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1-7.ギルドで書物を読む。薬草知識と薬師
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ミラは最初の依頼で、薬草の意外な採集方法があることを知った。
そこで、薬草採集に関する書物を読むために、冒険者ギルドに来ていた。
もう少し薬草のことを知ってから、次の依頼を受けたいと考えていたのである。
「こんにちは、今日はどうされました?」
「実は、冊子に書いてあったギルド併設の『書庫』を利用したくて来ました」
「なるほど、採集の情報収集ですね?」
「はい」
カウンターで受け答えするお姉さんは、目的をすぐに察した。
さすがはギルドの受付嬢といったところだろう。優秀な人しかなれない職業だけはある。
案内されたのはギルドの奥にある結構な広さの書庫だった。
魔物の書物が多いが、採集の書物もコーナーにある。
「じゃあ、終わったら声をかけてください」
ミラは、棚の端から順に採集の書物を読み始めた。
薬草の種類、採集方法、特徴や注意事項。特に世界で発見済みで採集用の薬草は450種類以上にものぼった。だいたい60冊ほどで、ページ数の多いものや少ないもの、イラストばかりのもの、専門書もある。
ページをめくるスピードは、1ページにつき数秒。全部読むのに半日もかからなかった。
適度に飲み物は口にしていたが、ようやくギルドを出た頃には、さすがにお腹が空いていた。それは、ぐぅっとお腹がなるほどだった。
「どの本を読んでいたんですか? ギルドがまとめた採集の仕方でしょうか?」
今回案内したのは長い銀髪が特徴のスフィアという受付嬢だ。
半日も読むのにかかっていたことから、採集をまとめた『薬草大全(採集編)』を読んでいたのだと予想していた。
「いえ、薬草関連はだいたい全部です」
ミラは本当のことを言った。
スフィアは「え?」と首を傾げた。
「全部ですか?」
「はい」
「内容も? ちゃんと読んで?」
ミラは首を縦に振った。
「書いてある中身も理解して?」
「そうですけど……」
「へえ……って、え? いやいや、全部?」
「え?」
ミラは、彼女が何をそんなに驚いているのかがわからなかった。
「いや、だって……。薬草の書物は全部で50冊以上、1000ページを超えるものもありますよ?」
「えっと、それが?」
不思議そうにするミラに対し、スフィアは真顔で言った。
「いやいや、普通は無理です」
冗談を言っているような顔ではなかった。
「……そうなんですか? それは驚きました……」
むしろ、ミラのほうがスフィアよりも驚いていた。
「いやいやいや、こっちが驚きましたよ!」
スフィアは受け答えするたびに、「いや」の数が増えていき、その事実を受け止める心の許容範囲が限界に近づいてきたらしい。
手をぱたぱたと振って、スフィアは驚きを無意識に表現した。
「てっきり、一般庶民の方なら誰でもあれくらいは普通なのだと」
「いやいやいやいや~、一般庶民にはぜ~ったいに、無理ですって。そんなこと出来る人なんて見たことありませんよ」
「そう、なんですね……」
実家でミラが教えられた『常識』がドミノのように倒れ、心のなかで作ったハリボテの城が崩れていく。
姉は本を読む速度に対し、「それくらい庶民にも普通にできること。調子に乗らないことね。私はあえてゆっくり読んで楽しんでいるのよ」と何度も念を押された。あれすらも嘘だった。
目の前のスフィアは、受付嬢としての笑顔が完全に崩れていた。
優秀な人物と評価され、自尊心の強くあったスフィア。自己否定に陥らないために、必死にミラを持ち上げる。
「ミラさんは、とてもすごいです。自信を持ってください。むしろ、それが当たり前みたいな顔されてもこっちが困りますよ、本当に……」
スフィアは何年も時間をかけてギルド員に必要な最低限の薬草や魔物の知識を学び、書物を読んだ。
そのときも全部を読んでいるわけではなく、必要な知識だけ詰め込んで理解するのに基礎的な教育を受けて、対策本を通じて集中的に学び、試験に挑んでいる。
こう見えて、ギルド受付嬢はギルドで多くの仕事をこなすため、知識が必要だ。実務でも優秀であり、かつ、高度な教育を受けている。ミラのしたことは、スフィアさえ仰天するほどだ。
しかし、まだスフィアは読んで理解するスピードだけに驚いている。だが、それでよかったのかもしれない。
実は、その中身をミラは全部覚えているなんてことを知ったら、精神崩壊して奇声を上げ、発狂していたことだろう。
この日、薬草採集に必要な知識はすべてミラの頭の中に入った。
だが、1つわかったこともある。ミラが所持している薬草の中に高級な『上級ポーション』や『エリクサー』の材料が混ざっていたことだった。
これがあれば薬師のようにすぐ上質なポーションを作ることが出来る。今日読んだ本に、製造方法は書いてあったし、必要な材料や機材、あとミラに不足する技術があれば可能だ。売ればお金にもなる。
ミラはこれなら薬草を採集して冒険者ギルドの依頼をこなすよりも、早く借金を返して、生活を安定させられる。
思ったよりも早く薬師になることを実現できそうだと、その知識に期待した。
そこで、薬草採集に関する書物を読むために、冒険者ギルドに来ていた。
もう少し薬草のことを知ってから、次の依頼を受けたいと考えていたのである。
「こんにちは、今日はどうされました?」
「実は、冊子に書いてあったギルド併設の『書庫』を利用したくて来ました」
「なるほど、採集の情報収集ですね?」
「はい」
カウンターで受け答えするお姉さんは、目的をすぐに察した。
さすがはギルドの受付嬢といったところだろう。優秀な人しかなれない職業だけはある。
案内されたのはギルドの奥にある結構な広さの書庫だった。
魔物の書物が多いが、採集の書物もコーナーにある。
「じゃあ、終わったら声をかけてください」
ミラは、棚の端から順に採集の書物を読み始めた。
薬草の種類、採集方法、特徴や注意事項。特に世界で発見済みで採集用の薬草は450種類以上にものぼった。だいたい60冊ほどで、ページ数の多いものや少ないもの、イラストばかりのもの、専門書もある。
ページをめくるスピードは、1ページにつき数秒。全部読むのに半日もかからなかった。
適度に飲み物は口にしていたが、ようやくギルドを出た頃には、さすがにお腹が空いていた。それは、ぐぅっとお腹がなるほどだった。
「どの本を読んでいたんですか? ギルドがまとめた採集の仕方でしょうか?」
今回案内したのは長い銀髪が特徴のスフィアという受付嬢だ。
半日も読むのにかかっていたことから、採集をまとめた『薬草大全(採集編)』を読んでいたのだと予想していた。
「いえ、薬草関連はだいたい全部です」
ミラは本当のことを言った。
スフィアは「え?」と首を傾げた。
「全部ですか?」
「はい」
「内容も? ちゃんと読んで?」
ミラは首を縦に振った。
「書いてある中身も理解して?」
「そうですけど……」
「へえ……って、え? いやいや、全部?」
「え?」
ミラは、彼女が何をそんなに驚いているのかがわからなかった。
「いや、だって……。薬草の書物は全部で50冊以上、1000ページを超えるものもありますよ?」
「えっと、それが?」
不思議そうにするミラに対し、スフィアは真顔で言った。
「いやいや、普通は無理です」
冗談を言っているような顔ではなかった。
「……そうなんですか? それは驚きました……」
むしろ、ミラのほうがスフィアよりも驚いていた。
「いやいやいや、こっちが驚きましたよ!」
スフィアは受け答えするたびに、「いや」の数が増えていき、その事実を受け止める心の許容範囲が限界に近づいてきたらしい。
手をぱたぱたと振って、スフィアは驚きを無意識に表現した。
「てっきり、一般庶民の方なら誰でもあれくらいは普通なのだと」
「いやいやいやいや~、一般庶民にはぜ~ったいに、無理ですって。そんなこと出来る人なんて見たことありませんよ」
「そう、なんですね……」
実家でミラが教えられた『常識』がドミノのように倒れ、心のなかで作ったハリボテの城が崩れていく。
姉は本を読む速度に対し、「それくらい庶民にも普通にできること。調子に乗らないことね。私はあえてゆっくり読んで楽しんでいるのよ」と何度も念を押された。あれすらも嘘だった。
目の前のスフィアは、受付嬢としての笑顔が完全に崩れていた。
優秀な人物と評価され、自尊心の強くあったスフィア。自己否定に陥らないために、必死にミラを持ち上げる。
「ミラさんは、とてもすごいです。自信を持ってください。むしろ、それが当たり前みたいな顔されてもこっちが困りますよ、本当に……」
スフィアは何年も時間をかけてギルド員に必要な最低限の薬草や魔物の知識を学び、書物を読んだ。
そのときも全部を読んでいるわけではなく、必要な知識だけ詰め込んで理解するのに基礎的な教育を受けて、対策本を通じて集中的に学び、試験に挑んでいる。
こう見えて、ギルド受付嬢はギルドで多くの仕事をこなすため、知識が必要だ。実務でも優秀であり、かつ、高度な教育を受けている。ミラのしたことは、スフィアさえ仰天するほどだ。
しかし、まだスフィアは読んで理解するスピードだけに驚いている。だが、それでよかったのかもしれない。
実は、その中身をミラは全部覚えているなんてことを知ったら、精神崩壊して奇声を上げ、発狂していたことだろう。
この日、薬草採集に必要な知識はすべてミラの頭の中に入った。
だが、1つわかったこともある。ミラが所持している薬草の中に高級な『上級ポーション』や『エリクサー』の材料が混ざっていたことだった。
これがあれば薬師のようにすぐ上質なポーションを作ることが出来る。今日読んだ本に、製造方法は書いてあったし、必要な材料や機材、あとミラに不足する技術があれば可能だ。売ればお金にもなる。
ミラはこれなら薬草を採集して冒険者ギルドの依頼をこなすよりも、早く借金を返して、生活を安定させられる。
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