森にポイ捨てられた侯爵貴族の子は、魔導の知識を得る ~悪い転生者が世界にのさばっている?じゃあ、お掃除します!~

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1-16.【16話】下水道に潜む罠

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 都市中央で冒険者向けの仕事を探した結果、下水道の清掃の仕事が見つかった。
 シアはそれを受けて、魔導書と下水道に向かうことにした。
 ブリメイア国の都市モルタは、首都ということもあり、中央まで行くのに時間がかかった。
 とりあえず、市電という箱の乗り物で移動する。

 シアは初めて乗る乗り物に驚いた。自分のいた国の領地では、このような乗り物は存在しなかったからだ。

「ねえ、こんな乗り物見たこと無いよ?」

 両手で胸に抱える魔導書を見ていった。

「たぶん、ここ最近になって作ったんだろうね。私のいた街でも見たことはないから、まだ他国でも真似のされていない、この首都だけの現代チート技術だと思う」

「現代ち~と?」

「他の世界にはあるけど、この世界にはこんな知識はなかったんだよ。だから、日本人転生者の誰かが異世界知識でこの都市に作ったんだろうね」

「あの魔導書のクリエイトスキルみたいなので?」

「いや、純粋に技術を真似して人の手で作ったんだと思うよ。まあ、スキルも使ったのかもしれないけど。電気は流石に無理だから、なにか別の仕組みを使ってるかもしれないね」

「でんき? へ~、そっか」

 シアは話半分の魔導書の説明に頷いた。
 魔導書もそれに慣れたのか、もうつっこみはしない。おそらく、シア本人はその話を1割も理解していないのだ。

 ゆっくり走る市電に2時間くらい乗っていたら、目的の中央にたどり着いた。
 ふと、シアが肩を見ると、そこに乗っているペットのゲコがカメレオン並みにシアが着る服の配色と同化している。

 現地のギルドに受注書を出して、正式に掃除に移ることになった。
 掃除の時の注意事項などもその際に説明される。


***


 中央ギルドから歩いて、しばらくすると下水道の出入り口が見つかった。

「はい、これ口用の酸素マスク」

「なにこれ?」

「外の空気と切り離して、呼吸ができるようにした物ね」

「ふ~ん、これでいい?」

 シアは顔に装着して、問題ないか聞いた。
 目と鼻のところが上下逆になっていた。

「そうじゃなくて、これは逆にこう」

「あ、そっか。さっきのだと確かに、空気漏れちゃうよね」

 準備が完了すると、下水道の掃除を開始した。

「ねえ、下水道掃除って推奨人数が7人なんだけど、私1人で大丈夫かな?」

「別にいいと思うよ。目的は掃除じゃないし、最低限、壁の掃除だけしておけば、報酬も出るって言ってたからね」

 シアは魔導書の説明に頷いた。

「ならいっか」


 シアは、魔導書が作った『高圧洗浄機』という掃除用機器で、壁を掃除するのだった。

「ねえ、水の圧力で掃除するなら、あれがあったよね?」

「あれ?」

 シアの曖昧な物言いに、魔導書は首を傾げた。

「ほら、水の球が飛び出すやつ。魔導書が水球魔法みたいなのを真似して使いたいって言って、河の水の大量放水みたいな術を、規模を小さくして水鉄砲にしたやつ」

「あ~、思い出した。でもあの水圧だと、壁が崩壊するからやっぱダメ。あと水で私達が溺れる。下水の水には潜りたくないからね」

「そっか~」

 シアは少し残念そうな顔をする。
 なぜなら、この『高圧洗浄機』を使っても汚れが落ちにくかったのである。

「完全に綺麗にする必要はないと思う。そのくらいピカピカなら良いんじゃない?」

「でもまだ黒ずんでない?」

「いままでの掃除人でもそこまで綺麗にできてないと思うよ」

「じゃあいっか」


 シアはどんどん横に移動して、指定された範囲の下水道を綺麗にしていった。
 
「ねえ、この下水道から城の中に入れないかな?」

「それは……確かにできるかも?」

 魔導書は日本にいたときによくそういう設定があることを思い出し、下水道の地図を開いて見た。

「どう? できそうかな……」

「あ、ここの下水道水路入口が城と繋がっている」

「できる、ってこと?」

「人が出入りできる大きさかは現場確認が必要だけど、たぶん」

「じゃあ、行こ?」

 そう言って魔導書を引き連れての下水道移動。
 しかし、魔導書はこれを後悔することになった。ギルドで受けた注意事項がすっかり頭から抜けていたのである。


***


 下水道の奥は、明かりのライト(魔導書・作)で照らしながら進んだ。
 ここには設置用の明かりがない。

「ねえ、さっきカサって音しなかった?」

 魔導書は周囲を見回す。

「……え、した? ちょっと変なこと言うのやめてよね」

「ほら、やっぱり」

 カサカサ。

 魔導書は動きを止めて前方を見た。
 そういえば、掃除の前に、中央ギルドでは奥に進まないように軽く注意されていた気がした魔導書。
 
「まさか……」

 そこには、黒くて巨大な虫がいた。
 間違いない、魔物版のG。
 黒い悪魔だ。

「ぎゃぁああ!」

 魔導書の悲鳴が響く。
 シアは、その大きな物体が視界に入り切らず、上を向いた。

 その間に、魔導書はシアを置いて一目散に後ろへと逃げていったのだ。

「ちょっと、どこ行くの?」

 シアもその後を追って、走って表に出る。

 出入り口のところには魔導書が地面でへたり込んでいた。


「はあ、はあ。見たくないものを見たよ、まったく」

「そういえば、虫っぽいのが苦手だったね」

 シアは思い出したように言った。

「中止! 下水道の中から入るのはナシの方向で!」

「じゃあどうするの?」

「実は秘策を考えてたんだよね」

「秘策って?」

 魔導書はその秘策をシアにこそこそと教えた。


***


「ねえ、これが秘策って本当に大丈夫なの?」

「口を閉じて? しゃべるとバレるよ」


 目の前には城門がある。そこには衛兵もいた。
 そして、大きな段ボール箱を逆さにして、移動するシアがいた。

 シアはゆっくり段ボール箱を動かして、門の直ぐ端まで近寄る。

「なんだ、この箱は?」

 衛兵がすぐに気づき、指を指した。

「あ、バレた」

「くっ……やっぱ無理だった」

 魔導書は苦渋の表情をした。
 魔導の術には移動や空間に関連したものもあるが、その多くは捧げものが虫だということで、魔物を集めることができていない。つまり、使えない。

 このような原始的な方法しか残されていなかった。
 それもあっけなく、バレたのである。

「声がしたぞこの箱……」

 若い男の衛兵は箱を浮かして中を覗き込んだ。
 すると、目を見開く。

「なんだ……子どもの遊びか。こら、ダメだぞ。こんな場所にいたら」

「はい、すいません」

 シアはその場を離れた。

「はあ、バレたね」

 魔導書はため息を付いた。

「うまくいくと思ったんだけど……難しいな。でもシアの都市不相応な小さい体には助けられた。あの感じ、たぶん5~6歳だと思われてた」

「そうだったの?」

 シアは今日一番、驚いた顔をした。

「9歳でこんなに身長も低いし、顔も幼いままだし、幼児体型がこんなところで役立つとは……」

「それ、全然褒めてないよね?」

 シアはじっとりとした目で魔導書を見た。

「にしても、シアってたくさん食べるのに、全然体大きくならないね?」

「それはたぶん昔からずっとそうだった……」

「まあそうだよね。私もそうだったから知ってる」

「え?」

「な、なんでもない。それはともかく、これからどうするかだよ」
 
 2人で城の中に入る計画を立てることにした。
 おそらく、転生者や戦争について正しく詳細を聞けるのは、この城の中の人間の情報だけだ。
 一応、中央の城周辺で聞き込みもしてみる。
 酒場で他の話にも耳を傾けた。

 その結果、漠然とした情報は聞くことができた。

「やっぱり、転生者が戦争を主導しているみたい」

 魔導書は情報をまとめた

「でも、どうして戦争してるんだろう? 前に聞いたけど、やっぱり住人を守るため?」
「わからない……そもそも相手国は。そっか……そういうことか」

「どういうこと?」

「たぶん、戦争先は私達が行くはずだった国の上位番台の転生者とだよ」

「それって、悪い転生者がうじゃうじゃいるっていう?」

「そう。転生者は意見が別れたのかもしれない。この都市のように、住人と一緒に生きるのではなく、支配が目的だから、相容れないんだよ」

「そっか。それでこの国も手に入れたいってこと?」

「おそらくね。これは情報を城の中で集めて、憶測が真実か見極めないと」

「わかった」

 明日、考えた新たな作戦で城の中への侵入を試みることになった。
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