
 すると受付でスフィアが感謝の言葉を伝えた。

「ありがとうございます!」
「いえ、ほとんどはメリエラ様が作られたましたから」
「そんなことありません。ミラさんが大量に作る方法を見つけてきてくれたって言ってました」
「そうだったんですね。メリエラ様ったら」

 スフィアは頭を下げた。
 まだ何も終わっていないのに、少し気が早い気はしたが、ミラは少し嬉しくなった。

 ぱっと顔を上げたスフィア。
 
「ミラさんがいてよかったです。これで今回はなんとかなりそうで――」

 そこまで言いかけて、スフィアの口が開いたまま、動きが止まる。

 ギルドに駆け込んできた異様な雰囲気の職員が見えたのが原因だ。
 ミラも後ろを振り向いた。

 大きな音で扉から入ってきた男性職員がいた。彼はギルド中に聞こえるように叫ぶ。

「深海クラゲが、海の方に渡らず、方向転換した! この街に襲来するぞ!」

 スフィアの口は開けた状態から、さらに大きく開けて、悲鳴のような声をあげた。

「え、嘘でしょ? ねえ、嘘って言ってよ!」

「本当のことなんです! 冒険者たちは急いで街に帰還している状態ですが、その方向転換のせいで大勢が不意をつかれて麻痺の状態になり、地面に転がったまま未帰還とのことです」

 ミラは状況の変化に思わず、ぽかんとした顔を浮かべた。
 だが、その意味がだんだんと分かってきて、状況を頭が理解し、顔が青ざめる。

「それってまずいんじゃ……」
「はい、かなりヤバイです。冒険者なら対策して攻撃を防ぐこともできるんですけど、街に来られたら住民が針の餌食えじきとなります。もし、住人の8割以上が行動不能になった場合、この街は機能不全になって大量の死者が出ます。しかも脱水症状で」

 深海クラゲは針を指した際に毒を注入しているらしく、それを排出するために人間は大量の水分を体外に出す。
 例えば、人間は塩や海水を大量に飲食すると死ぬか、脱水で死ぬ。いずれも死に至る行為だ。
 もはや麻痺毒の針は、即死ではない、遅効性の致死攻撃である。

 冒険者だけなら脱水を防ぐケアを職員ができる。
 だが、ほとんどの全市民がそうとなると対処は無理だ。

 それどころか街が回らなくなれば、機能も止まる。


 ギルド内の職員が大きな声で対策を話し合ったが、有効な方法は出てこなかった。
 ミラたちの作ったポーションも、町中の人が使えるほどの数は用意されていない。

 この危機的状況はもはや回避不能だ。


 本来、深海クラゲというのは、大群が何日も移動し続ける。

 つまり冒険者が倒しているのはその群れのほんの一部に過ぎない。
 取り逃しても、海に消えていくだけ。
 そのため、いつもは全滅させる必要がないのだ。

 しかし、すべての群れがこの街に来たのだとしたら、もう誰も深海クラゲを止められない。
 たとえ、巨大な火を吹くドラゴンがこの街を守護していたとしても、あの魔物の全てを倒しきれないだろう。
 討伐に国の全軍で立ち向かっても、人間には達成不可能である。



「ちょ、ちょっと、これ本当にどうするんですか?」

 スフィアはテンパって周囲の職員に向かって叫ぶ。
 男の若い職員が叫び返す。
 
「どうって……そんなの逃げるしかないだろ!」
 
 切羽詰まっている様子だ。

 住民の避難誘導はしなければならないが、もはやそんな時間はない。
 すぐそこまで大群が来ているのだという。

「そんなの、一体どうしたら……」

 ミラはギルドの窓から外の空に見える大量の青い光の塊に目を奪われた。
 すぐそこまで来ている。
 もはやすべてを投げ捨てて、逃げるしかないという。

 刻一刻と、街の壊滅が目の前まで迫っていた。
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