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1-8.武器選びは自分にあったものがしっくりくる
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ミラは冒険者として採集の仕事をしながら、お金を貯めることにした。
『薬草ポーションの作り方』という書籍を読んだことで、機材と技術があれば、冒険者ギルドに卸せるポーションを作ることができる。
しかし、依頼を何度か受けていると、知識だけではどうにもならないことは多いと気づいた。
それは、本や文章で説明された薬草の知識と実際に生えている薬草との違いだ。採集経験が少ないゆえに躓(つまずい)いたのである。
普通、採集をメインとする冒険者はミラのように知識だけを先に詰め込むのではなく、実際に生えている薬草と向き合って知識を蓄えていくものだ。知識だけ先取りしてしまったがゆえに、1人では判断に迷うことも少なくなかった。
例えば、いま採集しているカーネリー草だ。
この薬草は時刻によって葉の形状が変化し、自然の中で自生している場合は、形状が1つではなく、さまざまな茎や葉の形に変化する。
薬草辞典や他の文献に載っていた説明でそれを知ってはいても、実際にカーネリー草と同じ薬草なのかすぐに判断することができなかったのである。
「たぶん、これだと思うけれど……」
ミラは、匂いを嗅いでみたり、色合いを太陽の日差しで照らして、脈の色を確認するなどして、カーネリー草と特定することになんとか成功した。
「うん、これね」
知識をフル動員してなんとか探し出せたのは僥倖(ぎょうこう)だった。
書物の知識と違いがある薬草も結構あって、先日も、採集を途中で断念したのである。
だが、ミラは知らなかった。
普通は、薬草辞典のようなしっかりした知識を持たない人がほとんどで、受付で鑑定を受けては依頼を失敗するケースも決して少なくはない。
むしろ、初心者でここまで依頼の失敗が少ない冒険者はこれまでいなかった。そのせいか、難しい薬草採集の依頼まですでに勧められて知らずに受けていたわけである。
冒険者ギルドで依頼を完了した後、ミラは貯めた一部のお金で魔物護身用の剣を買うことにした。
残りは、今後の生活費や機材を買う費用にと考えている。
幸い、剣術は庶民レベル(と思っている)はあるらしいため、護身で剣を持つことには問題がなかったのである。
街の一角にある武器屋にミラは足を運んでいた。
この街に来て初めてのことは色々あったが、武器を選ぶのは初めてだった。
採集用のナイフは買ったが、用途が違うため、選び方も全然違う。
「たくさんあるわね……。どれを選べば良いのかしら?」
武器屋の中にはさまざまな剣や斧、槍、弓などの鋭い刃のついた武器が並んでいた。
ミラは首を一度ひねると、1つの剣を手に取ってみる。
どうやら手にしたのは男性向けの中でもかなり大柄な戦士が持つような大剣だった。
重くて自在に振り回せない。
「これはちょっとダメね」
これを手にとったのは、剣技の力量がなくても、大きいから魔物を追い払えるかも知れないと思ったからだ。
そこで、ふと、視線を感じ、ミラは店主のいるカウンターの方を見た。
ドワーフのようなどんぐり体型に、ひげがもじゃもじゃしている老齢の店主だ。
ミラは視線を戻して、剣を見つめる。
「やっぱり、ピタさんに相談しようかしら……。あの、さっきからどうしました?」
ミラは我慢できずに、店主に声をかけた。
彼は視線が何かを言いたげだった。
「気にしないでくれ」
「そんなにじっと見られると、どうしても気になります……」
「いや、大したことじゃないんだが、その剣をよく振り回せるなと思っただけだ。見た目もゴリラ女って感じじゃないのに、と気になってな。むしろ、細すぎてちょっと触ったら折れそうだ。あんたのような華奢な外見でその剣を軽々と振ってるのにビックリしていたんだ」
「え? 軽々とではないですよ。少し重いです。思ったようには振れませんでしたから」
「そういうことじゃないんだけどな……まあ気にしないでくれ」
ミラは「そうですか……」と答えて、女性用のゾーン(?)にある少し軽めで短い剣を手にとって、何度が振ってみた。
しっくり来るものが見つかる。
「これなら、ピタさんに相談しなくても大丈夫そう……あの、まだなにか?」
店主は、先程とは違って目をまんまると見開いていた。
彼女の鋭い剣すじを見て心底仰天していたのだ。武器屋の店主を長年していることもあって、そういうのには詳しかったのだ。
「お嬢さんは、一体どこでそれほどの剣術を?」
ミラはなぜ驚いているのか分からず、首を傾げた。
「兄に教わったといいますか、見様見真似で振るくらいはできるようになりましたけど。私にできたのは、(兄の完全な真似ではなく、)今の振り方なので」
「ほ~、なるほど。ん? 見様見真似とは一体……」
「だから、剣はあまり使えないんです。いえ、剣もですね」
ミラはその剣を店主に手渡してお代を手渡す。
「……ああ、確かに」
店主は銀貨を数えて、剣の代金に足りることを確認した。
そのままミラは店を出ると、武器屋を振り返った。
「やっぱり、きちんと剣術を習ったわけではないから、どこかおかしかったのかしら?」
剣を鞘に収めたまま、ミラはその場で2~3度の素振りをしてみる。
兄の振り方はミラにとって効率が悪く、自在に振れないため、兄と対峙するたびに独自の振り方になっていた。
そう、それが兄の剣技を超えた瞬間だった。
兄の使う剣術の流派を吸収し、女性では扱いづらい技を独自に改良するという、離れ業。
そんなことはつゆ知らず、ミラは剣を買ったことをピタに報告しに行くことにした。その足取りはどこか軽かった。
『薬草ポーションの作り方』という書籍を読んだことで、機材と技術があれば、冒険者ギルドに卸せるポーションを作ることができる。
しかし、依頼を何度か受けていると、知識だけではどうにもならないことは多いと気づいた。
それは、本や文章で説明された薬草の知識と実際に生えている薬草との違いだ。採集経験が少ないゆえに躓(つまずい)いたのである。
普通、採集をメインとする冒険者はミラのように知識だけを先に詰め込むのではなく、実際に生えている薬草と向き合って知識を蓄えていくものだ。知識だけ先取りしてしまったがゆえに、1人では判断に迷うことも少なくなかった。
例えば、いま採集しているカーネリー草だ。
この薬草は時刻によって葉の形状が変化し、自然の中で自生している場合は、形状が1つではなく、さまざまな茎や葉の形に変化する。
薬草辞典や他の文献に載っていた説明でそれを知ってはいても、実際にカーネリー草と同じ薬草なのかすぐに判断することができなかったのである。
「たぶん、これだと思うけれど……」
ミラは、匂いを嗅いでみたり、色合いを太陽の日差しで照らして、脈の色を確認するなどして、カーネリー草と特定することになんとか成功した。
「うん、これね」
知識をフル動員してなんとか探し出せたのは僥倖(ぎょうこう)だった。
書物の知識と違いがある薬草も結構あって、先日も、採集を途中で断念したのである。
だが、ミラは知らなかった。
普通は、薬草辞典のようなしっかりした知識を持たない人がほとんどで、受付で鑑定を受けては依頼を失敗するケースも決して少なくはない。
むしろ、初心者でここまで依頼の失敗が少ない冒険者はこれまでいなかった。そのせいか、難しい薬草採集の依頼まですでに勧められて知らずに受けていたわけである。
冒険者ギルドで依頼を完了した後、ミラは貯めた一部のお金で魔物護身用の剣を買うことにした。
残りは、今後の生活費や機材を買う費用にと考えている。
幸い、剣術は庶民レベル(と思っている)はあるらしいため、護身で剣を持つことには問題がなかったのである。
街の一角にある武器屋にミラは足を運んでいた。
この街に来て初めてのことは色々あったが、武器を選ぶのは初めてだった。
採集用のナイフは買ったが、用途が違うため、選び方も全然違う。
「たくさんあるわね……。どれを選べば良いのかしら?」
武器屋の中にはさまざまな剣や斧、槍、弓などの鋭い刃のついた武器が並んでいた。
ミラは首を一度ひねると、1つの剣を手に取ってみる。
どうやら手にしたのは男性向けの中でもかなり大柄な戦士が持つような大剣だった。
重くて自在に振り回せない。
「これはちょっとダメね」
これを手にとったのは、剣技の力量がなくても、大きいから魔物を追い払えるかも知れないと思ったからだ。
そこで、ふと、視線を感じ、ミラは店主のいるカウンターの方を見た。
ドワーフのようなどんぐり体型に、ひげがもじゃもじゃしている老齢の店主だ。
ミラは視線を戻して、剣を見つめる。
「やっぱり、ピタさんに相談しようかしら……。あの、さっきからどうしました?」
ミラは我慢できずに、店主に声をかけた。
彼は視線が何かを言いたげだった。
「気にしないでくれ」
「そんなにじっと見られると、どうしても気になります……」
「いや、大したことじゃないんだが、その剣をよく振り回せるなと思っただけだ。見た目もゴリラ女って感じじゃないのに、と気になってな。むしろ、細すぎてちょっと触ったら折れそうだ。あんたのような華奢な外見でその剣を軽々と振ってるのにビックリしていたんだ」
「え? 軽々とではないですよ。少し重いです。思ったようには振れませんでしたから」
「そういうことじゃないんだけどな……まあ気にしないでくれ」
ミラは「そうですか……」と答えて、女性用のゾーン(?)にある少し軽めで短い剣を手にとって、何度が振ってみた。
しっくり来るものが見つかる。
「これなら、ピタさんに相談しなくても大丈夫そう……あの、まだなにか?」
店主は、先程とは違って目をまんまると見開いていた。
彼女の鋭い剣すじを見て心底仰天していたのだ。武器屋の店主を長年していることもあって、そういうのには詳しかったのだ。
「お嬢さんは、一体どこでそれほどの剣術を?」
ミラはなぜ驚いているのか分からず、首を傾げた。
「兄に教わったといいますか、見様見真似で振るくらいはできるようになりましたけど。私にできたのは、(兄の完全な真似ではなく、)今の振り方なので」
「ほ~、なるほど。ん? 見様見真似とは一体……」
「だから、剣はあまり使えないんです。いえ、剣もですね」
ミラはその剣を店主に手渡してお代を手渡す。
「……ああ、確かに」
店主は銀貨を数えて、剣の代金に足りることを確認した。
そのままミラは店を出ると、武器屋を振り返った。
「やっぱり、きちんと剣術を習ったわけではないから、どこかおかしかったのかしら?」
剣を鞘に収めたまま、ミラはその場で2~3度の素振りをしてみる。
兄の振り方はミラにとって効率が悪く、自在に振れないため、兄と対峙するたびに独自の振り方になっていた。
そう、それが兄の剣技を超えた瞬間だった。
兄の使う剣術の流派を吸収し、女性では扱いづらい技を独自に改良するという、離れ業。
そんなことはつゆ知らず、ミラは剣を買ったことをピタに報告しに行くことにした。その足取りはどこか軽かった。
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